【感想・ネタバレ】口笛の上手な白雪姫のレビュー

あらすじ

「大事にしてやらなくちゃ、赤ん坊は。いくら用心したって、しすぎることはない」。公衆浴場の脱衣場ではたらく小母さんは、身なりに構わず、おまけに不愛想。けれど他の誰にも真似できない多彩な口笛で、赤ん坊には愛された――。表題作をはじめ、偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く。一筋の歩みがもたらす奇跡と恩寵が胸を打つ、全8話。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

8つの短編の中で『亡き王女のための刺繍』は小川洋子さんならではの妖しい毒っ気が美しかった。『かわいそうなこと』も良かったなあ。敏感なアンテナを大人になっても持ち続けている作者は日々の中で辛くなることはないのだろうかと心配になると同時に羨ましい。
でも、一番好きだったのは『一つの歌を分け合う』。同じ時代を生きる人たちは大縄跳びみたいに次々この世を抜けていく。だけどそれはおしまいじゃなくて、帰れる、焦がれた人たちに合流できるという優しい気持ちで越えられる一線。レミゼラブルから受け取れるうちのそんなひとつを、たった二十数ページで表せられるのがすごい。

0
2025年05月17日

Posted by ブクログ

表題にもなっている「口笛の上手な白雪姫」は、公衆浴場の片隅で、入浴中のおかあさんから赤ちゃんを預かって子守りをするだけのために存在しているおばあさんのおはなし。
「ただひたすら赤ん坊のためだけに我が身を捧げている」というシンプルながらもそれを全身全霊で成し遂げるおばあさんの潔さと尊さに心を打たれる。

小川洋子の小説はいつもそう。
たったひとつの大事なことを狂信的なまでに守り抜く高潔さがとても美しい。すごくいいよね。

0
2024年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

とても綺麗で素敵な物語でした。
特に、『先回りローバ』、『亡き王女のための刺繍』が印象に残りました。全体的にふんわりとした雰囲気で、穏やかな気持ちになれます。

0
2023年12月30日

Posted by ブクログ

8作の短篇集。小川先生は短篇の名手ですね。
ここの8作はそのどれもが、自分の世界を偏愛する孤独な主人公たちだ。表題作も好きだけど、「亡き王女のための刺繍」「仮名の作家」がお気に入り。「仮名の作家」は怖いなぁ。

0
2023年01月16日

Posted by ブクログ

彫刻や博物館の展示品や声など、普段あまり注目されなそうなモチーフへの深い洞察や想像力に圧倒される。赤ちゃんや子供の描写が特に好き。
人とあまり関わらずにひっそり暮らしていても、生き物やモチーフに対する敬意で瑞々しく生きている。

0
2021年12月26日

Posted by ブクログ

「かわいそうなもの」と「仮名の作家」が狂おしいほど好き。
混沌とした静かな世界のなかで、ほんのりとした切なさがとても好きです。ほの暗い雰囲気で普通はないようなことが起こっていても、どこかに妙な現実味があって…
何度でも読み返したい

0
2025年08月23日

Posted by ブクログ

みんな少しずつ偏っていてそれはある意味孤独なんだけど、寂しさよりも静かな強さ、したたかな美しさを感じる短編集。

物語たちそのものもとても素敵。特にそれぞれの余韻たっぷりな終わり方がいい。
ただ何より、心情や状況の描写、比喩のひとつひとつがときめく程美しくてたまらなかった。

「亡き王女のための刺繍」と「一つの歌を分け合う」が特に好き。でも選べないくらいどれも良かった。

色々な方が小川洋子さんの文章はうつくしいと言っている意味が、読み始めてすぐに理解出来た。
淀みなく流れるようで、でも確実にひとつひとつがきらめいていて虜になってしまう。

博士の愛した数式をかなり昔に読んだはずだけど、それ以外の著作にまだ触れたことがなかったから、
これから沢山小川洋子さんの言葉を浴びることができると思うと楽しみです。

0
2025年05月16日

Posted by ブクログ

他者の視線を気にせず、思うままに振る舞うのは簡単じゃない。何かに強いこだわりを持っているならなおさら。私はそう思うのだけれど、ここで描かれる人物たちは、偏執的な自分を良しとし、ありのままの姿で何をも恐れず突き進みます。そのエネルギーは、いったいどこから湧いてくるのでしょう…
8つの短編、どれも面白かったですが、表題作が一番心に残りました。舞台となっている銭湯の壁画の森に、私も迷いこみたいです。そして小母さんのように、幼い命に対して、私に何かできることはあるのかしら…と考えてしまいます。何かできる人でありたい。

0
2025年04月12日

Posted by ブクログ

久しぶりに読んだ小川洋子さんの著書。
8つの短編。

それぞれの物語の主人公たちは、ひっそりと偏った内面の世界を持ち、他と分かち合うことは決してない。その孤独は不幸というよりも、本人にしか見えない調和を守るためにある。

0
2025年01月29日

Posted by ブクログ

幼少期の自分が救われるような心温まる短編集。そこに存在することや言葉ではない部分で「大丈夫だよ」を伝えてくれる存在。そういうものが人生には必要。

0
2025年01月13日

Posted by ブクログ

小川洋子さんの世界観と美しい文章を堪能するにはじゅうぶんな一冊。ほんとうに無駄のない、でもごちゃごちゃしていなくて、ひたすら洗練された文章を書かれる…。「先回りローバ」がやさしくてすきだったなあ。でも、「仮名の作家」も最高に気持ち悪くてよかった。

0
2024年06月29日

Posted by ブクログ

先回りローバ、
盲腸線の秘密、が特に好きだった。
特に、秘密の作戦の話は厨二病感が強くて笑った。

今作は特別グッとくるものは無かったが、どれも期待通りの小川洋子ワールドで、心地よかった。

0
2023年05月21日

Posted by ブクログ

かわいそうなこと が特に好き。クジラが自分の全体像を見れないことなんて考えたこともなかったし、ツチブタの存在なんて知らなかった。

0
2023年03月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

表題作を含む8編からなる短編集。
子どもの目線で書かれている話は、あー、子どもってそういう見方をするかも、と思わせられるし、子どもを偏愛する大人が描かれている作品は少しせつない感じがする。

個人的には、想像のなかでローバと話すことで吃音が直った男の子の話を描いた"先回りローバ"にほっこりさせられた。また、"かわいそうなこと"では、自分がかわいそうだと思ったことをノートに書き始めた少年を描いているが、中でも博物館に展示されているシロナガスクジラに対する感想が好き。

0
2023年01月29日

Posted by ブクログ

人間個人の、存在としての痛々しさに苦しくなりながら読む。

身の回りの出来事や、自分の意識や認知の段階ではやり過ごしていることを豊かに発酵させて、あるいはジャムを作るように煮詰めて書かれているようだ。

痛い。ほんとは生きててずっと痛い。傷が痛む

ただ、それを注視していてもどうにもならないし、日々やらなくちゃらいけないことは積もっていくので傷に向き合っている時間はない。

ところが小川洋子の本を開くと、放置してきた傷がいかに深いか、どれほど化膿が悪化しているか、あるいは多少は癒えているか、などを思い起こさせる。

具体的な被害、加害の話ではないのに。

私はこんなに傷ついていたんだなあ、難しくとも、ひとつひとつの傷をないがしろにせず消毒して化膿止めを塗りガーゼで保護したい。

0
2022年08月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分の世界で丁寧に繊細に生きる人々の8話の短編集
短編はあまり好みではないと思っていたけど、
十分に惹き込まれ充たされた

中でも印象に残ったのは、
仮名の作家
途中から、主人公はまるでストーカーじゃないかと気づきドキドキさせられ
空想と現実が見事に折り混ぜられまるで映画を観てるような気持ちになった
狂気の中にも、儚く美しい描写シーンがありきらきらと光ってる
タイトルにもなっている、口笛の上手な白雪姫のお話もとても好き
小母さんと赤ん坊が愛おしい

0
2022年06月27日

Posted by ブクログ

小川洋子さんの著作でこのタイトルとなると、期待しかない。
浮世離れしていて、透明感があって、切なくて胸が苦しくなるようなお話もあって…読んでいる間現実を忘れるという意味で、小川さんの本は時々強烈に読みたくなる。

8篇の短篇集。それぞれ短いからさらっと読めるのだけど、その中にワールドが出来上がっているのがいつもながら流石と思う。
表題作はラストに収録されているのだけど、個人的には前半の5篇がとくに印象的だった。

すべてに共通して、失ったもの、という言葉が頭に浮かびながら読んだ。失ったものを静かに見つめたり、少し執着したり、ひそやかに悲しんだりする。そういう人びとの姿が描かれているように感じた。
小川さんの著作は細かにレビューするよりも実際読んで感じてほしいような気持ちが強いので、さらりと、に留めておきます。

0
2022年05月04日

Posted by ブクログ

私たちは制限のある空間を生きている。
でも、一人ひとり心の中にこだわりがあり、それに夢中になれることを幸せだと感じる。
その幸せが膨らみ外に飛び出そうとしているのに飛び出せない、いや、あえて封じ込めてしまう自分がいる。
誰もが持っているであろう感情を起こしてくれる短編集でした。

0
2022年03月12日

Posted by ブクログ

前は大好きだった、小川洋子の静謐で決して透き通っていない曇りガラスのような世界観。

その世界観は全く変わってないのに、なぜか あまり引き込まれなかった。どうして?
自分が今いる現実世界でなんとか 頑張って、高い税金や社会保険料を納めて、それでもいろいろため息のでることや悩みを抱えて生きていかなきゃいけない。

その現実感に合わなかったのか…と思うと、なんか寂しくなる。

0
2024年12月15日

Posted by ブクログ

相変わらず装丁が綺麗すぎる
大切な宝物みたいな感覚になる


小川洋子さんの本はどれも、【物語を読んでいる】という感覚になれる。

現実味がないし、不思議で、幻想みたいな…

物語を読みたい時には小川洋子さんが1番良い。


今回は短編集で、どれもふわっとしてて特別何が起きるとかは無くて、どれもちょっと寂しい感じになる物語でした。

「先回りローバ」と「口笛の上手な白雪姫」が良かったかな。

0
2024年09月04日

Posted by ブクログ

「亡き王女のための刺繍」、「かわいそうなこと」が好きだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「大事にしてやらなくちゃ、赤ん坊は。いくら用心したって、しすぎることはない」。公衆浴場の脱衣場ではたらく小母さんは、身なりに構わず、おまけに不愛想。けれど他の誰にも真似できない多彩な口笛で、赤ん坊には愛された――。表題作をはじめ、偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く。一筋の歩みがもたらす奇跡と恩寵が胸を打つ、全8話。

0
2024年06月09日

Posted by ブクログ

公衆浴場の脱衣所で働く小母さんは、身なりに構わず不愛想。けれど、他に誰も真似ができない自由自在な口笛で、赤ん坊には愛された。(表題作)


表題作含む全8話を収録した小川洋子さんの短編集。
どれも孤独で密やかな、世界に埋もれてしまいそうなささやかで優しく寂しい話です。
小川さんはともすれば不気味・グロテスク、生々しいととられかねない物事を、綺麗に、さりげなく表現することが特にお上手だと思っていて、今回はそういった表現は多くはないのですが、それでも悲愴さや心の底に沈めた狂気のようなものをやわらかに描いています。

こどもの目線で書かれた話もいくつかあり、こどもの独特の世界観・大人には理解のし辛い特有の理論のようなものが上手く表現されている気がして面白かったです。
また、『乳歯』という話は、迷子になりやすい幼いこどもの事を「君」と表現する特殊な視点で書かれており、何となく藤野可織さんの『爪と目』を思い出しました。

個人的に心に残ったのは、『かわいそうなこと』という話。かわいそうなことリスト、という記録をつけているこどもの話なのですが、小川さんは何となく孤独である事や孤立している事、他と違っている事をかわいそうなことだと認識しているのかなと感じ、個人的にはあまりそれらがかわいそうと感じたことがなかったので不思議な気分になりました。

0
2024年03月02日

Posted by ブクログ

世界の片隅で、ひっそりと生きている人たち。
物語の主人公たちのイメージ。

みんなそれぞれ、個性的な習慣や癖などがあって、どうかそのことで世の中からはみだしたりしませんようにと、願いたくなる。

小川洋子さんの作品は、こんな感じの主人公が多いのかな。

0
2024年02月12日

Posted by ブクログ

心が温まったり、冷えたり。体温調節が大変だったなぁ、と言うのは冗談で。「仮名の作家」が一番好きでした。映画ミザリーよりももっと、リアリティのある暴走ファンのお話。読み進めると段々雲行きがおや?と怪しくなってきた辺りから徐々に体が冷え始め、最後に哀れみが残った。

表題にもなっている「口笛の上手な白雪姫」は、正直解説を読んでもしっくりは来なかった。解釈も受け取り方も人それぞれなので、何が正解かは分からないけれど、無理やり仏法と結びつけ過ぎている様な。正直この手のヒューマンドラマ系の物語に、宗教と言う視点から考察する事には違和感しか感じられなくて。小母さんの過去は全く描かれていない中で、無償の愛という精神だけで赤ん坊のお世話をしている。その考えはちょっと安直過ぎる気がするし。でも彼女の発言の中に我が子を抱いてみたかったのでは?と取れる台詞があったので、何処かに羨望や嫉妬みたいな黒い感情もあったと勝手に思ってる方が人間味が残っている気がした。

0
2023年11月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く、8編の短編小説。

「一つの歌を分け合う」が一番印象的だった。
従兄弟が亡くなってしばらくしてから、伯母が舞台俳優を亡くなった我が子だと思い込み、主人公と一緒に観劇に行く話。
「劇場では誰も泣いている彼女を不思議がったり、奇異な目で見たりしなかった。理由を取り繕う必要はないのだ。伯母は好きなだけ泣くことができた。」
という、帰り道のシーンがよかった。

夫の祖母の葬式のときに、子供を亡くした叔母さんの話を聞いてから、それと重なって思いを馳せてしまった。

「かわいそうなこと」「盲腸線の秘密」も、子供ながらの世界を表していてよかった。

0
2023年11月05日

Posted by ブクログ

久しぶりに読んだ、小川洋子さんは以前と変わらず、目の付け所に優しさと怖さを感じられたのが印象的で、それは彼女独自の、孤独感を持った人達への眼差しとも思えましたが、どこかそれだけではない繋がりも感じられたところに、奇妙な面白さを感じられました。

また、それとは別に、石上智康さんの解説の中の、『縁起』の意味について、よく「茶柱が立つと、縁起が良くて、いいことありそう」等と言いますが、それは誤用で、『他との関係が縁となって生起すること、縁(よ)っておこること』が本来の意味だそうで、仏法の真理観として、この世の真実の一つとして解き明かされていることを知り、私も勘違いしていたので、とても勉強になったのですが、もしかしたら、この縁起が、本書のテーマ性とも密接に関わっているのではと思えてきました。

本書は全8話の短篇集で、それぞれに共通するものは、人生における、ある『空白』の存在なのではないかと感じ、それと、どのように向き合っていくのかを問われているように思えました。

そして、向き合っていくために必要なのが、自分以外の人間である点には、一見、当たり前にも思えそうですが、今の多様な世の中において、実はハッとさせられるものもあるのではないかと思い、各話について、書いていきたいと思います。


(1)先回りローバ
生まれたときに、正式に名付けられなかった『空白の六日間』が存在する、吃音の僕は、名前を言えないことに、自らの出生の事情があるのではと悩み苦しんでいたときに、何でも先回りして、僕の言葉を拾い集めてくれる老婆との出会いが、僕の心の隙間を埋めてくれるようで、その存在感は奇妙ながらも、その唯一無二な存在に温かさを感じられたのも事実でした。

『どなたの耳にも触れていないお声ですからねえ。実に見事に透き通っておられます』

(2)亡き王女のための刺繍
幼い頃から、「りこさん」の刺繍された服をお気に入りとして、育ってきた私は、おそらく妹用のベビー服のあまりの完璧さを身を以て感じた瞬間、『私だけに許された特権』が途切れてしまったのではないかと思い、以後、50年近く経った現在においても交流し続ける、私とりこさんの微妙な距離感の物語。

ちなみに、ツルボランの花言葉は、
『生涯信じます』

(3)かわいそうなこと
かわいそうなことリストを記録し続ける、僕の物語で、その内容は、孤独なシロナガスクジラ、進化過程において天涯孤独といわれるツチブタから、映画の撮影風景の一枚の写真、「左から主演の○○、監督の○○、相手役の○○、一人置いて共演の○○」の、一人置いてゆかれた人までと幅広く、そこには僕の繊細な優しさに加えて、彼等を庇うような表現に、どこかユーモラスな性格も覗えたが、実は、僕自身を投影している存在を通して判明した、家族との微妙な距離感にやるせなさを感じられたのが、最も印象的でした。

(4)この歌を分け合う
突然、原因不明の病気で亡くなった従兄の悲しみから、その満たされない思いを、「レ・ミゼラブル」の「ジャン・バルジャン」役の俳優に投影しようとする伯母と、当時17歳の僕の、一回きりの観劇を通して、観客がそれぞれに思い浮かべる、自分にとって大事な死者たちと再会を果たせる事の大切さや、11年後に、一人でも再び観たいと感じた僕の思いに、時を隔てても決して忘れることのない、従兄を介した、年齢差はあっても分かり合える繋がりと切なさを、レ・ミゼラブルを通して静謐に伝えてくれた素敵な物語で、これを読んで、レ・ミゼラブルに興味を持つ方も、きっといらっしゃると思います。

『言葉だけだと薄っぺらに聞こえるのに、歌になると真実に聞こえるの』

(5)乳歯
生まれてきた赤ん坊(君)の、神秘的な描写の美しさが印象的ですが、両親にとっては、『迷子』が『君のいない空白』であり、その後、君が偶然辿り着いた聖堂にある、見る角度や窓から差し込む日の光によって自由を謳歌できるような、柱の『浮彫』の存在との対比も素晴らしく感じられた、大いなる世界に飛び出そうとする、君の姿が思い浮かぶ物語。

『彼らにとって君は、驚異的に美しい謎だった』

(6)仮名の作家
物語は言葉ではなく、声で書かれていることを重要視している、『声』にこだわりを持つ私が、理想的な声を持つ小説を書く作家と出会うことで、密やかな関係を妄想していく物語で、自らの声を出すことをためらう時期からの空白期間を埋めるかのように、作家を想って生き続けるその姿には、周囲から理解されない哀しさもあるが、それでも最後の行動には私の中に於ける、『縁』が引き起こしているようにも思われて、やるせないものがありました。

(7)盲腸線の秘密
廃線の危機に立たされた路線に、毎日乗り続けることで、反対の意思を訴えようとした曾祖父と、それに付き合う、ひ孫の、ひとときの交流には、他の家族から疎んじられているような曾祖父に、何とか貢献しようとする、ひ孫の優しさが健気であり、路線とは別に、ウサギを希望の象徴としているところも、それを更に強調させるようで、最後の、二人だけが分かり合える、ひ孫の思いに繫がっています。

(8)口笛の上手な白雪姫
女子浴場で赤ん坊の世話をする小母さんの、原初的で完璧な美しさを持つ赤ん坊への愛しさと、ひとりで生きている自らの人生とを対比させながら、その葛藤に悩む姿は、自らの出生不明な点や、浴場の裏にある、白雪姫を思い浮かべるような小屋に住んでいる、不思議な要素も絡むことで、小母さんの現実的な思いがより際立ったが、それでも心に残り続けている赤ん坊への、見返りを求めない慈悲の気持ちの神々しさには、白雪姫以上に気高き美しさを感じられましたし、その素朴で情感的な上手い口笛は、赤ん坊と小母さんだけの、目に見えなくても密かに共感し合う事の出来る、かけがえのない『縁起』に思えました。

0
2023年02月06日

Posted by ブクログ

文学として追いかけている唯一の作家かもしれない。そこに共感があったり、学びがあったり、気付きがあったりするわけじゃない。ただただうつくしい文章に浸る、という読書体験。この文学世界をうつくしいと思わせる著者の感性と眼差し、表現力に脱帽。

0
2023年01月10日

Posted by ブクログ

短篇集。「亡き王女のための刺繍」「盲腸線の秘密」「口笛の上手な白雪姫」と赤ん坊の神秘性、聖性に触れる作品が多く感じられた。
「一つの歌を分け合う」はレ・ミゼラブルをまた観たくなる言葉の紡ぎ方で作家のちからを感じた。実際に福井さんへ取材したらしい。
「仮名の作家」はさすがの小川先生。固執、執着からの狂気が見事。途中で共感性羞恥になって読むのがつらかった。共感してはいけないのは承知。
「かわいそうなこと」のシロナガスクジラへの視点が好き。

0
2022年12月31日

Posted by ブクログ

世界の隅っこでちいさく、でも確かに息をする存在を、丁寧に、丁寧に掬う筆致。「亡き王女のための刺繍」、あるいは表題作のような、抱えきれない不器用な優しさは、あまりにうつくしい。

0
2022年03月28日

Posted by ブクログ

小川洋子さんの短編集。私個人的には、ずっとちょっとだけエロチシズムを感じていた作家さんだったのだが、ここ数年の作品には、より閉塞と孤独とが感じられる。嫌ミスの作品でも感じることもあるが、小川作品のそれらは静謐さの中にある。確か日常に比べると少しいびつだったり、独特ではあるのだが。けれども、己の孤独や閉塞を自分のなかの豊かさとして描かれているので、主人公達は孤立せずに社会の中にいるのだ。この姿勢がとても良かった。

0
2021年10月08日

「小説」ランキング