あらすじ
世界の片隅でひっそりと生きる、どこか風変わりな人々、河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、教授宅の留守を預かる賄い婦、エレベーターで生まれたE.B.、放浪の涙売り、能弁で官能的な足裏をもつ老嬢……。彼らの哀しくも愛おしい人生の一コマを手のひらでそっと掬いとり、そこはかとない恐怖と冴え冴えとしたフェティシズムをたたえる、珠玉のナイン・ストーリーズ。
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『女が死ぬ』松田青子さんや今村夏子さんが好きな人にはオススメできる作品。文章はお上手でいかにも純文学的な雰囲気なのだけど、けっこうシュールなお話が多くて思わずくすっと笑ってしまった。
一番笑ったのが『再試合』という作品。数十年ぶりに甲子園に出場することになったとある高校に通う女子高生が主人公で、彼女はレフトの選手に淡い恋心(というか崇拝に近い)を抱いている。順調に試合を勝ち進み、ついに決勝にいくのだが試合が再試合になってしまって……。
オチは完全にギャグで、思わず「なんでだよ」と言ってしまった。
面白かったです。
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丸い部屋で眠るのって、どんな気分なのかしら。 きっと深い安らぎに包まれて、小さな心配事なんて全部消え去ってゆくんでしょうね。
だって丸い部屋で眠る時の自分は、円の直径になるのよ。
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小川洋子さん「夜明けの縁をさ迷う人々」、2007.8発行、9つの短編小説が収録されています。どれも味わい深いです。興味深い話、怖い話、奇妙な話。興味深く強く印象に残ったのは、「ラ・ヴェール嬢」と「お探しの物件」。「涙売り」と「教授宅の留守番」は怖い恐い話でした。奇妙な話の中には、彼岸と此岸の交差する話が多いです。
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多感な時期に読んで一番心に染みたのが小川洋子の作品だった。
優しいのに残酷、綺麗なのに歪んでいて、何処か切なくて美しい。
ずっとこの世界に浸り続けていたかった。
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タイトルの「夜明けの縁をさ迷う人々」の場面を想像してみる…夜明け。眩しい光が差し込めるがそれを嫌い闇を求めてさ迷う人々。小説はその場面を切り取り彼らは永久に日の目を見ることがない。小川さんの作品から感じる世界にはどれも独特の時間軸が存在し時間がゆったりと流れるている事。人と人との微妙な距離感。見事なまでの五感の表現方。儚さ、切なさ、狂気、淫靡、孤独…といった感情を独特の時間の流れとともに読後に様々な想いを胸に抱かせてくれる。淫靡で狂気を伴っていてもそういう美しさもあるよなぁ…と感じさせながら。
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小川洋子さんの作品の全てを読みたい。
けして社会の真ん中に居ないであろう、少し変わった人々にスポットを当てる静かな世界観とその描写が心にストレートに刺さります。
この短編集では、ちょっと怖いと感じる話が多めでした。
「パラソルチョコレート」が特に好きでした。
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9話の不思議な世界の短編集だ。
特に印象深かったのは⋯
⚫︎「 曲芸と野球 」
「私」が少年野球を楽しんでいた小学校4年生の時、常に3塁側のファールゾーンで女性の曲芸師が椅子を4脚積み重ねての稽古をしていた。
しかしチームメイトには、その曲芸師の姿は視界に入っていないようだった。
大人になった「私」は、年に数回のペースで草野球を楽しむのだが、今でも三塁側のファールゾーンから曲芸師が「私」を見つめている。
⚫︎「 イービーの叶わぬ望み 」
老舗の中華料理店のエレベーター内で、誰かに産み落とされていたイービー。
お店に勤めていた心優しいチュン婆さんがイービーの育ての親になる。
成長とともにイービー少年はエレベーターボーイ(E.B.)として働くようになり、その優秀さもあって皆から愛される存在となった。
育ての親のチュン婆さんが亡くなると、イービーはエレベーターから一歩も出なくなり、狭いエレベーター空間に合わせるように身体の成長も止まってしまう。
他の短編に登場してくる人物も、独特の個性を擁した者ばかりで魅力的なのだ。
小川洋子女史が綴る人物たちは、ただ単に変わった人物像に留まることなく、世を超越した存在感となって綴られている。
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9編の話のうち、恋愛感情に触れた話がいくつかあった。小川洋子さんの小説が纏っているほんのりとした愛情が、明確に恋愛感情として描かれている話は特に好きなので、登場人物のそれぞれの愛し方に読み耽った。タイトルの『夜明けの縁を彷徨う人々』という一文になったつもりで、私もページを捲った。『ラ・ヴェール嬢』という題名の話が登場するが、ラ・ヴェールとはフランス語で緑という意味らしい。賃貸物件のサイトの引用を見つけてようやく見つけた意味だったが、この簡単に、明確に辿り着かない答えすらも題名に込められているのかなと思う。
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サクッと読める幻想小説。テーマを述べるとすれば個人的には「喪失」なのかなと思います。仄暗い世界で生きている人々に耳を傾ける登場人物。
だけれどもその喪失から得た感情はとてもリアルな内容だと思いました
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奇妙で怖さもあるけれど、どこか滑稽さも漂う短編集。野球の話2つとエレベーターに住む「イービー」の話が記憶に残る。文章と描写が美しくて小説なのに映像を見ているような感覚。全面帯を見て選んだ一冊、心に残る素敵な読書体験になりました。
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初小川洋子さん。奇妙でユーモラスな人たちのお話がどれも面白かった。夢の中の世界みたい。短編集は時間かかるものが多いけどこの作品は数時間で一気読みした。
「曲芸と野球」
スポーツの話は中々入り込めないから心配したけど、僕と曲芸師の不思議な絆が面白くて引き込まれた。最後の方でなんだか怪しくなってきて。最後は幻覚なのか…?
「教授宅の留守番」
まず舞台設定が面白い。部屋の中にどんどんお祝いの花が届いて埋もれてその中でお腹いっぱい食べ物を食べまくる。
「イービーのかなわぬ望み」
このお話とても好き。人間椅子を思い出す雰囲気。イービーが上手に半分にした小さなデザートを食べさせてくれる。私の淡い恋心みたいなものにきゅんとする。
「お探しの物件」
世にも奇妙な物語みたいな雰囲気で面白い。中でも好きなのは、「酷い先端恐怖症の女の人のために作られたのに肝心の本人は一歩も新居に踏み入れられず亡くなった丸い家」と「あらゆる動物の中で最も長寿なゾウガメのリリアン邸」がお気に入り。
「涙売り」
涙で楽器の音色をよくする女性が関節カスタネットのために痛みの涙を流す愛の狂気的物語…。自分の足の指を切っていくの怖すぎる…笑
「パラソルチョコレート」
このお話も好き。子どもの私の裏側にいるおじいちゃん。パラソルチョコレートで繋がった表と裏の二人。よくわからないのに温かい。
「ラ・ヴェール嬢」
村田沙耶香さんみたいな奇妙さと桜庭一樹さんみたいな性愛の描写って印象。小川さんこういうのもかくんだ。
「銀山の狩猟小屋」
あまり刺さらなかった。
「再試合」
二度目の野球のお話。小川さんが野球好きなのかな?
お風呂にも入らず歯も磨かず、毎日カレーを食べて、レフトの彼を見続けるのが絶妙に気持ち悪い。百三歳のおじいさんの言おうとしてることが全部わかるようになるのが(笑)この女の人も前歯が一本しかなくなっておじいさんとお揃いなのが(笑)
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静謐と陰鬱の境目にある物語が続いている。その違いは読み手側の主観と願いによるもので、現実問題起こっている状況はどちらとも取れるもので、小川さんは演出してどちらかの印象に誘導させようとしている意図はないのが面白い。
子供の頃、新潮文庫のグリム童話集を初めて読んだような気持ち。
磯良一さんによる挿画挿画が、不気味な物語の切り替えの演出を買っていて、一冊の短編作品集としても良い仕上がりだと思った。
(曲芸と野球/教授宅の留守番/イービーのかなわぬ望み/お探しの物件/涙売り/パラソルチョコレート/ラ・ヴェール嬢/銀山の狩猟小屋/再試合)
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奇妙で微笑ましくも少し怖い9つの短編。
狭い。小さい。無くなる。
待ってましたと言わんばかりの小川ワールド。
野球や甲子園の描写が魅力的。
生き生きとした人や風景と匂いが伝わる。
「夜明けの縁」とは何か。
しばらく思いにふける。
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何とも表し難い読後感であった。収録作はどれも、日常ありそうな風景の中に一抹のファンタジー要素を含んでおり、不穏な気配を漂わせている。
普段小川洋子さんの作品にはしっとりとして柔らかな静けさを感じるのだが、本書ではそれがあまり感じられず、ストーリーの運びは紛れもなく小川洋子作品であると思えるのだがどこかにずっと違和感があり馴染めずにいた。
最後の「再試合」を読み終わった今は、私も同様に日常にありそうでなさそうなことが起こり引き伸ばされた世界で小川洋子を読んでいるのではないかという気持ちになっている。
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ブラック絵本といった感じで、結構短い、短編集であり、"教授宅の留守番"は小川洋子さんにしては珍しい堂々とした発言もあり。
"涙売り"の終わり方や、"お探しの物件"はそのまま、絵本にしても良さそう。
今作では、"教授宅の留守番"と、"パラソルチョコレート"が好みだった。チェスの駒をすすめる終わり方も好きだ。
不思議な話
短編だから一話一話がさらっと読めるふんわりとしたホラーです。
続きをめくるとストーリーが終わってるという感じですっきりとした終わりではないですが、何か胸の中にほんのりと残して終わる話です。
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ファンタジー要素が強そうだったり、
ホラーっぽい展開だったり、
不思議な世界観の9つの短編集。
あり得ないような描写が
さもリアルに描かれているように感じた。
イービーのお話は、
どことなく猫を抱いて象と泳ぐの世界観に似ている気がした。
小川洋子さんの描く世界の人物は
小さな幸せをこれでもかと抱きしめて
大事に大事にしているイメージ
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9の短編、どれも良かったです。「世にも奇妙な物語」に出来そうな感じ。私は特に「涙売り」と「教授宅の留守番」が好きです。特に「涙売り」は愛する人の役に立てれば自分が痛い思いをしたって幸せなんだってことを短い話の中でも、すごく感じました。「涙売り」の彼女は実際にいたら変な人だけど、それぐらい人を愛することができたら素敵でしょうね。
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ストーリーというよりも描写の残し方が全般的に秀逸。
ストーリーは「教授宅の留守番」と「銀山の狩猟小屋」が面白く、前者はテンポの良いコントから小説らしいオチにもっていく形がよかった。後者はいまだにサンバカツギがなんなのか謎で想像力を掻き立てられた。
Posted by ブクログ
面白かったです。タイトルも良いです。
不思議でなんだか奇妙だな、と思いながら読んでいると、終盤になるにつれ狂気を帯びてくるお話たち。
特に、「教授宅の留守番」「涙売り」が好きです。「ラ・ヴェール嬢」の淫靡さも好き。
最初と最後の短編が野球のお話で、最後のお話は、小川洋子さんはこんな眼差しで野球の応援をされているのかな…というのが感じられました。
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短編9つ。こういうグロテスクで美しい物語は夜に静かな部屋で読みたい。
身体的にアンバランスな登場人物が多い印象。
そして皆素直でまっすぐなことがまたパラレルへと誘われる。(現実だとどこか性格や認知が歪んでしまいそう)
星新一のショートショートや、
村上春樹のファンタジーを混ぜて
グロを3滴、淡々綴った、みたいな印象。
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相変わらず良かった!
「静謐」という言葉がぴったりくる小川氏。彼女の2007年の作品となります。
短篇9編からなる本作、全般的に幻想的(シュール!?)、でも筆致はしっとり。
そうしたギャップが、真面目な顔して冗談をいうかの如く、ユーモアを湛えた雰囲気すら醸成しています。
あるいは、冗談だと思っていた話が実は本人は本気で、その本気が狂気・ホラーの世界につながっていくかのような小品もあります。それもそれで味わい深くありました。
・・・
どれも良かったのですが、一番印象に深い作品を挙げます。
私としては「イービーのかなわぬ望み」。
エレベーターで生をうけ、そこで育ち、エレベーターボーイとして働きつつそこで住まう男性の一生。それだけでシュールなモチーフですが、そこまでしっとりと描かれると、何というか、そうですか、と受け入れざるを得ない笑
他にもっと面白いものもあるも、印象という観点だとこれが一番記憶に残りました。
・・・
なお、面白いでいうと、
留守番だと思った人が実は・・・という展開の「教授宅の留守番」と、芸術や芸事に効く涙を売る女性の話の「涙売り」が良かった。
でも、改めて申し上げると、どれもシュールで静謐で味わい深いのであります。
因みに短篇のタイトルは以下の通りです。
「曲芸と野球」
「教授宅の留守番」
「イービーのかなわぬ望み」
「お探しの物件」
「涙売り」
「パラソルチョコレート」
「ラヴェール嬢」
「銀山の狩猟小屋」
「再試合」
・・・
ということで久方ぶりの小川作品でした。
今年は小川氏の作品を渉猟してみようかしら、とも考えております。
現実と異なる世界を味わいたい方にはおすすめ。
Posted by ブクログ
夜明けの縁をさ迷う人々
収録作品は以下の通りです。
曲芸と野球、教授宅の留守番、イービーのかなわぬ望み、お探しの物件、涙売り、パラソルチョコレート、ラ・ヴェール嬢、銀山の狩猟小屋、再試合
どの物語も、正常と異常の縁をさまよう人の物語です。曲芸、エレベーター、楽器、全集など各短編ではガジェットが異なりますが、それらに執着するがゆえにバランスを踏み外して、縁をさまよっていた人々はその執着するものの引力に引き寄せられ、崩壊します。もう一つ共通しているのは、ぬるりとしたエロティズムでしょうか?ふとした言葉で垣間見られる隠微さ。
印象的だったのが、野球ではじまり野球で終わるという構成。野球というものが「フィールドオブドリーム」のような奇跡が起きそうなスポーツ(もはやスポーツではなく文化なのかもしれません)なんだなと再確認した次第です。サッカーも文化ですが、不思議や奇跡が入り込む余地が少ないのと対照的かなと。。。
忙しい毎日を離れて、異界の縁を楽しんでください。
竹蔵
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初手から小川節炸裂で大変よかった。精神的なグロテスクさというのかな。リアリティのある筆致ではないのに、その情景を鮮やかに想像させる文章が相変わらず好み。夜明けの縁はそう、あちらとこちら。ボーダーにいるのはこの物語の人々か、それとも私か。
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・曲芸と野球
・教授宅の留守番
小川さんにしては珍しいタイプのホラーだと思った!
・イービーのかなわぬ望み
E B(elevator boy)の話
どうしてこんなストーリーが思い浮かぶんだ‥
・お探しの物件
・涙売り
・パラソルチョコレート
わたしの裏側を生きるのはどんな人かな
・ラ・ヴェール嬢
・銀山の狩猟小屋
・再試合
レフトの君のお話
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今日は待ち時間が多いから活字読もうと本棚から取った本。昨晩開いて読んでない本だよな?と思ったら、読んだら過去にも一通り読んだものだった。
現実と非現実、歪んだ世界なのに魂だけが透明でまるみを覚えている……そんな小川先生の世界を久しぶりに浸れて「私が好きなやつ~!」と思わず拍手。
一枚フィルターがかかったような映像が次々と脳を刺激してくるから、すっかり湿度を忘れて冷えた鈴を触っている気分になった。
イービーの話と最後の野球の話が好き。
Posted by ブクログ
妄想、ホラー、人間ドラマ、官能、フェティシズム等など、様々なジャンルを持ちながらも、共通しているのは、風変わりながらも、愛すべき人たち。
たとえ、風変わりすぎて、周りから疎んじられたり、存在すら意識されなくても、たった一人の愛があるだけで、その人の生き様が報われたかのように思われたことには、読んでいて共感を覚えたが、哀愁も感じた。永久という言葉は、一見、素敵に思えるが、あくまで捉え方次第であるし、私だったら、相手の心の中ではなくて、せめて自分の心で報われたという実感が欲しい。まあ、たった一人の愛に出会えただけで、充分だと思えるのもありますがね。そのたった一人が、実はすごく難しい。
Posted by ブクログ
捻れた恐怖を感じさせる短編集。
その怖さはあからさまなものではない。
真夜中に自分の部屋でふと目覚め、クローゼットの扉が細く空いているのに気がつく。きちんと締めなかったせいだ。大したことじゃない。なのになぜかそこから目が離せない。人の身体を借りた闇の獣が、息を殺してこちらをずっと覗いているのを感じる。
そういった恐怖だ。
タイトルの『夜明けの縁』というのは、人間の正気と狂気の境目だとわたしは考える。
この9つの短編集に出てくる人たちは皆、その縁を覚束ない足取りでさ迷っている。そしてこちらに戻ってくる人もいれば、あちら側に落ちてしまう人もいる。
すべて現実味のない話のはずなのに、じわじわとその縁が自分に近づいてくる。離れようとすればするほど、足は勝手にそれに向かって動く。やがて死によって、あるいは絶対的な喪失によって、永遠から逃れることができた人の心にのみ平安をもたらす夜明けがやってくる。