あらすじ
世界の片隅でひっそりと生きる、どこか風変わりな人々、河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、教授宅の留守を預かる賄い婦、エレベーターで生まれたE.B.、放浪の涙売り、能弁で官能的な足裏をもつ老嬢……。彼らの哀しくも愛おしい人生の一コマを手のひらでそっと掬いとり、そこはかとない恐怖と冴え冴えとしたフェティシズムをたたえる、珠玉のナイン・ストーリーズ。
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Posted by ブクログ
相変わらず良かった!
「静謐」という言葉がぴったりくる小川氏。彼女の2007年の作品となります。
短篇9編からなる本作、全般的に幻想的(シュール!?)、でも筆致はしっとり。
そうしたギャップが、真面目な顔して冗談をいうかの如く、ユーモアを湛えた雰囲気すら醸成しています。
あるいは、冗談だと思っていた話が実は本人は本気で、その本気が狂気・ホラーの世界につながっていくかのような小品もあります。それもそれで味わい深くありました。
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どれも良かったのですが、一番印象に深い作品を挙げます。
私としては「イービーのかなわぬ望み」。
エレベーターで生をうけ、そこで育ち、エレベーターボーイとして働きつつそこで住まう男性の一生。それだけでシュールなモチーフですが、そこまでしっとりと描かれると、何というか、そうですか、と受け入れざるを得ない笑
他にもっと面白いものもあるも、印象という観点だとこれが一番記憶に残りました。
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なお、面白いでいうと、
留守番だと思った人が実は・・・という展開の「教授宅の留守番」と、芸術や芸事に効く涙を売る女性の話の「涙売り」が良かった。
でも、改めて申し上げると、どれもシュールで静謐で味わい深いのであります。
因みに短篇のタイトルは以下の通りです。
「曲芸と野球」
「教授宅の留守番」
「イービーのかなわぬ望み」
「お探しの物件」
「涙売り」
「パラソルチョコレート」
「ラヴェール嬢」
「銀山の狩猟小屋」
「再試合」
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ということで久方ぶりの小川作品でした。
今年は小川氏の作品を渉猟してみようかしら、とも考えております。
現実と異なる世界を味わいたい方にはおすすめ。
Posted by ブクログ
夜明けの縁をさ迷う人々
収録作品は以下の通りです。
曲芸と野球、教授宅の留守番、イービーのかなわぬ望み、お探しの物件、涙売り、パラソルチョコレート、ラ・ヴェール嬢、銀山の狩猟小屋、再試合
どの物語も、正常と異常の縁をさまよう人の物語です。曲芸、エレベーター、楽器、全集など各短編ではガジェットが異なりますが、それらに執着するがゆえにバランスを踏み外して、縁をさまよっていた人々はその執着するものの引力に引き寄せられ、崩壊します。もう一つ共通しているのは、ぬるりとしたエロティズムでしょうか?ふとした言葉で垣間見られる隠微さ。
印象的だったのが、野球ではじまり野球で終わるという構成。野球というものが「フィールドオブドリーム」のような奇跡が起きそうなスポーツ(もはやスポーツではなく文化なのかもしれません)なんだなと再確認した次第です。サッカーも文化ですが、不思議や奇跡が入り込む余地が少ないのと対照的かなと。。。
忙しい毎日を離れて、異界の縁を楽しんでください。
竹蔵