あらすじ
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡……。人々が思い出の品々を持ち込む〔標本室〕で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは……。奇妙な、そしてあまりにもひそやかな、ふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。表題作ほか「六角形の小部屋」収録。
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忘れたくとも失いたくはない過去に区切りをつけ、完結させるため、たくさんの人がその“標本室”を訪れる。持ち込まれる品は様々。例えば、楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、ヤケドの痕。そして、標本技術士の助手になった「わたし」は、欠けてしまった薬指の先端を。
登場するのは、皆、かつて何かを永遠に諦めてしまった人ばかり。寂しさは新たな寂しさを導いて、人々は己の物足りなさを埋めようと、他者にすがる。静謐な文章の底に息づく狂気がとても美しい。
本作は2005年にフランスで映画化されている。主役は「007 慰めの報酬」でボンドガールに抜擢されたオルガ・キュリレンコ。フランス映画らしい静けさとエロチシズムにくらくらとめまいを覚える。原作にほぼ忠実に描かれており、こちらもおすすめである。
感情タグBEST3
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静かで冷たい「標本室」という職場で、少しずつ引き返せない恋に溺れていく一人の女性の物語。
ここでの「標本」が何を意味するのか、姿を見せなくなった少女は、前任の女性たちは、何処へいってしまったのか。はっきりとしたことが書かれていないからこそ、美しく密やかな世界観が楽しめた。
「彼に封じ込められていたいんです。」という帯にもなっている主人公の言葉が読後も心に残り続ける。
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封じ込めること、分離すること、完結させることが、ここの標本の意義だからです。
繰り返し思い出し、懐かしむための品物を持ってくる人はいないんです」
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とても静かで耽美で、それでいて少し不気味だった。
繊細で丁寧な描写が美しく、少し官能的なものを感じた。
あの後、どうなってしまうのかが気になって仕方がない。
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独特の世界観と丁寧な描写で読む手が止まらなくなる1冊。
本のタイトルにもなっている薬指の標本が特に好きでした。タイトルからしてグロ注意作品なのかな、と少し気構えて読み始めましたがグロさは感じられなかったので安心して読めます。
テンポが良く、描写が秀逸なのに難しい表現がないため読みやすい。ついつい読む手が止まらなくなる作品でした。
薬指の標本がどういう意味なのか、それを考えながら読んでいましたが私個人としては標本に興味を持ちながら、何よりも少し変わった恋を覗き見てしまった気がするようなお話でした。若いフレッシュな感じの恋愛ではなく歳を重ねたからこその少し重ためな愛の形を知れた気がします。
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平凡な日常を生きる読者がひょんなきっかけで異常な世界に引き込まれ囚われていく様子が絶妙なタッチで描かれています。ページ数少なめの割に充実の物語でした。
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小川洋子さん初読み
二作とも、主人公との人間関係が第三者に介入できないほど、親密になった後の切なさを感じました。
これは独特の世界観。
文字だから、表現できるのですね。
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小川洋子さんが作る、どこかにあってほしい、ひょっとしたらどこかにあるんじゃないかと思うような不思議な世界が大好きです。
「標本」や言葉として切り離すことで、整理したり忘却したいことってありますよね。
逆に、自分から切り離してしまうことが怖かったり、あえてもやもやしたまま残しておきたいものもある。
標本室や語り小部屋があったら自分はどんなものを切り離していくのだろう。
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人の、心の奥から突き動かされる衝動と
そんなつもりじゃなかったのにのめり込んで一気に読んでしまうパワー
ずっと脳内に残るワンシーンがあるような
孤独と不思議な他者
自然に滑らかに読めてしまうけれど、いろんな細かいところまで神経が
行き届いている描写が好きです。どちらの語り手も孤独な女性で、内面
や身体的な感覚の一部まで読んでいるとこちらが同化一体化してしまって
いるよう。傷ついた自分がもしかするともっと危ない世界に引き込まれる
ような感覚、逆に自分の中にある悪い部分に気づきつつ、それ以上の進展
はないけれど癒されるような感覚、そういったものを味わいました。
静かに自分と向き合う、死やエロスとも静かに向き合う。
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世界観なんて書いてしまうと非常に安っぽいけれど、この世界観が好き。
この小説を原作としたフランス映画もおすすめ。舞台がフランスの田舎町で、却って無理なく映像化出来てます。
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勝手に登場人物を外人にして読んでしまうくらい現実離れしていて、でも普通に読めてしまっていて
自分もこの話の中に取り込まれているような気がして変な感じになった
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終始湿度のある文章で、爽やかさは一切なかった。「好き」「愛してる」の言葉がなくても、ひんやりとした狂気に溢れたお互いの感情が伝われば良いというのも愛の形なのかなと。弟子丸氏の魅力が私には全く伝わらなかったけれど、二人が幸せならそれで…という感想。二つの作品どちらもすっきりとした終わり方ではなかったので、その続きはどうなったんだろう?って気になった。
Posted by ブクログ
2編の短編が入っている。
1つ目は表題作「薬指の標本」。気味の悪いタイトルだな、と思いながら読み進めたが、意外とそうでもない。しかし、そうでもないな、と読み進めると、だんだん不気味になってくる…。
といっても、タイトルから想起されるような肉体的な不気味さではなく、精神的な不気味さだ。主人公が沼にはまっていくのを、不思議な気持ちで読み進めた。
2作目の「六角形の小部屋」の方が個人的には好きだった。小部屋に入った悩める子羊の「わたし」に、少しでも救いがあったのか、なかったのか? お悩み解決小説のような筋を辿りつつ、ハッピーエンドで終わらない。設定は非現実的なのに、そこがむしろリアルである。
普通の一人称の小説の中に本人の独白が混ぜ込まれるという手法もアクロバティックで面白かった。
Posted by ブクログ
そんな昔の本だとは知らずに購入して読破。
でもやはり世界観はレトロが好きだなあ。
表題【薬指の標本】、全然そんなこと言ってないのに、なんかグロかった。
そして何故か男性の声が脳内つだけんで再生される笑
いやでも本当になんだったの?
オカルト好きとしては文字つだけん(仮名)は妖怪だったのかとオモウンダ?
人間か妖怪化した怪人Aの亜種みたいな。
もしくは若い女しか食わない鬼? 血〇術?
タイプライターだっけ?読んだの実はちょっと前で細かいところ忘れちゃったんだけど、あのシーンなんだったの?
一緒に探してよ。
決定的に何かが起こるとかではなく、じわじわ攻めてくるというか、侵食してくるというか。
いろいろ言ってますが、すごく面白く読みました。絵的で。
薄気味悪い後味が欲しかったらおすすめの一品と思います。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの文章が大好きです。
小川洋子さんの作品で登場人物が亡くなっても、ただ悲しいだけではなくその情景が印象的に美しく描かれていると思います。
薬指の先を無くす場面も、火傷の場面も、少しもグロテスクではなくむしろ綺麗な情景として描かれていると思います。
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「あるものはあり、あらぬものはあらぬ」という考えが度々哲学で見受けられるが、小川洋子という文筆家は文学としてそれを表現する魔術師であった。この本は一冊、最初のページから最後まで余す所なくパズルのピースとなる本だと思う。解説までじっくりと目を通すことでそこに新たなものが見えてくる。作中では確かにあったものが消滅した。しかしながら、同時に生まれる思いがある。二篇の不思議な物語を通して、そこに生まれたものを捉えるという新しい感覚に囚われる作品であった。
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紹介されて読んだ本。読んでて浮遊感を感じる不思議な本
歪で怖いなって感想が第一。自立しているはずだったのに、徐々に依存していき、掌握される感じ。女の子が若いのもまた怖さに繋がる
どこか綺麗さもあるが、純愛かと言われると違うと思うなあ
六角形の小部屋
カタリコベヤ
宗教ではない、特別な教えを説いたりしないし、祈ったりもしない。神様もいない。
本人の意思や努力によって運命を切り開けると信じている人もいるかもしれません。けれど、意志や努力がすでに運命なのだとわたしは感じます。
決して人生を否定しているわけではありません。
次の瞬間何が起こるか、わたしたちには少しも知らされていないのですから、やはり常に自分で選択したり判断したり築いて行ったりしなければならないでしょう。いくら運命が動かし難いものだとしても、すべてをあきらめてしまうなんて愚かです。誰にとっても運命の終着は死ですが、だからと言って最初から生きる気力を失う人は、たぶんあまりいないはずです。
運命は決まってるのかもしれない、でも諦めてはいけないしもがいてかなきゃいけない
みんなそれぞれ抱えているから、話して向き合う
でも時に向き合いすぎるとバランスが崩れる
途中の背中の話は謎だったけど好きな話
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小川洋子さんの、静かでちょっぴり不穏な独特の世界観が、やっぱりたまらない。
最後どうなったのかを想像させられて、ひとり騒ぐ楽しさも与えてくれました。
匿名
すごい
どうしたらこういうことを思い付けるんだろう、とその想像力に驚き通しだった。表題作ももちろんすごいけど、二編目の「六角形の小部屋」に引き込まれた。読み進めるほどに、日常の裏側の見てはいけない世界に迷い込んでしまうような心地で、次に何が起こるか知るのが怖いくらいだった。
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小川洋子の本を初めて読んだ。
ふわっとしていて独特の雰囲気があり、何を意図しているのかはっきり掴めない、不思議な物語だった。
私だったら何を標本にするよう依頼するだろうか。何を小部屋で語るだろうか。
そんなふうに想像してみることで、自分の中に何が引っかかっているのかが見えてくる気がする。
普段は気にしないようにしていても、実は心に残っている辛いこと。
それを振り返り、昇華させていくような小説なのかも。
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なんだろう、、、官能的な文章っていうのかな?
直接的な表現ではないけどエロスを感じました。
ただ、読書初心者だからか理解が出来ないというか、想像力がないのか。
個人的には後半の話の方が好みでした。
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二人の女性が出てくる二編の短編集
どちらも不思議な物語です
仕事あるいは恋人との関係が変わってしまった二人の女性が、それぞれ奇妙な体験をして、それに夢中になってしまいます
二人の最後は対照的ですが、果たしてどちらが幸せなのでしょうか…
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2つの作品が収録されている。共通して出てくるのは、"案内板を出したり宣伝をしなくとも、その場所を必要とする人々は導かれるようにそこを訪れることができる"という空間。日常のなかにひっそりと存在し、必要としてくれる人を待ち続けるという慎ましさが小川洋子さんならではの感じ。
「薬指の標本」はとくにディープでフェティッシュな感じ。
Posted by ブクログ
この人の小説は常に、ひんやりした闇の中に、じっとり湿った生温かさみたいなものを感じる。決して派手でも明るくもない地下室みたい。
そして、本人に自覚があるかどうかは別として、元来ヒトってみんなそうだよなと思う。
Posted by ブクログ
2編共、どうしようもなく閉ざされた感覚、よるべなさ、あたたかい感情とさみしさが共通している。
読み終えるとずうんと気分が落ちてしまうから、夜に読むのは要注意だなと思った(私の場合)。
小川洋子作品は、脇役たちのほうがあたたかい不思議。
Posted by ブクログ
2篇とも主人公の自己肯定感の低さやうっすらとした希死念慮を感じる作品でした。
私はこれら作品から、アクシデントをきっかけに人生計画が頓挫した主人公が死に場所を求めているという共通したイメージを抱きました。
うっすらと思い描いていた人生計画が崩れたときに、ある種の枷が外れたと開き直り、次のプランに向けてバイタリティを高めることは容易ではないと思います。そのため共感できる人も多いのではないでしょうか
これらの作品に美しさや救いを感じるには私はまだ幼く元気すぎました。
Posted by ブクログ
「薬指の標本」
脆く儚く、少しダークな雰囲気の作品。あとがきにもあったように、「体の消滅」ということが描かれていて、多分弟子丸さんに体をも委ねたいほど好意を抱いたっていう比喩だったのかな。最終的に標本室行っちゃうくらいだし…
「六角形の小部屋」
語り小部屋が実在したらいいのになー、と思った。こちらも少しダークで不思議な世界観だったな。美智男に抱きたかった感情が語り小部屋やミドリさん、ユズルさんに向かったんじゃないかという考察を見てすごく腑に落ちた。
Posted by ブクログ
薬指の標本というタイトルだけで、薄気味悪い、もしかして猟奇的か、小川洋子作品だし、さてさてと読み進めるうちに、どこか自分にもこんな気持ちがあるのかも、と思わせられたら、作者の術中にハマってしまったことになる。
短編2作めの六角形の小部屋にしても同じ感じで、カタリコベヤって何なんだよ、そうかそういう漢字なのか、だから部屋の中で一人で語るのか、そんなやつはいるのか、と思いながら自分なら今日は何を話すのだろうと考える。
薄い文庫本に2篇の短編小説が含まれている、という体裁から奥が広くなっているような場所にいる感じすらした。広い場所と感じたのは自分で感じた空想なのか、ほらまた一歩ずつ作者の世界に引き込まれていく。星をつけて評価するのは小説の面白さではなく自分の気持ちのような気がしてきた。だから真ん中の3つにしておく。