小川洋子のレビュー一覧
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幻想的な長編小説。「博士の愛した数式」以来、小川洋子の長編はあまり読んでこなかったのだけれど、すごく良かった。
博物館技師の「僕」が訪れた幻想的な村。そこで「僕」は形見を陳列する「沈黙博物館」を作ることになる。形見を収集してきた「老婆」と、その娘だという「少女」、屋敷に代々仕えている「庭師」と「家政婦」とともに…。
相変わらず身体の表現、触感の鋭さが際立つ。老婆の皺とそこにたまる垢、昔一部を切除された歪な耳。少女のまつ毛や指先。体のパーツ一つ一つを慈しむように丁寧に表現する。
村の伝統や仕来り、不思議な涙祭りや、沈黙の伝道師、卵細工、森や屋敷の様子も、目の前に浮かんできそうなほど繊細。
そして、博物館技師がいかに博物館を愛してきたか、老婆がいかに形見に思いを注いでいたか、その奥深さ。
長さを感じさせない、読みやすく儚い小説でした。
途中で、ホラー?サスペンス?な雰囲気になりつつ、グレーエンド、というよりはセピア色の落ち着いた幻想的なエンディングでした。
彼は沈黙博物館に取り込まれてしまったのでしょうか…。
今後博物館に行ったときの受け取り方が変わりそうです。 -
Posted by ブクログ
上手い、の一言。
元々新聞の連載だったと言うこともあり、一つ一つがほど良い長さで、シンプルな表現が多く、それでいて濃度が高い。
日常の些細な出来事や作家活動の一環としてのあれこれ、愛犬の話。ふとした出来事を深く、でも、深過ぎて読み手が迷子になることがない程度に掘り下げて書いてくれているので、心にすんなり入り込み、心地いい。
こうやって本を書くのだな。こうやってアイディアを紡いで行くのだなと、一作家の裏側を垣間見れた作品。作家を志す人が読むのにもいいと思う。
本としてまとめられているので、立て続けに読んだけれど、新聞掲載と言う形は正解で、一つ一つエッセイをゆっくり味わうのに適している。
小川さんの作品を読むのはこれが初めてだが、これを機に小説も読んでみたい。 -
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犬好きでタイガースの熱狂的なファン、どこにでもいそうなどちらかといえば垢抜けないおばさん。
レジに並ぶときはもたもたして後ろの人に舌打ちされないように万全と小銭の準備をし友達と食事した後に喋りすぎたのでは?と不安になる。
なるべく世間の端っこで生きるよう努力しながらおこがましい気持ちで小説を書いている。
でもね小川さん、神様はあなたの小説の才能に特別な計らいをされているのですよ、多くの人が感動するカレンの歌声のようにあなたの本を読むことは私たちにとって至福の喜びなのです。
いつか阪急電車でお会いしたらお礼を言おうと密かに思ったりしています -
Posted by ブクログ
毎日の中でスルリと零れてしまいそうなひとコマを
大切に丁寧に書かれたエッセイたち。
不平不満をこぼさず、たくさんのことを
じっと我慢して超えてこられたお料理の先生の
謙虚な笑顔と誠実な人柄のお話。
大好きな須賀敦子さん、堀江敏幸さん、
柴田元幸さんの話もうれしく、
「枕草子」に対する想いに、そうそう!と
うれしくなったり。
人を結びつける本の話もとても素敵だった。
同じ本を読んでいるだけで、とても話が弾んだり
言葉にできない深い繋がりを感じたりする。
読書ツールでの出会いも然り。
たかが1冊、されど。
人との縁、結びつき、大切にすること、
丁寧に続けていくこと、楽しむこと。
たくさんの優しさに心が柔らかくなる読後でした。 -
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酒井駒子さんの装画が素敵すぎて衝動買い。写真と実物は異なります。奥付の日付が今年の1月だったので、どうやら新装版になったようだ。
冷たい気配が漂う短編集。
あまりにも美しいものが、時に近寄りがたい雰囲気を纏っているのと同じような感覚だろうか。
ページを捲るたびに、行間に漂っている「死」の気配がぽろぽろと零れ落ちてくる。
淡々として端正な描写の奥で、「ああ、でも最後には、きっと恐ろしい裏切りが待っているに違いない」という予感に息が詰まる。
なんだかもう、「恐ろしいものを見てしまった」、という読後感だ。
短編集だけどちびちび拾い読みをしないで、ぜひ全篇をとおして読んでほしい一冊。
このただならぬ気配と緊張感に、どっぷり浸かってみてほしい。
戻って来られなくなってしまう危険性は大いにあるが。 -
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ネタバレ・無駄な行動が生物学的な強さであり、異性の評価を受ける。発展して美的評価に。独立して芸術に。
・言語の歌起源説。
・歌から言葉へは「一瞬」。
・ミラーニューロン。
・天才は刺激の過剰さ。子孫は残せないが芸術を残す。
・赤ん坊が泣くのは人間が天敵から身を護れるから。
・母と子供の言葉のコールアンドレスポンスによる、相互カテゴリー化仮説。
・言葉は情動を動かせない道具として進化した。
・フェルミのパラドックス……エイリアンが来ないのはなぜか……言語をもってしまうと文明は滅びるから。
・「つながる」こと自体の快感が独り歩きして、空疎なメールなどの言葉。
・統合失調症患者の「死にたい」……言い換えていくと、さびしい、や、つながりたい、に。「死にたい」という魔球。……言葉を解きほぐしていく技術。
・「AならばB」を与えられて「BならばA」と思えるのは人間だけ。ただしそれが「イスラム人はテロリストだ」のようになってしまう。
・ダンスなど儀式を使って、コミュニケーションしたいという意図自体をコミュニケートしている。
・人間の言語システムは書く言葉が生まれるようにはじめからできていた。
・言語・音楽・数学。
・歌の幼児擬態起源説……メスに子供だと勘違いさせることで近づき交尾。
・言語と神……大ボス説と、死の回避説。死の恐怖を受け容れるために物語を必要とする。物語に登場するのは必ず死者。
・哲学的ゾンビ問題。→心の理論。
・言語を持ったことで滅びていく短い時間に、たくさんのものを創造しようとする。
素晴らしい。
上記のような語られた内容がいいのではなくて、語られ方が。
ロマンチックな科学者がいて、適切な聴き手がいて。
ラカンやら岸田秀やらを読んで考えてきたことをこんなに平易に再納得してくれるなんて。 -
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『博士の愛した数式』の小川洋子さんと、脳科学者の岡ノ谷教授の対談本(文庫)
言葉の起源についての説や考察を、岡ノ谷教授の研究や近接領域の話題で盛り上げる。
唐突に繰り出される作家小川洋子さんのアイデアが、岡ノ谷教授を触発する様子が読み取れて面白かった。
やはり、言葉の探求は興味深い。
本書では、岡ノ谷教授の言葉の発生には”歌"が起源になっているという内容が、なんとも興味深かった。
言葉ってなんだろう?歌ってなんだろう?と想いを廻らせながら読んだ。
本書はもともと2011年4月に発刊されたもの。
対談は、東北の震災前に行われていて、震災後に発刊となった。
今回の文庫版の出版に当たって、お二人とも文庫のまえがきとあとがきを書かれている。この部分でも、対談と震災の影響がうかがわれる。
やはり言葉と文明は切り離せないわけで、対談中にも、この文明にどう向き合うかが、奇しくも語られていた。フェルミのパラドックスとして語られる『言葉を持ってしまうと滅びる』、これにどう向き合うかを考え直さなければならない。
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【内容(「BOOK」データベースより)】
人間が“言葉”を生み出した謎に、科学はどこまで迫れるのか?鳥のさえずり、クジラの鳴き声…言葉の原型をもとめて人類以前に遡り、小説家と気鋭の科学者が、言語誕生の瞬間を探る!
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【目次】
文庫の前書にかえて(小川洋子)
はじめに
・言葉の秘密をさぐる遠い旅へ(小川洋子)
・言葉の起源をもとめて(岡ノ谷一夫)
第1部 言葉の誕生の秘密に迫る
第2部 言葉とコミュニケーションを考える
第3部 心の発生と言葉をめぐって
おわりに
・人間が死ぬことは不条理だけれど(岡ノ谷一夫)
・鳥は自分たちの神を持っているか?(小川洋子)
文庫へのあとがき(岡ノ谷一夫)
解説
・言葉によって伝えたい、という想い(大橋正健)
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Posted by ブクログ
ああ、これは恐ろしく美しい。とても美しい、という意味でもあるし、恐ろしくて美しいという意味でもある。
日常と異界と間にあるはずの境界がふと揺らいでなくなってしまい、頭では「逃げなくては」とわかっているのに目も足も動かない。美しさに釘付け。
『博士の愛した数式』ではなく『薬指の標本』の方の、ファンタジーホラーな小川洋子。しかも円熟味を増して怖さに色気艶渋みが加わり、ある日ふと友人から「お前、最近痩せた?」と聞かれたら真っ先に「この本の精に取り憑かれたから」と思うくらい楽しんだ。
売れない中年独身女性作家が日々狼狽しこっそり人混みに紛れて誰にも気づかれないように何かしてくるだけの話しなのに。
見てはいけないもの、あってはいけないこと、それが「わたしだけ」の目の前に現れ他の人はまだ誰も気がついていない時の背徳感。本当はアンダーグラウンドで入手しないといけない小説です。