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古い館は、死んだ動物たちであふれていた──。それらに夜ごと「A」の刺繍をほどこす伯母は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか? 若い「私」が青い瞳の貴婦人と洋館で過ごしたひと夏を描く、とびきりクールな長編小説。
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Posted by ブクログ
あなたの家には『動物製品』があるでしょうか? 『動物』と言われて私の頭に浮かぶのは木彫りの熊の置き物です。北海道に旅行した親戚からお土産にもらった真っ黒なそれは、存在感抜群にしばらく家のリビングに鎮座していました。やがて北海道を旅行した時に土産物屋に大量に並んだ木彫りの熊を見て思わず苦笑いした時の...続きを読むことを覚えてもいます。 しかし、改めて考えてみれば木彫りの熊は、熊を模したものであって『動物製品』とは異なります。それを『動物』からできたものと捉えるならば『剝製、毛皮、牙、角の類』がそれに当たるのだと思います。残念ながらいずれも私の身の回りにはないものばかりです。毛皮もなく、フェイクファーしかないという我が家(笑)。ただ、家に『剥製』があって、目が合ったとしたら、それはそれで怖い気もします。やはり、我が家には木彫りの熊がちょうど良さそうです。 さてここに、『床には口を半開きにしたベンガルトラの毛皮が敷き詰めてあった』と始まり、『すべての部屋はもちろんのこと、廊下から洗面所にいたるまで、壁という壁はさまざまな動物の頭で占められていた』と『動物製品』に囲まれた暮らしを送る一人の女性が主人公となる物語があります。『動物製品』の『膨大なコレクションはとても私一人の手には負え』ないという女性の困惑を描くこの作品。そんな女性と暮らす老女に隠された謎が暗示されるこの作品。そしてそれは、『ロマノフ王朝』の栄華を物語に絶妙に重ね合わせる不思議感漂う物語です。 『伯母さんを迎えに病院へ行った時、彼女はベッドに腰掛け、クリーム色の化粧ポーチに刺繡をしていた』という中に『ベッドに近寄り、隣に腰を下ろした』のは主人公の『私』。『針を止め、あっと短い声を漏らした』伯母に『ごめんなさい』と謝る私に『いいのよ。気にしないで』と返す伯母は『再び、刺繍の続きに取り掛か』ります。そんな伯母の横で病室を見回す『私』は、『部屋中あちこちに施された刺繍』が、『すべて、赤と金の糸で同じ絵柄』であることに気づきます。『飾り文字に図案化されたアルファベットのAの周囲を、蔓バラが飾っているデザイン』を見て、『どうしてAなのだろう』と『不思議に思』う『私』は、『伯母の名前は正式にはユリア』、『親戚の間で通っていた愛称はユーリ伯母さんだった』と思います。『伯父さんの名前にも、住んでいる地名にも』『Aの文字は見当たらない』と思うも『あまりに熱心に針を動か』す姿に『Aの意味について尋ねることができな』い『私』。そんな伯母と『初めて出会った時、私は十五歳の少女』でしたが、『伯母さんはもう十分すぎるほどのお婆さんだった』と過去を振り返る『私』は『あれから十年が経ち、更に容赦なく彼女は老い衰えてい』ると思います。そんな伯母に『家へ帰りましょう』、『伯父さんと一緒に住んでいた家よ』、『退院できるのよ。元気になったの』と声をかける『私』は、『一人じゃないから、安心して。私が一緒よ』と言うと『作業に取り掛か』ります。『正直なところ、自分が伯母さんと一緒に暮らすことになるとは思ってもいなかった』という『私』は今までのことを振り返ります。 『二人きりの兄妹ではあったが、歳が離れている』こともあって『親しい行き来はしていなかった』という伯父と母親。『職を転々としていた』伯父に対して『教師の父親と結婚し、程なく私と弟を産んだ』母親。そんな先に『突然、放浪生活の終結を宣言し』た伯父は『塩化ビニール素材の製造工場経営』をはじめると『事業は成功し』『郊外の湖のほとりに大きな家を建て』ます。そして、『動物の収集に没頭するようにな』ると『剝製、毛皮、牙、角の類』を『広い家』へと収集していきます。そんな先に『母を本当に驚かせる出来事が起こ』ります。『新郎は五十一歳、新婦のユーリ伯母さんは六十九歳』という伯父の結婚でした。『亡命ロシア人であるという以外』『はっきりとしたことは何も分からなかった』という伯母のことを母親は『お金が目当て』と訝しがります。しかし、『すぐ駄目になるだろうという大方の予測』に反して『十年と少し』続いた『彼らの結婚生活』。一方で『伯父さんの収集熱は過激にな』っていきます。『生活のスペースを侵されるほどの動物類であふれ返っていた』という館。そんな中に『六十一歳、死因は心筋梗塞』で伯父が突然亡くなり伯母は入院します。そんな伯父母の家の変化の一方で、父親も急死し『私』の家庭は一気に窮地に陥ります。そして、『ユーリ伯母さんと一緒に住んで面倒を見るのを条件に、伯父さんの遺産から学費を出してもらうこととなった』『私』は、こうして伯母が伯父と暮らした家へと足を踏み入れることになりました。『伯父さんの死後放置されていた館は荒れ、そのうえ膨大なコレクションはとても私一人の手には負え』ないという家へと入った『私』に伯母が話しかけます。『少し、ゆっくりなさった方がいいんじゃないかしら』と言う『私』に、『裁縫箱を出してくれない?』と返す伯母は、『家にある毛皮全部に刺繍しようと思ったら、休んでいる暇なんてないわ』と『こちらを振り向き、微笑』みます。『伯父さんが収集した”動物製品”』に囲まれる中に、新たな日常をスタートさせた伯母と『私』の生活。伯母に隠されたまさかの過去が明らかになる、そんな物語が描かれていきます。 “北極グマの剥製に頭をつっこんで絶命した伯父。残された伯母は、夜ごと死んだ動物たちに「A」の刺繍をほどこし続ける。この青い瞳の貴婦人は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか?若い「私」が古びた洋館で過ごしたひと夏を描く、とびきりクールな長編小説”と内容紹介にうたわれるこの作品。元々は2002年1月に単行本として刊行されたあと2005年12月に文庫化されています。そのいずれも表紙が異なるのですが、今回私がこの作品を手に取るきっかけとなったのは2023年9月に鮮やかな緑地に白の動物の胸像が存在感を持ってこちらを見据える新装刊の文庫の表紙に心を囚われたことです。数多の小説の中にはこの作品のように表紙を大きく変えて現代風にアレンジ、まるで新刊が出たかのように登場する作品があります。私が印象に残っているものでは近藤史恵さん「ホテルピーベリー」がそうなのですが、この作品も近藤さんの作品同様に新装刊の表紙に”ジャケ買い”した一冊となりました。 さて、そんなこの作品は文庫本272ページと決して分量のある作品ではありませんが、長編としての読み味を魅力たっぷりに提供してくれる作品です。まずは、小川さんの作品の特徴とも言えるモノにこだわった表現から見ていきましょう。それはいきなり作品冒頭から飛び出します。伯母さんの病室を訪れた主人公の『私』がそこに目にする光景です。 『茶しぶだらけのティーセット、本の山、カメラとフィルム、シガレットケース、丸まったブラジャー、中身がはみ出した裁縫箱、伯父さんの写真、かつら、ドロップの缶…』 小川さんらしい表現のいきなりの登場に思わずニンマリさせられます。『襟元のゴムが伸びきった、ネグリジェ姿』の伯母を前にして、これらのモノを退院に伴って整理、運び出さなければならないことを憂鬱に思う『私』。一方で、小川さんの作品を読みたいとこの作品を手にした読者には、いつもの”小川洋子ワールド”が展開することに思わず笑みがこぼれると思います。では、そんな『私』がこれから伯母さんと暮らす家はどんなところでしょうか? 『鹿、ヌー、トナカイ、狼、カモシカ、猪、カリブー…リスザルや針ネズミ…』 動物の名前を単純に羅列しているわけではありません。これらは伯父が集めた『動物製品』、『剥製』の山なのです。『すべての部屋はもちろんのこと、廊下から洗面所にいたるまで、壁という壁はさまざまな動物の頭で占められていた』と表現される家。これはインパクト最大級だと思います。一方で、小川さんの真骨頂と言えるモノの羅列は更に続きます。『裏庭のプール』に落ちていたモノもあげておきましょう。 『マニキュアの瓶、セルロイドの人形、絵筆、シャワーキャップ、鍋つかみ、トイレットペーパーの芯、ひび割れたフラスコ、チューブ入りピーナッツクリーム…』 小川さんの作品を読まれたことのない方には一体なんのことかさっぱり分からないと思います。私も最初はそうでした。しかし、21冊を読んできた今の私にはこれらの表現がとても愛おしく感じられます。この表現の登場を楽しみに小川さんの作品を手にする、それが何よりもの喜びでもあるのです。小川さんの作品をこれから読まれる方には、是非このモノの羅列をお楽しみにしていただければと思います。 そして、この作品で欠かせないのが「貴婦人Aの蘇生」という意味ありげな書名と、これは旧文庫の表紙の方がイメージしやすい『ロマノフ王朝』に関する事ごとです。どこまでがネタバレなのか微妙ですが内容紹介にも記されていることが、 “この青い瞳の貴婦人は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか?” という記述です。”この青い瞳の貴婦人”とは主人公の『私』が同居することになる伯母です。学校時代に世界史を学ばれた方はロシアにもかつて王朝があったことはご存知だと思います。1917年のロシア革命で王朝は滅びてしまいましたが、この作品ではそんな王朝の最期が物語の前提となってくるのです。えっ?世界史なんて忘れちゃった?という方もいらっしゃるかもしれませんがご安心ください。そんなあなたにも小川さんは過不足なく物語の中で大前提を補足してくださいます。では、そんな前提をまとめておきましょう。 ● 『ロマノフ王朝』の最期と今に続く噂 ・ロシア帝国を三百年以上にわたって支配したロマノフ王朝は、一九一七年三月に起こった革命のために崩壊 ・ニコライ二世、アレクサンドラ皇后、アナスタシアを含む四人の皇女と末っ子の皇太子アレクセイは、翌年七月、エカテリンブルクにおいて全員殺害された ↓ しかし ・何人かは虐殺を生き延びたという噂は絶えず、ロマノフ家最後の生き残りだと自ら主張する皇女、皇太子は、明らかな偽者も含め、現在でも世界中に存在している いかがでしょうか?物語が見えてきましたね。そうです。物語では、 伯母 = 『ロシア最後の皇帝ニコライ二世の四女、アナスタシア皇女』? という点に光を当てながら展開していきます。名前に『A』が付かないにも関わらず『A』の文字に拘る刺繍を続ける伯母は、『アナスタシア皇女』その人なのか?と謎を呼んでいきます。 『一九一八年七月十六日の夜中、とうとうその瞬間がやって来た。市内で起こっている銃撃戦を避けるため、避難するよう命じられた一家は、疑問もいだかずに着替えをし、処刑チームの隊長に導かれて地下の小部屋へ入っていった』。 歴史に残る事象を記しながら物語はその真実を読者に伏せながら展開していきます。このあたり、『ロマノフ王朝』の最期が描かれていく場面も読み味たっぷりです。しかし、この作品はミステリではありません。小川さんはその真贋に拘るのではなく、この状況をすべてわかった上でどこかコミカルに見せていくところが魅力なのです。 そんな物語の主人公の『私』は、父親の急死というピンチの中、『伯母さんと一緒に住んで面倒を見るのを条件に、伯父さんの遺産から学費を出してもらうこと』となった今を生きています。物語では、『A』の文字に拘る刺繍を行う伯母と生活を共にする『私』の姿が描かれていきますが、そんな『私』が手に余る思いの中にいるのが、家の中に大量に残された『動物製品』の数々です。一方でそんな『動物製品』を前にして伯母は『A』の文字の刺繍を施していきます。 『伯父さんが収集した”動物製品”たちはどれもグロテスクで悪趣味なのだが、刺繡が加わることで更に奇っ怪さが増し、その動物が本来備えていた絶妙なバランスさえもが、損なわれてゆくのだった』。 なんともシュールな光景です。そんな中に冷静に伯母と暮らしていく『私』の気持ちを思いもします。物語には、そこに『強迫性障害を患って』いるというボーイフレンドのニコがさらに不思議な雰囲気感を物語に落とし込んでいきます。 『どんな建物の入口の前でも、グルグルと八回回転し、扉の四隅を親指で押さえつけ、立ち幅跳びの要領で、仕切りを踏まないよう目一杯ジャンプしないと、中へ入れなかった』。 これはそういった『障害』であり、それ自体どうこう言えるものではないとは思いますが、物語はそれを病気というよりは、奇妙奇天烈な印象を与えるものとして描いていきます。物語はこれら登場人物の奇妙な生活を描く中に一体どのような落とし所を見せるのだろうと思う中に、滑稽にも映る展開を見せていきます。不思議な家で、不思議な存在に囲まれる主人公の『私』のひと夏の経験が描かれていく物語。その結末はある意味で潔い、鮮やかな幕切れを迎えます。そこには、広げられるだけ広げた包みの中を、定められた場所に全て鮮やかに落とし込む小川さんの上手さ際立つ結末が描かれていました。 『目の前にいる老女は、ロマノフ家最後の生き残り、アナスタシアではないだろうか』 主人公の『私』がひと夏を一緒に暮らした伯母との生活が描かれていくこの作品。そこには、伯父が残した数多の『動物製品』に囲まれる不思議感漂う物語が描かれていました。『ロマノフ王朝』の最期に隠された噂に興味が募るこの作品。モノに拘る小川さんの真骨頂とも言える描写に満ち溢れたこの作品。 謎を抱える伯母の存在を雰囲気感抜群に描いていくその上手さ、小川さんの鮮やかな筆致に魅せられっぱなしの素晴らしい作品でした。
小川洋子さんの作品に出てくる「私」を中心に話が進められるが、個人的に一番主人公っぽいのは「オハラではないか?」と思った 小川洋子作品で出てくる人物としてとても珍しい人物像だなと思いました。この人の視点で物語を読むと全く違う話ができあがりそうと思いながら読んでいました。
お金に糸目をつけずたくさんの動物の剥製を収集する伯父は北極グマの剥製に頭を突っ込んで死に、弁護士の父親は法律書に生き埋めになって死に。 未亡人となった伯母は残った大量の剥製たちにAの刺繍を施していく。Aとは、伯母の別名”アナスタシア”のイニシャルであり、剥製マニアのオハラが伯母とやりとりした結果、...続きを読む伯母はロマノフ王朝の生き残りであるアナスタシアなのではないか?と雑誌に掲載される。 オハラの、伯母の瞳に対する描写が面白い。剥製マニアゆえに行ったものの、伯母に興味を持っていかれたと雑誌に書き、〈私〉曰く伯母の話そっちのけでジャガーを眺めていたくせにと言っているが、どっちも半々といったところだろう。オハラは全部で3回伯母に関する記事を載せるのだが、それが一番面白かった。 ニコは強迫性障害ですんなり扉をくぐることができない。そんなニコに対して、その規則性を調べようと受けて入れている〈私〉と、何事も手順が大事、よくわかるわ、と理解者となる伯母。この関係も若干奇妙さがありながらこうゆうものだと保たれているのが著者らしくて良い。 本物のアナスタシアかを見極める企画としてテレビ出演することになり、〈私〉とニコで勝手に暗記カードを作って伯母に答えて貰う。実際に答えられるのと間違っているのとあるが、伯母も拒否せず刺繍をしながら練習に励む。 この練習であったり、ロマノフ王朝らしい品々を収集しては、そこに物語を作る伯母という〈私〉の描写があり、偽者なのでは?と感じるところもある。 伯母は階段の手すりが壊れ落下してインパラの剥製の角に貫かれて死ぬ。インパラと北極グマの剥製だけ〈私〉とニコに残して、訪問当初からオハラが欲しがっていたジャガーは伯母の思い出としてくれてやり、後はオハラがマニアに捌いた。
小川さんの初期作品、1999年から2001年まで連載された作品の新装版。 伯母がロマノフ王朝の皇女かも?という謎があっても淡々とした主人公はいつもの小川作品だけど剥製マニアのブローカー小原はちょっと珍しいタイプ。伯母とこの小原のやり取りがシュールでクスっと笑えて面白かった。胡散臭いけどいいやつじゃ...続きを読むん?って感じ。 胡散臭いと感じる登場人物がいるというのが初期作品だと感じました、最近だとどんな胡散臭さも納得させられる気がします。 剥製だらけの家とロシアって絶妙な取り合わせでときめきました。
小川洋子の文章は、基本的にクールに硬質に淡々と続く(解説 藤森照信) その小川洋子の文章が素敵。 結末は「博士の愛した数式」とか「ことり」とか読んでいるとそうなるなーと思うけれど、どの作品も悲しみよりも優しさが残る感じが好き。
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小川洋子
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