小川洋子のレビュー一覧
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イチロー選手が打球をつかみとり、ふりかえり、すぐさまホームに向かって投げる。見方のミットに吸い込まれていく。その肩をとおし、人々は記憶に刻まれた太古の肉体の美と再会する。と、いうふうに表現する小川洋子さんの文章がすごくいい。
他には、ミュージカル俳優の声、棋士の中指、ゴリラの背中、バレリーナの爪先、卓球選手の視線、フィギュアスケーターの首、ハダカデバネズミの皮膚、力士のふくらはぎ、シロナガスクジラの骨、文楽人形遣いの腕、ボート選手の太もも、ハードル選手の足の裏、レース編みをする人の指先、カタツムリの殼、赤ん坊の握りこぶし。
改めて考えてみると共感することばかり。一瞬のからだの美しさをとらえ -
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琥珀の現在も過去を織り交ぜて描かれるストーリー構成。
琥珀たち子ども三兄弟目線で話が進むので、おかしなこと(犯罪)が起こっていることに当人たちは気づかない。それが当たり前かのように起こる。
ただ読者の私はこれが犯罪であることがわかるのでなんかやばい…とずっと違和感を覚える。
母親の思考が結局ずっと謎だった。いくら末娘にトラウマを抱えていても監禁をするのはよくわからない。
でもだからこそずっと不気味で、穏やかな時間が流れているはずなのに緊張感が走っていてとても面白かった。
一番ママに従順だったオパールが最後ママに批判的なことを琥珀に言うのはきっと外の世界の住民であるジョーから色々話を聞いた -
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『博士の愛した数式』に関連したエッセイが最初に10本も続く。
「数の不思議」の世界をもう一度感じることができた。
次のテーマは「書く」ということへの想いやこだわり、ワープロや机といった書くために必要な物の話題などが語られる。
そしてごく自然に「書く」行為を問い直すためのアンネ・フランクの足跡をたどる旅の話に繋がる。
小川洋子さんのアンネ・フランクへの想いが伝わってきた。
後半はこんな暮らしをして来たんだよ、という雑多な日常の出来事の思い出話になる。
犬(ラブラドールの子犬のラブちゃん)と野球(阪神タイガース)が重要な生活の一部になっている様子が微笑ましい。
「犬のしっぽを撫でながら」と -
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小川洋子と河合隼雄のキャッチボールが見事だ。河合隼雄のダジャレやわかりやすい例えが実に効果的だ。聞くことを専門にしている河合隼雄の手法が、ツッコミを入れて楽しんでいる。小川洋子は『博士の愛した数式』を読んで、なんとステキな文章と体温のある物語を書くのだろうと感心した。それ以降、あまり注目していなかったが、最近の小川洋子の言っていることが興味深いので、読み始めた。
「生きるとは自分の物語を作ること」という言葉がいい。
小説家は、いろいろと妄想を働かせることが仕事。河合隼雄は、「小説家と私の仕事で一番違うのは、現実の危険性を伴う。作品の中なら父親を殺すこともできるが、現実に患者さんが殺すと大変です -
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平松洋子さんと小川洋子さん、2人の洋子さんが、各章のテーマに沿った心に残っている本を挙げて対談する対話集。本の紹介のようにもなっていて、読みたい本リストがまた増えました。
特に心に残っているのは、「人生のあめ玉」の章。親と子どもとの関係で、子どものかわいらしさの記憶、そう言うものが5つでもあれば、記憶のあめ玉のように何百回とむいてなめる、というくだり。小川さんは、「叶姉妹よりママの方がかわいいよ」と言ってくれた息子さん。平松さんは、娘さんのおやつに置いておいたパンを、おいしいからお母さんにも食べてもらいたくて、ほんの少しパンを残して覚えたてのひらがなで「たべてね」と書いてくれた娘さん。その -
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"移動する"物語六篇からなる短編集。職業、年齢、性別も様々な人々が登場する。かつては有名だったけれど落ちぶれてしまったハリウッド俳優とロイヤルスイートの客室係。元市民病院の案内係と孫娘。元迷子係と遠い親戚の少女。虫博物館で出会った男女。村で唯一の託児所の園長。バルカン半島の小国の作家とその希少言語の通訳者。世の中の人々に知れ渡るわけではなく、彼らだけが知っている密やかな約束、あるいは生きた証、尊厳という美しいものの数々を、まるで生まれたばかりのグッピーの赤ちゃんを岩や藻の隙間から網ですくいあげるように丁寧に的確にすくいとっている印象がしました。偉大な人と絶賛される人の人生だ
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ネタバレ6ページの文章と1枚の写真から成る16編のエッセイで、それぞれが完全に独立しているので好きな所から読める。
文章は短いけれど視点が鋭くて無駄がなく、エッセンスがギューッと濃縮された感じだ。
最初は「外野手の肩」…外野手とはイチローのこと。
外野からホームベースへの返球を見て、これだけの表現ができるのかと驚いてしまう。
2番目に読んだのが、最後の「赤ん坊の握りこぶし」。
ネタバレになるが、一部分を少し要約して紹介する。
生後二、三カ月の赤ん坊が、片手を上げ、自分の握りこぶしを真剣に見つめている。
(どうやら、この赤ん坊は小川洋子さんご本人のようだ。ここから話が始まる。)
赤ん坊は生まれた時 -
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ある村の大きなお屋敷に住む、ちょっと気難しい風変わりな老婆に雇われた、若い博物館技師の物語です。
屋敷には老婆と一緒に暮らしている少女と、離れには庭師と、その妻である家政婦が住んでいます。
故郷を離れ、この村にたった一人で訪れた技師は、亡くなった村人たちの形見を集め、それらを展示、保存する博物館を作ってほしいと老婆に頼まれます。
閉鎖的な世界で起こる奇妙な出来事が、小川洋子さんの手にかかると、なぜこんなにも美しく魅力的になるのだろう。
名前のない登場人物たち。次々に起こる殺人事件の犯人は? 博物館技師の行く末は?
謎が深まり、非現実的な世界にどんどん引き込まれていきます。
“人々から忘れら -
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終始、肉体も心もともに、グロテスクで、生々しくて、不穏で、でも静謐で、美しくて。
筋肉、指先、感情。
何かの始まりさえ、生々しい感情のさざなみに溶け込ませてしまう。
なんだかんだ優しく、時に残酷に、主人公たちの、何かが欠如してしまって、死を、喪失を、心にぽっかり空いた穴を埋めていく。
あとがきまで、これら四つの短編と同じくらい生々しくて不穏ででも最後には光がさして。
静謐が身体を、読者である私の身体を貫いて、一塊が胸の中に残り、一塊は風になって消えていくような。そんな読後感でした。
なんだろう、この満足感は。それでいて、もっと小川さんの小説に浸っていたいと抱きしめたくなる感情は。
表題作の「完 -
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デビュー作の「揚羽蝶が壊れる時」を含む、初期の四作品を収録。
「揚羽蝶が壊れる時」の中で、「正常と異常、真実と幻想の境界線なんてあやふやで、誰にも決定できないもの」という文章に、小川作品の原点を見たような気がします。
ものすごく優しい視点で描かれた、グロテスクさと美しさの混じり合った独特な世界を堪能することができました。
四編とも死や喪失感を思わせるような作品なのですが、表題作の「完璧な病室」が特に良かったです。
21歳で亡くなった弟の記憶、安らかな病室、張り詰めた空気。
「完璧」という言葉がとてつもなく哀しく聞こえます。
銀杏の黄色から雪の白へと移ろいゆく季節の中で、息もつけないくらいに