小川洋子のレビュー一覧
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この人の文章、多分特に自分のツボなんだろうけど本当に魅力的。
小説の面白さの一つは、読み進めながら自分なりに想像を膨らませて着色していくところにあると思うけど、この作品ほど読者に想像のゆとりを設けてるものは無いように思う。
建物ひとつとっても、動物ひとつとっても、読む人によってまったく違った色形で記憶になっているような気がする。
小川洋子さんにしか書けないこの尊さというか、儚さというか、整いきった危うさはなんなんだろう。
沈むみたいに、縋るみたいに、飲み込まれるみたいに、ずうっと文章を読んでいたくなって、不思議。
今作においては、人物などの固有名詞が出てこないという世界観も -
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ネタバレスポーツ選手、将棋の棋士、俳優、文楽の人形遣い、赤ちゃんなどの体の一部に焦点を当てたエッセイ。他にもレース編みをする人の指先、とか、動物の体に着目したものも。「ハダカデバネズミの皮膚」っていうのが面白かった。それぞれ写真が添えてあり、「外野手の肩」のエッセイではイチロー選手が遠投しているときの写真が載っている。本当に、美しい。「力士のふくらはぎ」では、もうほぼ、後ろに倒されているのに、それでも相手より持ちこたえようと、ひざから下の力だけで自分の全身を支えているありえない写真が。
「その時」体の一部がどうなっているのか、なぜこんなにも美しいのかと、小川洋子さんにしか綴れない言葉で綴っている。本当 -
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あなたの家には『動物製品』があるでしょうか?
『動物』と言われて私の頭に浮かぶのは木彫りの熊の置き物です。北海道に旅行した親戚からお土産にもらった真っ黒なそれは、存在感抜群にしばらく家のリビングに鎮座していました。やがて北海道を旅行した時に土産物屋に大量に並んだ木彫りの熊を見て思わず苦笑いした時のことを覚えてもいます。
しかし、改めて考えてみれば木彫りの熊は、熊を模したものであって『動物製品』とは異なります。それを『動物』からできたものと捉えるならば『剝製、毛皮、牙、角の類』がそれに当たるのだと思います。残念ながらいずれも私の身の回りにはないものばかりです。毛皮もなく、フェイクファーしかな -
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作家の小川洋子さんが、アンネ・フランクの足跡を辿りに隠れ家や親友を訪ねて取材する。
彼女は、ユダヤ人虐殺やナチスの蛮行のシンボルとしてではなく、純粋にアンネの文章を楽しみ、友人として接する。
強制収容所では、「何百万人が」とか「無数の人が」と言ってひとまとめにしてしまうのではなく、一人一人の遺品、旅行カバンや、メガネや、靴や、子どものおもちゃやおしゃぶりなど…
一人一人を尊重し、想いを馳せる。
大雑把にまとめて、分かった気になるのはよくあることだと思う。
「戦争になったらたくさんの人が死ぬ」
そこには、人一人が死ぬということの恐怖が宿らない。
だから、こうやってアンネフランクという一人の少女 -
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ネタバレまた素晴らしい本に出会ってしまった…
アンネフランクを辿る小川さんの一週間の旅の紀行文。
アンネの日記=戦争のことを知る読みものとしての浸透の仕方をしているけど、作者の小川さんは違う。
″純粋な文学として読んだ″と記されていて、それは、ナチスの犠牲者という歴史的事実とは別のところで、ただただアンネが書く文章に親しみを持ち、一人の友人が生きた歴史や受けた影響を知りたくて彼女のルーツを辿る旅に出ているのよ、という純粋な気持ちが、文章の節々から伝わる。
小川さんの旅の進め方、アンネに携わる人々へのインタビューのスタンス、ホロコーストやユダヤ人への理解、全てが、大きな歴史を知るというより、アンネと