小川洋子のレビュー一覧

  • 密やかな結晶 新装版

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    ネタバレ

    人々はそれぞれに、人生で出会った記憶の結晶を保存しておくための心の洞窟がある。あたたかな結晶もあれば、意図せずとも洞窟の壁に刻み込まれてしまったものまで。
    そこは誰かに見せるためではなく、誰かが足を踏み入れることを許すべき場所もなく、ただ自分がいつでもその結晶に触れることができる、非常に密やかで尊い空間。 


    この小説に出会えた素晴らしい体験を、洞窟にて大切に保管しておこうと思う。

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    2026年07月10日
  • 完璧な病室

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    作中人物が生きづらい日常を克服しながら、脆い夢を見続ける。あてもないせせらぎのように。人間の心に潜んである複雑な気持ちは計れ知れない。暗闇の中に生きていくしかないにも関わらずほんのりと儚い蛍が遠くから見えてくる日もある。悩ましい問題に臨んでいる登場人物が、一人一人読者の胸を鷲掴んで、底知れなく動揺させてくる。しかし著者が難しい話題に触れながら、さらさらと快く流れていくような言葉を使っている。傷ついた心の裏には萎んだ優しさの名残が残っている。

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    2026年07月09日
  • 遠慮深いうたた寝

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    業務日誌を見て肩の荷がおりました。身近に感じるようになったかなと思いつつこんなに感性が豊かな人はやっぱりいないと思いつつ

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    2026年07月09日
  • 凍りついた香り

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    長編だったけど読み始めたら止まらなかった。プラハの旅は、私の心も美しく輝いていくようにも思えた。
    スケートするルーキーは彼の心そのもので、今頃は天国でたくさん踊ってジャンプしたり、スピンしているのだろうと祈りのような気持ちも覚える。算数を教えていたという最後のくだりは、私にとっても衝撃的。やっぱり大好きなものに、そこに戻っていくんだなぁとつくづく思う。 お腹いっぱいになった小説でした。

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    2026年07月03日
  • 人質の朗読会

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    『本を読む人はうまくいく』で紹介されていた本
    やっと読むことができた!
    人質の方たちが語るエピソードが、日常に潜むなんてことないものだったけど、どれも本当に綺麗で読み入ってしまった

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    2026年07月02日
  • 劇場という名の星座

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    劇場というひとつの舞台において、劇が始まる時に始まっているわけではなく、観劇している人、演じている人だけであるわけではない。特別な場所だけど、特別ではない世界。
    星というもの一つ一つでは名前もないし、星座にもなれない。けれど、複数集まることで星座という形作られたものになるとも思った。

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    2026年06月27日
  • 海

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    小川洋子の短編集「海」。
    表題作では、結婚の承諾を得るため許嫁の実家を訪れた教師の「僕」と、許嫁の「小さな弟」との心の交流が描かれる。作中で演奏されない鳴鱗琴という楽器は、心に大切にしまっておきたい「思い出」のメタファーだと思う。子供の頃の楽しかった思い出や辛かった思い出、甘酸っぱい思い出、そして苦い思い出。それらを思い出すとき、いろいろな感情がよみがえってくる。そして、そうした感情は誰かと共有するのも良いけれど、そっと自分の中で愛でるのも良い。そう気づかせてくれる一編。

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    2026年06月26日
  • ことり

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    これほど人の生に関して美しく儚く残酷に書ける小川洋子の他に誰がいると思えるほどの作品だった。
    猫を抱いて象と泳ぐの時も思ったが一人の人間にフォーカスしてその人生を描いた作品の上手さは計り知れないものがある、
    小川洋子の文からしか感じ取れない独自の感情がそこにはあって風景や場所を頭で思い描くのではなく心の中にその本の世界が作られる様な感覚になる、そしてそこから匂い、音風が滲み出てきてそれがとても心地よく愛おしいのである。

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    2026年06月27日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    あまりにも静かで言葉足らずな登場人物たちだけれど、ものすごくたくさん話をした気がする。大きな出来事なんてほんの数回しか起きなかったし、描写の一つ一つが繊細だけど発見に満ち溢れていている様が、読むほど疲れる。でも、読むほど癒される。

    小川洋子さんの新作「サイレントシンガー」を読んだばかりなので、言葉や心ををチェスの一手に込められる主人公が、サイレントシンガーのあの子ともリンクする。
    静かであること、言葉を尽くさないこと、言葉という枠組みで相手や世界を断じないことの尊さを、小川さんはずっと書いてるんだな。

    それにしても私たちはおしゃべりすぎる。この本に出てくる人たちのように、言葉足らずだけれど美しい世界に憧れる。でも、なんだか毎日、喋りすぎてる気がする。

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    2026年06月16日
  • からだの美

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    作者の思う「からだの美」独特の視点、その部分の捉え方、動作の一瞬の切り取りの表現が的確で素晴らしい。その場面から発展される思考の広がり…好きです。体や動作、痛みや感覚というものは言語化が難しいと感じます。さすが小川洋子先生、丁寧で分かりやすい、すっと文章が入ってくる。私は声・中指・ふくらはぎ・骨・腕・体の章が特に素敵でした。この本、好きすぎる。手元に一生置いておきたい一冊です。

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    2026年06月14日
  • 最果てアーケード

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    ネタバレ

    小川洋子さんは他人から見たらギョッとするような気持ち悪いことを当事者は愛しているみたいな情景がうますぎる。

    遺髪レースも最初は気持ち悪いと思ってしまったけどだんだん私も作りたくなってしまった。

    何か気持ち悪いのに何かほっこりする不思議な読書体験。

    後終わり方もいい。私が言葉であらすじを伝えても狂気としか思われないが実際に読んだ人なら理想だと思えるのでは

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    2026年06月14日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    映像じゃないのに、ひたひたと伝わってくるこの静けさの正体はいったい何なのだろう。

    言葉少ない主人公にも関わらず、たくさんの愛をもらい、与える姿に夢中でした。

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    2026年06月13日
  • 密やかな結晶 新装版

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    小川洋子の作品はあまり読んだことがなかったが、本屋で装丁とあらすじに惹かれて購入。

    最高傑作。読むことをお勧めしたい。

    舞台はとある島(架空の島だが、描写的にかなり日本的だと思った)。この島では、鳥、香水、春(季節)、左足など記憶が少しずつ消滅していく(記憶の消滅というのが少しややこしく、概念自体が消失するわけではなく、それ自体を思い出せなくなり、またそれを見たとしても、それに関する思い出を想起したり、使用用途・目的、どのような物だったかを具体的に把握することができなくなるし、興味も湧かなくなるというのが近いかな、、、ちなみになぜ記憶が消滅するのかは描かれない。それは超常現象・災害にも近い、不可避の現象として島民に受け入れられている)。そして島民の中には記憶が消滅しない者がおり、彼らを秘密警察が取り締まっている(秘密警察は記憶が消滅した物を物理的に完全に抹消しようとも努めている)。小説家である主人公のわたしは、ある日担当編集者のR氏が記憶が消えない者の1人であることを知って、彼を自宅の一室に匿うことになる。これ以後はネタバレになるので控えます(まあ純文学だから結末まで書いてしまってもいいんだけど一応)

    全体を通して非常に静謐で、島に永遠の冬が訪れてからはなんとも言えないほど重く灰色な、でもどこかほんのり温かみのある印象をうける特異な文章(小川洋子の文体の特徴なのかなぁ?)。

    この本では、主人公が書いた「小説」が随所に挟まれる。この「小説」は現実の島の状況を予見させるものである。加えて「小説」内の男女2人の関係性が、わたしのR氏に対する屈折した感情を投影したものであるとも読めて、この物語に奥行きをもたらしている。

    読み方としては色々な解釈があると思うが、ただのファンタジーでないことだけは確かである。R氏を匿う(それも自室の隠し部屋に)こと、秘密警察の存在、春が消えて島はずっと冬であること、私が小説家であることから、否応なくナチスによるユダヤ人迫害、そして「アンネの日記」が思い出される。記憶の消失・秘密警察による取り締まりを徐々に日常の当たり前として受け入れていく多数の島民が、弾圧される者たちの状況を際立たせる。何も考えずにマジョリティ・支配者側に迎合することへの警鐘とも取れる。「記憶」はいつだって体制側にとって不都合である。一つの記憶で全てがひっくり返ることもある。だから体制側は「記憶」を恐れ、「記憶」の弾圧を続けようとする。小説が島から消えた時、島民は広場で本を焼くのだがその際に“書物を焼く人間は、やがて人間を焼くようになる”というハイネの有名な一節が引用される(ハイネの本も現実にナチスによって広場で焼かれているのである)。

    わたしの母(記憶が消えない人だった!)は彫刻の中に「島で人々の記憶から消失した物」を隠した。タイトルの「密やかな結晶」は、わたしが再発見したときにそれらを形容する表現として用いられる。記憶の弾圧を受けても奪いきれない、人間の心の奥底にある誰にも見られることのない大切で美しい物のメタファーとして機能している。小説を広場で焼く場面、ある女性が秘密警察に連行されながら(彼女も記憶が消えない者なのだが)「物語の記憶は、誰にも消せないわ」と叫ぶ。作者の矜持を感じさせる一節である。何をされようとも「物語」があれば世界に対峙して、想像力をもってして希望と一緒に生きていくことができる。「物語」が人間の砦であり最後まで人間を救い続けるものである、と僕自身は思っている。この小説が僕自身の「密やかな結晶」を形成する一部になるに違いない、と思える一冊だった。

    少し「記憶の消失」の定義がわかりにくいのが難点だがそんなことはどうでもいいと思えるぐらいの傑作。読んでみてね!


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    2026年06月13日
  • ブラフマンの埋葬

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    一つ一つの風景が淡い印象で
    キレイに流れていく感じでした。
    その中でも娘の登場が何となく色が濃く
    何かありそうな気配でした。
    最後の結末で、全体の淡い色が
    強め絵の具で、塗られたような、、。
    でも、ホルンの音と、レースのおくるみが
    また、淡い色に戻してくれた。
    小川先生の作品は、2冊目ですが
    本当に後から、ジワジワと残ります。

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    2026年06月12日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    最初は退屈かもしれないと思いながら読み進めていましたが、気が付いたら、とても静かな世界に引き込まれていました。大切な本のひとつになりました。

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    2026年06月11日
  • そこに工場があるかぎり

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    普通の工場でも
    小川さんのまなざしを通してみると
    かけがえのないもので輝いて見えてくる。

    知識としては知っていたことでも
    改めてその価値を教えてもらえるし、
    まったく知らなかった価値も知ることができる。

    いくら機械化されていても
    日本人らしい職人技はどこにでも息づいていて、
    自分のようにガバガバの感覚と思い通りにならない手先(障がいというわけではない)(ただの不器用)だとどうにもならない領域が多いことを改めて知らしめられたりもする。

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    2026年06月09日
  • 琥珀のまたたき

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    大きな庭と古い館の中で、そっと声を小さくして、紡がれる、家族だけの豊かな時間。とらわれているようで、どこまでも自由で、美しく広く、深い世界を自ら編み出せる人たち。大自然のなかで、耳を澄まして、手を伸ばして、見えないもの、聞こえないものにまで触れようとする繊細な世界。

    もう少し大人になったら、荒々しい性の目覚めなどで、綻んでしまうのかもしれないけれど、その寸前までの時間が、琥珀の中にぎゅっと閉じ込められているみたい。
    美しい世界、堪能しました。

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    2026年06月08日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    チェスはルールぐらいしか知らないですが、タイトルに興味を持ったのと小川洋子さんだからという理由で手に取ってみました。
    チェスに詳しくなくても、物語の中で美しく描写されるチェスの世界はぐいぐいとこちらを惹き込み、魅了してくれる。

    チェスを通して大切な人たちと出会い、別れ、成長していく少年の一生が描かれている。象のインディラ、猫のポーン、少女ミイラ。チェスを教えてくれたマスター、老婆令嬢、総婦長。弟と、育ての親である祖父母。“リトル・アリョーヒン”。
    一人ぼっちだった彼は、生まれたとき閉じきっていた唇に代わり、チェスで人と繋がっていく。
    切なく物寂しい雰囲気が漂いながらも、優しい物語でした。マスターを思い涙し、老婆令嬢の言葉にまた涙。

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    2026年06月07日
  • ミーナの行進

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    子どものころの感性を大人が再現するのはむつかしい。感動する閾値も違うし、そもそも物理的に見ている視点が違う。大人は、虫を見て仲間だと共通点を探すことはないし、星を見てその燃え尽きる瞬間に想いを馳せることもしなくなる。だから文学が必要なのだ。

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    2026年06月07日
  • 続 遠慮深いうたた寝

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    小さな命の塊
    人の身体を丸ごと抱き留める経験は、そうたくさんできるものではない。私も小さい頃、両親や祖父母や見知らぬ誰かに、抱っこしてもらったはずた。その記憶は残っていない。しかし、大人になっても、名前も知らず、これから二度と会う機会もないだろう誰かを抱っこすることが、こんなにも幸福なのは、思い出せない遠い記憶がかけがえのないものだからだろう。

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    2026年06月06日