小川洋子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
藤原正彦(1943年~)氏は、東大理学部数学科卒、東大大学院理学系研究科修士課程修了の数学者、エッセイスト。お茶の水女子大学名誉教授。新田次郎と藤原てい夫妻の次男。『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。「論理より情緒」、「英語より国語」、「民主主義より武士道」という氏の自説を説いた『国家の品格』(2005年)は、200万部を超えるベストセラーとなった。
小川洋子(1962年~)氏は、早大第一文学部卒の小説家。『妊娠カレンダー』の芥川賞ほか、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、菊池寛賞、紫綬褒章等を受賞・受章。また、記憶が80分しかもたない数学博士と家政婦の母子との交流を描いた『博士の愛した数式』は、読売文学賞、本屋大賞(第1回/2004年)を受賞し、ベストセラーとなった。
本書は、『博士の~』を執筆する前に、小川氏が知人を通じて藤原氏を紹介してもらったことをきっかけに、同書発表後に改めて行われた二人の対談をまとめ、2005年に出版されたもの。
私はノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった本で未読のものを、新・古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。また、私は対談本をあまり好まず、それは、焦点がぼやけて物足りなさが残ること多いためなのだが、本書については、藤原氏も小川氏も過去に作品を何冊も読んでいて、この二人の対談がつまらないはずはないと確信があり、手に取った。
そして、(学校で習ったもの、習わなかったもの含め)様々な定理・公式が如何に美しいか、また、数学者が何故それらに魅入られるのかが、期待に違わず興味深く語られ、一気に読み切ってっしまったのだが、それは、小川氏がもともと、『科学の扉をノックする』(様々な分野の科学者7人との対談エッセイ)や『そこに工場がある限り』(様々な工場の見学エッセイ)のような本を出してしまうほどの好奇心の塊で、また、藤原氏が、(『国家の品格』で繰り返しているように)現在の実学重視の風潮に大いに疑問を持ち、「高貴な学問の代表である数学の復権を試み」るという思いで答えていることにもよるのだろう。(尚、本書は単独でも楽しめるが、『博士の~』に関する記述も多いので、同書を読んでからの方がベターだろう)
藤原氏は、あとがきで、次のように書いている。「数学や文学や芸術でもっとも大切なのは、美と感動だと思う。これらは金もうけに役立たないし、病気を治すのにも、平和を達成するのにも、犯罪を少なくするのにもほとんど役立たない。しかし、はたして人間は金もうけに成功し、健康で、安全で裕福な生活を送るだけで、「この世に生まれてきてよかった」と心から思えるだろうか。「生まれてきてよかった」と感じさせるものは美や感動をおいて他にないだろう。数学や文学や芸術はそれらを与えてくれるという点で、もっとも本質的に人類の役に立っている。読者がそんな私の、そしておそらく小川さんの、想いを感じていただければ幸いである。」
藤原氏と小川氏ならではの対談で、「数学の美しさ」が分かりやすく説かれた良書である。
(2022年9月了) -
Posted by ブクログ
小説家・小川洋子さんと、動物行動学者の岡ノ谷一夫さんが言葉の誕生について語る対話本。
岡ノ谷一夫さんは鳥の歌の構造などから、人間の言語の起源について考える研究などで知られる方で、この本にも動物の行動などからたてた言葉やコミュニケーションの誕生についての仮説が数多く載っており興味深かったです。
特に、ひな鳥が餌をねだる声は餌をくれないと天敵を呼ぶと脅迫しているという「脅迫仮説」は今まで考えたこともなかったので驚きました。少し調べてみたら、鳥の鮮やかな色の卵も抱卵を促すための脅迫という説もあるそうで、よく出来ているものだなあと……。人間の子どももずいぶん大きな声で泣いたりしますが、起源としては鳥と同じなのかもしれないですね。証明は難しそうですが、想像が広がります。
小川洋子さんは小説だけではなく対談本などもたくさん出されていますが、相手から言葉を引き出すのが上手でいつも感心してしまいます。
エッセイなどとも違い、リアルタイムでの適切な反応を求められる分、考えのアウトプットがスムーズにできないと難しいかと思うのですが、自分の考えも、相手の言いたいこともスムーズに言語化できるのは本当に凄いですよね……。仕事柄人の話を聞く機会も多いですが、憧れてしまいます。
小川洋子さんの別の対談本、臨床心理学者・河合隼雄さんとの『生きるとは、自分の物語をつくること』なんかもおすすめです。 -
Posted by ブクログ
人間個人の、存在としての痛々しさに苦しくなりながら読む。
身の回りの出来事や、自分の意識や認知の段階ではやり過ごしていることを豊かに発酵させて、あるいはジャムを作るように煮詰めて書かれているようだ。
痛い。ほんとは生きててずっと痛い。傷が痛む
ただ、それを注視していてもどうにもならないし、日々やらなくちゃらいけないことは積もっていくので傷に向き合っている時間はない。
ところが小川洋子の本を開くと、放置してきた傷がいかに深いか、どれほど化膿が悪化しているか、あるいは多少は癒えているか、などを思い起こさせる。
具体的な被害、加害の話ではないのに。
私はこんなに傷ついていたんだなあ、難しくとも、ひとつひとつの傷をないがしろにせず消毒して化膿止めを塗りガーゼで保護したい。