【感想・ネタバレ】まぶたのレビュー

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Posted by ブクログ 2024年02月07日

「飛行機で眠るのは難しい」「中国野菜の育て方」「まぶた」「お料理教室」「匂いの収集」「バックストローク」「詩人の卵巣」「リンデンバウム通りの双子」を収録した短編集。
いずれも滑らかで柔らかく丁寧な感触の中に一点、針で、あるいは指の先で突いたかのような闇を含んだ、小川洋子さんらしい作品。個人的に「匂い...続きを読むの収集」が1番わかりやすく好みであった。

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Posted by ブクログ 2023年02月19日

どこにでもあるふと立ち止まることのない人たちの瞼の裏にしかないような強烈な景色が、日常や普遍的な平凡さとミルフィーユみたいに重なって、なんともいえない感動を覚える。
「リンデンバウム通りの双子」は静けさで溢れていて、強い言葉も表現もないのに、まぶたの裏に焼きつきそうな衝撃と強さがあった。
著書を翻訳...続きを読むしてくれている人であるにせよ、それだけだった人。でもその双子には、瞼を閉じるたびにきっと浮かぶ苦しみや地獄があって、平坦で本当はきっと1日1日が長い日々があって、戻らない幼い日々があって。
美味しいスープの香り、病院に差し込むあたたかい日、可愛い妹とのいたずら、父が大事にした顕微鏡。。。
まばたきするたびに、美しい風景が、悍ましい風景が、人からしたら大したことのない風景が、カメラのシャッターのように見え隠れする。
人生は一回しかなく、その日、その一瞬を、一本の道のように生きてるはずなのに、その人は1人しかいなくて、誰でもどこにでもいるはずなのに、その中には、そのまぶたの中に、さまざまな景色が、時間が、風景が重なって時は進み、苦しさと優しさと、暴力とあたたかさが、荒廃と永遠が、ぱちりぱちり、と層を重ねていて。
そういうミルフィーユの時の中で、複雑な時空の中で、私たちは生きている。
あの人もこの人も、わたしも、大したことがなくて、つまらないものに見えるけれど、本当はもつと複雑でやさしくて物語と心のミルフィーユがあって。
その人たちの生き方にも日々にも誰にも文句も手出しもできる筋合いなんてなくて。

どうして小川洋子さんは、どんな物語にもとりあげられないような片隅にいる人をこんなふうにそっと掬って、なぞることができるんだろう。
そこに愛が感じられるのはどうしてなんだろう。
どうしたら、こんなことができるんだろう?

そんなことを感じました。

小川洋子さん、大好きだなぁ。

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Posted by ブクログ 2022年10月30日

「飛行機で眠るのは難しい」を初めて読んだのは高校の授業。教科書に載っていた。
静かな雰囲気、淡々と描かれる死、生々しい人間の見栄、人生、さみしいような、切ないような、
ずっと忘れられなくて、本を買った。

この話が小説の中で一番好きな私のたからもの。

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Posted by ブクログ 2022年02月14日

さて、なぞなぞです。顔の中で鏡を見ても見ることのできない部位はどこでしょうか?

う〜ん、鏡に顔を映せば顔の中は全部見えるし、どこなんだろう…改めて考えるとすぐには思い浮かびません。とはいえ、こんな冒頭で時間を取っていたら長いレビューがさらに長くなってしまうので、とっとと答えにいきましょう(笑)...続きを読む。はい、それは『まぶた』です。この作品の書名でもあるので、ピンときた方も多いと思います。私たちが外の世界を見るのになくてはならない”目”。そんな”目”を守る『まぶた』は、その役割の大きさの割にはあまり注目されることはありません。顔の部位の話をしたとしても、”私は『まぶた』が魅力的なんです”とか、”私は『まぶた』があまり好きではないんです”なんて言い方をすることなどありませんし、そもそも話題に上がることさえないと思います。では、普段はそんな脇役中の脇役とも言える『まぶた』がこんな感じで登場したとしたらどうでしょうか?

『切り離されたまぶたは、銀色のトレイに載せられた。二つきちんと並んで。そう、病んで腐敗してゆく肉片には見えなかったよ』。

げっ、ホラーだ。すぐにそんな感情を抱いた人もいらっしゃるかもしれません。こんな文章の先に”キャー!”と言った悲鳴が聞こえる演出がなされれば間違いなくそれはホラーの世界です。しかし、そんな表現の次に出てくる会話が『来週は水着入れを買いに行こう』、『今日、郵便為替は来るかしら』だとしたらどうでしょう。ホラーだ、ホラーだ、と感情を昂らせた読者はなんだか肩透かしを食らわされた気分で、気まずい気持ちを落ち着かせる他ありません。

さて、この作品は、そんな不思議な気分に読者を誘う物語。どこか違和感のある表現が登場しても、登場人物たちはそのことをごく普通のこととして捉える様が描かれていく物語。そして、それはそんな不思議な世界観の描写を得意とされる小川洋子さんによるリアルとファンタジーが同居する物語です。

“現実と悪夢の間を揺れ動く不思議なリアリティで、読者の心をつかんで離さない8編”と、宣伝文句にうたわれるこの作品。表紙に大きく描かれた目を瞑る黒髪の少女のイラストが読む前から読者にどこか緊張感を強いる薄寒い印象をまず受けます。そんな八つの短編に繋がりは全くありませんが、ホラーの世界に少し足を突っ込んだような独特の世界観で物語は描かれていきます。そんな中から〈飛行機で眠るのは難しい〉の冒頭をいつもの さてさて流 でご紹介しましょう。

『飛行機で眠るのは難しい。そう思いませんか、お嬢さん?』と、『隣の男が話し掛けてきた時』嫌な予感がしたのは主人公の『わたし』。『今回の取材旅行に必要な資料をまとめ』ていたら、『結局徹夜になってしま』い、『ささいなことで喧嘩をし』、『二週間も連絡を取り合』えていない『恋人に電話をする暇もなく』機上の人となった『わたし』。そんな機中で『ウィーンへはご旅行で?』と隣の男に話しかけられ、冒頭の予感へと繋がっていきます。『飛行機の中では仕事をしない主義』だと続ける男は、『飛行機の中でうまく眠れた時』『たとえようのない幸福を感じる』と説明します。一方で『オペラ座の取材』の予定を考えると『どうしてもわたしはここで眠って』おかなければいけないと思うものの、『飛行機で気持ち良く眠れたためし』がないと返す『わたし』に、『とにかく目を閉じ』、『眠りへ導いてくれる物語を』その暗闇に映し出すようにと男は言います。そして、『怯えないで、緊張しないで、さあどうぞ、と言いながら』男は奇妙な話を始めました。『十五年近く前です』と始めた男は、仕事でウィーンへと赴く機内で隣り合わせになった老女のことを語ります。『漠然とした危うさを感じさせる、独特の雰囲気を漂わせてい』たという老女は、自分が『ひどい海老アレルギーなの』とその症状を説明します。そして次に『日本は素晴らしかったわ』と、『三十年も文通していた日本人のペンフレンドが亡くなった』ために墓参りが目的で日本を訪れたことを話します。『実際訪れてみると』、『部屋に飾ってあった写真は、私が送ってもらったのとは別人』であるなど、『半分以上は噓だっ』と語る老女。そんな老女は、『私は三十年間、手紙の送り主に恋をしていたの』とも語ります。そんな老女は『かなり小柄で』、『十二歳の骨格を老女の皮膚で覆ったかのよう』だと感じた男。そんな男は不思議なことを語り出しました。『老女が何かに触れると、その品物もまた小さく見えてしまう』というその現象。『ナイフとフォーク、紙ナプキン… 雑誌、櫛、鏡』と、『彼女にふさわしいサイズに縮小する』というその現象。『自分と彼女のナイフを見比べ』ると、『間違いなく同じナイフ』だというその不思議。そんな老女は、今度は男について知りたがり質問を次々と投げかけてきます。『自分が他人から求められている』と、『だんだん気持ち良くなって』きたというその男。そんな中、『うとうとしかけてすぐのこと』というタイミングで『異変が起』こります。老女は、男は、そして『わたし』は…というその後の物語が描かれていくこの短編。短い物語ながら、伏線をきれいに回収しつつも小気味よく展開する物語は、小川洋子さんらしさ満載の好編でした。

八つの短編から構成されたこの作品はとにかく不思議感の強い物語ばかりで構成されています。その中には上記したように少しホラーを感じさせるものもありますが決して怖い!というものではなく、不思議感が強く印象に残ります。その中から一編をご紹介しましたが、他に気に入った短編についてその概要を簡単にまとめておきたいと思います。

・〈中国野菜の育て方〉: カレンダーの『十二日のところに黒いサインペンで丸がしてあ』るのに気づいた『わたし』は、『丸』をつけた記憶がどうしても思い出せません。そして、そんな日に『見覚えのない…小さなおばあさん』がやってきて『野菜を売りに歩いている』と言いました。そんな『おばあさん』からサービスでもらった『中国の珍しい野菜の種』を育てると、それは芽を出し、『クリーム色の光』を放ちはじめました。

・〈お料理教室〉: 『キャセロール料理教室』『生徒募集』の広告を見て教室を訪れた『わたし』は、先生に案内され、生徒は『わたし』一人という中で指導が始まります。そんな時『排水管の清掃』業者がやってきて『六十年分の汚れ』を綺麗にすることを、先生の代わりに対応した『わたし』に強く進言します。そして『清掃作業はすぐに開始』されたという中、排水溝から『火山のマグマのように』さまざまななものが吹き出し始めました。

・〈バックストローク〉: 『雑誌に連載する長編小説の取材で、東欧の小さな町を訪れた』『わたし』は、『ナチス・ドイツ時代の強制収容所』に『収容所の看守とその家族が』使っていたというプールを見つけます。そんな『わたし』は、『水泳の選手だった』弟のことを思い出します。『地元の新聞に写真が載』るなど活躍する弟。そんな弟はある日『僕はコウモリに襲われて死んだんだ』と前世を語り出しました。

といった感じでそれぞれの短編は、一見普通の日常の物語が描かれているようでいて、そこに何かしら違和感のある事柄が語られ、短編自体が不穏な空気を纏いながら展開していきます。この違和感がどう決着されるのか、そこにはこの短い物語の中でよくこれだけ上手くストーリーをまとめるものだと感心するほどに絶妙な物語が描かれていました。

そんな物語では、小川さんらしさを感じさせる演出がさまざまになされていきます。一つには、”モノ”の名前を淡々と列挙していく表現です。例えば〈飛行機で眠るのは難しい〉で登場する『張り裂けるほどに膨れた』老女のかばんの中身についてです。『虫除けスプレー、ハッカ入りのガム、足のむくみを取るクリーム、皺だらけのスカーフ、お土産に買った匂い袋と塗りの箸と扇子…懐紙にくるまれた羊羹の切れ端…』と次から次へと溢れるように記される”モノ”、”モノ”、”モノ”。自分のかばんの中にも入っているかも(汗)と、焦ってもしまいそうな”モノ”たちをあくまで淡々と列挙する小川さん。この作品では、複数の短編でこの表現が堪能できるのも魅力です。そして二つ目は”ある場所へ辿り着くまでの道筋”に関する表現です。〈お料理教室〉で主人公はその教室のある場所をこんな風に説明されます。『ポイントは皮膚科の病院とアコーディオンなんです』と始まり、『縦書きの看板が出ていますけど、皮膚科の膚の字が消えかけて、腐食の腐の字みたいになっている』、そして『アコーディオンの音色が聞こえる』ので、『そこを通り過ぎた突き当たりが、私の教室です』と説明される主人公。一癖も二癖も感じさせるその説明が目的の場所の不思議感をより醸し出させてもいきます。そして三つ目は、この作品を覆うホラー一歩手前の不思議感です。〈詩人の卵巣〉というタイトル自体が緊張感を醸し出すこの短編では、老婆が『お腹のあたりのボタンを』外してそこから『髪の毛を引っ張り出』すという光景が登場します。お腹にある傷跡から伸びる髪の毛。『蜘蛛が糸を吐くように、するすると切れ目なく髪が出てきた』と表現されるその光景は普通には、ホラーの世界です。しかし、小川さんはあくまで淡々と『彼女はそれを糸巻きに取り、機を織った。痛みはない様子だった』と記すのみならず、そこで語られる会話も『これが完成したら、あなたはどうなさるの?』『私の役目は終わりでございます』とその状況を当たり前の日常の光景の一つとして描いていきます。これに読者だけがホラーだ!と怖がったとしたら、その方が間が抜けているとも言えます。と言った感じで、他の作品にも見られる小川さん独自の世界観の物語がこの短編集ではいつも以上に、如何なく発揮されているのが何よりもの魅力だと思いました。

『切り離されたまぶたは、銀色のトレイに載せられた。二つきちんと並んで。そう、病んで腐敗してゆく肉片には見えなかったよ』。

私たちの身体の中で自分の目で見ることのないものが『まぶた』です。そんな普段、意識しない『まぶた』が、単独で目の前にあるという違和感のある光景が淡々と記されていると、それが自分のものでなくとも恐怖の感情が生まれます。このような表現がホラー小説の中にあっても違和感はないでしょう。しかし、それが淡々とあまりに当たり前に描写されていくとしたら私たち読者も心の中で違和感を感じつつもそれを当たり前のこととして捉えるしかありません。また、そんな『まぶた』は、私たちが”目”を使って見ようとする行為を遮る役割を果たすものでもあります。目の前に見えている世界を一瞬にして暗闇へと変える力を持つ『まぶた』。そんな暗闇の世界では目ではなく想像力が暗闇に世界を描いていきます。そう、『まぶた』とは、目で見るリアルな世界と、想像力が暗闇に描き出すファンタジーの世界を薄皮一枚で切り替える役割を果たしてもいるのです。この短編集では、そんな『まぶた』を閉じた暗闇の世界が見せてくれた、何かおかしい、何か不思議、そして何か違和感のある表現が当たり前のように語られる中で、心が不思議な揺さぶられ方をするのを体験できました。

同じ世界観を感じさせる八つの短編で構成されたこの作品。小川洋子さんの魅力をサクッと堪能できる短編集の傑作だと思いました。

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Posted by ブクログ 2021年11月20日

不思議な空間。良かった。
堀江敏幸さんの解説が完璧なので、ほかに書くことがない。

どれも印象的だけど、『まぶた』『お料理教室』が特に。

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Posted by ブクログ 2019年01月03日

一見、日常的な風景なのに、いつのまにか非現実な世界に入っていることに気づいた。
小川洋子さんが描く静謐な雰囲気は変わらず。

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Posted by ブクログ 2018年02月22日

とてもするすると読んでしまうのですけれど、この短編集も確かに小川ワールドでした。
何度読んでも大好きな「詩人の卵巣」の眠りの描写が、心にひたひたと染み込みます。軽くはなりましたが、不眠症でもあるわたしの眠りの召し使いは何処に…。
どのお話も死の予感がするのですが、「匂いの収集」の猟奇的な感じも好きで...続きを読むす。
「バックストローク」の、弟の片腕が体から離れていく描写も素敵。
お話たちの薄暗さが心地好いです。日常を離れられました。

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Posted by ブクログ 2015年12月10日

奇妙で、面白いという印象から、「バックストローク」から圧倒を抱き始めた。詩人の卵巣、リンデンバウム通りの双子も圧倒的。死に触れるからこそ生を感じる。喪失、欠損から、いま、ここがあることが分かる。だから文学は偉大だ。

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Posted by ブクログ 2023年12月20日

目次
・飛行機で眠るのは難しい
・中国野菜の育て方
・まぶた
・お料理教室
・匂いの収集
・バックストローク
・詩人の卵巣
・リンデンバウム通りの双子

小川洋子の小説の体温は低い。
それはひんやりと湿ったものだったり、かさかさに乾いたものだったりするが、決して温かくはない。
たとえひとの命を救った...続きを読むとしても。

そこに「ない」ものを書くのも上手い。
「ありえない」と言うほど強い「無」ではなく、気づくとそこには「ない」」ものの持つ気配。

この絶妙な塩梅が、心地よかったり不気味だったりと、作品に彩りを与える。

ストーリーを味わう作品集ではないと思うので、具体的なことを書いても意味わからんことになるだろう。
ただ、これらの作品は、現実だとか事実だとかのしがらみとは無縁なところで味わえばよいのだ。

私にとって小川洋子は、エンタメ小説から純文学への橋渡しをしてくれた作家の一人。
未だ純文学はちょっと苦手意識があるけれど、小川洋子を読んだら、また次の純文学を手に取ろうと思えてくる。

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Posted by ブクログ 2022年01月29日

様々な視点からのまぶたの連想は、時として切なく影を感じながらも光に近づくような何処かそんな感覚を思わせるものがありました。

外国でのストーリーも幾つかあり、海外に夢を置く自身にとって一期一会の旅の中での出来事に、日常離れしたまた違ったワクワクもありました。

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Posted by ブクログ 2021年10月27日

3.5
博士の愛した数式の小川さんってこんな感じの作風なのか。。
少し世間ずれした不思議な人たちのお話たち。
でもどの人たちもありありと想像できる
なぞの野菜売りのおばさんの話印象的だなぁ

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Posted by ブクログ 2021年07月12日

小川洋子ワールドがなんとも言葉にできないけれど、心地よい。リンデンバウム通りの双子が個人的に大好きだった。

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Posted by ブクログ 2021年01月15日

2021年 4冊目

まぶたを巡る短編集

1 飛行機で眠るのは難しい
「飛行機は時間の迷路」
飛行機で居合わせた老婆の死。嘘にまみれた手紙であっても彼女は幸福であった。手紙のなかに、二人だけの真実があったから。
30ページ程度の付き合いだったが、私も彼女の最期に思いを馳せた。

2 中国野菜の育て...続きを読む
光る野菜なんてあったら、すぐ手放すでしょう。夫婦はもうそれが食べられるかどうかなんてどうでもよく、捨てることができなくなった。
はぐくむ、という字に違和感をもった。夫婦が中国野菜に「飼育」されているような感じ。

3まぶた
いつからか、少女はNの家から出なかったのだろうか。歪んだ関係がいいですね。

4お料理教室
軽快な感じと、若干の後ろめたさがあって結構好き。

5匂いの収集
「薬指の標本」と似た感じだけど一番気に入った。枇杷は人肉の味だと昔母から教わった気がする。小川洋子の分かりやすいメタファーが好き。センター試験に出てきそうだなぁなんて度々邪推する。
自分を「保管」したあとは、昔の恋人の欠片は捨ててほしいな。

6バックストローク
肩を手放したことで、弟は解放されたのだろう。家族の絆とは引き換えに。


7詩人の卵巣

8リンデンバウム通りの双子
二人の老人の、静寂とぬくもりを感じた作品。

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Posted by ブクログ 2020年08月23日

「えっ ここで終わるの?」と思ってしまった話がいくつかあった。雑踏の中である人物の後を頑張って追っていたら途中で見失ってしまって、追いかけるのに必死だったもんだからふと周りを見たら自分が今どこにいるのか分からなくなっていて、急に孤独を感じて戸惑う、みたいな。勝手についていって勝手に置いてけぼりに...続きを読むなったくせに、「こんなところにひとりで置いていくなよ」と思ってる、みたいな。
『博士の愛した数式』のイメージでこの本を読むとちょっと難しいかもしれない。
「あれ?これ前の話にもあったような?」と思う箇所がいくつかあった。(野菜売り、身を小さくしていれば、ナチス、などなど)坂木司の『短劇』みたいだなと思った。
全部よかったけど、「飛行機で~」「まぶた」「匂いの収集」が特によかった。

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Posted by ブクログ 2020年03月08日

短編集です。
えっ?という終わり方や、怖い、怖い!という終わり方や、やっぱりそうなるよね。という話があります。

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Posted by ブクログ 2019年04月30日

不可解な事象を体験しながらも人は誰も不幸だと認識しなければ十分に幸せなのだと感じさせてくれた小川洋子さんの心奪われる8編の物語。『飛行機で眠るのは難しい』嘘は己の内面を着飾る服で愛とも言えるでしょうね。『中国野菜の育て方』光る野菜と謎のおばあさん。『まぶた』少女はハムスターの二の舞から救われたのかも...続きを読むね。『お料理教室』一刻も早く帰りなさい!『匂いの収集』五体満足な内に逃げなさい!『バックストローク』弟よ!あなたを捨てたわけじゃない。『詩人の卵巣』さあ、眠りなさい。『リンデンバウム通りの双子』家族を大切にね。

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Posted by ブクログ 2019年01月03日

意味不明と片付けてしまえばそれまで、とも言えるようなシュールな世界観。でもそこにはうっとりするような美しさとか、心に引っ掛かるイメージとか、温もりとかが確かにあって、これぞ芸術、文学的文章……という感じ。堀江さんの解説を読むとまたなるほどなあと思います。

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Posted by ブクログ 2016年06月12日

【私がタイピストになった理由】

私が通う専門学校はもともとタイピスト養成学校だった。今でこそ、IT専門学校などと名乗っているが、昔この場所には女学生が溢れ、溢れ返っているのに皆無口でひらすらに細かい活字の海を飛び回っていたのだ。

小川洋子にタイプライターはとてもお似合いだった。それもとても古くそ...続きを読むして、管理の行き届いた美しいタイプライターだ。適度に使い込まれ、それでも汚れてはいないタイプライター。小川洋子がタイプライターという七文字を打ち込む姿を想像しただけで、私は幸せな気持ちになるのだ。私にとってタイプライターは特別な存在になった。小川洋子の作品にはその描写がなくても、いつもどこかでカタカタとタイプライターの音が聞こえるように思える。新しく読む作品の中にその七文字を見つけた時は私は舞い上がってしまった。そして、この作品の中にも幸せな七文字はひっそりと紛れ込んでいる。

私は思う。今でも、タイピストという仕事があったなら、私はなにを置いてもタイピストを目指しただろう。無口で言葉を愛せる仕事にもしもつくことが出来たのなら、とても幸せなのにと夢想した。

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Posted by ブクログ 2016年05月04日

新聞で紹介されていたのを機に再読、★3.5ですがおまけで★4。手元に過去読んだ本を置いておくとこういった好機に直ぐ読めるというのは捨て難いです。その逆に狭い家がどんどん乱雑になっていくという代償は払わねばなりませんが。
まぁさておき小川洋子の世界が全開。フェティシズム、収集癖等々全てが死に結節する独...続きを読む自の感覚と言って差し支えないんでしょう。そのほとんどが非現実的なお話であるのに、今まさに眼の前にあるような不思議な感じを受ける。
更にさらっと読めてしまうのもこの作家の力量がなせる技かと思われ。

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Posted by ブクログ 2016年12月05日

とても現実的なのに不思議な世界。だるい夢のような物語が続く短編だが、人物や物事や出来事が少しだけ繋がってるような気がした。女性的、生と死、人間の器官、年寄り、食べ物、クラッシック音楽など、各短編に共通項がある。描写がうまいのであろう、現実にはありえないことなのに頭にぱっと映像が流れる。
個人的には「...続きを読む飛行機で眠るのは難しい」、が好き。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年02月28日

どの登場人物も、音もなく崩壊していくようだった。彼らが纏う空気には確実に死が感じられるのに、誰もそれを恐れてはいないように見える。
死とは息をひそめればいつでもそこにあり、生き物が必ず辿り着く終わりの時。でもきっと怖いものではないのだ。
それぞれに悲しい出来事や上手くいかなかった事を抱えながら、今多...続きを読むくを求めず穏やかに生きている人々を見ると、心が静けさに満ちてくる。手の届く範囲の、目の前のものを愛していくことの大切さを教えてくれる。
繋がりのない短編集なのに、全てにどこか共通したものがあった。
「お料理教室」だけは誰も話が通じない感じがして、フワフワして拠り所がない感覚になった。確かなものがいつもあるのに、この話にはそれが無い不安感があった。

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Posted by ブクログ 2022年02月28日

不思議な本だった
現実では有り得ないことなのに、読んでいるのは日常の1場面ですごい不思議な感じになった。
【バックストローク】って国語の教科書に載ってるのかな?
この話が個人的には1番好き

こちらの1冊を教えてくださったブクトモ様に感謝☆

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Posted by ブクログ 2021年10月26日

どの作品も良かったけど、私が特に気に入ったのは、「リンデンバウム通りの双子」と「匂い収集」です。「匂いの収集」は素敵な恋の話かと思って読んでいたら・・・・。
怖かったです。「リンデンバウム通りの双子」は最後の2行がいいですね。すごーく主人公の気持ちがわかりました。

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Posted by ブクログ 2021年09月21日

まぶた。
ひらがな3文字だと、なんか間抜けな感じ。
目蓋。目の蓋のような役割。
その目で見えているものも、蓋をすれば見れなくなる。
良いものも、悪いものも。
蓋をされた目でも、観えるものは人それぞれだろう。
闇をただ感じるのか、虚飾の世界に埋没するのか、過去失敗したオムレツのとんとんを思い返すのか、...続きを読む
未来に待ってる壁一面の本棚に囲まれた部屋を作りたい夢なんかを。
そう、考えると、目蓋って奥が深いな。

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Posted by ブクログ 2021年03月26日

8つの作品が収録された短篇集で、幻想的で奇妙な出来事を交えながらも、人間という愛らしい存在を感じられたのが、印象的でした。

また、奇妙な出来事を体験した後で、自らの人生を見つめ直すような展開が多いことに、人生とは、何をきっかけにして突然変わるか、分からないものだなとも思えました。しかし、不自然さは...続きを読む感じずに共感できたのは、小川さんの、上品でいて飾らない文体にあるのかもしれません。

こういった上品な奇妙さと、私の人生観には、精神的な距離を隔てているのを感じ、逆に、読んでいて気楽な心地良さがあって、何となく旅行時に持って行きたい本だなと思いました。

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Posted by ブクログ 2018年08月19日

どんよりとした曇り空、じっとりと湿った空気、しんと静かな街、ひやりとした手触り。
ちょっとだけぞくりとするものが垣間見えるような。

ずっと気になっていた本を、物語の役割をきっかけに読む。
私の好きなテイストの小川さん。

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Posted by ブクログ 2018年07月08日

高校の国語の授業で「バックストローク 」
をやって面白いと思って読んでみた

ちょっと難しい
本質には直に触れない感じ

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Posted by ブクログ 2017年10月30日

難しいですね。いかにも純文学。
最後の「リンデンバウム通りの双子」を除いては、何らかの不条理が存在します。例えば中国野菜が夜光性だったり、下水から過去の料理の残骸が出てきたり、元水泳選手の腕が取れたり。何かの寓意と言う訳ではなく、作者の何かに対するイメージなのだともいます。
イメージは見事に伝わ...続きを読むってきます。そこらの筆力は素晴らしい。でもそのイメージをどう捉えるべきかで悩んでしまう感じです。
どちらも余り読んではいないのだけど、どこと無く倉橋由美子を思い出させる雰囲気です。

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Posted by ブクログ 2016年08月25日

8編の短編集。まぶたを閉じて現実と夢とが混ざりあっている時のような感覚になる。読後は「?」が並ぶ話ばかりであったし紐解きたいとも思わないけれど悪い心地もしなかったのは文章が読みやすいからだろう。特に「リンデンバウム通りの双子」は雨の憂鬱さと温もりとが感じられ、心も湿った気がした。

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Posted by ブクログ 2018年12月31日

『リンデンバウム通りの双子』がよかった。
逆にそれ以外は、老婆や身体の一部など不気味さを連想させる要素による、おとぎ話的なわざとらしさが強く感じられた。その点があまり好みではなかった。

・飛行機の中で古書商の男が語った「眠りの物語」。死の要素に満ちたその物語とともに私は眠りに落ちてゆく。『飛行機で...続きを読む眠るのは難しい』

・12日の木曜日に見知らぬ老婆にもらった中国野菜を育てていたら夜中に光るようになった。老婆の畑を訪ねると、そこには駐車場しかなかった。『中国野菜の育て方』

・レストランの前で倒れている男を助けたことをきっかけに、少女は、島にある男の家に通うようになる。男の家のハムスターにはまぶたがなかった。男が語る話は事実とは信じられない気配がある。『まぶた』
→ホテルアイリス?

・つつましい雰囲気が気に入って通うことにした料理教室での実習中、突然現れた排水管清掃業者に、清掃してもらうことになった。排水口からは流したものが次々と吹き出し、流しは60年分の汚物でいっぱいになった。『お料理教室』

・彼女は匂いを茶色い小瓶に収集していた。彼女がいないときに棚の一番上を覗いてみると、知らない男の身体の一部が、瓶に収められていた。『匂いの収集』
→薬指の標本?

・作家にとって、プールは特別な風景であった。強制収容所の処刑場近くにある場違いなプール。背泳ぎの選手として将来を期待されていた弟のために、母が庭に作らせたプール。しかし弟は、あるとき左腕を降ろすことができなくなり、ついにその左腕は付け根から抜けてしまった。『バックストローク』

・恋人をおいて一人で訪れたある街の裏道には、昔の詩人のための小さな記念館があり、そこには詩人の孫である老婆と客引きの少年がいた。記念館の展示ケースに収められていた髪の毛は、詩人の卵巣に生えた髪の毛で、詩人はそのために命を落としたのだった。その夜、ベッドでまどろむわたしの意識の前に、老婆と少年が現れ、わたしは眠りへと誘われていった。『詩人の卵巣』

・わたしの作品をドイツ語に翻訳してくれていたハインツは、80歳過ぎの老人であり、しかも一卵性双生児であった。ロンドンの娘に会いに行く途中、ウイーンに立ち寄ったわたしは、ハインツ兄弟の人生の話を聞き、思い出の場所を訪れる手助けをした。『リンデンバウム通りの双子』

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