あらすじ
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった――芥川賞作家が描く究極のエロティシズム!
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Posted by ブクログ
かなり食らった
官能小説だと聞いて読んだが官能的なものもエッセンスにありつつも穏やかで脆く儚い小川ワールドが広がっていて、それに加えていつもよりも激しさを増した表現が響いた
主人公の気持ちに入り込みやすかった 心情表現の奥ゆかさも凄い
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読者を選ぶ内容だと思いますが
すごく主人公に共感しました
変わらない日々、どうしようもない嫌悪と、母親(他人)殻否定される主人公、だけど今現状の世界から出ていくことはできない少女
そんな少女はたまたま老人に恋をした、それが汚い罵り言葉から始まった事だが、きっとどこに彼女の希望があったのだと思う。
罪を抱え最後にしたいと考えていた老人、そして変えられないけど終わりにしたい認めて欲しいと望む少女。
二人が認め合える、愛し方というのは「破壊」しかないのかもしれない。
自分がどこか消えてしまいたい、破壊されたいと望んだ時に読むと救われた本です。
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何気なく幾度となく読み返した作品。ふと読みたくなる。小川洋子さんの描くこの質感が好きなんだと思う。
最初に読んだときは高校生だった。翻訳家の老人とおとなしい女子高生の関係はいわゆるSMというものなんだろうけど、高校生のわたしになにかが引っかかった。最近の再読で、ああ、それはその裏にひそむ二人にしかわからない究極の純愛なのかもしれないと感じた。
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年老いた翻訳家と少女の倒錯愛の物語
冒頭の娼婦と翻訳家が揉めるシーンの
ホテルの娘がマリ
乱れた姿で逃げるように部屋から這い出て口汚く罵る娼婦に「黙れ、売女」と明瞭な言葉で圧した翻訳家に心が惹かれたマリ
二人は再開するが彼はあの時の威圧はなく貧相で力なく弱々しかった
彼女に送ってきた手紙の
翻訳家の文字は異常なまでに乱れがなく
綴る言葉は知的で美しくとても紳士的
これから何度も書かれる手紙のシーンは大好きでした
しかし、彼の島ではあの時の高圧的で異常な支配者だった
ここまでのシーンに振り回される心地良さ
ギャップの描き方が見事でマリが快楽へ没入していく様は圧巻
醜く老いた翻訳家に瑞々しい肉体の若い自分が蹂躙される屈辱
二人しか存在しない世界で自分でも想像できない痴態をさらす心細さ羞恥の極み
肉体的苦痛
全てが快楽へと繋がりマリを恍惚へと導く
翻訳家の滑らかな動作
乱れのない美しい緊縛
突如暴発する暴力
自分だけを圧倒的に支配する
ここにマゾヒズムの快楽の極みがあると思いました
誰もが何か別の事を考え気を散らしてしまう
でも、あの密閉した空間では翻訳家はマリしか見ない考えない触れない
翻訳家の全が自分だけに注がれる
ある意味で最上級の愛情表現かもしれない
卑屈で凶暴、インテリジェンスで老いている翻訳家と少女の組み合わせしか成り立たない愛でした
そしてあの終わりが二人の世界を誰にも触れないところに閉じ込めたと思う
愛の形、快楽とは、と想像できないところから投げかけられたボールをうっかりキャッチし嵌ってしまったそんな素晴らしい物語でした
Posted by ブクログ
感動作ではない。ただ、息が詰まるような、それでいて生きている実感に乏しい場面が続く。SMも含め倒錯とはそういうものなのかもしれない。
これからマリはどうなるのだろうか。
物語は閉じたが、希望は見えない。
これは少女のエゴの物語なのだろうか。思索は尽きない。
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なんて残酷で美しいのだろう…と初めて感じた作品です。
小川さんの作品はどれも傑作ぞろいですが、ホテルアイリス特にオススメの作品。
夏の暑い日に一人でひっそりと読みたい桜庭。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの本の中で最もよく読み返している本です。博士の愛した数式を読破後に読んだので、この本は頭を殴られるような衝撃でした。
主人公の少女と同年齢のときに読みましたが、この歪んだ愛の形が強く印象に残っています。
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母の強い支配からの逃げ道を、異様な関係の継続の中に見出すマリ。
そんなことをされて快感を感じるくらいには、主人公の精神は蝕まれてるのかなと思うと辛い。
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ホテル・アイリス 小川洋子
ホテルで働く少女。
売女と揉めた老人。
老人と再会し乱暴に犯される。
少女は惹かれる。
SM。DV。
小川洋子さん云うと、薬指の標本を想起させる。翻訳家の老人は、マリーという主人公の作品を描いていると言うが彼の死後その本は発見されなかった。
少女の心情の変化が飾り気なくシンプルに描写されている。
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主人公が10代ということもあり、またそれ以外にも感情移入はできなかったのですが、主人公の伯母ぐらいの気分で読んでいました。恋は盲目ってことですかね。最後は私、ほっとしました。
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「生」と「死」と「エロス」のトライアングル。
「死」は突然やってくる。
「死の準備」と隣り合わせで歪んでしまった欲望を
持つ翻訳家の前に現れた少女。
漫然とした「生」の中の住人。
そこの住人にとって翻訳家の
'屈折した欲望'は雷のように感じたのだろう。
雷を脳ではなく肌で理解し受入れた少女は
翻訳家にとって何よりもの宝物。
「エロス」とは「愛」と似て異なるもの。
翻訳家にとって己を迎合してくれた
初めての「女」であり
人生最後の「女」
決して自分で現像することはなかった
「フィルム」が
己が生きた証なのだろう。
己の死が近づいてくるのを感じ始めた男にとっては
切ない物語。
Posted by ブクログ
【かくも美しき密室の調べ】
今私が一番読んでるのは誰かと言われば間違いなく小川洋子だ。彼女の言葉はいつも一定のリズムがあり、その音はどんなに醜くくても、澄んで美しい。
世界にぐるぐるにされた時、ヒンヤリとしたあの密室で私も髪を切り落とされたい。
Posted by ブクログ
すごーく官能的な話。老人のいいなりになる女の子。AVや成年誌の見本みたいな設定。それだけにエロスの本質でもあるし、登場人物の性欲がむきだしにされてても、小川洋子のやさしい文体のせいでまったく下品ではない。
どうしてここまでエロチックな話が書けるのだろう、とかんがえると、小川洋子の作品にまつわる一つのフェチを思いつく。あの、「被・支配欲」とでも言うようなフェチズムです。強い存在の下に置かれその存在にひれ伏すことで得られる満足。
しかしこれは自傷感のある、なんとなく悲しい性癖だと思う。小川洋子自体がそうじゃなくても、彼女の作品のヒロインたちはみんなどこか可哀想。ホテル・アイリスのマリはその痛々しい可愛さが顕著で、だから小川洋子の作品で一番好きです。
Posted by ブクログ
小川洋子の作品は割と共通して、どこか陰鬱で気だるげで色気が漂っていて、そして家族像が少なからず全うじゃない。
この話には、様々なコンプレックスや劣等感等が入り交じっていて、それを癒す為に衰えた老いた体の老人にいたぶられる。
読んでいて痛々しいのだけど、きれいな文章と儚い空気に飲み込まれる。
Posted by ブクログ
小川洋子先生の官能小説。
すごくいい。
表紙の絵、ホテル・アイリスというタイトル名、主人公の名前・・・すべてがこの世界にぴったり合っていて、とても気持ちいい。
Posted by ブクログ
作者の描く、清々しく儚い美しさや、不安定で冷たい恐ろしさみたいなものは、いつもと変わらずに表現されていて、そこにマゾヒズムというスパイスが追加される事で、こんなに陰湿で卑猥になるんだ。と感動した。
サディズムとマゾヒズムの関係性には、ある程度の理解があるつもりなんだけど、それは言語化するのは到底困難で(偏見ももちろんある)、目を逸らしているところが多々あるし、勘違いしてただのプレイの一つだと思い込んでいる人間が殆どの中で、ただのエロとしてでは無く、エモとして表現しているところは、この人の文体と表現力だから出来る事なんだろな、と思った。
Posted by ブクログ
何か異国情緒漂う作品で、読んで思い浮かべる風景は、全て紗がかかっているような感じがしました。文庫本の後ろに載っていた4行の作品紹介では、老人と少女の純愛、と書いてあったが、果たしてこれは愛なのかどうなのか…少女が自分の性癖に目覚め、求め合う2人がたまたま老人の少女だった、としか私には読み取れず。文庫本にも解説が載っていなくて残念だったので、解説がほしいなぁと思いました。映画も観てみたいです。
Posted by ブクログ
究極の愛なのか、狂気の愛なのか。
小川洋子の新たな境地がここに始まる。
私の個人的な意見としては、究極のマゾヒズムと、どこか日本っぽくない文章の甘美さ、官能小説の
ような荒々しいエロスじゃなく、芸術に満ち溢れたエロス。すべてが詰まっています。
映画化されたみたいなので、ぜひ見に行きたいです。
Posted by ブクログ
昔途中まで読んだけど、積読していた本。なんとなく、久しぶりに本を読んだ。1日で読み終わった。
読み始めてなぜ途中で読むのを止めたのか思い出した。登場人物の男(翻訳家)の第一印象がキモかったからだ。このキモいおっさんと、主人公との恋愛物語とか見たくないわーと思ったんだろう。今回読んでも同じ印象で同じ感情を抱いたが、読むのは止めなかった。
この小説で印象的だったのが、舞台となる町の風景だ。海沿いの町で城壁があり、離小島があるらしい。その描き方が美しかった。調べたところ作者さんはある地域をモデルとしているらしい。自分の中ではなんとなく、逗子や真鶴辺りを想像した。
登場人物の「翻訳家」は最初から最後まで滑稽だった。売女に罵られたり、町の人々からは変人と思われてたり、レストランの予約は出来ていなかったし、なにより最後に逃げて船から海へ飛び降りる場面。ダサいし格好悪い。主人公の恋愛観(?)には読み終わるまで感情移入できなかったが、主人公はこの男が滑稽な姿であったから、どこか惹かれるものがあったのかなと感じた。
Posted by ブクログ
ヨーロッパの方の映画みたいな感じだった。
全体的に乾いて、影が多くて、黒い感じの画面。登場人物の心も皆、乾いている感じがする。
小川洋子にしては、現実味がある世界なんだけど、やっぱりさらっと、俯瞰している感じがする。
世界の片隅で、誰にも気にかけられない人たちのいとなみ。いそうもないけどいるかも知れない。絶対いないとは言い切れない。
Posted by ブクログ
少女と老人の恋。浪漫や耽美が一切感じず、読み終えるのに苦労した。老いとSMの組み合わせは想像しようにも脳が嫌がる。唯一の救いは作者が女性であること。(小川洋子氏は少し狂いがある(褒))
もし男性の書いた本なら壁に投げつけていたと思う。
Posted by ブクログ
再読です。淫らで執拗な性愛の世界に浸りました。主人公のマリという少女と、醜い老人である翻訳家の間にあったものは、わたしの思っていたSMという形では言い表せない気がします。ホテル・アイリスのある港町の白っぽい渇いた光と、島での夢の中のようなひととき。仕える肉体は、醜ければ醜いほどいい、というマリの境地には辿り着けませんが。マリをとりまく人々は、翻訳家の甥以外は関わりたくない人々でした。マリがいつか、自由になれたらいいなと思います。小川洋子さんにかかると、官能的なお話もこんなにひっそりしたお話になるのだなと思いました。
Posted by ブクログ
初老の男性と母が営むホテルで働くマリの出会いは、男がホテルで女性といざこざを起こした時。
それから、町で偶然に男性を見かけたマリは後をつけるが、すぐに見つかってしまう。
そこから始まったマリと男性の妖しい関係。ただ、そこには互いの寂しさを埋めたい感情が見える。
最後は二人にとって、悲しいけれど良い結果に終わったと思う。
2017.4.10
Posted by ブクログ
SMのシーンだけが浮いていて、違和感があった
自分が孤独でないことを確かめるために女の人を抱くのは理解できるけどそれがなぜSMなのか
主人公のマリもなぜSMに溺れるのか
男よりも、男の甥に魅力を感じてしまって、後半の男はさらに醜く思えた
色んなことが納得できないまま終わった
これは恋愛小説ではないなという思いだけは確かだ
でも情景描写はとても緻密で好き
マリがホテルで働く描写は無駄がない
夏のリゾート地が舞台なのに、とても退廃的な雰囲気が漂っている
魚の臭気が本当に臭ってきそうだった
においの分かる小説
魚だけじゃなく
小川洋子の小説はほとんどの料理がまずそう 実際にまずいのかもしれないけど
Posted by ブクログ
やや母親に虐げられ気味の少女と境界性パーソナリティ障害と思われる老人とのSM恋愛小説。商売女に放った老人の声の響きに引き寄せられた少女がSMに溺れ快感を覚える。
舞台は夏のリゾート地なのだが、どこか薄暗く退廃的な空気が全編を通して漂っている。性描写は良くも悪くもムッツリスケベ向きか。読みながら石井光太氏のルポに出てくる、貧困国で春を売る少女の恋を思い出した。その少女はとにかく愛を欲していた。だが本書の少女の関心は結局自分だけに向いているように感じた。少女は快楽の剥き出し手として老人が必要だったに過ぎないのではないだろうか。そもそもSMとはそういうものなのかもしれない。
Posted by ブクログ
日本のはずなんだけど、どうにも日本ぽくないどこかの海岸沿いの観光地のホテルにおける従業員の主人公と、行きずりの少し変わった性癖を持つ、自称翻訳家の哀しい恋愛。
非常に小さい町の中で、ほぼホテルとF島の翻訳家の家だけで進行するストーリーなのだが、ホテル側は意地悪な母親とアルバイトのおばさんという、童話的な登場人物、翻訳家はつかみどころのない感じで、あえて言うなら「大人の童話」として楽しめなければ、これという話でもない。
唐突に出てくる性表現が、現実のものか、それとも想像か、はたまた精神的な抽象化されたものなのかわからないのだが、実は現実というあたりは、幻冬舎文庫らしい部分だ。エロを入れんといけないルールでもあるんでしょう。
他のところも取り立てて言うことはなく、他の人達にはわからないおじさまの魅力を解る私という、ある意味「博士」を髣髴とさせるストーリーにもかかわらず、そのおじさまの魅力がどうも語られ足りていないため、無理やりラブストーリーにして、無理やり甥にそれを壊させての結末という、読みやすいが物足りないストーリーだ。
言葉についても、いつもの様に何でもない言葉を昇華させるような表現も皆無で、小川洋子らしくないなあと思わせられた。
Posted by ブクログ
物事は、最初と最後が殊更に重要で象徴的になるが、
マリは、一生のこの余韻だけで生きて行くんじゃないかと思う。
痛めつけられ嬲られ、辱められながらも、
それでも乞い、悶え、濡れるさまは、艶めかしく官能的。
ともすると鼻につくぬめった匂いがしそうだが、
小川さんの筆にかかると、こんなにも静謐で
さらりとして、直接的な固有名詞の登場さえ、
いやらしさを伴わない。
不意に、ルコントの「仕立て屋の恋」を思い出した。
全体に散りばめられた猥雑なエッセンスは小川ワールドそのものだが、ここまでの性愛表現は小川作品では初めてだったので新鮮だった。
どこの国のいつの話か判然としない印象も、不穏で素敵だ。