大作だった。ピンクとグレーのように、途中で世界がぐるっと変わるのは面白い。
何重にも仕掛けを張り、場面転換が続く様はまさに夢そのものだった。
澤村伊智はとても丁寧に凝って化け物の名称を作り上げるのに、その化け物がどうやって生まれたかはあまり書いてくれない。ばくうどに辿り着くまでの過程を一生懸命読んで
...続きを読む面白かったので、そこも知りたい…といつも思う。ぼきわんも、ずうのめも。「そういうものがいます」で片付けられちゃうのはやや消化不良だ。例えば今回なら、中国から渡ってくるうちに誤字して意味も変わった呼び名が、悲しい子守唄として歌われるうちになにかしら死人の魂なんかの集合体として実体化したんだろうか?少女たちの願いを叶えるために。どこかで補足・解説してほしいなぁ。
ただあれだけの凶悪事件でここまでSNSが荒れるだろうか?もう少し自浄作用が働くと思うのだけど…。
野崎夫妻について、先に出ている「ぜんしゅの足音」の「鏡」を読んでいるとより楽しめる(?)作りになっていた。前半で野崎がそんな事するはずない…というより野崎が大量殺人犯なら20年やそこらで出てこられるはずがない…真琴の遺影を人に見せる資格なんてない…という事実に行き着き、これは確実に現実で起こっていることではない、と分かる。最後の真琴についてはもし「鏡」が見せたのが本当の未来なら、真琴の死はもしかしたらあり得るかもしれない…となってハラハラした。
琴子の夢の中では比嘉姉妹の死んだ弟妹たちが出てくる。この子たちが死んでしまっているのは本当に悲しい。琴子の願望が彼らが生きていて、普通に仲良く暮らしていることだったのが切なく悲しかった。
真琴は本当に優しくてあたたかい光のような存在で、それに引っ張られて野崎も外の子供への優しさを自然に持てるようになってきている感じでとても良かった。
悪夢の描写や舞台の転換が面白かっただけに、「ばくうど」といざ対峙するとよく分からない出オチ感があったのがややもったいない。一人称の心理描写は巧みなのだけど、アクションとなるとちょっと野暮ったくなるのかな。ただこの作者先生の文章はおおむねとても好きです。
片桐はやった事はどう言い繕っても許されないとして、当初同情の気持ちも強かったが、なんというか、色んなことがあったからって元々の人格者がここまで捻くれるだろうか?あの振る舞いからはとても中学時代までいい人だったとは思えない。酔っ払って気が大きくなって素が出て大失敗したからって、事実をねじ曲げた発信をして自分を正当化してあそこまでのことをするだろうか…。電話で野崎に一言謝罪して、もう一切連絡を断てばいいじゃない…。
前半に読んでいたのが彼の願望垂れ流しの夢だとすると、細部まで考えてなんとも居た堪れない気持ちになる。ひとの無防備な願望なんてそんなものかもしれないが、つらかった…(笑)対して軍団の他メンバーは人格者過ぎてそれもまた、つらかった…(笑)自分を俯瞰視出来ないコミュ障オタクにはなるまいと自戒の念も強く持った。高すぎるプライドは自分を苦しめるし、適度に他者に弱みを見せる訓練をしなければならないな。
劉の話はとても良かった。人は1人では生きられない、ということをよく表していると思った。自分は辛い現実とおさらばして極楽の夢を見ながら死んでもいいと思っていても、好きな人には死んでほしくない、悲しむ人がいるから生きようと思う、誰かと共になら生きていこうと思えるということだ。