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[名作落語]芝浜
これは元三題噺である。酔っぱらい、芝浜、財布の三つをまとめたもので、現在のような名作落語に作りあげたのは円朝である。海で拾った革財布を腹がけの丼にしまうものと、財布を盤台へ投げ込むものと、また前を略して、家へ帰って来たところから始めるものと、いろいろの型がある。 -
[名作落語]樟脳玉
にせ物の幽霊の噺も少なくないが、この話に出るねじべえは珍らしい善人である。雛の箱についている樟脳の匂いを嗅いで樟脳玉の燃える匂いを思い出し、魂を連想したところなどは、あっぱれ作者の働きで、名作である。 -
[名作落語]将棋の殿様
殿様の将棋は傍若無人、都合がわるくなると、その歩を取り払えとか、飛車が金銀を飛び越えて相手陣へ成りこむ。これならもちろん連戦連勝、おもしろくないので「負けたやつには鉄扇をお見舞いする」と宣言したが… -
[名作落語]王子の狐
王子には昔たくさんきつねの穴があったそうである。そうして王子は江戸庶民が四季おりおりに訪れた場所でもあった。もとは「高倉狐」という上方のはなしである。 -
[名作落語]宮戸川
小網町の質屋の息子半七は碁か将棋のため遅くなって帰宅、父親に締め出されてしまう。一方、隣の船宿の娘お花も夜遅くなって締め出しを食う。半七は霊岸島の伯父のところに泊りに行くが、お花は無理矢理くっついていく。酸いも甘いもかみわけた伯父は二人を二階へあげてしまう。 -
[名作落語]妾馬
長屋住まいの孝行娘おつるは大名にみそめられ男子をもうけて大出世。兄の八五郎をお城へ呼んだ。礼儀もなにも知らない八五郎は天衣無縫に振る舞って気に入られ、石垣杢蔵源蟹成(いしがきもくぞうみなもとのかになり)という名前を頂戴した。あるとき馬に乗っての使者に遣わされたが… -
[名作落語]小言幸兵衛
長屋の家主幸兵衛は世話好きだが、小言ばかり言ってうるさい。貸し家札を見て、次々と借家人がやってくるが、口頭試問は辛らつ。そこを無事通過しても、幸兵衛の想像力の飛躍はとどまるところを知らない。 -
[名作落語]笠碁
碁がたき同士が「きょうは待ったなしでいこう」と決めて打ちはじめると、さっそく相手が「待った」。「そりゃねえだろ」からはじまっての言いたい放題の喧嘩わかれ。だが雨降りが続くと何となく碁が打ちたくなって… -
[名作落語]蚊いくさ
町道場に通う熊五郎、剣術にこって商売を怠け、質においた蚊帳(かや)さえ受けだせない。女房に悪態をつかれて先生に「道場をしばらく休みたい」と相談すると、「蚊の大群など恐れるに足りない」と先生は言い、撃退の謀計(はかりごと)をさずけてくれた… -
[名作落語]船徳
道楽のすえに勘当された若旦那は、船宿に居候するうち、船頭になろうという気を起こす。浅草の四万六千日に蛮勇をふるって船を出したのだが…… -
[名作落語]巌流島
講談のほうでは佐々木小次郎に同様のがあるので、このような題名をつけたのであろう。続き話のごとく重々しく振り込んで軽く落とすところ、真打ちのやるべき大物である。 -
[名作落語]武助馬
前に奉公していた男が上方からもどり、役者になったと挨拶にくる。「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」で熊谷直実の馬の足で舞台に立つという。旦那はよろこび店の連中総出で見物にゆく。さてその結果は? -
[名作落語]文七元結
以前からあったちょっとした話を、幕末・明治期に活躍した円朝(えんちょう)がこれだけにまとめあげたものだといわれ、円朝得意の人情噺(にんじょうばなし)である。 -
[名作落語]佃祭
佃祭の実話を小噺を着けてサゲたものである。これは立派な真打ち噺で、信心などをマクラをつけて、長い高座にしている。 -
[名作落語]てんしき
これはとくに解説をいれることもない。明るく、素直にやれば、たいへんおもしろい。知ったかぶりをする人をうまく描いている。 -
[名作落語]高砂や
「婚礼に御用捨」は「巡礼に御報謝(ごほうしゃ)」にかけたもの。上方では「…このうらふうねェに帆を上げてェ……助け船ヤーイ」」でサゲている。 -
[名作落語]粗忽長屋
そんな馬鹿なはなしがある? と言いたくなるみごとな最後のサゲ! 熊(くま)はテレポーテーション能力の持ち主か。 -
[名作落語]寝床
原話は江戸期の「醒睡笑(せいすいしょう)」(安楽庵策伝著)などの江戸小咄からに見られる。上方では単に「床」と言っている。名作である。 -
[名作落語]長屋の花見
家主招待の長屋のお花見。酒も肴も盛りだくさん、ただしどれ一つとして「まともな」ものはない。やけ酒ちかくなっての言いたい放題、これがめっちゃ面白い。 -
[名作落語]目黒のさんま
仰々しい馬乗りのいでたち、駈けっこの末の空腹とさんまの匂い、百姓の啖呵、大名どうしのやりとり、誰も目黒がどういうところかまったく知らない世間知らず……文字で追うと、また格別のおもしろさがある。 -
[名作落語]饅頭こわい
中国の「笑府」に出るはなし「饅頭」がもとになっている。談州楼焉馬(だんしゅうろうえんば)編の「落噺(おとしばなし)」中には、東南西北平作として出ている。 -
[名作落語]蒟蒻問答
運びに無理がなく明朗でおかしくて構想の奇抜なところ、まことに代表的な名作。作者の二代目正蔵の前身は僧侶だったという。 -
[名作落語]鰍沢
円朝作の三題噺〔客から適当に三つの題をもらい、一席の噺にする〕という。題は毒消し、鉄砲、たまご酒であった。落語中の大物とされている。 -
[名作落語]寿限無
初めての子に縁起のいい名前がほしい…坊主に相談してつけた名は「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきり、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ……」前座の口ならしに格好のはなし。諸地方の民話に似たものがあるという。 -
[名作落語]一目上がり
この噺の落ちはいく通りもある。町内の鳶頭(とびがしら)の家へ行き、宝船の図を見て「いい六だなァ」と褒めると「ナーニ七福神だ」とさげる。これが一番古いらしいが、ほかにも「これァ六だろう」「ナーニ質の流れだ」というのもある。江戸小噺から取ったものだが「膝栗毛」にも使われている。 -
[名作落語]蟇の油
「サアサアご用とお急ぎのないお方はゆっくりとお聞きなさい…」という口上で有名。「高田の馬場」という題でやることもある。 -
[名作落語]道灌
およそ落語家で、道灌を演(や)らぬものはほとんど無かろうというくらい、前座咄の中での王様にも当たる。 -
[名作落語]明烏
人情噺 「明烏後真夢(あけがらすのちのまさゆめ)」の発端である。噺の中のクスグリをサゲにして、一席の落語にしてある。 -
夜歩く
カーの処女作。「私にとって単調で退屈ということは許されざる罪悪」というカーは、本書に対する自信のほどをのぞかせて、こう言う。「神経質な読者に悪夢をもたらし、パズルの玄人(くろうと)に頭痛をおこさせれば、私は満足だ」本書『夜歩く』は成功を収め、カーは職業作家として立つ。彼は別の機会に書いた。「私の野心は今もなお真に傑出した推理小説を書くことであるが、いまだに達成したとは正直、思わない。作家がこう述べるとき、その本音はほかのすべての推理小説がつまらないものに見えるような傑作をものしたいということである。無論、それは不可能だ。しかし、いつまでも試みつづけることはできる」 -
殺人者登場
探偵劇「鼠と海狸(ビーヴァ)」のクライマックスでは、ガードナーとライヴァルの俳優サーボネイジアが激しく言い争う。ガードナーは台本どおりにアーサーに拳銃を付きつけて発射した。だが、弾が込められていないはずの拳銃からは実弾が発射され、アーサーは即死した…新聞記者のナイゼルとアレン警部はガードナーから招待され、目の前でその事件を見たのだった。「マーシュ女史の作品はどの一場面を取り出しても脚色する必要もなくすぐにそのまま舞台で上演し、映画化することができる」これは有名な評論家ヘイクラフトの言葉だが、演劇通マーシュ女史ならではの機智に富んだ会話でスピーディに展開されていく本格推理長編。マーシュはクリスティ、セイヤーズ、アリンガムと並ぶ黄金期の四大女流作家のひとりである。 -
黄金の十三
1949年、エラリー・クイーンはミステリに詳しい作家、評論家など12人に委嘱し、それぞれにミステリの歴代傑作12編を推薦させた。著名な評論家ハワード・ヘイクラフトはそのうちの一人である。エラリー・クイーンは「ヘイクラフトに探偵小説界の指導的歴史家の名を冠しても異議をさしはさむ者はないであろう」と述べている。ヘイクラフトは要望に応え、時代順に13編を選んで提出した。これが本書「黄金の十三」である。 (収録作) 「盗まれた手紙」エドガー・アラン・ポー 「赤毛組合」コナン・ドイル 「13号独房の問題」ジャック・フットレル 「オスカー・ブロズキー事件」オースティン・フリーマン 「犬のお告げ」G・K・チェスタートン 「奇跡の時代」M・D・ポースト 「ほんものの陣羽織」E・C・ベントリー 「黄色いなめくじ」H・C・ベイリーン 「玄関の鍵」フレデリック・I・アンダースン 「争いの元」ドロシー・セイヤーズ 「神の燈火」エラリー・クイーン 「フウジス小僧」ダシール・ハメット 「踊り子探偵」ウィリアム・アイリッシュ -
平家物語
平安末期、皇位争いにからんで台頭した武家の源平の争いは1159年の平治の乱で平清盛の勝利に帰した。平氏は以後絶大な権勢を誇り、皇室と姻戚関係をむすび、高倉天皇、安徳天皇を擁してその栄華はめざましいものがあったが、清盛の死後、内乱は拡大し、1185年の壇ノ浦の合戦で義経に敗れて滅亡した。平家物語はこの平氏の栄華と没落を豊富なエピソードを交えて活写した戦記物語の傑作。翻訳者尾崎氏は幼少のころから平家琵琶に親しみ、この作品は「物語的内容の深さにおいて古今無類の国民的叙事詩である」と述べ、「誰にもわかるような物語を組み立てることを念頭に翻訳した」と記している。簡潔で韻律を重視した「平家」最良の訳書である。 -
大いなる遺産
クリスマスイブの夕暮れ、鍛冶屋の少年ピップは足かせを付けた脱獄囚に捕まり、やすりと食い物をもってこいと脅かされる。このときの恐ろしい経験はあとあとまで尾をひく……田舎暮らしのピップに、降ってわいたように莫大な遺産相続の話がころがりこむ。送り主は誰なのか、世話になっている異様な金持ち夫人のミス・ハヴィサムか? ピップはミス・ハヴィサムの養女エステラへのかなえられない思いを胸にロンドンに出る。だが友人もでき、都会生活にうつつをぬかすピップのまえに、謎の人物が姿をあらわす……話は急転直下、緊迫の度をまし一気に終末へ。皮肉とユーモア、ミステリーと冒険活劇が一体となったディケンズ晩年の傑作。 -
従兄ポンス
バルザックの小説集『人間喜劇』中の長編小説。主人公のポンスは名声を失った老音楽家で、同じ音楽家で親友のドイツ人シュムケとともに貧乏暮らしを送っていた。だが彼は骨董の目利きで、パリで一、二の収集品を隠し持っていた。もう一つの彼の道楽は美食だったが、こちらのほうは毎晩金持ちの親戚の食卓に顔を出すことで満たしていた。ある日、ひょっとしたことが原因でポンスはひどく侮辱され、死病の床に伏してしまう。それと同時に、ポンスの収集した骨董が莫大な財宝であることが明らかになる。それを機に、この遺産を手にしようと策謀うずまく人々の暗躍が始まる……パリを舞台に富裕な一族と貧しい従妹との間におこるドラマを描いた『従妹ベット』とならぶバルザック最晩年の傑作。 -
マンスフィールド・パーク
作者オースティンの作品は、すべて田舎に住む紳士階級の適齢期の娘たちの身の振り方を中心とし、それを取り巻く田舎の小世界の人間関係を題材としている。本作の主人公ファニー・プライスをめぐる物語もまったく同じである。彼女は伯母の嫁ぎ先のバートラム准男爵家に引き取られる。きびしい伯母の監視の目があるなか、ファニーはバートラム家の2人の兄弟と2人の姉妹、そこに顔を出す親友知人らとのさまざまな関係のなか日々を送る。ファニーはいつしか次男エドマンドに恋心をいだくようになったが……オースティンならではの皮肉とユーモアが光る代表作のひとつ。その世界では、「金のために結婚するのは愚かなことながら、金なしで結婚するのは、なお愚かなこと」(ある批評家の言)なのである。 -
デヴィッド・コパフィールド
ディケンズの自伝的要素あふれる代表作。デヴィッドが生まれた時、すでに父は死亡していた。大伯母は、女の子誕生を信じていたが、裏切られて家を出ていった。陽気な乳母ペゴティーはデヴィッドを兄の暮らすヤーマスへ連れてゆき、デヴィッドは好青年ハムや幼い恋心をおぼえたエミリーに出会う。母はマードストンと再婚する。マードストンとその姉はわがもの顔で家に居座り、母は心身衰えて死亡する。デヴィッドは寄宿学校に入れさせられるが、そこで二人の生涯の友を得る。怖いもの知らずのスティアフォースと愉快なトラッドルズだ。デヴィッドは学校をやめさせられ義父がロンドンで経営する商会に小僧に出される。デヴィッドは貧乏人ミコーバーのもとで暮らすが、やがてミコーバーは借金のため牢獄へ。デヴィッドは逃げ出して徒歩で大叔母の住むカンタベリーへ向かう。大伯母に保護されたデヴィッドは、その友人である弁護士ウィックフィールドのもとに寄宿し、その娘のアグネスと親しくなり、不気味な人物ユライア・ヒープに出会う。デヴィッドは地元の学校に通うようになる。 -
マハーバーラタ
インド神話の精髄「マハーバーラタ」の完訳。1998年度翻訳出版文化賞受賞。これは、クル家とパーンドゥ家の領土をめぐって争われた戦いの物語である。父王の死んだ後、パーンドゥ5人兄弟は伯父のドリタラーシュトラ王のもとに引き取られ、従兄のドゥルヨーダナたちと一緒にわが子同様に育てられた。しかし、この間に従兄弟同士のライバル意識や憎しみの感情が芽生えていった。ドリタラーシュトラ王は、5人の長兄ユディシュティラの優れた人格を認め、王位相続者として指名する。ここから両王族間の果しない憎しみと戦いの歴史が始まる。ドゥルヨーダナは、パーンドゥ一族を滅ぼそうと奸計を巡らし、賭事好きのユディシュティラをサイコロ賭博に誘い、まんまと罠にかける。一切を奪われたユディシュティラたちはカーミヤカの森に放逐された……この物語は太古の昔から綿々とつづくため、神々の系譜など煩雑なところも多く、最初はなかなかとっつきにくい。「物語のあらまし」で概要を把握してから読みすすめるのがおすすめだ。 -
美しい夏
一人の少女が大人へと成長していく青春のひとこまを、鮮やかに描く。ジーニアは兄と二人暮らし、洋裁店で働いている。もうすぐ17歳になる夏、三つほど年上のアメーリアと出会う。アメーリアは画家のモデルをしているという。成熟した雰囲気を漂わせるアメーリアに、ジーニアは反発しつつも憧れを抱く。昼間は働き、夜はカフェやダンスホールで遊び、日曜は散歩に出かけたり湖でボートに乗ったり映画をみたり、あるときアメーリアは、モデルの仕事をしている画家のもとへジーニアを連れていく。ジーニアはその画家に恋するが……燦めくような夏はあっという間に過ぎ去る。パヴェーゼに惚れ込んだ訳者による名訳。 -
殺人免除
アーチー顔見知りの理髪店のクローク係と女のマニキュア師が訪ねてくる。二人は夫婦で、その朝警官が店を訪れ、二人の身元や昨晩の行動を聞かれたとき、不法入国を問われる危険を察知して、すぐさま逃げ出してアーチーを頼ったのだった。アーチーが店を訪ねると、なんとそのときの警官がマニキュア室で背中に鋏を突き立てられて死んでいた!(「警官殺し」)。新任の某国大使の希望で、石油王の山荘にコックとして雇われたウルフ。みんなで釣った名物の鱒の調理を頼まれたのだ。釣師5人はそれぞれが割り当てられた釣り場で腕を競ったが、国務長官補佐リースンの帰りが遅い。遅れて釣りに出たアーチーはリースンの死体を発見した(「殺人免除」)。…ネロ・ウルフ中編傑作2編。 -
栄光のスペース・アカデミー
21世紀後半、人類は太陽系全体に版図を広げ、宇宙の治安を守る軍隊として「惑星間パトロール隊」が活躍している。あこがれのパトロール隊士官を夢見て、マットは士官学校に入学した。厳粛な宣誓式のあと、士官候補生たちは厳しい訓練に放り込まれた。マットはなんとか二次試験を突破し、地球軌道上の練習船ランドルフ号へと向かう。脱落者が相次ぐなか、マットは親しくなった他の3人とともに、苛酷な訓練を突破して栄光をつかむ。マットたちはパトロール艦アイス・トリプレックス号へと配属され、実務に就いた……宇宙に乗り出した若者の友情と冒険の日々を鮮やかに描く傑作宇宙SF。 -
息子と恋人
主人公のポール、その二人の恋人たち、ポールの母親とのあいだに繰り広げられる愛憎の葛藤を描きつくしたロレンスの代表作のひとつ。母親は希望の星だった長男ウィリアムを亡くし、すべての期待と愛情をポールにそそぐ。ポールにとって母親は絶対だった。ポールの幼馴染の恋人ミリアムは読書が好きで宗教心もあついが、性については消極的だ。一方、もう一人の恋人クララは人妻で肉体的な魅力にあふれ、婦人権運動家でもあった。母親はミリアムに対して敵意さえいだき、クララに対してはむしろ寛容なところをみせる。ポールはミリアムを退けるが、母親が亡くなって絶望的な喪失感をいだく。クララはポールといさかいを起こし別居していた夫のもとに戻る。ポールはミリアムの求婚も振り切って、一人で生きていこうとする。 -
ギャンビット
ブラント・テキスタイル社の社長令嬢サリーが、殺人容疑で身柄を拘束されている父の無実を証明してほしいと、ウルフのもとを訪れた。2週間前、地元のチェス・クラブで、名手ポール・ジェリンという若者が、同時に12人の会員と盤面を見ないで指すブラインドフォールド・ゲームを行なった。対局の最中にホット・チョコレートを飲んだポールは気分が悪くなり、医師の応急手当の甲斐もなく死亡した。ジェリンの遺体からは砒素が検出された。チョコレートにさわれる立場にあったのは7人だけだった。難問だらけの案件だったが、ウルフは、死んだポールは単なる捨て駒で、犯人の真の標的は社長だったとの仮説をもとに動きだす。 -
日陰者ジュード
貧しいながらも学問への志を持っていたジュードは、ふとしたきっかけから村の娘に誘惑されて結婚する。だが、考え方、志向すべてが合わずに破綻。その後町へ出たジュードは従姉妹のスーに出会い、強烈な引力で引き合い二人は愛し合う。だが、二人は同棲はするものの結婚はせず、そのことで、世間からは日陰者扱いされ、貧困に落ち込む。ジュードは元の妻がこっそり産んでいた子どもを引取り、スーとの間にできた二人の子供をかかえ、貧乏に拍車がかかる。そして、さらなる悲劇が。スーは打ちのめされ、これまでの自分の生き方を反省し、ジュードの元を去ってゆく。人間存在の悲劇性を描いた問題作。 -
トム・ジョウンズ
ある日、大地主オールワージの屋敷で捨て子の赤ん坊が見つかる。赤ん坊はトム・ジョウンズと名づけられ、トムは大地主の養子として、大地主の妹ブリジェットの息子ブライフィルとともに育てられる。トムは隣家の地主の娘ソファイアと相思相愛になるが、ソファイアは両家の親によってブライフィルと婚約させられていた。陰謀家のブライフィルはトムを中傷して家を追い出してしまう。トムはロンドンへ向かい、ソファイアも家を飛び出し後から追いかける。だがトムは行く先々で女性たちに言いよられ、決闘騒ぎに巻き込まれたり、波乱に満ちた暮らしをおくる。最後にトムが本当はブリジェットの息子であったことがわかり、トムはソファイアと結ばれる。小説のおもしろさを満喫させてくれる作品といってよく、モームは『世界の十大小説』の一つに挙げている。 -
青春の逆説
自意識過剰で、しょっちゅう何かに苛立ちながら生きる青年、毛利豹一。高利貸と再婚して女中のように扱われる母を哀れに思うが、どうにもならない。旧制高校に入るがみごと落第、恋愛もうまくゆかず、中退して見習い新聞記者に。ついには喫茶店のウェイトレスに対して、「こんなことでは駄目だぞ! よし、百数えるうちに、この女の手をいきなり掴むのだぞ」と悲壮な決心をする始末。たまたま元映画女優多鶴子と付き合い「食客」となって、周囲の人々にもまれもまれてゆくうちに「自尊心」の呪縛を脱する。成長してゆく青年の姿をユーモラスに痛快無比に描いた青春小説の傑作。著者の最初の長編小説でもあった。 -
沖縄の人文
「沖縄と私との関係は、朝鮮のそれよりずっと遅れ、昭和13年以降である。沖縄県の学務部長から招きを受け、始めて渡島の機会を得たのである。以来、深い縁を結んで、この孤島に渡ること数度、親しく島の人々に交わり、その人文に接し、風物と近づくにいたった。特に昭和15年正月における民芸協会員26名の渡島と、そのうちの幾人かの長期の滞在とは、民芸運動にも一期を画した出来事であって、吾々は多くのことを学び、多くのものを心に身に受取ることが出来た」…沖縄の文化的価値に目覚めた筆者がさまざまな機会にしたためた論考を集めた1冊。巻末に貴重な図録を収めてある。 -
私ひとりの部屋
「論文というより、エッセーに近く、エッセー小説風の描写スタイルで、それまで暖めてきたテーマが一気に噴出した、といった強い情熱がひしひしと伝わってくる作品ではあるけれども、そこは熟達した小説家らしく、具象的で、実際的であり、ふんだんに散りばめられた辛辣なジョークに思わず笑いも誘われる。従来の男性優位思考に対する、手厳しい皮肉と嘲笑と諷刺をからめた論詰が、とぼけた表現の随所に潜んでいるので、聞き手の若い女性たちはさぞ胸のすく思いをし、会場に笑いの渦を巻き起こしたに違いない」(エッセイスト高沢英子氏のことば)…講演をもとにしたウルフの女性論。 -
アンクル・アブナーの叡智
アンクル・アブナーはエドガー・アラン・ポーの生んだオーギュスト・デュパンに続いてアメリカが送り出した名探偵だ。彼が登場する作品は1911年から「サタデー・イブニング・ポスト」などに発表された。本書には、代表作「ドゥームドーフ殺人事件」「ナボテの葡萄園」のほか、18編を収めた。前者は古典的かつ独創的な密室トリックで知られ、後者は見事な最後の裁判のシーンがすべての作品の集大成となっている。当時の巡回裁判法廷の情景と民主主義確立途上のアメリカ人気質を生々と描き、正義を信じるアンクル・アブナーの面目躍如! 牧歌的な牧草地帯も好ましい背景になっている。
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