もろに自分と重ねてて読んでて、真面目(と自分で自分のことを思う)であることは傲慢だ、とただただ否定されている感覚がして、半分くらいまで読んでいて辛くなった。他の人はどう思いながら読んでるのだろう、と思わず読者レビューを検索した。すがるように。
でも最後まで物語を見守った人たちの感想から読み取れたのは、そんなどうしようもなく真面目な人たちを後ろから支え、応援しようとする作者の姿ばかりだった。だからもう一度読み始めた。
そしたら本当に応援しているだけだった。真面目さがゆえに何が辛いのか、どうすれば辛くならないのか。たくさんたくさん考えて作られた作品だった。
自信のない時、なかなか自分では気がつきにくいけど、そのつらさはほとんど、他者と比べていることからきていると感じる。
その比較を手放して、自分の人生と正面切って向き合う時、辛さはほんのすこし、少なくなるのだと思う。
〜気付きをもらった言葉たち〜
・今考えると、アユは、現実をちゃんと見ていただけなのだ。これから先の自分の人生設計を、自分の手でちゃんと摑もうとしていた。それを「怖い」としか捉えなかったのは架の未熟さと身勝手さだ。
・その期間を彼女が待っていてくれるものと思っていたこともまた、架の傲慢だった。
アユから別れを切り出されるまで、架は一度たりともアユが自分のもとから去る可能性を考えなかった。それぐらい長く深いつきあいになったように思っていたし、家族のように思ってし甘えていた。
まだ家族ではなかったのに。
家族のように思いたいなら、家族になるべきだったのに。
〜結婚とは〜
・特別でない、と思っていた恋人だった。けれど、そもそもそんなふうに思うこと自体が傲慢であり、間違いだった。
自由気ままな恋人同士ではなく、ともに家族まで巻き込んだ社会的な関係になり、親を安心させる。あれだけ抵抗があった結婚に伴う「責任」こそが、むしろ欲しくてたまらないものに感じられるようになってくる。
ーーー
自分と生きてくれる誰かと、家庭を持ちたい。
あれだけ趣味や仕事に費やす時間を尊く思えていたはずだったのに、この先いつまでこの調子で生きていくのかと思うと、一人きりで過ごす残りの人生がひどく長いものに思えた。その年月を、このまま耐えられると思えなかった。無理矢理にでもいいから、誰かに東縛や制約をされたい。そういう煩わしかったはずのものが、無性に懐かしく、欲しくなっていた。
考え方がひとつ変わると、見える景色は百八十度変わる。
これまでは子どもがいる友人たちを単に「大変そう」「自分の時間がなくなる」くらいにしか思っていなかったのが、見方が変わっただけで、その「大変だ」という話が必ずしも言葉通りなだけではなく、楽しさの代償としての惣気話のように聞こえた。
・「親御さんに言われれば、本人もおそらくはそういうものかとやる気になるのでしょうけれど、それは、恐怖や不安に突き動かされた社会的な要請によってであって、そこに本人の意思はありません。そして、そんな理由でもうまくいって結婚できるなら、私はそれでいいと思います。そうしなければ、その人たちは結婚しないでしょうから」
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「みんながみんな、どうしても結婚しなければならないってものでもないでしょう?
結婚したくないならそうする自由だってある。僕はたまたま結婚を考えましたけど、そうしない生き方だってあっていいわけだし」
「独身を選択するも何も、最初から、そこに本人の意思がないんです」
「真実さんを含め、親御さんに言われて婚活される方の大半は、結婚などせずに、このままずっと変わりたくない、というのが本音でしょう。三十にもなれば仕事も安定し、趣味や交友関係もそこそこ固まって、女性も男性も生活がそれなりに自分にとって居心地がいいものになりますから。けれど、そのまま、変わらないことを選択する勇気もない。婚活をしない、独身でいる、ということを選ぶ意思さえないんです」
架が絶句する。小野里が続けた。
「ですから、親に言われてでもなんでも強引に、選択しないまま、新しいステージに飛び込む方がいいんです。何も考えないまま結婚して、出産して、それでいいのではないか、と私は思います。もちろん、結婚しない生き方を自分で選択された方たちを否定するつもりもありません。それとこれとはまったく別の話なんです」
「でも、それなら、最初に紹介された相手で結婚を決めてしまいそうなものですけど。」
「今は情報が溢れているせいか、どんな方でもまずは結婚の前提として恋愛を求める傾向が強いです。自分にはこの人じゃない、ピンとこない。ードラマで見たり、話で聞く恋愛ができそうもないと、ご自分にたとえ恋愛経験が乏しくても、『この人ではない』と思ってしまう。そのうえ、皆さん、他人から理想が高いのではないかと指摘されるとたちまち否定されます。理想が高いなんてとんでもない。ただ、今回のお相形が合わなかっただけで、自分は決して高望みをしているわけではない。自分が高望みできるような人間でないことはわかっているし、と。とても謙虚な様子で、むきになられて」
でもね、と小野里が上目遣いで、試すように架を見た。
「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。ー高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掘みたいだけなのに、なぜ、と。親に言われるがまま婚活したのであっても、恋愛の好みだけは従順になれない。真実さんもそうだったのではないかしら」
架は黙ったまま、小野里を見つめていた。
理想が高いんじゃないか、というのは、婚活をしている間、架もまた周りに言われ続けてきた言葉だった。そのたびに、確かに思った。高望みをしているわけじゃない。ただ、合う人と巡り合えていないのだ、と。
「・・・・・・違うんですね」「恋愛相手を探すのと、婚活は」
・現代の結婚がうまくいかない理由は、「傲慢さと善良さ』にあるような気がするんです」
「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」
「その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれないですね」
・「ー婚活につきまとう、『ピンとこない』って、あれ、何なんでしょうね」
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、「ピンとこない”と言います。私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」
「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」
・希望が「ごめんごめん」と軽い調子で架に謝る。真顔に戻った。
「母に限らず、真実もきっと自分の物語が強かったんだよ。こんな過去や好みを持った自分を理解してくれる相手、みたいなものを求めすぎて、逆に相手もそういう物語を持ってるかもしれないってことの方は疎かになる」
「小野里さんに言わせると、お見合いがうまくいかない人はみんな、自分に釣り合う相手じゃなければ納得しないし、その基準が控えめだと言いつつ、実は相当高いそうなんです。実際には相手の方が収入があったりして、ステータスが高い場合でもそう思うって、不思議なものですけど」
「じゃあ、そういう場合は相手の方が外見が悪いとか、社交下手だとか、そういうことなんじゃない?みんな、自分のパラメーターの中のいい部分でしか勝負しないんだよ。
自分の方が収入が低くても、外見が悪くても、相手より勝ってる部分にしか目が向かない。傲慢だけど、人ってそういうものじゃない?」
・皆か行くから大学に行き、親が決めたから就職し、そういうものだからと婚活する。
そこに自分の意思や希望はないのに、好みやプライドとー小さな世界の自己愛があるから、自由になれない。いつまでも苦しい。
しかし、この世の中に、「自分の意思」がある人間が果たしてどれだけいるだろう。
真実を責めることができる人間が、一体どれほどいるというのだろうか。
・架と出会っていこれで一生ひとりじゃない、と束の間、思えた時もー。
今考えたら、親に代わる依存先を私は探していたのかもしれない。
ひとりじゃ生きられないと思っていたのは、親もだけど、私もだったから。
架と出会って、ようやく自分が依存してきた親が、大きかった母たちが、意外に小さかったことを知ったのに、それでも私は、架のところを飛び出して、最初に親のところに戻ろうとした。
そこしか、行けるところがなかったから。
深く考えるより先に、まず、心と体が頼ってしまう、その罪深さ。業の深さ。
今も、何が正しいのかなんてわからない。
自分が間違っていると言われたら、そうなのかもしれない。
けれど、今は、こうも思う。
親に頼ってきた娘の自立が、次の依存先を探すことなんだとしても。
親が、子の結婚を焦るのは、自分の代わりの次の依存先を見つけてやろうとしている行為なんだとしても。
それの何がいけないのか、と開き直れるくらいには、気持ちが強くなった。
間違っていると言われてもいい。
構わない。
・これから先、大丈夫かどうかなんて、自信がない。勝手なことをしたツケはきっと、実の両親からも架の母親からも、山積みで回ってくるだろう。何かにつけ、思い出してはねちねち言われるーそんな結婚生活になるかもしれない。
だけど、それでも。
今、この人と二人で祈ることにはきっと意味があるはずだと信じたい。
この結婚に、迷って決めたこの決断に意味があるのだと思いたい。
その祈りが、少なくとも、自分の横にいるこの人に届きますように。
・本当は、これでよかったのだろうか、と望みがかなった今も、考えていた。自分が希望したことなのだから、もちろん、そんなことは口が裂けても言えないけれど。
これから先のことが、何も不安でないと言ったら、嘘になる。
「架くんは何考えてるの?」「よかったなって」
まるで真実の心を読んだように、そう言った。
「いろいろあったけど、よかったなって、思ってるよ」この人のこの、気負わない鈍感さに、夫であるけれど違う人間であることに、これから何度救われるのだろう。
顔を上げて、ああーと思う。
目の前に、海に続く広い空が広がっている。それは、どこまでもどこまでもー。
「真実」
架に呼ばれ、手を引かれる。手をつなぎ、正面を向く。そこにまた、カメラのフラッシュが光る。
架に掴まれたその手を、自分の意思で、真実もまた強く握り返した。