寺地はるなのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
八重子さんのストーリーが良かった。
かつて「自分の人生はクソだった」と吐き捨てそうになった彼女が、誰かからの不当な評価や奪われたものに縛られ続けるのではなく、「目の前のことをやるしかない」「そうすることでしか自信はつかへんらしい」という言葉を受け取り、自らの手で自分を労い直す。その姿勢が、今の私自身のリアルな葛藤と強く響き合っている。
世間では完璧な母親でも、期待通りの会社員でもないかもしれない。
産前に思い描いていたキャリアからは離れ、仕事は思うようにいかず中途半端に思えてしまう。
子育ても、もっと時間も手もかけてあげたいのに理想には遠く、日々の暮らしをもっと丁寧に味わう余裕すらない。
理不尽な環境で傷つき、多くを奪われながらも、真面目に今日という日を投げ出さずに生きる彼女の姿。そして、月一度のご褒美とともに自分へかける「ようやってる」という言葉。
間や誰かの基準で見れば、自分は「全部に全力投球できていない」ように見えるかもしれない。
けれど、私は毎日生きている。仕事をし、子どもを生かしている。今日を必死に回している。
自己啓発本に書いてあるような綺麗な自愛ではなく、目の前の現実と格闘しながら「私はやってる」と自分自身で認めてあげること。それだけが、明日を踏み出す確かな足場になるのだと気づかされた。 -
Posted by ブクログ
タイトルから、主人公が犯罪者なのかな?と想像したけど、こういう意味だったのね。老舗菓子創業家の彌栄子と、息子のベビーシッターの鳴海との、一緒にいた期間は短くても深い繋がりを描いた作品。ページ数は少ないので、さらっと読める。
生まれや立場の違いはあるけど、お互いの無い部分を補完し合い、二人の心の交流が広がっていく。彌栄子が、古い男尊女卑の世界から新しい一歩を踏み出し、自分の足で歩き始める危なっかしい姿が微笑ましい。しかし周囲はその変化を受け入れられず、シッターの鳴海は追い出されてしまう。
なによりも、鳴海の夫、暖の存在感。いつもそっと寄り添って、影でサポートしてくれる。読書するのは自分の器を大きくするため、というのもかっこいい。鳴海が人生に悲観的になっていたときも、弟が荒れてしまったときも、暖がいたから乗り越えられたのだと思う。
その後、長い時間を経て再会した彌栄子と鳴海は、過去に解決できなかった問題に挑む。晴々しいラストのダンスシーンが素敵だった。 -
Posted by ブクログ
ハセ、何も持ってないように見えて、本人も気づいてないけどありのままの自分を受け入れてもらえてる人が周りにいる。コンビの相方である沖は、ハセが持ってなかった教育熱心な両親を持ちながら、勉強や習い事が身につかず、ハセと同じゾーニングの人たちと働く。
その方の登場人物たちも、人が羨むものを持ってるのに、持ってないものを他人と比較して羨んでいる。ある物に目を向けるって大切だと思う。ただ、最後に民生委員会?の同級生が、ハセに努力すれば学歴も手に入ったじゃないと言い放ったのは無責任で、エゴだなと思った。
ハセ達が、老人との関わりあいで真っ当な道を進もうと方向転換をして良かったと思った。 -
Posted by ブクログ
心の結び目が
ひとつずつ丁寧に解かれていくような感覚になり
最後にはふ〜っと深く息をつくことができました
寺地さんの紡ぐ言葉に いつも救われます
物語ではどこか不器用で
生きづらさや小さな痛みを
抱えた人々の姿があり…
彼らが心の奥にそっと隠している感情や心の揺れを決して見捨てずにすくい上げてくれます
作中で語られる言葉のひとつひとつが
まるで自分の心に優しく絆創膏を
貼ってくれるかのように
「そのままでいいんだよ」と肯定されているような心地よさに満ちていきました♡
人の寂しさや切なさ…
そして誰かと繋がりたいと願うひたむきな想いを
物語を通して愛おしさをもって描き出す描写に
何度も胸がじんわりと熱くなりました…
このあたたかく優しい佇まいの装丁も素敵♡
トゲトゲした現実のなかで
傷ついた心をそっと包み込み…
明日へ歩き出す小さな勇気をくれる
そんな宝物のような作品に出会えました -
Posted by ブクログ
初めての寺地はるなさん作品。
タイトルが綺麗で、章ごとに語り手が異なるが、全体を通して、男子高校生の清澄が姉の水青のウェディングドレスを仕上げるまでの一つの物語になっている。
様々な語り手の立場から各章が描かれるが、祖母が数十年の時を経て新しい一歩を踏み出すシーンや、黒田の愛情深さには思わずうるっときた。一方で、姉の水青にはあまり共感できず、彼女の心境の変化も唐突に感じられた。
作品全体ではジェンダーロールや社会から求められる役割による「自分らしさ」の抑圧が大きなテーマとなっていると思われるが、その枠にとらわれなくとも、祖母のエピソードは「長年、自分より家族や周囲を優先してきた一人の人間が、最後に自分の望みを取り戻す物語」でもあり、黒田のエピソードは、家族・他人という役割を超えて一人の人間として他者に静かに愛情を注ぎ続ける姿が描かれていたと感じた。また、その黒田の愛情深さに清澄がしっかりと気づいていたのも良かった。
タイトルについては最後まで読むと理解でき、随所随所に水の存在感が大きいこの作品にピッタリの、美しいタイトルだと感じた。
家族や他人との関わりを通して葛藤しながらも、「流れる水」であるかのように淀まず自分自身や他者と向き合う姿は尊く、暖かい気持ちになれる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
鳴海は、かつて喫茶店で働いていた頃に、友人が行くことになっていた菓子メーカーの創業一家・南雲家の子守り役を自ら受けて働き出す。
やんちゃで誰もがお手上げになるほどの気難しい少年・栄輝の世話もこなして、奥様の彌栄子とも心通わせていくのだが、社長の忠雄や親戚たちは鳴海に冷たかった。
やがて…忠雄が倒れた後、二度と彌栄子とも会えなくなり、20年が経った頃、栄輝から電話が掛かってくる。
たった1年の付き合いだったとしても、それは思いの外、心に深く刻み込まれている数々の思い出があって、彌栄子と鳴海の関係は友情よりも尊いものに感じた。
きっとそれは、真珠のネックレスを首にかけたときから…彌栄子さんから「あげたんです」と言われたときからだったのだろう。
返せないまま時が過ぎたのは、いつか再会できることを待っていたのかもしれない。
そして、そのときには真珠が似合う年齢になっていたことも。