読み終えた今、胸の中に温かいものがじんわりと広がっている。
この物語の舞台は「ほたるいしマジカルランド」という遊園地。
そこで働く人々の日常が、丁寧に、そして愛情深く描かれている。
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◼︎人の心を見通す作家の眼差し
読みながら何度も思った。
寺地はるなさんは、何故こんなにも他人の感情が分かるのだろう、と。
登場人物たちの喜びも、悲しみも、迷いも、葛藤も。
その全てが、まるで自分の心の内を覗かれているかのようにリアルで、切実で、そして優しい。
寺地はるなさんの作品はいつも私に大切なことを教えてくれる。
今回もまた、たくさんの宝物のような言葉に出会うことができた。
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◼︎こんな職場で働きたい
物語の中で特に印象的だったのは、遊園地の社長の言葉だ。
人の数だけ環境も考え方も生き方も事情も違っていて、それを「だから面白い」「いいところを持ち寄って苦手なところはカバーし合って」と言ってくれる。
こんな社長の元で働きたい、と心から思った。
違いを排除するのではなく、違いを面白がる。
弱さを責めるのではなく、支え合う。
そんな当たり前のようで、実はとても難しいことを、この社長は自然体で実践している。
理想論ではなく、日々の現場で、地に足をつけて。
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◼︎生きることの本質を問いかける言葉たち
この作品には、生きていく上で大切な言葉が、それこそ宝石のように散りばめられている。
「生きることって結局どういうこと?」という問いが軸になっている。
「何の努力もせずになにかにただぼんやりと憧れているだけの者は、どこにも行けない」
この厳しくも真実の言葉が、まっすぐ心に刺さった。
かつて自分がなりたいと思っていた職業に就くために何の努力もしてこなかったことが、今もずっと棘のように引っかかっている。
「今日もこうして生きていることに深く感謝をして、明日もつつましく勤勉に生きていかねばならない」
日々を大切に生きることの尊さに触れ、今日も明日も誠実に生きていこう。
そう思うと、すっと背筋が伸びた。
「他人に認めてもらえるのを待つのではなく自分で自分を肯定すること」
「他人からの評価や肯定をあてにすれば、どこかで行き詰まる」
自分を自分で認めてあげることの大切さを、改めて気づかせてくれた。
これらの言葉は、説教臭くなく、押し付けがましくなく、ただ静かに、しかし確かに心に届く。
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◼︎目の前のことをやる、ということ
特に心に残ったのは「どんなに『クソ』な人生でも、今日や明日を投げ出す理由にはならない。目の前のことをやるしかない、そうすることでしか自信はつかない」という言葉だった。
人生に行き詰まったとき、私たちはつい大きな答えや劇的な変化を求めてしまう。
でも実際には、目の前のことを一つずつやっていくことでしか、道は開けていかない。
「目の前のことをやる、そうすれば自然と身につくことがある。身についたことに見合うだけの道が開けていく」
その事実が静かに胸に落ちてくる。
そして、「生きていること。生を全うすること。それこそがすべての人のもっとも重要な仕事である」という言葉。
生きること自体が仕事なのだ、と。
何か特別なことを成し遂げなくても、ただ生きていることに価値がある。
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◼︎幸せは自分で作るもの
「自分を幸せにできるのは自分だけだ」という言葉も印象的だった。
誰かに幸せにしてもらおうと待っていても、幸せは訪れない。
幸せは、自分で選び取り、作り上げていくものなのだ。
そして「責任を果たせるかどうかということより、誰と生きていきたいかが大切だ」という言葉。
人生の選択において本当に大切なのは何か。
それは能力や責任ではなく、誰と共に時間を過ごしたいかという、極めてシンプルな問いなのかもしれない。
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◼︎人間関係の機微
「病気は人から余裕を奪う」という、経験した人にしか分からない真実。
「羨望は憎悪と表裏一体になっていて、うっかりそれをひっくり返してしまう瞬間がある」
人間の感情の複雑さへの理解。
「頑張ってるから愚痴も言いたくなる」
当たり前だけど見過ごされがちな事実。
これらの言葉は、人間という存在の弱さや複雑さを、否定するのではなく、そのまま受け止めてくれる。
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◼︎変化すること、選び直すこと
「『あたりまえ』は変わっていく」
「『あたりまえ』を変えようと行動してくれた人がいたであろう」
今の当たり前が、誰かの努力や勇気の結果であることを思い出させてくれる。
「向いていないと思うなら、環境なり手段なりを変えてみたらいい」
一つの場所や方法に固執する必要はないのだと、優しく背中を押してくれる。
「たいていの人生はドラマチックではないが、小さく変化する瞬間はきっといくつもある」
派手な人生でなくても、小さな変化の積み重ねが、人生を作っていく。
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◼︎共に生きるということ
「他人は人生のドラマの登場人物みたいなもので、だから当然、入れ替わりがある」
少し寂しいけれど、確かな真実。
でも同時に「共に生きていくものに重要な意味なんかなくていい、価値なんかなくていい」という言葉が、その寂しさをそっと包み込んでくれる。
一緒にいることに、大げさな理由はいらない。
ただ、一緒にいたいから、一緒にいる。
それだけでいいのだ。
そして「『友だち』という言葉を他人を縛るために使ったらいけない」という戒め。
友情という美しい言葉が、時に人を苦しめる鎖になってしまうことへの警告。
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◼︎生きることについて考えた
『ほたるいしマジカルランド』は、たくさんの大切な言葉が詰まっている本だった。
遊園地という、非日常を提供する場所で働く人々の、とても日常的な物語。
そこに描かれているのは、私たち一人ひとりの「生きること」そのものだった。
派手な展開があるわけでもなく、劇的な事件が起こるわけでもない。
でも、だからこそ、この物語は深く心に響く。
日々を生きていくこと。
人と関わること。
自分を受け入れること。
当たり前だけど難しいことの大切さを、静かに、でも確かに教えてくれる。
読み終えた後、少しだけ前を向いて歩けそうな気がした。
完璧な答えが見つかったわけではない。
でも、目の前のことを一つずつやっていけばいいのだと、そう思えた。
寺地はるなさんの作品に、また出会えてよかった。