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Posted by ブクログ
読後感が、雨上がりのさわやかな空気のよう。ホコリやチリが洗い清められて網戸をそよ風が抜けて行くみたいな、大昔におじいちゃんおばあちゃんの家で畳に寝っ転がっていた時間を思い出しました。
今の夏は暑過ぎるので閉め切った部屋でクーラーの風を浴びて過ごしたり、あまりにも過剰なゲリラ豪雨に見舞われたりと風情もへったくれも無いのがかなしい。データ上はそんなに変わってないんだよ、みたいな意見も見かけるけど心情的には確実に蒸し暑くなっている気がするのだからしょうがない。
『うさぎパン』(9784344416215)以来2作目の瀧羽麻子先生の作品、本作もとっても良かった。
まず装丁が素敵。雨粒が宝石みたいに見えてた感性はもう私の中には1ミリも残っちゃいないし傘持ってくの面倒くさいなあとか雨ガッパは荷物になるし干すのがまた面倒くさいなあとかそんな事ばっかりが頭をよぎるけれども、日々の中でじっと空を眺めるだけの時間とか絶対必要だと思うんですよね。確かに子どもは「あの雲がまぐろのお寿司に見える」とか話しかけてくれるので、子どもらが自然にそうやって色々な事を感じたりする稀有な時間に大人が習い事だったり小言ばっかり詰め込んで奪ってしまってはならないと思うので、私も接し方を考えなきゃなと思いました。
傘の形の小さなしおりもかわいい。黄色い傘と赤い傘で現在と過去を繋いでいるのかな。
さて物語はといえば、二十四節気の節目を大切に過ごす習慣がある〈藤巻家〉一族の1958年から2022年までの様子を描いた連作小説。藤巻の人が主人公の話もあるし、お隣さんや浮気相手など他者視点から藤巻さんちを捉える章もある。
設定からして丁寧な暮らしを送る人々によるひたすら折り目正しき日々を読むのかなと思っていたら、思いの外に人間味あふれる人物達が登場してきて奥深い。
色々な好人物が登場するのだが、私が惹かれたのは〈藤巻和也〉。タイトルの『博士』である〈藤巻昭彦〉を父に持ちながらも勉強には然程身が入らないのだが絵を描くことが好きで、作中では彼が中3から62歳になるまでの物語が書かれている。結局画家として大成はせず、39歳の時には上述したように妻子がありながら浮気をしてしまう身持ちの悪さ。なんだけど、人間としての魅力は備えており何だか憎めない。
「あのひとは、おれのことなんか興味がない」
「親父があんなに楽しそうにしてるの、はじめて見たよ。いつも家ではたいくつなんだろうね。おれたちじゃ話し相手になれないもんね」(ともにp76)
と語るように、学者である父と自らを較べて引け目を感じている様子がありつつ、「一九九八年、藤巻和也作、「夏至の朝」」(p154)という彼の絵画作品の描写からは決して父を毛嫌いしているだけではなくて父の背中や仕事をしっかりと認めているのだという素直さが伝わってくる。巻末の《藤巻博士一家とともに楽しむ二十四節気》の夏至の項には「早起きして日の出を見る。」(p261)とあるので、和也も早起きして日の出を見る昭彦に付き合っていたのだなぁ、というところが窺い知れる。
62歳になった和也が駅で孫を出迎えるシーンでは「真っ赤なダウンジャケットを着て、ポケットに手をつっこんでいる。」(p216)とあり、なんだか粋を感じるのと、彼も父に似てやっぱり個性的な面があるなと感ぜられて、さり気ないけど良い場面。
子どもが小さい時にどれだけ食卓を一緒に囲めるか。
並んで傘をさしながら散歩をするような時間を過ごせるか。
季節の巡りを祝いながら共に過ごせる時を喜べるか。
そんな事へ思いを馳せた読書でした。素晴らしい家族小説だったなと思います。
1刷
2026.8.5
Posted by ブクログ
大学で気象学の研究をする藤巻博士と彼をとりまく人たちを描いた連作短編。
藤巻先生が彼の妻となるスミと出会った1958年から2022年までの藤巻家四世代の歩みを、6編に分けて時代を追いながら、とても静かに語られる物語たち。
主人公である藤巻博士自身の多くは語られていないけれど、時おり先生の口にした言葉によって、その温かいお人柄がうかがえる。
博士は少し変わった気質だけれど、その傍らでそれぞれ力強く生きる家族の姿がほほえましく、ままならないからこそ、なおいっそう家族が愛おしいと思える、何だか不思議な魅力をもった家族の物語だと思います。
二十四節気に合わせて、藤巻家が行う行事に、とても心が和みます。
Posted by ブクログ
2025/02/27
天気にとても詳しい藤巻昭彦という大学教授の息子だったり、その家族だったり、親戚だったりといった人たちの半生がこの人を中心に、主人公が移り変わる短編となっている。
物語の中心となる藤巻さんは最初に生い立ち等が語られているが、その後の話ではちょっとしか出てこない。けれども、藤巻家と関わりのある人たちが年月の経過とともに色々な人生を送っている様子が丁寧に描かれていて、時代の移り変わりと家族の関わりや関係性の変化の機微が読んでいて次の展開や中心人物に興味を惹かせるようになっていると思う。
全体的にほんわかする小説だと思います。
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