あらすじ
三十一歳独身、文具メーカーの経理部に勤める椿は、出奔した妹の子ども・朔と暮らすことに。毎日の子育て、更に勉強も運動も苦手で内にこもりがちな朔との生活は、時に椿を追いつめる。自分が正しいかわからない、自分の意思を押しつけたくもない。そんな中、
どこかで朔を「他の子」と比べていることに気づいた椿は……。
解説 村中直人
「誰かのこと、嫌いって言ってもいいよ。家ではね」
注目作家・寺地はるなが描く「良い子」の定義とは。
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寺地さん、初。難しい言い回しはなく、肩が凝らない文体。心のつぶやきがちょっとしたコラムのような感じで読みやすい。たまに特徴のある表現があって、飽きなかった。
重々しくない語り口だけれど、心が刺激されてズシッとくる文章がそれはそれはたくさんあった。私の心の中にもある感覚だなあと頷いたり、わかってはいるけれどできていないことをストレートに言われてグッサリきたり。珍しくいくつもメモっちゃった。
主人公の椿は自分をきちんと持っていて、流されない。思考停止することなく、物事の大事な部分をちゃんと見ることができる。でもそれができるというのは逆に、平均的な人とは少しずれた感覚ってことになるんだろう。
そんなふうに価値観や考えがしっかりしている椿も、失敗はする。間違えることもあるし、人を傷つけることもある。自分の見ている景色と相手が見ている景色が違うこともある。
頭では当たり前にわかっているようなことでも自分のこととなるとわからなくなったりするし、相手を思いやっているつもりで傷つけてしまったりもするし。私も、椿の正しい感覚が少し癇に障る時があった。人ってみんなダメなところがあるなあと再確認。それでも人間っていいなと思うし、そう思っていられるのは恵まれているってことなのかもと思う。
結論。みんな良い子だ。大人もこどもも。我が家のこどもたちもとても良い子!
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寺地はるなさんの作品は初めて読みました。
わたし自身、子どもを1人で育てている身で、毎日「元気に生きてるだけでいい」と思いながら、早く宿題やりなさいだの、習いごとの練習しなさいだの、矛盾する自分にイライラしながら、そのイライラを子供にぶつけてしまう日もあり…。
こんなにいい子なのに、怒ることなんて何もないのに。不確かな常識にがんじがらめになっていること、情報過多気味の現代の子育てに息切れしていること、頭ではわかっているのに失敗して、反省してやり直して、でもまた失敗して反省して、の繰り返しです。
そんな自分に、もはや嫌気がさしていましたが、この本を読んで、それでもいいじゃないか。何回失敗しても、また反省してやり直してもいいじゃないか、と少しだけ思えました。
致命的な失敗に怯えていましたが、そうやって怯えているうちはきっと致命的な失敗は済むんじゃないかな、とも。
クスッと笑えるネタが所々に散りばめられていて、それがまた心をほぐしてくれます。
手元に置いて、ときどき読み返したくなる本です。
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普通はこうだから、みんながこうしているから、といったものに、主人公の椿は抗って生きていこうとする。それは簡単ではないし、迷ったり傷ついたりすることも多い。世間の常識と考えられているもの、普通とされているものって一体何だろう。良い子とは誰にとっての良い子であるのだろう。
妹が未婚のまま生んだ子供、朔。妹はアルバイト先で知り合った「アートを教えている人」とともに沖縄に行ってしまう。当面は朔を預かることを覚悟するものの、その「当面」は長く続いていく。職場の人、アパートの大家さん、保育所の先生、友人。皆、世間の常識に照らし合わせて椿に言葉をかける。
他人の思う正解に添うようにわたしは生きてかなきゃならないのかな。
かつての同級生の静原夫妻も、同僚の杉尾も、友人の穂積も、そして妹の鈴菜も、みなそれぞれの思いを抱えて迷っている。椿も、自分のワールドにはいってしまう朔に苛立ち、迷う。
できないことを責めたり、あるいは恥じたりするより、どうやったらできるかを考えるほうがいいに違いないから。
たぶん誰もが「どうしよう」とか「わからない」とか、「もういやだ」とか、そんな気持ちを腕いっぱいに抱えて歩いている。後戻りができないことをみんな知っている。だから、進むしかない。
たくさんの迷いを抱えた登場人物たちが愛おしく思えてくる。
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椿の静原への言葉が自分にも突き刺さりつつ、やはり椿の心の持ちようというか、強さに憧れる。ただ生きていてくれるだけで良いと思ってるはずなのに、他の子と比べてしまう。戒めのためにも、子育てにつまづいたら読み返したくなる本だった。
あと、サンタクロースのくだりはメモした。ネタバレした時には使おうかな。
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妹の子ども・朔と暮らす椿。
子育てを通じて様々な感情を抱く椿に共感し通しだった。
自分がやって来た子育てを振り返って反省したり、椿の決意に胸が熱くなる。
「普通であること」とか、「常識」だとか、今までの価値観が変わる過渡期を過ごしている実感が自分にはあって、自分自身の譲れないものとか、信念のようなものはしっかりと持って生きていかなくてはならないな、と感じた。
寺地はるなさんの作品はとても前向きなきもちにさせてくれます。
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わたしの良い子、血のつながりがなくても、愛情を持って妹の子を育てる主人公。発達がゆっくりな朔を、誰とも比べずにありのままの朔をみて、愛しむ姿が印象的だった。親より親らしい、というのが率直な感想。でも、子供にとって、肉親はやはり強い。
子供をゆっくり育てていこうと思えた。
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子を育てる責任感がまったく実物大だった。大家さんが叱らないであげて、と声をかけるところで泣いた。姉と妹の物語でもあったので、泣いた。姉と妹の物語(姉視点)は私によく刺さる。
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"良い子"にならないといけない
それは親にとって、学校にとって、世の中にとってなのか?そもそも良い子ってなんだろう?と考えさせられた。みんなと同じ(普通)を求められるのは子供だけじゃなくて大人になっても続く。
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妹の息子を育てる椿をめぐる物語。椿の恋人、妹の息子朔らとの関わりが、何かひっかかるところ、そんなに割り切れたらいいのにと思うところがあって、シンクロできない感が強い。それなのに、なぜかうらやましいと思ってしまう。普通とは、標準とは、そんなに型にはめることはできないんじゃないかと考えさせられる。
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自分の妹の子供を育てる事になった姉のお話。
丁寧に主人公の気持ちが書かれていて読んでいる時間は静かに進みます。
自分の気持ちにその都度向き合う事をしている主人公に惹かれていきます。
何か劇的な事が起こるわけでもないですが、主人公のような人が近くにいてくれたら自分は受け入れてもらえている安心感があるのだろうなと思えるような人柄に好感が持てました。
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普通ってなんだろう。良い子ってなんだろう。
世の中溢れている普通という呪縛や偏りに向き合い続ける椿さんお茶したいと思った。
投げ出したりせず自分なりの尺度で頑張れていればそれでいいと、周りに合わせずともいいのだと。
ゆとりの私はものすごく共感した。
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椿さんみたいな人がみんな周りに居たら良いのに…
逃げられるなら逃げるのだって手だし、
嫌なことをしてくる人の悪口も言えないようにするのが良いことってわけでもないよなあ。
どんな形でも子どもと向き合っているならいいんだよと肯定してくれるような話だった。
子どもが大人になるまで居心地のいい場所を作りたいという思いはみんな共通で持っているだろうけど、"普通"になろうとがんじがらめになっていることは自分も周りもあるだろうな。
どんなことがあっても我が子は自分にとっての良い子という意識、忘れずにいたいなと思わされた。
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この本を見て驚いたこと
寺地はるなさんの名前、ずっと寺池だと思ってた
戯言は無視して、進めます。
主人公は、甥っ子の朔を育てている椿。妹の鈴菜が、朔を産み、家を出て行ったことで、姉の椿が朔を育てることになります。
朔に対しての悩みを抱えながらも、大事に育てている椿さんに感服しました。あと、こちらも戯言なんですが、静原の妻の娘を叱る口調が、わたしの母と似ていてちょっと草でした。
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朔はASDか?と思うけどその言葉をあえて使わずに書いているのがまた良い。鈴菜もそれか?と思わせる部分がある。椿の淡々とした感じが、いい意味で親子じゃない距離感による冷静さを保てて好き。
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『わたしの良い子』ってなんだろう?子どもがいる人なら、ふと考えずにはいられないタイトル。
自分もそれを自問しながら読んでいたが、最終的に椿の「朔にねがうことは山ほどあるけれども…「良い子」じゃなくたっていい。ただこの世界を生き延びてほしい」に尽きる。
標準モデルなんてどこにもいないんだから、ホント誰とも比べる必要ないんだよな。
主人公の椿が物の見方も考え方も人との付き合い方もフラットな人なので、どの登場人物と絡んでもその距離感がさっぱりとして気持ちいい。
最後に不意に訪れた朔の成長には泣かずにいられなかった。
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出奔した妹の子ども・朔と暮らすことになった椿。“普通”とか“常識”という周囲の見る目に抗いながら、決して育てやすい性格ではない朔の面倒を見る椿の姿がとてもいいと思った。
しかし、彼女のように内外に悩みを抱えながら、それでも他人を傷つけないように自分の傷は気づかないようにして生きるのは、この歳になってもなかなか難しい。彼女の心の内が描かれる文章に、グサグサと突き刺さるところが多くあった。(「フレーズ」に登録)
朔の性格をして物語の中では「発達障害」とか一切書かれていないところに、レッテルを貼って一括りにしたり自分と違う人は障害者にして分かった気になってしまう世の中に対する作者の思いを感じた。
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初めて寺地さんの本を読んだ。
読みやすかった。
家族であってもわからないことはたくさんあり、それが他人のことならなおさらだ。
自分の思っていることを、きちんと話していきたいと思った。それが自分の大切な人ならなおさら。
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寺地はるなさんの書く文章には背筋がのびるような一節が含まれている。
誰しも悪気はないのにきっと抱いてしまっているであろう、他人に向けた黒い感情。そこを素通りせずきちんと向き合った書き方をされる人だなあと思う。
今回も主人公の椿の言葉にハッとさせられた。「普段こんな風に人をみているかもしれない」と思ってしまった。私も椿のように立ち止まって考えられる人になりたい。
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常々、子供を実母が育てる健全さに悩んでいた。
母親がいない作品は多く、その方が子供は健やかに育つのではないかと。
母親への愛というのは、どんなに嫌なことをされても切れず、それはとてもつらいことではないかと。
破水をして病院で読み終わった。
子を産んで2か月たった今も、自分があの子を育てて大丈夫なのかと、不安に思う。
保険金を残して父と二人で生きた方がしっかりした子に育つのではないだろうか。
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出奔した妹の子供の面倒を見る独身の31才の椿。この子供の朔は発達障害のようでも有り、キチンとしたことができず、人の輪にも入れない。小学校に入学式してからも一層大変になる。母親は亡くなり、父は病がち。普通の感覚では全ての事にブチ切れてしまいそうになるが、椿は冷静に淡々と進めて行く。知り合いの家族を見て、なおさら子供を比較しないように気を付けている。少しずつ朔の成長を見守る椿が素晴らしい。
親に可愛がられていた妹に嫉妬していたが、妹からは逆の意見。本音をもっと早くからぶつけ合ったら、妹との和解も早く出来たのではと思ってしまう。希望が仄かに見えて来た結末に安心する。
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読みやすいタッチでありながら、色々と考えさせられる本。
タイトルと表紙だけをみると、「子育てに関する本かな?」と思ってしまうけれど、決してそうじゃなくて。
もちろん、どう子どもと接するべきかとか、子どもに関することが描かれていない訳ではないものの、どちらかというと、独身30代女性の機微だったり、一見確執が無さそうに見える姉妹関係だったり、現代の子育ての大変さを理解しない旦那だったり上司だったり。と、とにかく色々な問題に触れてくれています。
「生けていれば、いろいろある。どんな女にも、男にも。大人にも子どもにも。」(引用)という一節に頭がもげるかと思うほど何度も頷きました。
自分だけが不幸なわけではないし、自分から見れば相手の悩み事なんてちっぽけに見えることもあるかもしれないけど、本人は至って真面目に悩んでいて。相手からすれば答えは簡単に見えても、自分からすると全く簡単なことじゃなかったり。
子どもに関する本じゃないと最初に書いたものの、作品を通して、朔くんの不器用だけど真っ直ぐなところに救われます。
折に触れて読みたい本です!
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朔「おなかすいた」
椿「わたしもー」
朔が笑う
このシーンが、好き。日常のほんの些細なやり取りだけど。
守るべき優先順位を間違えない、と誓うシーンも印象的。
私の母が「子育てに正解はないのよね」とぽつりと言ったときのことを思い出した。
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『たぶん誰もが「どうしよう」とか「わからない」とか「もういやだ」とか、そんな気持ちを腕いっぱいに抱えて歩いている。後戻りができないことをみんな知っている。だから、進むしかない。』
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小山椿
三十一歳独身。文具メーカーの経理部に勤める。
鈴菜
椿の五歳年下の妹。朔を置いて沖縄に行った。
朔
鈴菜の子供。父親は誰なのか知らない。
椿の母
順子。祖母と同じ病気でこの世を去った。享年も同じ。
椿の父
製薬会社の役員。
須田高雄
椿の恋人。つきあって六年になるが、そのうち四年は遠距離恋愛。
アパートの大家
椿が心の中でマダムと呼んでいる。
ゆり
保育士の先生。
静原
椿と中学・高校と同級生だった。娘が朔と同じ保育園。
杉尾
椿の隣の席。
穂積
椿と同期入社。
愛結
静原の娘。小学校で朔と同じクラスになった。
管
朔の塾に通う三年生の母。
大洋
朔と同い年。
ユキ
大洋のお姉ちゃん。
木実香
高雄の妹。
真弓
高雄の会社の後輩。
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花が咲いているときだけ、わたしは桜を桜だと認識できる。桜は、一年中桜であるというのに。
たしかに、何か結果がでたりわかりやすいことが起きないと、物事の真髄に気づけない。人に置き換えると、きれいな花を咲かせる桜を持っていたとしても、花が咲く季節にならないとそれに気づけないということだ。
良い子とい表現が、(大人にとっての扱いやすくて)良い子から、私にとっての良い子(生きているだけで良い子)へに変わっていく過程を描く。
静原との会話で、強いかもしれない自分も傷つくし迷うんだと気づけたことがきっかけなのかなと思ったけど、ちょっとわからん。
解説のノーマの話(全ての平均値の身体の女性はいない)が印象に残る
Posted by ブクログ
母に「いい子にしなさい」「いい子にしないといけない」と言われるたびに子供の頃からずっと思っていた!
「それって親にとって都合のいい子でしょ?」って。
「良い子」の定義をこうして寺地さんが声高らかに描いてくれた事が今の自分の救いだ!