村上春樹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
第1部の最初の一行で、主人公は台所でスパゲティをゆでていました。「泥棒かささぎ」の序曲を口笛で吹きながら。
第3部を読み終えるまでは、これほど壮大なスケールの物語だとは予想していませんでした。主人公の岡田トオルはこれといった特徴もなく、国境を超えないし、戦地に赴くこともないし、物理的な移動距離はさほどないのですが、夢と現実、生と死の世界をさまよいます。クロニクル(年代記)とタイトルにあるように、過去の時代についても描かれ、戦争の残酷さ、理不尽さは読むのが辛くなりました。
戦時下、中国大陸にいた獣医は、思います。「世界というのは、回転扉みたいにただそこをくるくるとまわるだけのものではないのだろうか」と。
大きな喪失を体感した時は、すべての世界が閉じ、回転扉の別の仕切りの中に移動させられたような、まったく別の世界に放り出されたような気持ちになるのかもしれません。
でも、連続性がないはずの世界は、後の世代の岡田トオルに結び付き、輪のようにつながっているのです。
岡田トオルは、枯れ井戸の底の暗闇の中で、精神の深層世界を探ります。生死の境界へとさまよう旅は、痛く、苦しく、恐ろしくもありましたが、読書でなければ知ることのできない(現実にはしたくない)体験でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ悪が、純度100%の悪としては描かれず、
主人公に宿る悪(=スバルフォレスターの男)
免色に宿る悪(=スズメバチ、クローゼットの前に立っていた男)として、「普通の(免色に至っては普通以上の)善良な人間」にも宿る普遍的な悪(闇とも言い換えられる)を描いていたのが村上作品の中で新しいと思った。
ねじまき鳥クロニクルでは、
皮剥ぎボリスや綿谷ノボルなど、読者にとことん嫌悪感を抱かせる純度100%の悪が描かれていたが、
この作品の免色渉は、とにかく自制的でスマート。
私はすごく好感を持てるキャラクターだったな。
そんな人間でも、悪を抱えている(キリスト教でいう原罪)ということなのだろうな…
悪は外在して善と対立して存在するものではなく、
内在して善と混ざり合っているもの….ということか。
免色渉は、ダンスダンスダンスの五反田君に少し似ている。隙のない感じとか。
五反田君の方が若くて繊細で傷つきやすく脆く危うかったけど。死ななかった世界線の五反田くん。
あとあんまり関係ないけど、これ上下巻2冊でよくないか…???
4冊に分解する必要あった?