【感想・ネタバレ】騎士団長殺し―第2部 遷ろうメタファー編(下)―(新潮文庫)のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年03月06日

終わり方がとても好き。

ラストはみんながあるべきところに収まったという感じですかね。
あんなにいろんな事が巻き起こったのに、全部きれいにまとまって読後感がとても良いです。

顔長が出てきた穴に入った辺りから私の中ではジブリのような世界感で脳内再生され、一気に不思議の国に誘われた感じがしました。

...続きを読む登場人物クセがすごくてどうなのよ?と思うことも多かったけど、終わってみればみんな好き。

その後みんながどんな風に暮らしているのかまだまだ見ていたい気持ちにさせられました。

面白かったです。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年10月24日

最後の最後でついに内なる無意識の世界と現実世界が交錯して、世界観により一層引き込まれた。

フロイトによれば、人間は元来、内なる無意識の領域に性的本能や破壊本能といった原始的な衝動を秘めているが、その衝動は普段は自我や超自我の理性によって抑制されているという。
人間として理想的な姿になろうとすること...続きを読むで、即物的で衝動的な感情を押さえ込んでいるのである。
しかし、「無意識の中に潜む原始的な本能・衝動が自我や超自我の理性による抑制を超えたとき、世界は、人間はどうなるのか?」個人的には物語の主題の1つはここにあると思った。

「私」が本能的に雨田具彦の隠された絵を開いたこと、衝動的に免色と穴を掘り返したことを皮切りに、パンドラの箱を開けたかのように起こり始めたイデア界を巻き込む不可解な出来事たち。
妻に捨てられた嫉妬、人妻との刹那的な快楽、見知らぬ女の首を絞めたときの終末感、捕虜の斬首訓練、ウィーンで惨殺された恋人、忘れ得ぬ恨み。様々な人物の性的本能、破壊本能が入り混じる。

その中で、自己に潜む無意識は「白いスバル・フォレスターの男」や「クローゼットの前までやってきた謎の男」となって「私」や免色の前に現れ、徐々にその存在感を大きなものにしていく。

ここまで見ていくと、無意識=負の感情=イデア界、理性=現実世界だと錯覚しがちだが、実際は定義的に全く逆である。
プラトンによれば、イデアとは「あらゆる物事における完全で理想的な姿」であり、イデア界は理性を使う人が見る世界なのに対し、現実世界は感覚だけを使う人が見る世界、言うなれば不完全な像にすぎないものだという。(だから、イデア界、メタファーの世界では音も匂いも味も存在しなかったのかと納得した。)

きっとイデア界は、私たちが理性を意識せずとも使っているように、無意識の中に存在するのだろう。その静かな分水嶺が衝動的な行動によって破られたことで、2つの世界が入り混じった。
そしてその世界の交わりを分ち直すのもまた、衝動的な行為、言い換えれば人間的な感情だった。雨田具彦の宿敵に見立てたイデアを殺し、触れれば温かい妹との思い出を辿って
「私」はイデア界との繋がりに蓋をすることになる。
結局人は皆、美しい肖像画のような理想的な姿を追い求めようとも、本能や衝動には抗えない。でも、そういった未完成の肖像画のような感情もある種、人間を人間たらしめている素敵な要素のうちの一つである。拙いですがそう感じとりました。

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Posted by ブクログ 2023年08月04日

ノルウェイの森、海辺のカフカ、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド、街とその不確かな壁、ねじまき鳥クロニクル、を読んでから騎士団長殺しを読みました。この作品が一番好きかもしれません。色々な作品をよむと理解がふかまるってことかな、と思いつつ、まっさらな状態でも読んでみたかったと思いました。

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Posted by ブクログ 2023年07月17日

形あるものには時とは偉大なもの
時はいつまでもあるものとは限らないが、ある限りにおいては中々に効果を発揮する

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Posted by ブクログ 2023年04月07日

絵から出てきたイデアの騎士団長を殺したことにより、メタファーの世界への入り口が開かれる。それによってのみ姿を消した少女を見つけることができると言う。そこでの試練を乗り越えた先には。

メタファーの世界では、主人公の過去を辿ると言う感じ。つまりは、過去の自分を見つめ直すということを暗喩しているのだろう...続きを読むか。過去の自分を乗り越えた先に新しい自分があり、その象徴として姿を消した少女があるのだろうか。
時だたった少女にとっては淡い思い出にしかなっていないところからも、そんな感じに読めた。
そして、そんな試練を乗り越えたからこそ、妻との生活もやり直せることにやったんだろう。
また、妻の受胎も夢の世界を辿ってなったというところが、『1Q84』をオマージュしているのかなとも思った。他の作品のオマージュもあるかもしれないが、特に気づいたのはこれだった。

また、絵画が織りなす物語というが、絵画を描いているときには作者の思いがこもっているが、それをどう解釈するかは見る人次第であるので、ここから、このような物語が紡がれているのかな、っと感じた。

メタファーの世界で払った対価は、顔のない男の似顔絵を描くと言うことだったが、それは自分との約束なのかな。とも思った。また、それが、プロローグの謎なのかとも伏線が回収され、面白かった。

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Posted by ブクログ 2023年03月09日

私の心の問題かもしれないが、これまで村上春樹の作品でハラハラとした気持ちになることはなかった。
来るもの拒まずのような姿勢で文章を読み続ける、そんなイメージだった。
しかし本作に関してはどこかが違っていた。
特に騎士団長を殺める場面では、イデアとはされているが身体は生身の人間と変わりがなく、刺した感...続きを読む触も同様に生身の人間であり、少なくとも主人公は罪悪感のようなものを抱いてしまう。
特にそこから読み入るように作中にのめり込んでしまった。
締め方も綺麗だったため、とても後味が良かった。

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Posted by ブクログ 2023年01月25日

長篇の物語の終わりを最後まで読めてよかった。 哲学的な考え方を多くの人が持ち、言葉に出来る世界ってすごいのか、怖いのか。判断のつかないところではありましたが、スッキリとしました。

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購入済み

重みも厚みも関係ない

2023年01月01日

ハードブック、文庫本でなく、電子書籍なのがまず嬉しい。
重さ関係ない、厚み関係ない。気にするのはタブレットの電波と電池残量だけ。
移動時、スマホやタブレット、時間や場所に関係なく読める幸せ。
しおり機能もいい。何度も読んでかみしめてしまう本

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Posted by ブクログ 2022年12月10日

心から安心できる人と過ごす時間。
それは心の欠落を少しだけ埋められるような気がする時間。でも多分それは錯覚で、本当に必要なのは自分自身との対峙。
封印されていた穴は心の欠落だったのか?
潜在的な哀しみが鈴を鳴らしていたのか?
抱え続けた哀しみや辛さと対峙し、開放する時期が来たということ?
孤独の中で...続きを読む自分と向き合い、イデアと向き合う。
そして最後はイデアを殺し新しい自分を得る。

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Posted by ブクログ 2022年10月05日

メタファーもイデアも、メタファーとイデアとして存在していた。
そのことが従来の村上作品とは、一線を画す一作。
あるのかないのかわからない、無限に舞う紙吹雪の中から特定の一枚の紙を探すような頭の働かせ方ではなくて、たしかにこの中に探しているものがあるのだと思いながら読み進めることができるのはやはり安心...続きを読む感がある。
あるけれども見えなかったのなら、それは私の責任だし、見えなかったことを見えなかったままにすることが私は苦痛ではないので特に問題にはならない。
時々クスッと笑えるユーモアも散りばめられていて、エンターテイメント要素もしっかりある。
一気に読みました。

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Posted by ブクログ 2022年01月09日

村上春樹の長編にしては終わり方が“分かりやすく”、“綺麗に”終わっているように感じた。ここまで詳細にその後を描いた作品はあまり思い当たらない。

しかし、エピローグへと再び戻るようなっているのは秀逸だと感じた。

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Posted by ブクログ 2024年03月16日

賛否両論あるぽいけど面白かった

世界がいかに比喩で溢れているか
結局顔のない男は誰なのか?自分自身の投影なのか

自分が1番自分を分かっていない

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Posted by ブクログ 2024年03月14日

地底で別世界での冒険
それこそ
不思議の国のアリスのメタファー?

白髪の免色さんは、白うさぎのメタファー?
免と兎って字が似てるよね。

第一部のプロローグは
プロローグであり、エピソードなのかな。

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Posted by ブクログ 2024年01月23日

今までの村上春樹作品のいろんなものが詰まったような話だった。あちらとこちら側。何かを喪失したあと、それは今までの自分じゃない。受胎の場面。人間の持つ裏の側面。色んなことが起こるけれど、それでも人生は進んでいく。
それが洞窟であったり、騎士団長を殺し、洞窟の水を飲んだところだったり、夢の中でユズを妊娠...続きを読むさせたかもしれなかったり、白いスバルフォレスターの男だったり、最後のユズの子供を生むにあたっての言葉だったり。
話の殆どが小田原の山から出ずにここまで話を書けるのも凄い。
これで村上春樹の長編は全部読んだけど、また読み返したい作品がたくさんあるし、まだまだ新作も書いてほしいなあと思った。

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Posted by ブクログ 2023年12月24日

村上作品としては珍しく纏まったのではないか。元鞘に収まった、と——(夫婦愛の再生,そして新たな命の誕生)。私としては絶対"まりえ"と性交すると思ったんだけど…。最後はとってつけたように、東日本大震災を入れた意味とは?
ワクワク度的には第1部の方が上で、後半にかけて若干失速したかなという印象。でもまあ...続きを読む私は好きですね。

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Posted by ブクログ 2023年06月15日

うぅん…面白かったのか面白くなかったのか、よくわからない。。。
騎士団長とは何だったのか・・・
免色という男は何だったのか(主人公との対比で考えてみるといいかもしれない)。

ただ、時期を置いてもう一回読んでみたいと思う読後感を持たせるのは、さすがは村上春樹、と思う。

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Posted by ブクログ 2023年04月19日

騎士団長殺しの完結編。ある意味謎は謎のまま残されて完結する。それが村上春樹らしいといえばそうだし、ただ何となく円環を描いて元に戻った、ただそれは別の世界線であるというところがやや意外だったかもしれない。
完璧だけどそれがゆえの二重性や恐ろしさを抱える免色と、留学時代の闇を抱える画家の雨田、胸のことを...続きを読む気にする秋川まりえ、そして死んだ妹を追い続ける主人公。
過去や記憶を巡るのはいつも通りだと思いつつも、東日本大震災が最後に登場するところから、途中でプロットが変わって何かを起こすことをやめたような印象を受けた。
それにしても秋川まりえの胸の話はややくどいのではないか。ネタなんだろうけど。

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Posted by ブクログ 2023年04月12日

温かな空気に包まれている間に脳内を心地よく浸し、軽微な振動でもって心の奥がほぐされる、この余韻は何だろう。

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Posted by ブクログ 2022年01月14日

あらすじ
妻との離婚話から自宅を離れ、友人の父親である日本画家のアトリエに借り暮らしすることになった肖像画家の「私」は、アトリエの屋根裏で『騎士団長殺し』というタイトルの日本画を発見する。
アトリエ裏の雑木林に小さな祠と石積みの塚があり、塚を掘ると地中から石組みの石室が現れ、中には仏具と思われる鈴が...続きを読む納められていた。
日本画と石室・鈴を解放したことでイデアが顕れ、さまざまな事象が連鎖する不思議な出来事へと巻き込まれてゆく。

感想 村上春樹らしい小説。娘の母とどうなったかな。

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Posted by ブクログ 2021年12月24日

2~3冊目は話がどこに向かって進んでいるのかがわからなかったせいか、中だるみ感があったが、4冊目で話が急に展開して、楽しくなった。

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Posted by ブクログ 2024年04月10日

肖像画家の「私」のもとに、イデアが形を変えた騎士団長が現れた。どうしたらいいか聞いたところ、午前中の電話に断るなと言われた。

雨田から電話が来た。認知症の父に会いに行くと言う。そろそろ危ないと言うから。「私」はついて行った。

ファミリーレストランに入ったら、スバルのフォレスターがあった!

有名...続きを読むな日本画家、雨田具彦(ともひこ)の施設に着いた。施設で具彦に話しかけていたら、息子の雨田に電話かかってきて外に出て行った。

騎士団長がいた。騎士団長を殺さなければならないと言う。それが第二段階。第一段階はまだ騎士団長殺しの絵を見つけたということである。

雨田具彦の彼女が拷問で死んだ。彼自身も拷問を受けた。そのため、何もいえなかった。心の傷を受けた。

「私」は逡巡の末、まりえを取り戻すために騎士団長を殺した。

顔なががでた!穴から引きずりだした。
メタファーだった!見たものを書く。「こみちさんといったかな?」背筋が凍った。それは「私」の亡くなった妹の名前。なんでーー!怖い!

顔長がでてきた穴に入った「私」。懐中電灯を持ってあるく。川の水を飲んだ。

男がいた。顔がなかった!背が高い。帽子をかぶり、コートをきていた。ペンギンのキーホルダーのかわりに橋渡ししてもある。

カンテラと絵の女性がいた!狭い横穴に入ることになった。「自分を信じるのです」無と有。なんなのー。目を逸らさない

穴を頑張って外に出た。
すべては相対的なものなのだ。

まりえも帰ってきた。2人で騎士団長殺しとスバルフォレスターの男の絵をしまった。

まりえは免色さんの家に三日間いたという。勝手になかに入った。

「私」の以前の妻はまだ離婚届を出していなかった。なぜー。誰の子供かわからないという。今のパートナーとは別れていた。相手は納得していなかったけれど。そりゃそうだろうよ。

「私」は以前の妻の元に戻った。誰の子供かわからないけれど、生まれた女の子がムロと名付けられ、育てることになる。保育園へ送っていく。

東日本大震災の様子が描かれた。津波がやってきた。なぜここでその場面が出てくるんだろう。スバルフォレスターの男をテレビで見かけたと言うことも書かれていた。

以前住んでいた家が焼き落ちてしまった。騎士団長殺しも焼かれたと言うことになる。

何が伝えたいことなのか。すごく難しい小説だった。最初に書かれていた顔のない男とペンギンのキーホルダーの約束はこのあと起きることなのか。描かれていなくてわからなかった。

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Posted by ブクログ 2024年03月24日

他の村上春樹作品と比べてどうなのか。読みやすくはあるが、ストーリーのパンチ力が少し落ちてきている?と思った。

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Posted by ブクログ 2024年02月09日

はじめて村上春樹の長編を読んだが終わり方がなかなか難しく、解釈が正しいか分からない。世の中にはイデアやメタファーのように形はないけれど確実に存在しているものが沢山あってそういったことを文学に落とし込んでいるのかなと思った。また、まりえや室の血縁をはっきりさせないことと、事実であっても親が子に津波の映...続きを読む像を見せないことは似た心理がある気がして興味深かった。知らない方がいい事、濁していた方がいい事ってあるよね。信じたい方を信じていた方が救われたりもする。

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Posted by ブクログ 2023年11月18日

海辺のカフカ以来の長編。
独特の比喩と非現実的表現は相変わらず難しい。
でも、なんとなく面白かった。

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Posted by ブクログ 2023年07月15日

免色さんが作った至高のオムレツを食べ、免色さんがいれた紅茶を飲みながら、免色さんが切ってくれた林檎を食べたい。

柚の言動が目にあまる。

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Posted by ブクログ 2023年06月11日

(以下、全4巻通じてのレビュー)

過去作との共通点というか、焼き直しのような点が少なくない。
雑木林の石室は『ねじまき鳥クロニクル』の井戸を彷彿とさせるし、地下の世界へ迷い込む件りや、第二次大戦での暴力、夢の中での性行といった要素もいくつかの作品で出てきている。
秋川まりえのキャラクタは、『ねじま...続きを読むき鳥…』の笠原メイと『1Q84』のふかえりのブレンドのようにも思えるし、「免色」は『色彩を持たない多崎つくる…』をどうしたって連想してしまう。そもそも、彼のような、どうやって暮らしているのかわからないとんでもないお金持ちってキャラも、村上作品には必ずといっていいほど登場する。

この小説で、新規性があってユニークなのは、主人公が絵描きを生業としていて、絵を描くプロセスや絵描きの頭の中を、小説の表現として見事に結実させているところ。これには感心させられた。

特に前半部分のオカルトっぽさの発揮も村上春樹にしては珍しい。深夜に鈴の音が聞こえるあたりは背筋が冷たくなる肌触り。「白いスバル・フォレスターの男」のサスペンス性も印象深い。

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Posted by ブクログ 2022年06月30日

全体的にやや説明的過ぎるかもしれない。(個人的解釈ながら)深遠なテーマに対して表現手段としては好き嫌いが分かれよう。3巻までは着地点が想像つかぬままワクワクしながら読んだが、まりえが失踪した時間軸における主人公の過ごした超越世界(イデア)に対して、まりえが過ごしたのは免色の家(現実世界そして騎士団長...続きを読むという名の少しのイデア)という設定には、作者の明確な意図を感じる。つまりは現実は想像と錯覚の賜物であると。イデアがメタファーとなって現実世界を規定し、現実世界の二重メタファーがイデアを通じて再度現実世界を規定する。現象は現象として存在するのみで、それを世界として認知するのは単に人間のイデアの仕業であると。

要素として、アンシュルスの話を盛り込んだり、量子論的な観点でイデアとメタファーの対を説明してみたり、これまでの作品では見られなかったまりえの帰宅やユズとの復縁があったり、色々興味深い事柄は多いものの、個人的な好みとしてはほか作品と比べるとやや劣る印象であった(もちろん小説としては非常に面白い)。

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Posted by ブクログ 2022年04月10日

イデアやメタファーについて聞いたことがある程度で読んでたので、もっと知見があれば面白く読めたのかな?

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Posted by ブクログ 2022年02月11日

久しぶりに村上春樹を読んだ。

読むのがしんどいと言うイメージだったけど、これはわりとすらすらと読めた。

とても興味深い話でありながら、よく分からない話でもある。

私の文学性がたらないからだろうか?
ても、とにかく読んでよかったと思う。

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Posted by ブクログ 2022年01月19日

暗い穴を長い時間をかけてくぐり抜ける。読者も主人公と同じような気持ちになってくる。
そして最後は人生論のようになる。

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Posted by ブクログ 2023年07月08日

全編を通じての感想。

これまでの村上春樹作品と比べると、村上春樹的なエッセンスを浅く広くすくい取って編み出したような作品に思える。長編小説の前作「1Q84」に比べると、明らかにあっさりとした味付けに感じた。
村上春樹自身はこの作品を「村上春樹入門」のようにするつもりで書いたのではないか。
まるで、...続きを読むベテランのロックバンドが、若い新しいファンを獲得するために自分たちの「色」を少し薄めて、分かりやすくして送り出した楽曲のようだった。

そのような意味で、初心者が初めて試す村上春樹、としてはある程度よくできた作品に感じるけれど、重厚で長大な小説を期待して読んだ自分には少し肩透かしを食らったように感じたね。
ノーベル賞候補になるほどの70歳のベテラン作家に、新しい読者を獲得するような試みが果たして必要なのかよく分からない。


細かいところで残念だったところは2点。
村上作品によく出てくる、物語の本筋とは直接関係のない説話(「1Q84」のギリヤーク人のエピソードなど)が少なく、また印象に残るものがなかった。
余計な一言、と思うような表現がいくつかあった(電話機で写真を撮ることについてのくだりなど)。

反対に、個々の比喩の表現は相変わらずさすが、と思うもの多数。美しく希望があって前向きで読後感はよいけれど、「村上春樹ってやっぱり売れたいんだな…」とも思う一作。

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