岸本佐知子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ初めは読みづらかったけど、後半になるにつれ止まらなくなった。
自分の子どもの頃の、湿った手のひらに匂い玉がくっつくことや額に張り付く髪の毛や、セーターが首にチクチク当たることや鼻水が出てくるのにティッシュもハンカチも持ってないと気付いたときのことや、そういった些細な、ネガティヴな記憶が蘇った。
終始熱に浮かされてるような感じ。訳者あとがきにもあるように、「天才作家」と呼びながらも実はこれっぽっちもそんな事思ってない主人公の自我が滲み出る仕組みになっている。
渦中ののシーンは、冗談で終わらせようとしてたのはエドウィンの方で、それを許さず天才作家の人生を完成させたかったのはジェフリーなのかなとか思うとぞっとした。
ラストの、マルハウス一家の後に越してきた家の少年に興味を抱いて終わるのも怖い。
-
Posted by ブクログ
ちょっと奇妙な日常を舞台にした16編の短編集。
人はあまりに長く孤独でいるとおかしなことをしてしまう。トンチンカンな挙動をしたり、そうでなければ思いに捕らわれて固まってしまったり。そんな日々の些細なことを連ねて物語の骨格ができている。個々の出来事はたいしたことではないけれど、反応としての行動から、本人にも無自覚に心の動きが語られていく。どんなふうに物語をまとめ上げているのか不思議に思える作家の技。ああ、あるあるこういうこと……と共感するところ大なのだけれど、いかに孤独すぎる人の挙動を熟知しているかがバレるので、人に読んだ読んだと言うのは恥ずかしかったりする。
しかし、孤独な人は絶望の淵に沈んでいるわけではない。川底を歩いている。時には差し込む光に手を振ったり、スキップしたりすることだってあるーーという感じがした。 -
Posted by ブクログ
ある日の午後,車でFMラジオをつけると,作家と翻訳家の会話が流れてきて,翻訳の苦労話などとてもおもしろくて聴き入ってしまった.あとで番組表を調べて見ると,作家は西加奈子さん,翻訳家は岸本佐知子さんだった.
というわけで岸本さんのエッセイを読んでみた.本を読んでこんなに笑ったのは久しぶり.この方の周りでは常に何か変なことが起こっているような錯覚を引き起こす.ほとんど自虐ネタで,妄想の虜になって,一般世間とずれが生じるというパターン.それと言葉の音に対する感覚が独特で,これまた妄想のネタになる.私はこれを電車の中で読み始めてしまい笑いをかみ殺すあやしいおじさんになってしまった.こういうハチャメチャぶりは山下洋輔以来かな.そうすると,岸本さんも傾倒していらっしゃる筒井康隆つながりもでてくる.
私もときどき使う私鉄のO線の話「キテレツさんたち」.私もキテレツさんを見てみたいが,残念ながら私には見えないらしい.
ラジオでも話題になっていた,ニコルソン・ベイカーが読みたくなった.この本のそでの著者紹介には「あんな本を訳したのは,やっぱりこんな人でした」と書いてある. -
Posted by ブクログ
こんなに笑えて、こんなに寂しく苦しい物語は初めて
ミランダ・ジュライの短篇は、出来る事なら気づかないふりをしていたいような、心の奥底の孤独感や悲しさを、笑いながら軽やかに、残酷なくらい鋭く、容赦なく掘り出していく。
とぼけているような、ユーモアたっぷりの軽やかな語り。でも絶望的に悲しいのだ。
独り言のような面白い独特の文章なので、原文が気になってそちらも読んでみた。ストレートで乱暴な性描写や表現も、よりサラッと乾いた印象。語りも、よりクールでシュールな肌触りがする。全編を通して、訳文のほうが女性的な感じかな。どちらもいいので、どちらもお勧め。
-
Posted by ブクログ
確かに禅問答のような、詩のような。不思議な感覚になる。
今のところ中でも、「大学教師」という話は意外に!うなずけた。
女がカウボーイと結婚したいと思い込む。ほぼ話はカウボーイと結婚したらという妄想で続く。カウボーイと結婚して暮らしたらきっと馬具に油を塗ったり、素朴な料理を作るのだろう・・・・と。でも女は思う。もしカウボーイと結婚することになったら夫も連れて行こうと。
たぶんこれが夫婦なんだと思う。お互いが一部になって自分でもあり伴侶でもあり一対にいつしかなっているんだと思う。
村上春樹的にいえば「100%の女の子に出会う」というのに近いのではないかと強く思った話。 -
Posted by ブクログ
寝るためのひとり尻取りから脳内論争が勃発。
ゴキブリが怖いのはその見た目、感触、そして味。
人々の願い事を覗き見る七夕観測が好き。
人々が殺到する福袋は兵器になるのでは。
コピーの一文字埋めクイズで間違えるマイナーな人々。
夜中の3時に訪れた小さな客人。
食べながらスキップするとおいしくなる説。
翻訳中のニコルソン・ベイカーの作品の機微。
ちょっと変わった翻訳家の妄想エッセイです。
ブックデザイン:田中一光/片山真佐志
カバーイラスト:土谷尚武
薬関係のコマーシャルで悪い部分をちょっと残す、
私も気になってたんです!歯磨き粉のCMとか。
あと絶対全員正解するだろう、っていうクイズに
間違えちゃう人々の存在とか。
わかるわかる、と思いながら読めるエピソードと
この人の頭の中を覗いてみたいと思うエピソードと
半々くらいで飽きさせません。 -
Posted by ブクログ
視点をほんの少しずらすだけで、見慣れた日常が急に奇妙に見えてくるエッセイ集。臓器が喋り出す満員電車、擬人化された瓶、テレビから飛び出した天気予報の棒グラフを切り取る話など、どうやったら思いつくのか分からないアイデアの飛躍を楽しんだ。
一方で裁縫セットや針通しの刻印みたいな、普段は言葉にならない小さなものまで言語化されているのも面白い。
読んでいて自分の側でも考えが動き出した。人は言葉の定義なんて深く考えず、割とバイブスで使っているのではないか。「会う」というとき、同じ喫茶店に居合わせた客とは会ったことにならないのはなぜか。ついでに、フィーチャーをフューチャーと言う人はなんとなく信用できない、という自分の感覚にも気づいた。岸本さんはさすがにフィーチャー派だった。
話はオチなく飛散していくので、読んでいる間は「これ面白いのか?」と自分でもよく分からなかった。でも読み終わると、ずらして考えること自体の面白さが残った。