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一篇読むたびに本を置いて小さくうなり、深呼吸せずにいられない。
このように書く作家はほかにはいないと、何度でも思う。
――訳者あとがきより
中学でスペイン語を教える新米女性教師が、
聡明な不良少年のティムにとことん振り回される(「エル・ティム」)。
夫を失った傷を癒やすために訪れたメキシコの小さな漁村で、
女がダイビングを通じて新たな自分と出会う(「すべての月、すべての年」)。
世界中で驚きと喜びをもって迎えられた、至高の短篇集。
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Posted by ブクログ
彼女が執筆した全76篇の短篇のうち65篇を岸本氏が訳したもののうち、19篇を収めた短編集。
順番としては「掃除婦のための手引き書」が先だったようだけど、私はこちらが先だった。まあ、短編集だし独立しているし、順番は関係ないか。
最初の2篇を読んだあたりでは「なるほど。おしゃれ。」程度で、少し時間が経つと思い出すのがしんどくなるくらいの印象でしかなかった。
そこからもう数篇読み、ルシア・ベルリンの語る語り口に慣れてくる頃になると、この作家のすごさが見えてくる。
表題作を読むあたりでは、岸本氏が後書きで「そして文庫の帯で」書いているように「一篇読むたびに本を置いて小さくうなり、深呼吸せずにはいられない」という状況がやってくる。
「なるほど。すごい。」に変わる。
どれも、とても平易な語り口で読みやすい。
だからファーストインプレッションは、さっきも書いたとおり、軽い。
ただ、よくよく読んでいるとそうではない。
一人称を中心に、個人の主観を語る中で語り手の人となりを、その人間性を深くから描き出す一方で、その姿を客観的に見たときの第三者的な違和感を実に見事に表現している。
客観的に見たら明らかにおかしい(あるいはおかしくない)のに、主観的にみたらまったくおかしくない(あるいはおかしい)というギャップ。
これが物語に強い陰影を与え、読む側はずいぶんとそのギャップにはらはらさせられる。
読むのを止められなくなる。
もう一つ、特徴的なのは、独立した、そして孤独な人間が中心に据えられていること。
そして上記の主観云々も関連するのだけれども、本人はそれを孤独だとも悩みだとも思っていない。
ただ客観的な我々読み手は、主人公から強い孤独さを感じずにはいられず、そこになんとも言えない感情が生まれる。
これもまた、すごい。
アルコール依存の女性が登場する物語がとても多く、これはなにを意味しているのだろうとずっと考えていたのだけれども、これは筆者本人がアルコールと戦ってきたということが反映されているのかな。そこからなにかを表現しようとしているのかもしれないけれども、そこは今回私の読み方では見いだせなかった。
例の孤独さを強調しているような役割は感じられたけど。
読むのが辛くなるような展開のものもあるけど、でもどれもものすごく秀逸。素晴らしい。
掃除婦〜も読んでみようと思う。
Posted by ブクログ
以前、『掃除婦のための手引書』を読んだ時に、いずれはこちらも、と思っていた。どちらの短編集も著者自身の人生経験の豊かさが、題材と詩情の豊穣さに結実している。
主人公はしばしば学生、看護師、電話交換手、子育てに忙殺される主婦である。それら全てが彼女の人生の諸相だ。ところが小説家だけは登場しない。そこは客体化したことがないのだろう。それとも私が知らない作品にあるのだろうか。
いずれにせよ登場人物たちの日常が生き生きとして楽しげであることに読者は安心する。それほど彼女の分身たちは我々に愛されているのだ。本書の最後ではついに全てから解放された70歳の老女役で登場する。トレーラーハウスの屋内で、病気のために酸素ボンベを持って移動するという、彼女の終末の姿そのものだ。しかし難病にもめげない朗らかさにホッとさせられた。
Posted by ブクログ
・『アメリカ文学最後の秘密』と言われるルシアベルリン
・昔、本好きの同僚のお勧めで購入した『掃除婦のための手引書』が切っ掛けで知り、数年経って改めて読みたくなりこちらを購入
・彼女の人生は、経験の幅広さと苦労に特徴付けられると思う
>1936年アラスカ生まれ、2004年に亡くなる
>鉱山技師の父親の元各地を転々とした幼少期
>教師、掃除婦、電話交換手、看護助手など多くの仕事を経験
>アルコール依存症、脊柱側弯症に苦しむ、など
・10~40ページ程度の短編集、全19編
・①電話交換士、教師など自身の経験に基づくと思われる題材 x 純文学的ストーリー、②寄り添い/暖かさと突き放し/冷たさの共存、③独自の比喩表現、が彼女の唯一無二さの根源かなと思う
>「彼はひどくゆっくりエンピツ削りをまわし、ドラムをブラシで撫でるような音を立てた。」
>「エロイーズはそれを自然界の現象のように思い出した。小さな地震や、夏の日に吹きすぎる風のように。」
>・・・思いつきそうで思いつかない、ありそうでなかった輝く様な素敵な表現が沢山
・自分の世界観が優しくリセットされる様な読後感・・・という感じかな
Posted by ブクログ
ルシア・ベルリン(1936-2004)は米国の短編作家で、存命中に大きな評価は得られず、没後10年を経て米国版『掃除婦のための手引き書』(43編収録)が再評価につながったとのこと。
邦訳が岸本佐知子さん。日本では分冊発行され、日本版同書(24編収録)未収録の19編を、別タイトルで刊行したのが本作だそう…。またやっちまいました泣、第2弾から読むヤツ!
北米や南米を転々とし、3度の結婚・離婚、4人の息子を単身で育て、職業も教師、掃除婦、電話交換手、看護助手などを経験。アルコール依存症に苦しむなど、波瀾万丈で濃い人生だったようです。
作品と著者の経歴は無関係でしょうが、経験は大きく影響を与えるでしょう。彼女の多くの短編小説の大半は、自身の体験に根ざした小説とのこと。
なるほど主人公の職種を始め、内容は自伝と創作の境界が曖昧で、それ故か人物像や情景がリアルに立ち上がります。作りものではない人間の性(さが)や生きることの過酷さが凝縮され、熱量が直に突き刺さる印象です。
飾らない言葉や筆致…孤独や病気や死が身近、湿り気のない乾いた土地の匂いを中心に、文体の簡潔明瞭さ、ユーモアセンスが(良い意味で)特異で、不思議な余韻を実感するも、個人的な好みで評価を下げてしまいました。
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小説・文芸
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