岸本佐知子のレビュー一覧
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いちばん早いと思ったレジが、最も遅くなる。
買ったばかりの服のボタンが、初めて着ようとした時に、ぶらぶらになって垂れ下がってる(しかもそこそこ高いやつ)。
家庭科の授業で配られた裁縫セットの中にあった、アルミの円盤部分に、なぜかローマ皇帝の横顔みたいな模様がある、針穴に糸を通すための道具のような、間がもたない気がしてついつい入れてしまった飾りが、心の琴線に触れる。
上記について、すごい、私の心が読まれてるよ。
なんか分かってくれる人がいる!
と、思わず心の中で快哉を叫んでしまった。
ダースベイダーも夜は寝るのだろうかと考えることや、アロマを嗅ぐ時の「くんかくんか」って表現は私のツボに -
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翻訳家として活躍する岸本さん。
エッセイストとしての評価も高い。
エッセイがうまい女性の書き手には、昔から妙に憧れてきた。
独自の感性を持った、自立した女性という感じを持っていたのだ。
古くは片山弘子、向田邦子、竹西寛子。
しかし、岸本さんはちょっと毛色が違った。
――面白すぎるのだ。
「ごわす様」がやってきて、アロマテラピーなどの素敵生活を一瞬にして無化する。
いや、普通の人はそれを「我に返る」と言うのだろう。
それを擬人化する。
しかも、「ごんす」「がんす」「やんす」「でげす」という兄弟分までいるという。
この想像力!
コップで牛乳を飲むとき、表面にできる影が怖かった幼少期。
私はそ -
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「恋愛」ではなく「変愛」…変わった形の愛が描かれたアンソロジーです。
面白かったです。
ディストピア文学が大好きなので、「形見」が好きでした。工場で作られる動物由来の子ども、も気になりますが、主人公の子どもがもう50人くらいいるのも気になりました。色々と考えてしまいます。
「藁の夫」「逆毛のトメ」「クエルボ」も良かったです。藁の夫を燃やす妄想をしたり。クエルボはラストは本当に名の通りにカラスになったのだろうか。。
多和田葉子、村田沙耶香、吉田篤弘は再読でしたがやっぱり良いです。
岸本佐知子さんのセンス好きです。単行本から、木下古栗さんの作品だけ再録されなかったようですが。
表紙の感じに既視感が -
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ある種妄想の世界に生きる43歳の女シェリルと、その前に現れる最強最悪の「現実」クリー。よくある女性2人の分かり合いの物語ではなくて、変化、変化、変化。2人の関係はひたすらに変化し続ける。避ける、闘う、愛し合う、あらゆる剥き出しの感情の表出だ。そして見えていないものが見える。職場の人物。セラピスト。恋愛。あまりにも入り組んでいて話の流れとして読みやすいとはいえないけれど、最初に感じたあまりの嘘くささ(現実との乖離)から、最後には滅茶苦茶な現実が輝く。エピローグの輝かしさ。
主人公にどことなく共感してしまう。ぜんぜん違う性格だし考え方も違うけれど、その人生回避の姿勢に。しかし彼女はぐちゃぐちゃでは -
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ネタバレnetflixのドラマのようにゴクゴクと読んでいけちゃう喉ごしでありながら、しっかりと人間のアブない深淵を覗かせてもくれる一冊。笑い、泣き、慄きました。
個人的に一番キてるな〜と思ったのは、シェリルが玄関でカタツムリ百匹ぶちまけながら自慰にふけってしまうシーン。その後人間同士の関係は驚くべき変化を遂げていくのに、カタツムリは後半に至ってもまだ屋内を這っていたりする。また、クリーが去った後もしばらく彼女の搾乳したミルクがジャックに与えられ続ける描写などもあって、一瞬で変化する物事とマイペースに連続性を保った物事との対比が面白く、もの悲しい。
奇妙な筋立てにリアリティーを与える細かな描写もいち -
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ずっとじわじわと感じていたのは恐怖だった。
今わたしは主人公たちの孤独を想像出来ないほど子供でもなく、人生楽しいから大丈夫!と笑い飛ばせるほど「将来」の近くにもいない。
大人になっていくということが、今の孤独をより深めていくことだとしたら?
そんな恐怖で、読むペースはいつもより遅かったように思う(純粋に表現が好きで読み込んでいたこともある)。
読み終わった今、どんな話か一言で、と言われたら
「泣き疲れて眠るような」と答えたい。
救いはないとしても、明日が来て何が変わる訳でもないとしても、今夜はとりあえず、おやすみ。
そんな小説だと思った。
朝寝坊して、致命的ではないけど初歩的で鈍臭いミ