岸本佐知子のレビュー一覧
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ハードな人生、タフな登場人物。軽やかに乾いた文章。ユーモアや余裕も絶妙に漂っていて。とてもカッコ良い短編小説たち。
何度目かに読んだときから、これは彼女の人生で体験してきた「あきらめ」の上で物語られているのではないか、というような気がしてきている。
不条理な世界、ままならない人生、過去のやり直せない過ちや消えない傷を受け入れる。「悔いるのをやめる。」一度あきらめる。そのうえで、それでも、ハードな人生をタフに生きていく、生きてきた。その人生から慎重に切り取られ、誇張を加え作り話混ぜ合わせ紡いでいく。そうやって書かれる短編小説は、きっと彼女と同じようにとても強い。そんな印象を受けた。
あきらめることで手に入れられるもの、そうすることでしか手に入れることが出来ない強さやしなやかさ、余裕が、ものにできない短編小説があるのだ。そんな風にも思った。「あきらめ」以外にも相応しい言葉があるかもしれないし、的外れかもしれないけれど、幾つものことをあきらめてしまった後にはそんな風に読んでいた。ああ、まだ大丈夫なのかもしれない、と思えた。わたしもこの強さや余裕を手に入れられるだろうか、手に入れたいと思った。
どの短編小説も素晴らしかったのだけれど、冒頭の初めて読んだ彼女の小説で、すぐに大好きだ、と思えた「エンジェル・コインランドリー店」。
これもJAZZだった。JAZZみたいにロマンチックだ、と思った「ソー・ロング」。オーネット・コールマンのファイブスポットでの初演奏の一文にビックリしつつ嬉しくなった。
刑務所での文章教室を舞台にした大好きな短編小説があるのだけれど、同じように文章教室を舞台にした「さあ土曜日だ」も素晴らしくて、同じように大好きになった。ここでは珍しく作家を思わせる登場人物は語られる側で、文章教室で習ったのか綺麗に哀しいオチもつくのだけれど、それでもやっぱり彼女の人生から物語られた素晴らしい短編小説だと思えた。が、特に好きでした。
「全ての月、全ての年」も近いうちに再読したい。 -
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岸本佐知子さんの編んだ書き下ろしアンソロジー、タイトルに惹かれてまず読んだ津島佑子の短編「ニューヨーク、ニューヨーク」が素晴らしかった。読みながら、読み終わってから、幾つものことを思った。
「ニューヨークのことなら、なんでもわたしに聞いて。それがトヨ子の口癖だった、という」冒頭のセンテンスを読んで、わたしも数年前の夏に数冊の本を読むことで行ったことのない「ニューヨークのことはもう分かった」と嘯いたことを思い出す。そこには彼女がニューヨークを思うのと同じように個人的で特別な理由があったのだけど。
その後に元夫と息子がこの世にいない彼女について語り合うことで明らかになり“発見”される、今まで知り得なかった「彼女の孤独や哀しみやささやかな矜持や希望」あきらめ、恨み、失望は、編者あとがきで岸本さんが書いているように「私たちみんなが心の奥に抱えているもの」なのだと思えた。少なくとも、わたしは同じようなものを抱えていた。改めてそれらを見つめることになる。さらにその語り合い、解釈を通して「なにか肝心なものが欠けた存在」では、と思いはじめる元夫、名無しの“男”の人生に自分を省みて、思い出し落ち込み、わたしも「少し涙ぐむ」。
そして、もういない人を語りあうこと、あるいは不在になったときに語られることについても考える。別の方向からの印象を聞き、ぶつかり合いすり合わされることで、新しい印象が浮かび上がる。それは勿論“正解”ではないのだけど、新たな、あなた、わたしが描き出される。何処までいっても憶測でしかないそれを、真実とその人自体だと思い込む、そうせざる得ないことは、実はとても恐ろしいことなのではと思い至る。しかし、人も含めた世界はそうやってしか捉えることが出来ないのなら、それは真摯に語られるべきだ。この小説のように。そんなことを少しこじつけて思う。とても素晴らしかったけれど、予想していなかった怖い思いもした短編小説だった。太宰治の娘だということはさっき知った。「電気馬」も読んでみたい。 -
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作品紹介・あらすじ
水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教えようとする娘(「水泳チーム」)。英国のウィリアム王子をめぐる妄想で頭がはちきれそうな中年女(「マジェスティ」)。会ったこともない友人の妹に、本気で恋焦がれる老人(「妹」)-。孤独な魂たちが束の間放つ生の火花を、切なく鮮やかに写し取る、16の物語。カンヌ映画祭で新人賞を受賞した女性監督による、初めての小説集。フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。
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けったいな一冊、って印象。奇談、というわけでもなく、前衛的ってわけでもなく、虚実入り混じった印象でもなく。荒唐無稽な話でもなく、あくまでも現実に即した話なのだけれど、ちょっとどこか変。最初はあまりシックリこなくて「あれ、失敗だったかな」と感じたのだけれど、読んでいくうちにドンドンとこの底なし沼みたいなけったいな世界にズブズブと浸ってしまった。
僕はあまり読書体験が豊富な方ではないので、断言はできないけれど、この短篇集に収録されているものと似たような作品を書いている人を知らない。唯一無二という意味でかなりユニークだと思う。仮に「小説の書き方」みたいなマニュアルがあったとしたら、そのマニュアルを完全に度外視して自由奔放に書き連ね、でも作者自身はそれを全く自覚していない、そんな感じ。読み手側からしたら、好き嫌いが明確に分かれるんだろうな、と思う。
僕は気にならなかったのだけれど、レズビアンが結構な頻度で登場するし、時にストレートな性表現がでてくるので、そういうのが苦手は人にはちょっと辛いかも。 -
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先日読んだ吉田篤弘さんの『おかしな本棚』に登場した1冊。
翻訳家でありエッセイストということでありますが、面白すぎて声出して笑ってしまいました。中でも岸本さんが洋酒メーカーでPR誌の仕事をしていた時のライターさんの事をかいた『ヨコスカさんのこと』と『「国際きのこ会館」の思い出』は爆笑でした。これを読んだら国際きのこ会館に宿泊してみたい!と思って検索したら今はもう閉館しているようでショック(TT)
このエッセイの中にも気になる作家さんと小説が紹介されていました。吉田知子さんの短編集『箱の夫』。そして村田喜代子、奥泉光さんなど私の存じ上げない作家さんもいつか読んでみたいです。
岸本さんの第二弾のエッセイ『ねにもつタイプ』は講談社エッセイ賞を受賞しているようなので期待が高まります。是非読まねば! -
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〈読まずに読む〉とは
「文字を読む」と「先を読む」の組み合わせ。
この興味深い読書会を覗き見できるのが本書であり、笑いたい時にぴったりな本だと私は思っています。
登場人物に勝手にニックネームを付けちゃったり、各々が持ち合わせた情報から推理しつつ皆さん好き放題言ってて(特に三浦しをんさん)、電車では読めないレベルで笑えます。
読後の読書会の模様も描かれているので「罪と罰」のネタバレありですが、読んだことのない「罪と罰」を読んでみたくなります。
「本は読まなくても読める」
「読む前から“読む”は始まっている」
「小説は、『読み終わったら終わり』ではない」
という言葉が素敵だなと思いました。 -
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独裁者が誕生する様子や、同調圧力に流される集団心理などが、ブラックユーモアで語られる寓意に満ちたディストピア小説。
国民が、一度に一人しか住めない極小国と、その周囲を取り囲む大国の物語。ある日、大国の国境警備員が巡回中に、小国からの侵犯を発見。騒動を大国の論理を押し付けて収めたのは、たまたま近くのカフェにいた中年男のフィル。この男、脳がはずれて地面に転がるたびに熱狂的な演説を繰り返し、次第に民衆を魅了していきます。対して、この男が独善的な要求を小国に突き付けるたびに、小国は疲弊していき……という話。
脳がはずれると書くと、面喰らいますが、そもそも登場人物たちが荒唐無稽・奇妙奇天烈な容姿なため、決してグロテスクに感じることはありません。それより”脳みそ空っぽ”の人が、私的な感情のこじれから暴走し、隣国の生活基盤の破壊から虐殺にいたる過程や、国境を紐に例えて、自他を線引きする様は、風刺の効いた現代への警鐘ともとれました。ラストを読むと、まだまだ平和な世界は遠いことを示唆しているようで考えさせられました。
正誤(2刷)
単行本あとがき3行目:
コロラド鉱業大学→コロラド鉱山大学
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おそろしいことに気がついた。岸本佐知子さんのエッセイ集で未読のがなくなってしまった。これから何を楽しみに生きていけばいいのでしょう。…あ、『わからない』って新刊が出てるみたい。
■簡単なメモ
【意識的にオフにする】耳と脳をつなぐ回線を意識的にオフにする。おお、それはやったことがなかった。いろんなものをオフにして楽しんできたけど。今度試してみよう。戻れなくなったらどうしよう。
【一週間】一週間の歌はたぶんみんなへんやと思ってると思う。
【ガミネタ】「ガミネタ」って何?
【気になる部分】そこだけが気になり全体が見えなくなるというのはけっこうあったりします。「それ」が本体のように思えてきます。
【猿の不安】ここはもしかしたら架空の世界かもしれないという不安はけっこう多くの人が抱いたことがある不安かもしれません?
【サントリー】著者が勤務していたという洋酒メーカーはサントリーやと思う。「やってみなはれ」
【笙野頼子】前から読もうと思いつつなかなか手が出ない作家。岸本さんオススメのようなので思いきって手を出してみるか?
【透明人間】文楽の黒子になったらかえって目立ちそう。
【萩の月】有名な仙台銘菓。今はどうかしらへんけどいっときは仙台行ったらなにはともあれ萩の月の確保が最重要クエストやった。
【ひとり尻取り】だんだんルールが増えていって二進も三進もいかなくなった架空のゲームはたうさんあります。
【一人の男が飛行機から飛び降りる】バリー・ユアグロー著。岸本さんの1996年のベスト3に入ってるそうです。ぼくもちびちびと読みました。というか、一気に読もうとしたらけっこうしんどいです。
【ビラびらしたやつ】江戸の火消しが屋根の上で振り回してるアレ。ぼくもずっと疑問に思ってます。
【双葉状の突起物】赤塚不二夫のマンガの人物の口の中についている。そういやニャロメの絵を描くときなんかに必ず描いていたなあ。まあ、舌なんでしょうけど。今でもニャロメとケムンパスとべしは上手に描けます。
【ベイカー】ニコルソン・ベイカー。とりあえず『中二階』と『室温』は読んでみようと思いました。
【ホクロ】社長の額の真ん中にあるホクロ。押すのを我慢してた岸本さんのようですが、ホクロではないのですがボーッとしてるときに押してはいけない突起物を押してしまい、平謝りに謝ったことがあります。
【ポジティブ・シンキング】まあ、食傷気味ではあります。
【マイナーな人】負け組? さあ、それはどうでしょ。超勝ち組もまたマイナな人でしょう。
【マタンゴ】子どもの頃、恐怖に震えた。
【ミルハウザー】ミルハウザーは読んだことのある作品は全部好きなので岸本さんの訳した『エドウィン・マルハウス』も遠からず読みたいと思います。
【ヨコスカさん】不思議な人です。
【吉田知子】前から読もうと思いつつなかなか手が出ない作家。岸本さんオススメのようなので思いきって手を出してみるか? -
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翻訳者でありオモシロ幻視者でもある岸本佐知子のエッセイ集。
先月小川洋子の『原稿零枚日記』みたいなのが読みたいと思ったとき、なんで岸本さんのエッセイじゃなくてリディア・デイヴィスを選んだんだっけ。『サミュエル・ジョンソンが怒っている』も面白かったので全然いいのだが、謎の遠回りをした気もする。
「ねにもつタイプ」のシリーズに表れでる妄想癖は、思いっきりパラノイアックに描けばサイコホラーにもなると思う。そういう日常が歪みだす異次元に繋がる穴を、ドロップを舐めながら木の棒でツンツン突いて遊び続けてるのが岸本さんって感じがする。老いを感じるエピソードも多いのに、全部がボンヤリと"そういう性格"に回収されていって不思議な楽観主義に包まれてしまう。岸本さんは根暗を元気にしてくれる。 -
Posted by ブクログ
このところ忙しくて、隙間時間にさっと読めるものを……と選んだエッセイ集、面白かったです
連載エッセイの文庫第三弾、ということですが、私はこの本が初めまして
サラッと淡々とした語り口なんですけど、連続で読むと想像以上にどっしりと重いというか、脳を使うような濃厚さがあります
本当に数話読んでちょうどいいような読後感
でも、一話一話を読んだ限りではそんな風には感じないんですよね
なんでしょうこの感覚、不思議です
自身をぐうたらのダメ人間として描いてらっしゃるのですけど、それが営業的なビジネスぐうたらでなくて、本当に自然なノリのナチュラルぐうたらとして描かれているので、嫌悪感なく親近感と共に読み進める事が出来ました