岸本佐知子のレビュー一覧
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いままで読んだことのないタイプの小説群だ。荒っぽく、むきだしで、パンク。しかも状況の把握がすぐにはできない。何度も行きつ戻りつして、読み進む。最後は、人生の理不尽さが出てくるものの、言いようのないふしぎな感動に襲われる。
鉱山技師の子としてアラスカに生まれ、子どもの頃はアメリカ各地やチリを転々とする。その後3度の結婚、4人の子ども。教師、掃除婦、電話交換手、看護助手、大学教員、そしてアルコール依存と慢性の肺疾患……作品の底流にあるのはこうしたキャリアと体験だ。
この本のラストの作品は「巣に帰る」。冒頭にカラス、終わりもカラスが登場。描かれているのは、人生と反実仮想。ルシア・ベルリンその人が少しわかったような気がする。
岸本佐知子さんの訳のうまさにも脱帽(文庫版では、スペイン語の発音ミスが修正されていた)。 -
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ネタバレ目次
・エンジェル・コインランドリー店
・ドクターH.A.モイニハン
・星と聖人
・掃除婦のための手引き書
・私の騎手(ジョッキ―)
・最初のデトックス
・ファントム・ペイン
・今を楽しめ(カルぺ・ディエム)
・いいと悪い
・どうにもならない
・エルパソの電気自動車
・セックス・アピール
・ティーンエイジ・パンク
・ステップ
・バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)
・マカダム
・喪の仕事
・苦しみ(ドロレス)の殿堂
・ソー・ロング
・ママ
・沈黙
・さあ土曜日だ
・あとちょっとだけ
・巣に帰る
・物語(ストーリー)こそがすべて リディア・デイヴィス
初読みの作家でしたが、思った以上に楽しめました。
ほぼ作者の体験に根ざした作品らしいが、その経歴がまた想像以上。
貧困家庭で家族に顧みられないまま育ち、学校ではいじめに遭い…からの地理の上流階級へと跳ね上がり、女手一つで4人の息子を育てながらアル中になり、刑務所で創作を教え、最終的にはコロラド大学の准教授から、闘病生活へ。
家族を顧みない父、二人の娘を見守ることのないアル中の母、妹だけを可愛がる祖母、作者を可愛がるが性的虐待をも与えるアル中の祖父、家族の中で唯一作者の理解者であったアル中のジョン叔父。
悲惨ともいえる家庭生活以外では、学友たちにいじめられ、先生からは疎まれて、それでも親友ができた。
死期の近い妹の世話をするために仕事をやめてメキシコに立ち、クローゼットのように狭い小部屋に住んで、最後のひと時を家族の思い出話で過ごす。
妹は妹で、彼女のことを羨んでいた、と。
悲惨も絶望も残酷もあるのに、決して湿っぽくはない。
何ならクスッと笑えるところもある。
それは作者が、そうやって生きてきたからだろう。
日本の私小説は、自分の奥深くへ潜っていくような息苦しさがあるが、彼女の書く小説は世の中や時代に即して、ある。
どんなにつらいときでも目を、耳を、閉ざすことなく世の中とつながっている。
だから読者は、作者から拒絶されたと思わないで読み進めることができる。
最近読んだばかりのせいか、こうの史代みたいな読み心地に感じられた。 -
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翻訳家、岸本佐知子のエッセイ、本の書評、実録日記。
この方を存じ上げないまま、タイトルと表紙の絵が気になり、パラパラと流し読みして面白そうだと思い読みました。
どこでとははっきり分からないけれど、読んでいるうちにだんだんと、この人って魚座っぽいな〜と思っていたら魚座だというフレーズがあり、やはりと思いました。
取り上げる題材、書き方、時折り挟まれる夢の話や荒唐無稽な話、それに対する著者の感じ方とその描き方などから、畏れ多いながらシンパシーを感じました(私と同じ!というわけでは決してなく、捉え方に親近感がわくところに)。
実際はきっともっときちんとされている方なのでしょうが、いい加減さが良いさじ加減で出てくるあたり、魚座みを感じます。
そう感じたこともあり、とても読みやすく楽しいエッセイでした。書評されていた本はどれも(と言うと誤解を招きそうですが)興味をそそられて、ぜひ読んでみようと思いました。
本屋で見かけた女学生の話が好きです。
ストーカー風な振る舞い(笑、そこから怒濤のオススメ海外文学レファレンス (ただし心の中で)が面白くて、「○○の話してたよね、そんな貴女には△△!」という流れを全て読んだ後に、めっちゃ話聞いて様子を見ていたんやなぁ…これはギリアウトでは…?と微笑してしまいました。でもお勧めされた本どれも面白そうでした。
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ネタバレたった一行にも満たないものから数十ページになるもの、物語というよりは断片としか形容できないものや、特殊な形式のものまで、作者が『短編小説である』と断ずるこの作品集には一見どうやって読めばいいのか戸惑ってしまうような短編が多数収録されている。
正直自分の知識と感性の未熟さで楽しみきれなかったものもあるけれど、全体としてすごくスリリングで、こちらが読もうとすればするほど冷静で淡々とした文章の奥から物語がとめどなく溢れてくるすごい本だった。
比較的長めの作品なら、執拗なまでに細かい描写と事実を淡々と書き連ねた文章を追う内に胸が痛くなるほどの激しい感情が湧き上がってくるし、極端に短い作品ならば、そのたった数十から数百字に込められた意味を見つけようとする内に思いがけない場所へ辿りついて驚きと喜びにおそわれることになる。
本を読むのって楽し〜〜〜を実感させてもらった。 -
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はじめは、フーンこれがなんか色んな人が大絶賛の本か。なるほどなかなか読ませますなという感じで読んでいたのに、一編読み終えるごとに夢中になっていった。
あれ?あの話の彼女はこの人?この体験はあの体験のこと?というか、これ全部繋がってる……?
短編集というよりは自由な章立ての長編のような……作家自身の体験と深く結びついた物語が、ひとつ、またひとつ自分の中で繋がるほどに引き込まれていく。印象的なメロディーを繰り返しながら盛り上がっていく音楽みたいに。
読み終えた時には、一人の女性の人生――痛みと喜び、幸と不幸、激しさと静けさ、深い傷と赦し――が、確かな色と、音と、匂いを持って立ち上がってきた。
その迫力。
それでいて読み心地には常に達観したような軽みがあるのだ。素晴らしい体験だった。 -
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彼女が執筆した全76篇の短篇のうち65篇を岸本氏が訳したもののうち、19篇を収めた短編集。
順番としては「掃除婦のための手引き書」が先だったようだけど、私はこちらが先だった。まあ、短編集だし独立しているし、順番は関係ないか。
最初の2篇を読んだあたりでは「なるほど。おしゃれ。」程度で、少し時間が経つと思い出すのがしんどくなるくらいの印象でしかなかった。
そこからもう数篇読み、ルシア・ベルリンの語る語り口に慣れてくる頃になると、この作家のすごさが見えてくる。
表題作を読むあたりでは、岸本氏が後書きで「そして文庫の帯で」書いているように「一篇読むたびに本を置いて小さくうなり、深呼吸せずにはいられない」という状況がやってくる。
「なるほど。すごい。」に変わる。
どれも、とても平易な語り口で読みやすい。
だからファーストインプレッションは、さっきも書いたとおり、軽い。
ただ、よくよく読んでいるとそうではない。
一人称を中心に、個人の主観を語る中で語り手の人となりを、その人間性を深くから描き出す一方で、その姿を客観的に見たときの第三者的な違和感を実に見事に表現している。
客観的に見たら明らかにおかしい(あるいはおかしくない)のに、主観的にみたらまったくおかしくない(あるいはおかしい)というギャップ。
これが物語に強い陰影を与え、読む側はずいぶんとそのギャップにはらはらさせられる。
読むのを止められなくなる。
もう一つ、特徴的なのは、独立した、そして孤独な人間が中心に据えられていること。
そして上記の主観云々も関連するのだけれども、本人はそれを孤独だとも悩みだとも思っていない。
ただ客観的な我々読み手は、主人公から強い孤独さを感じずにはいられず、そこになんとも言えない感情が生まれる。
これもまた、すごい。
アルコール依存の女性が登場する物語がとても多く、これはなにを意味しているのだろうとずっと考えていたのだけれども、これは筆者本人がアルコールと戦ってきたということが反映されているのかな。そこからなにかを表現しようとしているのかもしれないけれども、そこは今回私の読み方では見いだせなかった。
例の孤独さを強調しているような役割は感じられたけど。
読むのが辛くなるような展開のものもあるけど、でもどれもものすごく秀逸。素晴らしい。
掃除婦〜も読んでみようと思う。 -
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何かの記事で、ダ・ダ・恐山さんがこの本を「面白かった」と言っていた、と思う。あやふやな記憶で購入した。
岸本佐知子さんの本は初めて読んだ。
ユーモラスな文体で軽やかだけれど、自虐的な何かも大いに含んでいて、楽しく読む一方で自分の過去の恥ずかしいあれこれが呼び覚まされたりした。あんなことしなきゃよかった、『常識』って難しい、というような。ちょっと痛痒さを伴う共感を覚えつつ、私のあれこれも軽やかな文体で記録したら少し面白くなるかなと考えた。
挿絵がかわいい。私が読んだのは文庫だけど、装幀・挿画をクラフト・エヴィング商會が担当していると知り「単行本買えばよかった…!」と思った。