岸本佐知子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
狐に摘まれたようなとはこの読後感にピッタリの感想だろう。物語があるわけではないが、作品ごとに読者である私が受け取り紡ぐ、あるいは想起される出来事が不思議と湧き起こる。ここまで読者に意図的に委ねられている小説は初めて出会ったと思う。
特に今の自分に印象深いのは、「肉と夫」の夫への諦観と突き放し、「私たちの優しさ」の夫の矮小さ、甲斐性なさ、「グレン・グルード」の妻の焦燥感、輝かしい過去への憧憬といったところかな。自分の心情や状況にリンクしてしまう。
読む年代や置かれている状況によって一番刺さる作品は違ってくるに違いない、それほどまでに懐の広い作品群になっている。たった数ページで人間、社会の本質をつくを一文に出会ったらかと思ったら、幻想のように脳裏を掠めていく。去年他の短編小説も白水Uブックスで刊行されているとな。手に取るしかないとな。
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Posted by ブクログ
半泣きのような、半笑いのような。一編を読むごとに、きっとヘンな顔になっている。
ゾクゾク、ゾワゾワして、しんとする。僕の中の埃が溜まったへこみを押し開けて、入り組んで届きにくいカーブに指をぴたっと添わせてグイグイ突いてくる。
なんともイタ気持ちいい読後感。しばらく動けない。
ギュッと腕を身体に巻き付けて、バラバラに解けてしまいそうな自分の形を保つのに必死なとき。一緒にベッドに潜り混んでいる人の寝顔が、見知らぬ他人だと思うとき。バスタブの中で息を止めて、「ねぇ、私は悪くないよね」って呟くとき。
そんな危うい瞬間を潜り抜けて、残念な今日とウンザリな明日を生きていく誰かさんに、奇妙な回線で、接続してしまった。
『水泳チーム』
“朝起きるとわたしはまず思った。ー きょうは水泳の練習の日。それ以外の日は、朝起きると思ったー きょうは水泳の練習のない日。”
圧倒的な孤独の中に消失してしまいそうな自我をかろうじて繋ぎ止めるために、わたしは「水泳コーチ」という役割を進んで引き受ける。
教え子の老人達もまた、何もないちっぽけな町の中で耐え難く老いていく自分に抗うように、水泳の練習に打ち込んでゆく。
例えそれが、水を張った洗面器に顔を沈めて、手足を床の上でバタバタさせるだけだとしても。
アスリート特有のピュアで滑稽な真剣さを共有した素晴らしいチームを、後年に彼女はジョークにできない。
“もしあなたがこの話をおもしろがるような人だったら、わたしだってとっくに話してただろうし今もまだあなたと付き合っていたかもしれない”
悲しみと共に、アパートで泳ぐ老人のイメージが心に焼き付く。一番大好きな物語だ。
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Posted by ブクログ
ネタバレ描写力がすごい。キャッチャー・イン・ザ・ライみたいな多くの人がぶち当たるある時期の感情のもつれとかとは違ってターニングポイントにすらならずに忘れ去られた子供時代をよくあそこまで表現できるなと思った。
----ここからネタバレ----
エドウィンが撃つフリして目を開けたことによって安堵するよりも伝記を書くためのプロットを完成させることを厭わなかったジェフかなりやばい
あと表向きには多くの人が忘れ去ってしまった子供時代の感性を忘れることなく保ち続けたエドウィンの人生と作品話なんだろうけど、ジェフがそこから外れることを許さなかったという感じがするんだよなぁ
ローズ・ドーンやアーノルドからの影響を危惧してたり、恋に落ちたとなれば相手が誰かと気にしたり…
ジェフが、エドウィンがこの世を去ったあとも揶揄われ続けてるような気がするの、自分が書いた伝記をエドウィンにほらみろって見せられないからじゃないのか
途中途中に出てきたエドウィンが伝記を嘲笑する描写に本人の前じゃなくて作品のなかで反論してたからずっとモヤってるんやろ? -
Posted by ブクログ
ネタバレ岸本佐知子さんが某洋酒メーカーを辞めて翻訳家となり何年か経った33~39歳の時のエッセイで、最初のエッセイ集がこの本です。
しょっぱなから、「リニアモーターカーは根性とか念力で動いている」と密かに感じているとのたまう岸本佐知子さん。
最初のエッセイを最後に読むことになってしまったが、この本も、岸本ワールドが期待できそう♪と確信。
とは言え、遠慮して抑えている感も伝わってきて、円熟した岸本ワールドをさらけ出すまでには至っていない。
一番面白かったのは、新書版で追加された最後のエッセイで、これだけが2006年(46歳)に書かれたものだから遠慮なく自由だ。
一度も会ったことのない川上弘美さんとの思い出話を詳しく書いている。
差し向かいで飲み屋でお酒を飲んだこと、歳も住まいも違うのに小学生の時同級生だったこと、高校の時も同じクラスにいたこと。
その時々の様子が鮮明に記憶されていて、絶対にあり得ないことが具体的に次から次へと思い出され筆が止まらない。
岸本さんのエッセイは楽しい!
ロールシャッハ・テストの絵がどれも「骨盤」に見えてテストにならない。
「お騒がせ」を「おさがわせ」と言う人がかなりいることに密かに気づいた。
人体で不要なもの、男の乳首問題。「乳首あてゲーム」という使い道くらいしかない。
売れ残り商品を完売させるには「福袋」にすればいい。
一卵性双生児の片方に素敵な名前を、片方にひどい名前をつけたら人間性に違いが出るか?
大人になってやらなくなることは、スキップ、ジュースのストローをブクブク吹く、月に向かって懐中電灯を照らす、クワガタに触った手を嗅いでみる、
まあ、こんな話題で埋め尽くされている。
"気になる部分"は、どうでもいい「部分」ばかりで、
トラックの車輪の後ろにぶら下がっている、あのビラビラしたものや、
ダイヤル式の電話の指止め金具や、
勤めていた会社の社長の額のホクロや、
工場見学に行った時の天井のパイプなど。
新書で200ページは少し物足りないが、期待どおり面白かった。
だけど、これで、楽しみに残しておいた岸本佐知子さんのエッセイがなくなってしまった。
これからしばらくは、何冊か残っている三浦しをんさんだな(^^♪ -
Posted by ブクログ
ロシアものは自分に酔う
こんな本読んじゃってる自分を想像するだけで満足してるかもしれない。
何冊か読んで途中棄権してる本もあるが、罪と罰も上下巻で揃えて読むタイミングを逃している。
そこにこの本があると知り、こちらを読んだら読む気になるのか…?なんて
ちょっと遠回りしてみることに。
結果、四人の読書会がエッセイのようでもあり
とてもハマってしまった。
作家さん達であるから、書き方や持って行き方なんかも自分と比較したりする、そんな会話もめっちゃ楽しい。
罪と罰を普通に読んでいたらこうは思わなかったと思う。
ロシアものは難解だ
だって人の名前も日本人にはとっつきにくい発音(発声)
それでいてあだ名が二つ三つ出てきたり
例えば、太郎さんを、父は太郎兵衛と呼ぶがははあはタロちゃんと読んだりする、それが物語の中で出てくると同一人物なのかなんだかわからないまま読んでいてなんだそうか!というのがある。
ドストエフスキーをドストと言うこの四人。
ああ、そんな感想持っていいのか、私だけじゃなかった、などなど
共感に溢れてこれから罪と罰、読むより楽しみが増した。 -
Posted by ブクログ
ずっと気になってたミランダ・ジュライ。
U-NEXTのポイントは書籍に使ってくことにしたので、
初の長編小説という今作を読んで見ました。
いや〜マジでよくこんな話を思いつくなと。
もうひたすら面白かったのは2人が取っ組み合いを始め、
そしてビデオを模倣して絡み合うようになる展開。
結局、ここでクリーがふいに口にするセリフが
意味深なタイトルになってるとこも本当にイケてる。
シェリルは私の頭の中で完全にエイミー・アダムスだった。
たぶん「メッセージ」の印象かな。
シェリルが自己完結してて閉じてる故に
押しの強いクリーやフィリップスに対して受動的であることが
結果的に頭のおかしい展開を作り出し、
ある意味、夢見てたものを得る結果になる。
ぜんぜん自分と属性の違うシェリルなのに、
まさにその受動性や自分の確信が揺らぎ、
他者に巻き込まれて納得してく感じに
切なさややるせなさを感じつつも、
確実に強くなってるとも思えるからおもしろい。 -
Posted by ブクログ
予備知識なしで読んだ。自分が普段わりと静かな作品を読むので、最初は面食らった。少年漫画さながらのバトルシーン。途中一瞬任侠感のある言い回しも出てきて、海外小説で任侠って、と笑えた。
それにシェリルの妄想の産物、クベルコ・ボンティなる奇妙な赤ん坊。千と千尋の神隠しの坊みたいで、登場するたびに坊がしゃべってるように思えてならない。
シェリルの奮闘は滑稽でエキサイティングで勢いでどんどん読み進められる。怒涛の出産シーンにはハラハラした。
ジャックには深い愛情を注いでいるがほとんど自分の内で対話しており現実には話しかけていなかった、とシェリルが気づいたとき、読者である私も、シェリルの内側(ほとんど妄想)から現実を見ていることに気づいた。
エピローグのジャック視点から見る2人に、なんだか泣けた。良かったねシェリル。 -
Posted by ブクログ
映画「君と僕の虹色の世界」「The Future」そして、短編集「いちばんここに似合う人」、ドキュメンタリー「あなたを選んでくれるもの」で、ちょっとイタイ・なんかズレてるこじらせアート女子による、抜群のセンスを見せてくれたミランダ・ジュライの待望の長編小説です。
や、もうこれ、文句なしの傑作で、そのこじらせと妄想が100倍にスケールアップしていて、私は女子ではないんですが、なんかおんなじようなこと考えてる人いるのか!と感情移入しすぎてページ進まないので困りました。松岡茉優の「勝手に震えてろ」も名作でしたがこじらせと妄想はミランダが圧倒的に上です。容赦なくこじらせてます。世界の40代女子のこじらせを一人で引き受けて、まるで「地球のみんなオラに元気をわけてけろ」と孫悟空が元気玉を集めて放つ時のような超エネルギーを爆発させてます。
主人公シェリルの一人称小説で、もはやミランダ本人の私小説といっても過言ではなく、どこまでも赤裸々にそしてカオティックに散乱するディテールの集合体なのですが、内に籠りすぎたエネルギーが容量オーバーで爆破してしまい、溢れんばかりのエモーションをこちらにぶつけて来ます。
ここに書かれているのは、個人的ななにかではなく、おおきな全体のような気がしてなりません。たとえばドストエフスキーのような全体です。それは小説が根源的にもっている本質のことです。
ボリス・ヴィアンとミシェル・ウェルベックがマウンテンハウスで相談しながら女性になりきって書いたみたいな本作は、ミランダ・ジュライのミランダ・ジュライによるミランダ・ジュライとちょっと変わり者と言われる我々のための小説です。猛烈にお勧めします。タイトルについては読めばわかるんですが、センスがありすぎる。