【感想・ネタバレ】いちばんここに似合う人のレビュー

あらすじ

水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教える娘。英国のウィリアム王子をめぐる妄想で、頭がはちきれそうな中年女。会ったこともない友人の妹に、本気で恋焦がれる老人――。強烈な個性と奇妙な優しさに満ちた16の短篇を、物語の声にぴったりと寄り添う岸本佐知子訳で。フランク・オコナー国際短篇賞受賞。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

半泣きのような、半笑いのような。一編を読むごとに、きっとヘンな顔になっている。
ゾクゾク、ゾワゾワして、しんとする。僕の中の埃が溜まったへこみを押し開けて、入り組んで届きにくいカーブに指をぴたっと添わせてグイグイ突いてくる。
なんともイタ気持ちいい読後感。しばらく動けない。

ギュッと腕を身体に巻き付けて、バラバラに解けてしまいそうな自分の形を保つのに必死なとき。一緒にベッドに潜り混んでいる人の寝顔が、見知らぬ他人だと思うとき。バスタブの中で息を止めて、「ねぇ、私は悪くないよね」って呟くとき。
そんな危うい瞬間を潜り抜けて、残念な今日とウンザリな明日を生きていく誰かさんに、奇妙な回線で、接続してしまった。

『水泳チーム』
“朝起きるとわたしはまず思った。ー きょうは水泳の練習の日。それ以外の日は、朝起きると思ったー きょうは水泳の練習のない日。”
圧倒的な孤独の中に消失してしまいそうな自我をかろうじて繋ぎ止めるために、わたしは「水泳コーチ」という役割を進んで引き受ける。
教え子の老人達もまた、何もないちっぽけな町の中で耐え難く老いていく自分に抗うように、水泳の練習に打ち込んでゆく。
例えそれが、水を張った洗面器に顔を沈めて、手足を床の上でバタバタさせるだけだとしても。

アスリート特有のピュアで滑稽な真剣さを共有した素晴らしいチームを、後年に彼女はジョークにできない。
“もしあなたがこの話をおもしろがるような人だったら、わたしだってとっくに話してただろうし今もまだあなたと付き合っていたかもしれない”

悲しみと共に、アパートで泳ぐ老人のイメージが心に焼き付く。一番大好きな物語だ。


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2023年10月28日

Posted by ブクログ

他人の生きざまを知るということが、これほど自分を、そして自分と関わってくれるすべての人を救ってくれるとは。孤独に、けれど「何か」を追い求めるそれぞれの主人公が、目の前を通り過ぎていく。私には彼らが何をしたいのか、何が目的なのか分かっている。自分のことは分からないくせに。
それでも、そのヒントを垣間見た気がする。今日も、いちばん「ここ」に似合う人として、生きていこうと思う。

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2015年11月25日

Posted by ブクログ

​プロット、表現、文の瑞々しさが素敵。
そして、ここでその言葉をこう並べるんだ、こう入れてくるんだ、みたいな楽しさ。
内容は、孤独で、愛が欲しくて、大半の人からはちょっと引かれてしまうであろう人たちのお話。
だけど結局みんなこんなもんでしょ。みんな痛々しい大人だ。誰だって誰かに引く権利なんてないのだ

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2014年10月19日

Posted by ブクログ

読んでるうちにどんどん感情が湧き出ててきて心が引き裂かれる思いがした。でも読み終わった後に「でもあまりに寂しい。確かにこれが人間だが、私はこれだけの人間を見たくない。」もうお腹いっぱいしばらく結構。と感じたのは何故か?
何故ならこれは私たちが目にしたくない部分だからだと感じた。ここに私自身見ないふりしていた「痛み」があったから。私は、Mr.ピープスにいたあの女の子であると同時に、そんな世界はまるでないかのように暮らす男でもあるのだ。
見ないふりはもうやめようかなあ。例え頭痛が絶えなくても、この痛みは私のものなんだから。

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2014年08月22日

Posted by ブクログ

理不尽でとりとめのない、およそ自分の現実からは離れたストーリーなのにああそうそうと思うところがたくさんあった。読んだ自分のその時の感情も反映されて、印象深い一冊になった。

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2014年01月18日

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世間一般の普通から少しズレた人たちの孤独が描かれていて、そこなら抜け出したいんだけど、結局は孤独な場所に戻ってくる。みたいなお話が多かった。

映画も凄いけど、小説も凄かったなー。才能豊かな人だなー、と感心。

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2025年04月14日

Posted by ブクログ

作品紹介・あらすじ

水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教えようとする娘(「水泳チーム」)。英国のウィリアム王子をめぐる妄想で頭がはちきれそうな中年女(「マジェスティ」)。会ったこともない友人の妹に、本気で恋焦がれる老人(「妹」)-。孤独な魂たちが束の間放つ生の火花を、切なく鮮やかに写し取る、16の物語。カンヌ映画祭で新人賞を受賞した女性監督による、初めての小説集。フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。

*****

けったいな一冊、って印象。奇談、というわけでもなく、前衛的ってわけでもなく、虚実入り混じった印象でもなく。荒唐無稽な話でもなく、あくまでも現実に即した話なのだけれど、ちょっとどこか変。最初はあまりシックリこなくて「あれ、失敗だったかな」と感じたのだけれど、読んでいくうちにドンドンとこの底なし沼みたいなけったいな世界にズブズブと浸ってしまった。

僕はあまり読書体験が豊富な方ではないので、断言はできないけれど、この短篇集に収録されているものと似たような作品を書いている人を知らない。唯一無二という意味でかなりユニークだと思う。仮に「小説の書き方」みたいなマニュアルがあったとしたら、そのマニュアルを完全に度外視して自由奔放に書き連ね、でも作者自身はそれを全く自覚していない、そんな感じ。読み手側からしたら、好き嫌いが明確に分かれるんだろうな、と思う。

僕は気にならなかったのだけれど、レズビアンが結構な頻度で登場するし、時にストレートな性表現がでてくるので、そういうのが苦手は人にはちょっと辛いかも。

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2024年09月22日

Posted by ブクログ

孤独は孤独なりに繋がろうと、不器用に生きる人たち。この本が人気ってことは不器用に生きていて慰めを必要としている人が多いってことだ。この事実が、私をまた慰めてくれる。私はこの辺のバランスをうまくとれる方だと思うし慣れてしまったからさほどこの本を必要としていない。でも、この本を読むべき人はもっと多くいるはずだ。諦めたからこその光。

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2023年03月19日

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孤独で優しく不穏な短編集。何と表現したらよいか迷う短編ばかりですが不器用で純粋な登場人物たちにはどこか共感してしまいます。時折挿入される愛のシーンも寂しい気持ちになります。

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2023年01月04日

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80歳を過ぎた老人に海もプールもない土地で泳ぎを教えた経験を語る女性の話とか、あり得ないようでいていや、あるのかもしれんな…と思わせるようなユーモアと魅力があって、息抜きに読むにはちょうどいい。比較するにはポップ過ぎるけど『ワインズバーグ・オハイオ』を思い出した。

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2022年04月15日

Posted by ブクログ

読書会の課題図書。
ジャームッシュの初期の映画を見ているような。
エイドリアン・トミネの「サマーブロンド」とか、映画で言うと「ゴーストワールド」を彷彿とさせる。
一時期の村上春樹さんもちょっとこういう感じだった。
レーモンド・カーヴァーを初めて村上さんの訳で読んだときと似た感覚。
だが、それから21世紀になり、よりより閉鎖的な気分になってるんだなあ、と。
その中でも泥の中の蓮、という気分にさせてくれるものもあれば、そうでもないものも…。

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2021年02月28日

Posted by ブクログ

面白かったです。
ミランダ・ジュライは初めて読みました。岸本佐知子さんの訳も読んでみたかったです。
人々の関わりが濃く描かれていますが、ひどく孤独を感じました。濃密であればあるほど、独りで立っていました。
この感覚は親しく思います。楽しく会話してても、ひとり、ということをまざまざと突き付けられることはよくあります。
「何も必要としない何か」がすごく好きでした。
これからも読んでいきたい作家さんです。
岸本さんはエッセイを面白く読んでいたばかりでしたが、訳書も文章が生き生きとしていて好きです。

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2019年10月25日

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登場人物たちの孤独に揉まれて飲み込まれて息苦しいのに不快じゃない不思議な感覚。特に「モン・プレジール」と「あざ」が印象に残った。

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2018年11月25日

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ずっとじわじわと感じていたのは恐怖だった。
今わたしは主人公たちの孤独を想像出来ないほど子供でもなく、人生楽しいから大丈夫!と笑い飛ばせるほど「将来」の近くにもいない。
大人になっていくということが、今の孤独をより深めていくことだとしたら?
そんな恐怖で、読むペースはいつもより遅かったように思う(純粋に表現が好きで読み込んでいたこともある)。


読み終わった今、どんな話か一言で、と言われたら
「泣き疲れて眠るような」と答えたい。
救いはないとしても、明日が来て何が変わる訳でもないとしても、今夜はとりあえず、おやすみ。
そんな小説だと思った。

朝寝坊して、致命的ではないけど初歩的で鈍臭いミスをして、3人で話していたら自分がふと発した一言にほかの2人が黙り込んでしまって、スーパーで半額の弁当を取ったら知らないおばさんに舌打ちされて、しかもそれはそんなに好きでもない惣菜で、家族に電話したら誰も出なくて、友達とのLINEはすべて私が最後で止まっていて、そんなことが積み重なって、とどめに足の小指を椅子にぶつけて、どうしようもなくやるせなくなった将来のわたしへ。
これをもう一度読んでください。

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2023年04月18日

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ネタバレ

面白かったです。人生に行き詰っている人が主人公。
性的描写が多かったですね。エロティックではなく
他にどうしようもなくそこに行きついてしまったような
エンディングのお話たちでした。

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2017年06月18日

Posted by ブクログ

ちょっと奇妙な日常を舞台にした16編の短編集。
人はあまりに長く孤独でいるとおかしなことをしてしまう。トンチンカンな挙動をしたり、そうでなければ思いに捕らわれて固まってしまったり。そんな日々の些細なことを連ねて物語の骨格ができている。個々の出来事はたいしたことではないけれど、反応としての行動から、本人にも無自覚に心の動きが語られていく。どんなふうに物語をまとめ上げているのか不思議に思える作家の技。ああ、あるあるこういうこと……と共感するところ大なのだけれど、いかに孤独すぎる人の挙動を熟知しているかがバレるので、人に読んだ読んだと言うのは恥ずかしかったりする。
しかし、孤独な人は絶望の淵に沈んでいるわけではない。川底を歩いている。時には差し込む光に手を振ったり、スキップしたりすることだってあるーーという感じがした。

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2016年08月17日

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 設定や状況がへんてこで奇妙な短編集。人の嫌なところが辛辣に書かれていたりしてぞくっとすることもあったけど、作品全体に漂うどうしようもない孤独感に、とても切なくなった。だけど切ないだけではなく、文章に滑稽さやユーモアがあったので楽しく読める。この作品が作者の初めての小説集らしいのだけど、次作以降も読みたい。特に印象に残ったのは、「何も必要としない何か」「妹」。

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2015年12月02日

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こんなに笑えて、こんなに寂しく苦しい物語は初めて
ミランダ・ジュライの短篇は、出来る事なら気づかないふりをしていたいような、心の奥底の孤独感や悲しさを、笑いながら軽やかに、残酷なくらい鋭く、容赦なく掘り出していく。
とぼけているような、ユーモアたっぷりの軽やかな語り。でも絶望的に悲しいのだ。

独り言のような面白い独特の文章なので、原文が気になってそちらも読んでみた。ストレートで乱暴な性描写や表現も、よりサラッと乾いた印象。語りも、よりクールでシュールな肌触りがする。全編を通して、訳文のほうが女性的な感じかな。どちらもいいので、どちらもお勧め。

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2015年08月07日

Posted by ブクログ

ここに出てくる人はみんなどうしょうもなく変な人。
でもね、不器用でも変人でもみんな生きているのよ。
確実に、圧倒的にここに出てくる人は
あなたであり私である。
くそったれの人生だけど駆け抜けてみようよ。
もう一度ゆっくり読みたい一冊。

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2015年05月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

朝吹真理子さんとかが本の中で大島弓子が好きな人はミランダジュライが好きそうと言ってて読んだ

タイトルが全てであとは物語をつけるだけって感じが似てる…かも?
いやいや、マジェスティひどかったよその通りすぎるもん

孤独って時間を持て余したり手持ち無沙汰だったりすることだなーと思う

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2024年03月05日

Posted by ブクログ

私の中にもあなたの中にもある今の世の中が展開されている。現代の人々はひたすら孤独なのだ。たとえ家族がいても、恋人がいても。

この本が古典となって読まれる時、例えば100年後、1000年後にもしまだ世界があれば、この本は時代を、今を生きる人々の心情を理解する良いテキストになりそう。

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2023年10月21日

Posted by ブクログ

16編からなる短編集。日常の生活のごく一部分、とても短い時間を描いている。まるで体の一部分をえぐりとられるようなそんな痛々しい生々しさを覚えるほど強烈。ぱらり、と無作為に開いた一場面だけに目を落としても、まるで完成型のように感じるようなシーンが多かった。どうも自分は読んでいて落ちつかなかった。覗き見るのが怖いような世界だったのかもしれない。余りにも尖っていて痛いのだ。
『ラム・キエンの男の子』と『モンプレジール』が特に好き。

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2022年12月04日

Posted by ブクログ

みんな孤独だが悲観的でない。奇妙だけど愛らしい。
翻訳本は苦手意識があったけど楽しく読めた。
なんでもないことの表現がすごく新しい。

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2021年08月26日

Posted by ブクログ

「階段の男」と「子供にお話を聞かせる方法」が良かった。下ネタは多いけど、そこまで下品な感じでもなかった。シュールめな話が多いけれど、確かにと共感できる部分が根本にあるから、読んでいて楽しかった。

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2021年04月08日

Posted by ブクログ

この人は2番である。同じく私も多分2番チームだと思う。「ほんっと訳わかんないんですけど、いい加減にしてくれる?」(世の中の声)今から説明しまあす。1番チームはアンナカヴァン隊長率いる、病気チーム。ヴァージニアウルフ、太宰治などが所属します。2番は「天然」として、一応は社会生活おくれるチーム。しかし一緒にいる人は理解が必要。3番は「不思議ちゃん」チーム。いわゆる偽者。サブカルまがいとか、なんとなくオシャレはここの人達が作ってます。色々書こうと思ったらスペース無くなった。無念。

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2019年01月27日

Posted by ブクログ

皆、孤独を抱えて、手を伸ばしている。

滑稽で、哀しい、けれど、愛おしい。繊細な味わいの短編集だった。孤独を誇示するのでもなく、強がるのでもなく、それを自分として、つながりたいと手を伸ばす人たち。たとえ、うまく生きられなくても、不幸とは呼ばない。

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2019年01月12日

Posted by ブクログ

 「江國香織が帯を書いている本をあなたが読むなんて・・・」という妻の言葉通り、私のストライクゾーンから少し外れていたようだ。
 それぞれの短編で、少し独特な主人公たちが孤独と疎外感と、わずかな人とのつながりを握りしめている物語だ。時にあっさりと握りしめている手を緩め、一人で歩いていく。寂しい?寂しくない?いや、そういう問題ではなく、それが彼女であり、彼なのだ。
 おっさんゆえ主人公への感情移入は難しいが、妙に気にかかる主人公たちではある。

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2018年12月11日

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ところどころ気がかりな一文に出くわし、いくつかの短編に心がさざなみ立つ経験をさせられた。感覚的な作風のようでいて、さにあらず作り手の緊張感がひんやりと伝わる構築物、と思う。

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2014年06月02日

Posted by ブクログ

読んでいるうちにつらくなってくる。どうしてこの人たちはこんなにも孤独なのか、それを突きつけられて、なんとなく目を背けたくなるのに、最後には希望が見える。
これは確かに私たちのことである。

あり得ないようなこと、奇妙な行動、時には笑ってしまうくらい滑稽な一文。それらが妙に私たちの生にまとわりつく。この感覚を、私たちは知っている。と思う。

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2014年03月09日

Posted by ブクログ

短編集。いくつか読んだ。
「水泳チーム」がとても良かった。
これに書かれている孤独は、小川洋子さんの書く孤独に似ている気がする。
「妹」も面白かった。まさかのオチで…

2014.01.24

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2014年02月07日

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