【感想・ネタバレ】掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年01月09日

アメリカに芥川賞あったら獲れてたのではないかと思ふ。強烈、そして生き生きとした文章であった。

日本にはAAと断酒会、二つの組織があるからAAをいちがいに断酒会と訳すのはもしかしたら微妙かもしれない。でもなんて訳すの?と聞かれたらぶっちゃけAAとしか訳せない(訳せてない笑)

機能不全家族に育ち、ア...続きを読むルコール依存となった作者の苦しみはもはや理解できない領域。でも、この文章を読んでしまうと、、、苦しみも悪いことじゃないのかも。さらけ出せる勇気と書くことの魔力に魅せられてしまった。

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Posted by ブクログ 2023年09月28日

深いどん底のさらに底深くその奥にいても光の方へと顔を向け言葉を綴った人なのだと思う。1番上品なのは自分の過去を笑い話にできる人。ずっと手元に置いていたい一冊。

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Posted by ブクログ 2023年07月29日

著者ルシア・ベルリン自身の半世に材を取った短編集である本作は、「わたし」の一人称語りで、自身を取り巻く苛烈で過酷な環境や人物が描かれる。「わたし」視点の世界なのに、「わたし」の居場所はない。語り手は家族から不当な扱いを受け、学校のクラスメイトから無視され、孤独に浮いている。世界から拒絶されて、アウト...続きを読むサイダーとなっている。

その様子が独特の筆致で描かれる。訳がとても良いのだと思うが、原文が孕んでいるであろう特殊な「熱気」を感じる文体だ。荒々しく、ギラギラした勢いある近視的筆致のながれの中に、シニカルで冷徹な一文が時折、紛れ込んでくる。著者の説教くさい思想やじめじめした感想はほとんど出てこない。描かれている内容は悲愴なものだが、文体からはそれにとどまらない、言い様のない熱気を感じる。「わたしはこのどうしようもない世界を生きてるし、生きてきたんだ」という、内から発散するパワーに当てられて、なんだか、いてもたってもいられなくなる。

一発目の「エンジェル・コインランドリー店」のコインランドリーという狭い空間で、「インディアン」「アパッチ」「レッドスキン」という異文化的なワードが頻出する異常な空間(「わたし」は己の手を見て「非インディアンの、落ち着きのない、孤独な手だ」と形容する。コインランドリーという日常的な空間からさえ、「わたし」は弾き出される)を読み、うっすらとワクワク感を覚えて、早くも次の「ドクターH.A.モイニハン」でのめりこんだ。祖父が完璧な入れ歯を完成させたので、幼い「わたし」に歯を全部抜かせるという頭のおかしい展開、祖父の絶叫や暴挙が凄絶に描かれる。

表題作「掃除婦のための手引き書」、「ファントム・ペイン」、「いいと悪い」は「わたし」の孤独と周囲からの断絶を描いた傑作。
「苦しみの殿堂」、「ソー・ロング」、「ママ」は母親や妹との思い出(だいたいよくないことばかり)、確執などがリアルに描かれる。
最後の方の「沈黙」は一つの短編として独立しながらも、それまで近視的に描かれてきた「わたし」の子供時代が、ダイジェスト的に語られ直すという位置付けでもある。「寄り」で見てきた物事を改めて「引き」で客観的にみることで、その異常性がよりリアルに感じられてくる。読み手は、ここにきて、「わたし」そのものの視座へと近づく。

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Posted by ブクログ 2023年07月14日

原作はもちろんのこと、自分が読んだ邦訳が素晴らしいのだろう、リズムがとても心地よい。いつか原文にもチャレンジしてみたい。
知性と環境とユーモアと好奇心‥‥どれだけの幸運が重なったら、作者のような文章を紡げるようになるのだろう? 至福の時間でした。

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Posted by ブクログ 2023年06月14日

彼女のそれまでの人生は毎日毎日退屈なレコードの繰り返しのようだったが、あっと言う間にレコードがひっくりかえされて音楽が始まった。マックスがそれを聞いて、わたしに向かってほほえみかけた。ほらね、愛する人(アモール)、僕らはいまB面なんだ。

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Posted by ブクログ 2023年06月11日

凄いものを読んでしまった。2015年刊行のベストセラー(邦訳は2019年)らしいのだが、著者はこの大ヒットを知ることなく、2004年 小説の中でも虚実入り混って描かれる波瀾万丈の人生を終えている。死後に Lydia Davis が全作品の中から文字通り珠玉の短編を編み、序文を寄せたものが本作。この序...続きを読む文がまた素晴しく、Lucia Berlin の文章を二倍も三倍も豊かに読ませてくれる、熱い序文だ。これを巻末に置く講談社の編集者は頭がおかしい。

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Posted by ブクログ 2023年06月07日

どうすれば誤解されなかったのか、今持ってわからない。ー誤解ではなく、それが相手の見解
机がまだ木だった頃の音がする。
三ページもかかって女の人の着物を脱がせるミシマの小説みたいだ。
喧騒と倦怠の中、階段に腰掛けて飲む夜明けの珈琲
シュガー・レイが出てきた。
『マカダム』の様なのが書いてみたい。
月が...続きを読む恋しい 独りの時間が恋しい
何がどうあろうと自分の味方になってくれる人が一人でもいたら幸い。

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Posted by ブクログ 2023年05月30日

すべて実話らしいが脚色も多少あるのではないかな
なんと波乱万丈な人生だ
しかしアルコールには気をつけよう。(依存症恐ろしい)

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Posted by ブクログ 2023年03月17日

最高に良質の海外翻訳物短編集。
1編ずつ大切に読んで、余韻を味わいました。
心の奥底には後悔と悲しみが渦巻いているけれど、ユーモアのある眼差しで世界を見つめ希望を失なわずに生きている。そんな強い人達の物語。

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Posted by ブクログ 2023年02月09日

著者の鮮烈な人生を元にした短編集。どれも陽気ではなく、場合によってはかなり過酷な話なのに不思議とカラッとしていて、ユーモラスでさえある。あるときはアル中の母親で、チリのお嬢様で、掃除婦で、刑務所で創作を教えていて、なんて人生があるんだろうか。物語の中に魂が気高いって言葉が出てくるのだけど、著者がそれ...続きを読むなんじゃないかと思う。周りをを惹きつけずにはいられない人。『喪の仕事』、『ソー・ロング』、『あとちょっとだけ』が好き。

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Posted by ブクログ 2022年11月29日

すべてだ。短編集の全てが心に深く突き刺さる何かが待っている。
異国の異世界の話しはSFのように現代の日本では考えられない風景。
人種、言葉、におい、色まで見えてくるように生き生きと、あるいは淡々と描かれている

短歌や俳句のように一遍が無駄なくそぎ落とされていて、研ぎ澄まされたユーモアと鋭い皮肉が顔...続きを読むを出す。

ちょっと1回では消化しきれない何度でも読みたい、一冊。
すごいね。
久しぶりに本を読んで興奮した。

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Posted by ブクログ 2022年11月29日

長い長い映画のなかの、クライマックスでもなければハイライトでもないけれど、見終えたあと妙に心に残っている、そんな鮮烈なシーンを切り取ってきたかのような短篇集。


こうして作品がまとめられ、著者の来歴と一緒に紹介されていると、どうしても作品同士に繋がりを見いだしてこの一冊から一つの人格を頭が作り上げ...続きを読むてしまう。カトリック系の学校に通う金持ちの家の少女、二人の子を連れて駆け落ちする不倫女、アルコール中毒の母、死が近い妹を看病する姉、掃除婦。万華鏡のように「わたし」を操るのがルシア・ベルリンの武器だ。もちろん全てを一人の物語に集約させる必要はない。けれど、年齢や環境によって驚くほど異なる「わたし」がいて、全部の姿が嘘のような本当であり得るというのは、ベルリンに限ったことでもないんじゃないだろうか。
本書にでてくる「わたし」以外の人びともそうだ。ブラック・コメディのような「ドクター・H・A・モイニハン」だけを読めば、おじいちゃんはクレイジーだけどコミカルな老人で、「母を子どものころからずっとはずかしめ」という一文の意味を深く考えることはなかったかもしれない。だが、「沈黙」に描かれる祖父母の姿はゾッとするほどおぞましい。ベルリンはどちらも等価に描いていると思う。「ジョン叔父さん」についてもそうだ。自分にとって唯一の光みたいな人に期待を裏切られた経験を、大人になった「わたし」の姿で相対化する。
「ドクター・H・A・モイニハン」で子どもが老人の歯を引っこ抜く強烈な絵面と「生きたティーポット」という喩えのセンスに笑い、表題作「掃除婦のための手引き書」では希死念慮に取り憑かれた語り手の日々に共感し、「最初のデトックス」「どうにもならない」のアルコール中毒の描写が"わかってしまう"ことに震えた。「苦しみの殿堂」は我が家の話かと思った。母と娘、姉と妹の関係が、饒舌な会話文で生々しく描かれていることに痛快さすら感じた。
ベルリンの上手さは俳句みたいだと、俳句に詳しいわけでもないのに思った。一篇のなかには印象的なモチーフがポツポツでてくるけれど、それが脈絡や意味を作りだすわけではない。ただ無造作に置かれたようなそれが実は完璧な構図を描いて、強烈に心に焼きつく絵を形作るのである。
最後まで読み終え、特に印象に残っていたのは「ティーンエイジ・パンク」だった。息子のともだちと二人きりで夜明け前の散歩にでかけるというシチュエーションのほんのりとした官能性と、明け方の空のように薄い水色のエンディング。本書のなかでは珍しく死ぬ間際に幸福な瞬間として思いだしそうな光景なのだが、ナイフで切りだしたかのように余計なものが削ぎ落とされて甘さがない。この乾いたほの明るさが私にとってのベルリンなのかもしれない。

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2022年09月30日

読んでから何日もたっているのに、ふとした瞬間にこの小説が頭をよぎる。読み終えた瞬間よりも、時間が経過するごとに好きになっていく作品だ。

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Posted by ブクログ 2023年12月23日

ごく個人的な、自分のためだけに書いた小説という雰囲気がある。それがとてもよい。そして、いい夢かな?と思ってたら悪夢だし、悪夢はやっぱり悪夢のまま。そして、悪夢なのにゲラゲラ声をあげて笑ってしまって、その自分の声に驚いて目覚めるみたいな感じ。あぁ夢でよかった、みたいな悪夢感。
訳者のインタビューを聞い...続きを読むて購入後、何度も開いて、読み始めてみるけど、全然頭に入ってこない。合わないのかな?と思ったけど、ひとつひとつは短いので、順不同に何度も読み返すうちに、物語というか、作者のことが好きになってきて、好きな人の話しは、聞こうとするというか、貴方を知りたい。という気持ちに変わった。そしたら、映像になって、夢みてるみたいになった。またいける。

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Posted by ブクログ 2023年10月23日

すごい、すごいと聞いてはいたけど、やっぱりすごかった。歯切れのいいテンポと強烈な映像喚起力。短編それぞれがまるで映画を一本見たように世界にどっぷり浸り切ったような読後感を残す。最初数編読んで、すごいけど長編が無いのが残念だなと思ったけど、全て読み終えるとまるでルシア・ベルリンその人を主人公とした長編...続きを読むを読んだような気分になった。

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Posted by ブクログ 2023年09月03日

異なる話が収められた短編集かと思ったら、先に読んだ話が主人公を変えてまた現れる。それによって1つの話の背景が次々と明らかになるのが面白かった。根底には、米国のおそらく多数を占めるいろいろな意味で精一杯の暮らしをせざるを得ない人たちのありよう。再読したくなる。

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Posted by ブクログ 2023年06月12日

原文はわからないけど、端的でわかりやすい文章なのに、時折びっくりするようなスラング的な表現や思いつかないような(でもなんとなくわかるような)比喩が入って、読むのが面白い。
ストーリーは、ほとんどがアルコール中毒の話(笑)
作者自身も苦しんだらしいが、それ以上に波乱万丈な人生から、その描写は辛辣ながら...続きを読む優しさがある。
スヌーピーに気高いながらホコリを引き寄せてしまうビッグ・ベンというキャラクターがいるけど、一言でいうとそういう印象の作品。
人生の美しさも底辺も見たいなら、ぜひ。

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Posted by ブクログ 2023年06月07日

人間が語り得る物語はそれぞれ一つであり、それを様々な角度技法で何度でも語っていくのが作家であるなんて言い方を見かけた覚えがあるが、まさしくルシア・ベルリンの作品群はそういったものであろう。
ある種あけすけなまでに綴られる彼女の人生は、実体験が強固な軸として中心を通り、そこからあふれ出る様々なものが形...続きを読むを変えそれぞれの短編となっているように思える。

ある種、私小説的なその姿は、案外日本ウケするのではないだろうかと読んでいて思った。

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Posted by ブクログ 2023年05月14日

 初めの2/3は、アメリカ文学特有の「よく分からなさ」と比喩表現で、イマイチ面白味が感じられなかった。
 だが、そのピンと来なかった2/3を踏まえて読む、後半数篇(特に『さぁ土曜日だ』、『あとちょっとだけ』、『巣に帰る』)は素晴らしかった。

 ルシア・ベルリンは日常の中に埋もれる小さな感性を失わず...続きを読む、どんな境遇に置いても心の豊かさを保ち続けた人だったんだなぁ。

 社会的立場や、経済状況、生い立ちが存分に描かれているのに、物事に対する感受性、そこから生まれる真実はそういったもので判断できないと逆説的に気づかされた。彼女と私、それぞれ生きる人生は全く違っても、心の奥にもつ孤独や悔恨は普遍のものなのだなぁ。

 生きてる中で感じる捉えようのない心の動きを、私達はどんどん忘れ上書きしていってしまうけど、彼女はそれを絵葉書のように残し、後になって見返し、そして言葉にすることができる。

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Posted by ブクログ 2023年04月13日

良い小説というのは、多かれ少なかれ、作者の実体験が反映されている。例えフィクションを前提としたものだとしても。本作も、解説を読まずしても、ルシア・ベルリンその人の物語なのだろうと、何となく感じさせるものがある。それだけ物語が生きているということだろう。
実体験の物語ゆえか、例えばアル中のことであった...続きを読むり、家族の話であったり、何度も描かれるテーマは短編集であるがどうしても既視感があって、本作を読み進める中盤あたりは中だるみのように感じてしまうところも正直あったが、最後の3作、「さあ土曜日だ」「あとちょっとだけ」「巣に帰る」は個人的に研ぎ澄まされている感じがして、緊張感と余韻の残る締め方だった。
ここに収められている作品群に通底するのは、どこかで死の匂いがすること。これは間違いなくルシア・ベルリンの意図するところだろう。そしてそれを、はっきり見せる、のではなく、匂わせる、にとどまらせるところが、「さあ土曜日だ」にあるように、重要なポイントだと思われる。
時代も境遇も国も文化も違って、共感という意味では私には乏しい。しかし彼女のどこか乾いた死への意識は、私には魅力的に映った。私も、過去を捨てて生きる以外の選択があまりに恐ろしい。恥や後悔や嫌悪で正気でいられそうにないからだ。もしも、の枕詞は、楽しい想像にしか使いたくないものだ。

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Posted by ブクログ 2023年02月21日

衝撃的な映画を見ているよう。
都度、映画が脳内再生されるのだ。
衝撃的で奇抜、過酷なのに、ルシアのユーモアな文章がお話を華やかに、軽快にする。
ルシアの人生の壮絶さを読後に悟ってしまうくらい印象的で、何度も読み返したく、クセになる。

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Posted by ブクログ 2023年01月21日

文庫版が出ていたことは本棚登録しようとしたいま初めて知ったが、私が読んだのはソフトカバー版。最初はなんとなく個人的な好みとは合わないように思って読み進めていたが、読み終わったとき、しっかりと心に残ってしまっている。読むほどに作者の人生の全体が立体的に浮かび上がってくるのも一因だろうか。アル中の母親の...続きを読むもとに産まれ祖父らの虐待を受けた過去、身体的なハンディキャップ、母との確執、自らもアルコール依存症に苦しむという自らの体験をベースにする小説、というとまるで無頼派の私小説という趣だが、メキシコやチリで過ごした子供時代などを取り扱っているせいか、手触りはずいぶん違うように思った。

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Posted by ブクログ 2023年01月13日

波瀾万丈というには余りに過酷なシチュエーションなのに、自己憐憫やウェットさは微塵もない。
初期レイモンド•カーヴァーとも違ってストーリーとしてよりカラフルだけども、一切無駄のない言葉選びと細部に注がれる視線の鋭さは共通している。
書評だとカーヴァーが影響を受けているみたいですね。
本当に素晴らしい文...続きを読む章だな。

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Posted by ブクログ 2022年11月24日

ルシア ベルリンの話だと思って読み始めたが、場面が章ごとに飛ぶし、あまりにも色々な経験で始まるのでルシアの話しだけではないと思って読んでいた。
だが、最後にはこれがルシアの話なんだと思い、面白さや興味が私は後でグッと押し寄せて来た。
作者の表現、声、直接語りかけてくるようだとあった。私には表現とか言...続きを読む語とかよく分からないが、場面場面のシーンが脳裏に一コマとして残る本ではあった。それが流れではなく一コマの画像として鮮明に思い出されるのだ。それはもしかすると、ルシアの言語による表現が読者にそのように伝えているからかもしれないと感じた。
もう一度読むつもりだ。その時何をまた感じるだろう。楽しみだ。

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Posted by ブクログ 2024年04月01日

母からメルカリで売って欲しいと預かった本の一冊で、ずっと家事のマニュアル本かと思っていた。
なかなか売れないので、読んでみたら、めちゃ面白い。
小説なんだ!と思ったら、ほぼ事実の小説とのこと。
どこでも読んだことがないような刺激的な文章だった。

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Posted by ブクログ 2024年01月19日

お嬢様学校に通う女学生と共産党員の先生とで貧民街にボランティアに行く話と、表題にもなっている掃除婦の話が好き♡
自分が資本主義の奴隷だから共産主義的動きを見ると唾吐きそうになる

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Posted by ブクログ 2023年09月15日

短編集の2/3を読み終えるまでは、ひたすら、退屈で読みにくい本だと思った。
最初は、訳が下手くそなのかとも思ったけど、時々、ハッとする美しい表現が出てきて、そうではなさそうと思い直した。
喪の仕事まで来て、少し変わって、沈黙、さあ土曜日だ、巣に帰るの4編は良かった。

簡潔な文章で、特徴としては、周...続きを読む囲の状況を描くことで、主役について物語を紡ぐ。それが、若い頃の数編においては、私が村上春樹に感じる、それいらなくない?関係なくない?という感想。

そこから、どんどん、作者が歳を重ねていき、彼女の人生が酸素ボンベを離せない状態であることまでわかるうまいチョイスをしている短編集の構成になっている。

私は、たまたま、後半生の練れた作品の方が好みなのだろう。前半生は、本人の生活が無茶苦茶なように、アル中の貧乏なシングルマザーの底辺のリアルが描かれているので、好みが分かれると思う。不倫の話なども描かれていて、不快な人もいるだろう。私は、共感ははっきり言ってできない。

喪の仕事では、亡くなった人の遺産整理を手伝う掃除婦をしていた著者の目を通して、遺品を通して悲しむ家族の姿が描かれる静寂な話だ。

沈黙は、祖父から性的虐待(未遂?)を受ける著者を守ってくれる叔父。それを見て見ぬふりする祖母をしかる叔父。彼の留守中に、自分よりもかわいがられる妹が同じ目に遭うのを黙ってやりすごす著者に対して、祖母と同じだと怒る叔父。いじめを見て見ぬふりする罪と同じだ。

さあ土曜日だは、著者が刑務所内で文章の講師をしている時の話だ。何かのきらめきを感じさせる受刑者がいたが、出所前に現実と向き合うこと。もしくは、出所後の運命を知っていたからか、自分の殻に閉じこもってしまう。そして、出所翌日に殺されたニュースで終わり、世間の厳しさというか、どうにもならない感じが漂う作品。

最後の巣に帰るが、一番いい。
酸素ボンベを手放せなくなった作者。それがきっかけで、裏庭ポーチでなく、表のポーチで休むこととなった作者が、初めて木を埋め尽くすカラスに気づく。そこから、色々なことを見逃してきたのではないかと考え出す。もしも、表のポーチで休んでなかったら、酸素ボンベをつけてなかったら、と終盤の予感がする自分の人生のもしもを振り返る。
最後の一文は、「なんと私の人生は今とそっくり同じになっていただろう」と。変わらず、カラスを見ていると。

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Posted by ブクログ 2023年09月14日

僕のような年寄りには、他人の人生の生き様を読まされてもたいした感想も持てない。ふ~ん。そうなの大変だったね。
人生色々だよ。位の薄っぺらい感想しか持てない。
これが、若い時に出会っていたら、とても感動出来たと思う。他人の人生から学ぶ事は有るけど、この年で学べたとしてもね、たいして役に立たない。

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Posted by ブクログ 2023年05月29日

1970年代に出版された作品が元になっており、いわゆるミニマリズム文学という余計な装飾を削った無駄のない形式の先駆けなのだそうだ。ミニマリズムといえば村上春樹が日本に紹介したレイモンドカーヴァーがいるが確かに似ている。それからキャサリンマンスフィールドも想起させる。こっちは意識の流れメインで書かれて...続きを読むるからでしょうか。
文庫の裏面のあらすじは、無駄な装飾語が多い典型だ。「人生から紡いだ鮮やかな言葉」「衝撃を与えた」「奇跡の作家」と大層な言葉を並べるが意味がわからない。編集者もどう書いてよいか困ってしまったのだろうか。
ベルリンはストーリーで読ませるのではなく日常のリアリズムの中から汲み上げる共感性で読ませる作家だ。例えば「さあ土曜日だ」は刑務所で詩を教える先生と受刑者の話だ。詩に煌めく才能を見せるCD、彼の作品に敬意と関心を持つ仲間たち。そしてCDは遂に出所する。しかし皆のイメージ通りにはならない。そして誰もそのことを口にしない。

ベルリンの小説の多くは「やるせなさ」を描いている。日常の中で感じる喜怒哀楽、そしてやるせなさ。そしてユーモアを少し。現代の我々とは時代も環境も違うので若干の想像力は必要。例えば「マカダム」という15行の短編がある。ゴミ溜めみたいな街。土埃が家の中まで入り込み家中に降り積もっていたが、遂に道路がマカダム工法で舗装される。その喜びが語られる。小説にワクワクを求めたがる私には永遠に愉しみづらいタイプの小説ではある。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年05月02日

作者の実人生に基づいて書かれた短編集。
ずいぶんといろんなことがあった人生だったようで…。

急に場面がポンポン飛んだり、例えに出てくる元ネタがわからなかったりと、慣れるまでは読みづらさも感じた。
どの話も最後の数行がとても良いと思う。

好きだったのは、『ドクターH.A.モイニハン』と、『いいと悪...続きを読むい』。

『ドクターH.A.モイニハン』は、やばい祖父で、孫に自分の歯を全部抜かせようとするのには狂気を感じたけど、

『まちがってレバーを押してしまい、祖父はぐるぐる回転しながら血をあたりの床にふりまいた。』
『生きたティーポット。』
『祖父は吐いていた。わあ、すごいや、と思ってから笑いだした。こんなときに「わあ、すごいや」なんて考えるのは馬鹿げてる。』

あたりがもうシュールなギャグにしかみえなくて笑った。
オチの『大っきらいよ』も良かった。

『いいと悪い』は、レズビアンの疑惑があり革命的な考え方のドーソン先生との休日の出来事。
ドーソン先生のことを好きになってきていたのに最後にはうんざりして、父親に『共産党員よ』と言ってしまい、ドーソン先生はクビになりもう二度と会うことはなくなる。
これもラストの、『わたしには、話す相手がいなかった。ごめんなさいと言う相手が』が好き。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年03月15日

どの話も薄暗く、決して幸せな環境ではないのに、なぜか主人公は淡々としていて、そこまでの悲壮感は感じられない。主人公の語り口も自分を俯瞰して見ているようで、とてもユーモラス。各話の登場人物がリンクしていて、「あの時そんなことがあったのか!」とか「あの背景にはこんなことがあったからなのかな?」という気づ...続きを読むきも楽しい。
読み始めは少し苦手な物語かと思ったが、最後はとても惹きつけられた。

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