海外文学 - グーテンベルク21作品一覧
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-ヴェルヌの「驚異の旅」は1863年の「気球旅行」でスタートし、「地底」「月世界」と続いたが、本書は67年刊で、「グラント船長」や「海底二万リーグ」より前であった。本書の訳者は「これほど面白い作品がどうして邦訳されていないのか」と述べる。冒頭から、帆船フォワード号を取り巻く謎で、読者の心を掴む。その行先は分からず、船長は姿を現わさず何者であるかも分からない。同号は船長からの秘密の指令によって北極へ向かう。ついに姿を現わした船長は北極征服熱一色に染め上げられた誇り高きイギリス人であった。この人物は単一の情熱に支配され、目標に向かって邁進する。極北の酷寒、乗務員の反乱、未踏の地の不確実性との戦いに、冒険心と知識欲に駆られたハテラスの勇気と決意は微塵ともしない。推理小説と冒険小説が渾然一体となった傑作。
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-「少女レベッカ」の続編と言ってもよく、「少女レベッカ」の場合とおなじように、女性としての自覚にめざめてゆく一人の少女の心理過程が現実的なさまざまなエピソードとともに語られていく。ただ前作とちがい、それらの出来事は、レベッカ自身の手記や回想という形で描かれ、記述がいっそう内面的になっている。後半には、青春期を迎えた十八歳のレベッカが登場して、繊細な感受性をたたえた、静けさと内省を愛する一人の女性に生長していく。作者は、米国フィラデルフィアで生まれの作家で、英米の若い世代から熱狂的に迎えられ、やがてその名はひろく世界に知られるようになった。
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-原題は「サニーブルック農園のレベッカ」…ほこりだらけの田舎道を、旧式な馬車が、がたごと揺れながら走っている。馬車の窓から黒い髪の少女が乗っているのが見える…そういう情景がバックとなって、空想家で、たいへんな情熱家でもあるレベッカの、少女時代から、しだいに女としてめざめてゆく過程を描いた物語だ。発表されるとすぐ評判となり、『若草物語』とならんでアメリカ家庭小説の古典として、いまなお愛読されている。女史は米国フィラデルフィア生まれの作家で多くの児童文学を書いたが、幼児教育にも力を注いだ。
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-「四十歳になって、突然私は女たちを理解したいという欲求に駆られた。そのときまで、私は小説のなかで女を、男の登場人物の単なる相手役にすぎないような扱い方をしていた。しかし、実のところ、私は一種類の女しか知らなかったのだ。急に、他の女たちとも出会いたいと思った……デニーズと出会ってから、私は以前とおなじ目線で女と愛をもはや見られなくなった」これはシムノンの告白で、デニーズとは彼がニューヨークで出会った女であり、本作はその時を綴った自伝的小説と見られている。
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-ハガードの秘境冒険小説『洞窟の女王』の続編。前作で猿のミイラのような醜怪な姿となってコールの洞窟で息絶えた不死の女王アッシャの、なんと18年後の復活! 『洞窟の女王』の最後で、ホレース・ホリーはつぎのように、はっきりとアッシャの復活を予言していた。「科学と現実の世界に関するかぎり、これでこの物語は終る。レオと私に関しては、この物語がいつになったら終るのか、私には推測もつかない。二千年以上も前にはじまった物語なのだ。漠とした遠い未来まで、はるかにつづくかもしれない」…そして復活は、輪廻の思想の国チベットを舞台にして始まる。
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-イギリスの植民地だった第一次大戦後のインドを舞台にした物語。英国人女性アデラはインド在住の治安判事で婚約したロニーのもとを訪ねてくる。二人はインド人医師アジズや哲学者ゴッドボール、英国人教授フィールディングらと近しくなる。だがある時、アジズの提案でマラバー洞窟へ出かけ、アジズとアデラは二人だけで洞窟に入ることに。アデラは原因不明の錯乱状態になって洞窟から出てきて、性的暴行を訴え、ついにアジズを告訴する。裁判の経過とともに、英国人とインド人との軋轢が高まっていく。最終的には和解にたどり着くが、それには長い道のりが必要だった。英国の作家フォースターの代表作。
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-これは、対をなす2編の物語である。鋭い感受性を持てあます女子学生フラニーは、折角の週末のデートも、相手のレーンとのエゴの衝突だけに終ってしまう。傷心の妹に、俳優で五つ年上の兄ズーイーは、思いの限りをつくして、生きることの意味を悟らせ、周囲と融和させようと懸命に説得する。寡作と孤高で知られる人気作家が、現代の若者の心理を鋭くとらえた一対の名作!
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-「ソロモン王の洞窟」の続編。アラン・クォーターメンはカーティス卿、グッド大佐、ズールー族酋長ウンスロポガスに声をかけ再び東部アフリカへ。マサイ族との戦いのあと、一行は地下河川を経て未知のズー・ヴェンディス国に達する。その国の住民たちは好戦的な白人で、双子の姉妹ニレプタとソライスによって統治されていた。姉妹はカーティス卿に魅せられ熱烈な恋心を抱くが、卿が受け入れたのはニレプタだった。ニレプタが高地の支配者ナスタを拒絶したことをきっかけに、国はニレプタ/カーティス/クォーターメン連合軍対ソライス/ナスタ軍に分かれて内戦に突入する。ニレプタは激戦に勝利を収め、司祭たちの暗殺の企てを退けてカーティスと王位に就くが、多大な犠牲も払わなければならなかった。
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-本作は、十七歳のキャサリンを主人公に、前半はファッショナブルな温泉保養地バースを舞台に、後半はグロスターシャ―の裕福な地主の家ノーサンガー・アベイに場所を移して、繰り広げられる。バースでは裕福な地主アレン夫妻や新興ブルジョアのソープ一家を中心に、社交場や遊歩道などを舞台に都市小説風の展開を見せ、ノーサンガーでは怪奇小説的要素を加えて、古い屋敷を舞台に、裕福な地主の生活ぶりを浮かびあがらせる。平凡なキャサリンが自分で判断のできる一人前の女性に成長していく過程がていねいに描かれるが、軽い喜劇的な気分にも満ちている。「高慢と偏見」「知性と感性」「エマ」「マンスフィールド・パーク」「説きふせられて」に継ぐ本作で、オースティンの全長編は完結する。
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-コンラッドはこの作品によって、海洋冒険物語を、名誉と勇気、忠節と裏切りの深い意味をもつ物語に変えた。理想主義肌の商船の一等航海士ジムは、沈没の運命にあった「パトナ号」と船客たち八百人を見捨てることで、若き日の栄光への夢を見捨てた。法廷で「臆病」の烙印を押されたとき、ジムは極東での放浪の暮らしに活を見出そうとする。スマトラのパトサンで原住民から伝説的な名声を得たジムは理想的な統治者としてふるまうが、悪漢ブラウンの出現で…。コンラッドの『闇の奥』と同じ語り手マーロウは、社会に拒否されながら、なお償いへの欲求につかれた男の、不可思議な心のうちに探りをいれていく。ポーランド生まれの英国の作家コンラッドの「密偵」「闇の奥」と並ぶ代表作。
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4.017世紀初頭のころ、剣と恋と冒険を求めてガスコーニュの田舎からパリへ出て来たダルタニャンは、無双の剣士ポルトス、アラミス、アトスの三銃士と終生変わらぬ友情の契りを結ぶ。4人はルイ13世の親衛隊のために働き、王と敵対するリシュリュー枢機官麾下の護衛隊と渡り合う。陰謀と奸計、恋と野望に身を投じるダルタニャンは、ガスコーニュ魂を発揮して着々と運命をきりひらいていく──鈴木力衛氏の個人完訳による、デュマのロマン歴史小説の傑作。
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-ケンブリッジの若き教授、ホーレス・ホリーは危篤のヴィンシィ教授から幼い息子レオを引き取ってくれと頼まれ、同時に鉄の箱を渡された。それにはレオが25歳になるまで開けてはいけないという指示が書かれていた。20年後、箱を開けると、レオの父による一通の手紙と古地図、ギリシア語が刻まれた古代の壺の欠片、宝石の指輪が入っていた。壷の破片には2千年以上前のとあるギリシア人と不死の秘術を持つアフリカの女王との悲恋の物語が。ギリシア人は女王の求婚を拒んで殺される。手紙にはレオの父が耳にした、アフリカの奥地にアラビア語を話す部族の国があり、白人の美しい女王がいるという噂が書かれ、それが陶片に刻まれた女王そのものではないか、ぜひ真相を確かめてほしいと記されていた。ホリー、レオ、従者のジョブは勇躍アフリカへ旅立つ。待っていたのは戦慄と幻想の目くるめく世界だった! ヘンリー・ミラーは『洞窟の女王』を「驚嘆すべき書」と絶賛した。コナン・ドイルも「空想やスケールの点ではハガードに及ばぬかもしれないが、作品の質と思想の面白さにおいてはハガードを凌ぎたい」と書いた。
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-ローズの青春は今、華やかに幕を開けた。魅惑的な社交生活、次々と現れる求婚者たち。しかし聡明な彼女は、華美な生活に惑わされることなく、堅実に自らの道を歩み、生涯の伴侶を見出してゆく。本書は『八人のいとこ』の続編で、ヒロイン、ローズの誠実な人生観、清らかな恋愛は、現代の若者にも限りない魅力と感動を与えると思われる。この作品には、ローズばかりでなく、幾つもの恋愛が描写されているが、それぞれの青年男女の心理や情感がきめこまかく生き生きと描かれていて、時代を超えた感動を与える。
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-13才になる虚弱な女の子ローズは早くに両親を亡くして、アレック叔父に引き取られる。だが、8人のいとこ(全部男の子)や召使のフェーブと元気に仲良く暮らすうちに、溌剌とした女の子に成長してゆく。ローズは孤児だったが、父の残した財産と誠実で知性の高い叔父の献身的な配慮、さらには自身の素直な性質のおかげで、すこやかに成長し、いとこたちの心の支えにまでなってゆく。「若草物語」の作者が描く少女の成長物語。
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-冒険小説、伝奇小説でいまもなお魅力を失わないライダー・ハガードの代表作。着想の奇抜さ、読者をたちまち怪奇、幻想、戦慄の世界にひきずりこむ迫力は、この作者の独壇場だ。ソロモン王の時代から、アフリカの奥地に眠るという莫大な財宝。それをもとめてヘンリー・カーティス卿は、探検家アラン・クォーターメンとともに出発した。三世紀も昔の1枚の地図をたよりに、一行はソロモン街道にたどり着く。だが、そこで一行が目にしたのは、大虐殺の現場だった。そこを支配するのは、ソロモンの秘密を知る唯一の人間……魔法使いの老婆ガグールだった。ヘンリー・ミラーは「もっとも親近性のある尊敬すべき作家」としてハガードを高く評価している。
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-パリ、一月十三日。夜の六時半に、ボーマルシェ大通りとパ・ド・ラ・ミュール通りの角で、フェリックス・アラールという四十九歳の本屋の店員が、交通事故に遭った。小犬を革ひもで曳いて歩道を歩いていた彼が、車道に降りたとき、後ろからバスに引き倒され、文字どおり頭を押しつぶされた。小犬は奇蹟的に無事で、野良犬の収容施設に送られた。…この小さな三面記事の、刑期を終えて出所したばかりの当人は、死の二カ月前から克明な手記を綴っていた。そこには孤独な男の数奇な人生の軌跡と悲しみが記されていた。
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-『罪と罰』『白痴』『悪霊』につづくドストエフスキーの4番目の長編小説。幼時から屈辱のうちに生い育ち、その間に自ら育んできた、ロスチャイルドになるという夢と、父ヴェルシーロフにたいする憎念と愛の渇望を抱きながら、父の招きに応じて上京した主人公アルカージイ。彼が身を投じた新しい生活環境は、さまざまな事件と陰謀と犯罪の渦巻く無秩序の世界だった。理想を見失って堕落の淵に落ちそうになりながらも懸命に踏みこたえ、一方ではカチェリーナ夫人にたいする恋と、その恋を種に企む悪党ランベルトの陰謀への加担の誘惑と闘い、異母姉アンナの、老公の財産を横領しようという企てを未然に防いで苦闘する。あげくはこれら錯綜した事件が一挙に解決したおかげで、彼はようやく押し流されようとした濁流から脱することに成功する。19世紀ロシア社会で、真の自由を求めてはげしく揺れうごく、青年アルカージイの魂の告白。
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-地下室にある木賃宿(きちんやど)を舞台にした住人たちの物語。そこには、死がある、恋がある、殺人がある、縊死(いし)がある、温情、かっとう、排斥、嫉妬、奸策等、あらゆる人生の要素がある。そこに現出するのは、万人に共通した、くめどもつきぬ人生の味わいだ。ゴーリキーの不朽の名作戯曲。
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-カリブ海の島国ハイチを舞台に、黒人奴隷、ブードゥー教の祭司マッカンダル、独裁者アンリ・クリストフによる、それぞれの革命と統治、その終焉を、黒人奴隷のティ・ノエルの視点から描いている。次々と繰り出される神話的・驚異的現実の数々がマジック・リアリズムの夢幻的な語りとして披瀝される。キューバのカルペンティエルは、アルゼンチンのボルヘス、グアテマラのアストゥリアスらと並ぶ現代ラテンアメリカ文学の先駆者の一人だ。
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-18世紀末から19世紀初頭にかけてのヨーロッパの激動期、不世出の詩人と仰がれて活躍したイングランドの貴族出身のバイロン。長編物語詩「チャイルド・ハロルドの遍歴」などを発表してロマン派の旗手となったが、オスマン帝国からの独立をめざしたギリシア独立戦争に加わり、病に倒れた。「最初の近代人」といってもよいバイロンの詩は、今日のわれわれにも共感できる。
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-あるときは残忍な殺人者、または聖なる殉教者、あるときは愚かな陰謀家として、16世紀ヨーロッパの政治権力とからむ宗教的分裂の時代を背景に生きたスコットランドの女王メリー・スチュアート。生後6日にして女王に。58年にはフランス皇太子と結婚、翌年フランス王妃となり、61年には夫の早世により帰国。以後新旧両教派の争いと家臣間の内紛を極めた政治情勢の中に生き、さまざまな争いの渦中に、エリザベス女王廃位の陰謀荷担の疑いで監禁され、19年間各地に幽閉後、処刑された。ツヴァイクは豊富な資料をもとに、悲劇の女性を、対照的なリアリスト、エリザベスとの心理的対立の中に捉えて描く。「ジョゼフ・フーシェ」「マリー・アントワネット」とならびツヴァイクの三大伝記小説とされる。
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-ライン川の川底にひそかに眠る黄金。これから指環を作れば、その持主は絶大な権力を握るといわれる。それを守る乙女たちをだまし、こびと族のアルベリッヒは黄金を奪う。一方ワルハラ城を神々のために建造した巨人族二人は、主神ヴォータンに謝礼を迫り、黄金を要求する。ヴォータンは地下の国を訪ね、アルベリッヒから黄金と指環を奪い、これを二人に与える…だが、指環には呪いが。二人の巨人ファーゾルトとファーフナーは争い、指環は後者の手に移る。「たった一つの指環をめぐってくりひろげられる数奇な物語は、非現実の陶酔にさそいこんでくれる。ページを繰って耳をすますと、壮厳にして官能的なワーグナーの楽劇がきこえてくることだろう」これは寺山修司の言葉だ。
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-放縦にして絶大な権力と金力の所有者である若い教王(カリフ)ヴァセックは、あらゆる倫理的覊絆を無視して官能の快楽をひたすら追い求めて、ついに破滅するにいたる。この道を突き進んでゆけば破滅以外にない。だが解放されようともがけばもがくほど、ますます深みに陥るばかり、待っていうのは魔王の館の憂愁苦悶のみである。希代の遊蕩児ベックフォードの自伝ともいえる奇書。ヴァセックとヌーロニハールの運命はそのまま作者の運命でもあった。ゴシック・ロマンスの代表作。
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-マビノギオンは英国南西部のウェールズに古くから伝わるケルト民族系の英雄譚だ。吟遊詩人によって伝承されてきた物語はさまざまなウェールズ語古文献に記されていたが、ゲスト夫人によって英訳編纂されて、日の目をみた。その中の最も真正な部分をなすのが「四つの枝のマビノギ」であり、夫人によって「マビノギオン」と名づけられた。この四編はともにキリスト教侵入以前のウェールズ神話に元があり、魔法と夢とが全編をつらぬき、素朴だが力強い想像力に裏打ちされた物語になっている。巻末には荒俣宏氏による簡潔な「解説」を付してある。
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-神話や伝説をもとにしたワーグナーの他の楽劇と異なり、本作は「史実」をとりあげて題材としている。主人公ハンス・ザックスは16世紀に実在した「マイスタージンガー」の一人であり、靴屋の親方だ。本作で、ザックスは、部外者ヴァルターの歌の革新性を認め、芸術における伝統と革新のみごとな媒介に成功する。第三幕の「歌合戦」に向けて壮大なドラマが展開され、「伝統」を讃えるザックスとザックスを讃える人びとの明るい歌で幕となる。
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-中世ヨーロッパの「聖盃」伝説に材をとったワーグナー最後の楽劇。「聖盃」は処刑されたキリストの身体から流れ出る血を受けた盃であり、「聖槍」はキリストの横腹を突いた槍だった。スペインの聖杯城はこの二つの宝を保持するために建てられた。だが王は魔術師の奸計によって傷つけられ、槍を奪われる。これを取り戻し「正式な儀式」をおこなわなければ城はなくなる。この難儀を救うのは「清らかな愚かもの」だけだ、神はこう告げ、そこにパルジファルが現われる。パルジファルは数々の奇蹟をみせて槍を奪還し「救済」を実現する。
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-アイルランドの王女イゾルデは、コーンウォールのマルケ王に嫁ぐため、王の甥であり忠臣であるトリスタンに護衛されて航海している。トリスタンはかつて戦場でイゾルデの婚約者を討ち、深手を負ったが、イゾルデに介抱してもらったことがあった。イゾルデは、そのことに気づいたが、すでにトリスタンに恋心を抱いていた。愛と憎しみにとらわれたイゾルデはともに毒薬を飲むことで解決をはかる。だが、毒薬の用意をもとめられた侍女は、毒薬のかわりに「愛の秘薬」を用意する。愛に殉じる二人の前途は決まっていた!
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-ドイツ西部のブラバント公爵領では、先代の公爵が、娘エルザと息子ゴットフリートを残して死んでまもなく騒動が。エルザと散歩に出たゴットフリートが森の中で行方不明になる。これは魔法使いオルトルートが彼を白鳥に変えてしまったためである。が、オルトルートの夫で、公爵領を手に入れる野望を抱いていたフリードリヒ伯爵は、これを好機とばかり、エルザを訴える。エルザが弟を殺して領主の地位を手に入れ、秘密の恋人を宮廷に引き入れようとたくらんだのだ、というのである。たまたま来訪したドイツ国王ハインリヒが決闘でその決着をつけることになった。フリードリヒの相手はエルザの祈りに白鳥に曳かれた小舟に乗って現われた騎士「ローエングリン」だった……。
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-吟遊詩人の騎士タンホイザーは、地下の洞窟で、異教の女神ヴェーヌスの官能にとらわれつつ、地上への脱出を渇望していた。願いは突然とどく。タンホイザーは元の領主ゆかりの友人ヴォルフラムに出会い、領主の姪エリーザベトが寄せる思いを聞かされヴァルトブルクに戻る。だが、「歌合戦」での失敗から追放となり、法皇から罪の赦しを受けるよう命じられる。半年後、ローマから戻った巡礼のなかに彼の姿はなく、エリーザベトはみずからの命を捧げる決心をする。
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-自分の航海術の腕前をほこるあまり、大胆な言葉を吐いたオランダ人船長は、悪魔にそれを聞かれ、自分の言葉のとおり、この世の終りまで、世界の海を走り回らざるを得ない呪いを受ける。7年に一度だけ許される上陸で「永遠の愛」を誓う女性に巡りあえれば呪いは解ける。白夜のノルウェーの港に赤い帆の船をつけた船長は、果たして……。ワーグナーのロマン派オペラの傑作。
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-二十歳前後ですでに詩人、翻訳家、劇作家として認められ、短篇小説でも成功したツヴァイクは、バルザック、ディケンズ、ドストエフスキーという三大小説家を対象としたユニークな評伝を発表した。それが本書収録の三編であるが、これに追加して第四編として、最晩年に書かれた「モンテーニュ」を含めてタイトルを「四人の巨匠」とした。モンテーニュの生きた時代と、彼の境遇、性格、考え方に多くの共通点を見出したツヴァイクは、彼を「自由なる人間」の友であると考え、この評伝を書き上げてまもなく自ら生命を絶った。
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-華麗なベル・エポックのパリを舞台に、若き日の愛と別れ、作家としてのデビューを鮮やかに描いた回想録。田舎出の20歳のコレットはパリで14歳年上の流行作家と共同生活をはじめたが、奇癖を持ち放蕩者でもあった夫との愛は破局へ。そして文壇への単独デビューを果たす。社交界を彩る高級娼婦、作家、芸術家たちの面影を存分に描き、往時を眼前にほうふつさせる一代の回顧録。
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5.0シートン(1860~1946)は動物文学の作家として、アメリカが世界に誇る存在である。英国生まれだが彼が六歳のとき一家をあげてカナダに移住し、トロントの大学と、ロンドンのローヤル・アカデミーで教育を受けた。父の意向もあり、画家として身をたてたが、幼いときから大自然へ興味をもち、好きな野生動物の観察と研究に打ちこみ、ついにはその結果を文としてまとめるようになった。この動物記は、シートンの代表作を全4巻にまとめた決定版である。本巻には「狼王ロボ」、「銀の星」(烏)、「ぎざ耳小僧」(兎)、「街の吟遊詩人」(雀)、「スプリングフィールドの狐」、「怪物コウモリ」、「少年と大山猫」、「大灰色熊の伝記」の8編を収めた。動物たちへの愛情あふれる記述とともに、生きることの真の厳しさと、人間社会との深い関わりが浮き彫りになっている点が大きな特徴である。
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-1964年のある日の午後、第二次世界大戦退役軍人のユダヤ人フェデロフは、息子の野球試合を見ながら過去50年を回想する。移民の息子に生まれ、よき妻に恵まれ、元気のいい二人の息子をさずかった。いまも健康だし、ビジネスもまあまあ成功した。……俺が死んだら、とフェデロフは思った。火葬にしてもらおう。お祈りなしで。俺の灰なんかどこかに捨てればいい。俺が幸福だったところに。ヴァーモントの野球場の芝生に。ニューヨークの街で童貞と処女がはじめて愛をかわしたベッドに。戦時中の夕方、休暇中の軍曹がアメリカの赤毛の美女と並んで佇んだ、パリの家並を見おろすバルコニーに。息子のゆりかごに。晴れわたった夏に泳いだ大西洋の大きな波間に。そして、愛する妻の優しい手のなかに……夏の日の声はいつの時代も同じだった。
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-純粋であるがゆえに薄幸な人生を送らざるをえなかった一人の女を描いた「純な心」、「無上の栄光を手にするかわり、自らの両親を殺めることになるだろう」という不吉な予言に翻弄された男の物語(「聖ジュリアン伝」)、サロメの首をモチーフにした「ヘロディア」を収録。この3作は順に「ボヴァリー夫人」「聖アントワーヌの誘惑」「サラムボー」の3長編を連想させるフローベール最晩年の遺言の書だ。
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-『ヘンリ・ライクロフトの私記』で知られる英国の作家ギッシング(1857~1903)の短編集。とりどりの人生の皮肉を描きながら、どこかに救いがある読み物群。苛酷ななかに忍び寄るミステリー的雰囲気(「詩人の旅行かばん」)、ロンドンの最下層民の生態を描く「ルーとリズ」、食費を削ってまで好きな本を買い漁る男を描く「クリストファーソン」など印象的な8篇を訳者が選び収録した。
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-著者の生れ故郷に近いカリフォルニア州のサリーナスの谷を舞台に、そこで生活する人間と自然を描いた短編集。「菊」「純白の鶉(うずら)」「遁走」「蛇」「朝飯」「殴り込み」「馬具」「自警団員」「ジャニー・ベーア」「殺人」「処女・聖カティ」まで11編。うち、「菊」「朝飯」はよく知られた佳作、「殺人」はスリラーとしての評価も高く、オー・ヘンリー賞を受けている。導入部からあっさりと物語世界に引き込む筆力は天性のストーリーテラーのものだ。
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-現代アメリカ女流作家ユードラ・ウェルティーの最高傑作。時は二十世紀前葉、場所はアメリカ深南部ミシシッピ州モルガナの町。「黄金の林檎」はギリシアの昔から、人間の追い求めた永遠の価値である。現状に満足できずに不断の熱情に駆られて、みずからの「黄金の林檎」ともいうべきものをさがし求めて、さまよい続けずにはいられない人たち。それぞれが、有限の「時」に束縛されながらも、愛に、英雄的冒険に、芸術に永遠の価値を求め続ける。──狭小な時と場所に生きる名もなき人びとの情熱の中に、人類の歴史と宇宙の星々にまで及ぷ壮大なイメージが展開する。
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-アントニーはすぐれた武将であり、勇敢で偉大な人間であったが、クレオパトラに恋していた。恋に酔いしれたアントニーは公事を忘れ、ローマに残した妻を忘れて日を過ごす。彼に対する非難の声は高まるばかり。妻ファルヴィアの死の報にもエジプトをはなれない彼は、完全に武将としての生活をすてて、恋のとりこになり終わってしまったかのようにみえた……シェイクスピアの最も油の乗り切った時期の作品の一つ。
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-クリスマスイブの夕暮れ、鍛冶屋の少年ピップは足かせを付けた脱獄囚に捕まり、やすりと食い物をもってこいと脅かされる。このときの恐ろしい経験はあとあとまで尾をひく……田舎暮らしのピップに、降ってわいたように莫大な遺産相続の話がころがりこむ。送り主は誰なのか、世話になっている異様な金持ち夫人のミス・ハヴィサムか? ピップはミス・ハヴィサムの養女エステラへのかなえられない思いを胸にロンドンに出る。だが友人もでき、都会生活にうつつをぬかすピップのまえに、謎の人物が姿をあらわす……話は急転直下、緊迫の度をまし一気に終末へ。皮肉とユーモア、ミステリーと冒険活劇が一体となったディケンズ晩年の傑作。
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5.0時は第二次世界大戦の時代、14歳のホーマーは、カリフォルニアのイサカの町で学校に通いながら、自転車に乗って電報を届ける仕事をしている。彼が運ぶ青年たちの戦死の知らせは、人びとを悲しみのうずにまきこむ。やがて出征している自分の兄の死を最愛の母に伝える日が訪れる……。一家をささえて働く少年の目にうつる、生と死が織りなすドラマ。作者サロイヤン(1908~81)はアルメニア系移民の子としてカリフォルニアに生まれる。新聞売りや図書館員などの仕事をしながら、作家を志した。『我が名はアラム』など、名作の数々は世代をこえて愛読されている。
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-バルザックの小説集『人間喜劇』中の長編小説。主人公のポンスは名声を失った老音楽家で、同じ音楽家で親友のドイツ人シュムケとともに貧乏暮らしを送っていた。だが彼は骨董の目利きで、パリで一、二の収集品を隠し持っていた。もう一つの彼の道楽は美食だったが、こちらのほうは毎晩金持ちの親戚の食卓に顔を出すことで満たしていた。ある日、ひょっとしたことが原因でポンスはひどく侮辱され、死病の床に伏してしまう。それと同時に、ポンスの収集した骨董が莫大な財宝であることが明らかになる。それを機に、この遺産を手にしようと策謀うずまく人々の暗躍が始まる……パリを舞台に富裕な一族と貧しい従妹との間におこるドラマを描いた『従妹ベット』とならぶバルザック最晩年の傑作。
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-作者オースティンの作品は、すべて田舎に住む紳士階級の適齢期の娘たちの身の振り方を中心とし、それを取り巻く田舎の小世界の人間関係を題材としている。本作の主人公ファニー・プライスをめぐる物語もまったく同じである。彼女は伯母の嫁ぎ先のバートラム准男爵家に引き取られる。きびしい伯母の監視の目があるなか、ファニーはバートラム家の2人の兄弟と2人の姉妹、そこに顔を出す親友知人らとのさまざまな関係のなか日々を送る。ファニーはいつしか次男エドマンドに恋心をいだくようになったが……オースティンならではの皮肉とユーモアが光る代表作のひとつ。その世界では、「金のために結婚するのは愚かなことながら、金なしで結婚するのは、なお愚かなこと」(ある批評家の言)なのである。
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-ディケンズの自伝的要素あふれる代表作。デヴィッドが生まれた時、すでに父は死亡していた。大伯母は、女の子誕生を信じていたが、裏切られて家を出ていった。陽気な乳母ペゴティーはデヴィッドを兄の暮らすヤーマスへ連れてゆき、デヴィッドは好青年ハムや幼い恋心をおぼえたエミリーに出会う。母はマードストンと再婚する。マードストンとその姉はわがもの顔で家に居座り、母は心身衰えて死亡する。デヴィッドは寄宿学校に入れさせられるが、そこで二人の生涯の友を得る。怖いもの知らずのスティアフォースと愉快なトラッドルズだ。デヴィッドは学校をやめさせられ義父がロンドンで経営する商会に小僧に出される。デヴィッドは貧乏人ミコーバーのもとで暮らすが、やがてミコーバーは借金のため牢獄へ。デヴィッドは逃げ出して徒歩で大叔母の住むカンタベリーへ向かう。大伯母に保護されたデヴィッドは、その友人である弁護士ウィックフィールドのもとに寄宿し、その娘のアグネスと親しくなり、不気味な人物ユライア・ヒープに出会う。デヴィッドは地元の学校に通うようになる。
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-インド神話の精髄「マハーバーラタ」の完訳。1998年度翻訳出版文化賞受賞。これは、クル家とパーンドゥ家の領土をめぐって争われた戦いの物語である。父王の死んだ後、パーンドゥ5人兄弟は伯父のドリタラーシュトラ王のもとに引き取られ、従兄のドゥルヨーダナたちと一緒にわが子同様に育てられた。しかし、この間に従兄弟同士のライバル意識や憎しみの感情が芽生えていった。ドリタラーシュトラ王は、5人の長兄ユディシュティラの優れた人格を認め、王位相続者として指名する。ここから両王族間の果しない憎しみと戦いの歴史が始まる。ドゥルヨーダナは、パーンドゥ一族を滅ぼそうと奸計を巡らし、賭事好きのユディシュティラをサイコロ賭博に誘い、まんまと罠にかける。一切を奪われたユディシュティラたちはカーミヤカの森に放逐された……この物語は太古の昔から綿々とつづくため、神々の系譜など煩雑なところも多く、最初はなかなかとっつきにくい。「物語のあらまし」で概要を把握してから読みすすめるのがおすすめだ。
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-一人の少女が大人へと成長していく青春のひとこまを、鮮やかに描く。ジーニアは兄と二人暮らし、洋裁店で働いている。もうすぐ17歳になる夏、三つほど年上のアメーリアと出会う。アメーリアは画家のモデルをしているという。成熟した雰囲気を漂わせるアメーリアに、ジーニアは反発しつつも憧れを抱く。昼間は働き、夜はカフェやダンスホールで遊び、日曜は散歩に出かけたり湖でボートに乗ったり映画をみたり、あるときアメーリアは、モデルの仕事をしている画家のもとへジーニアを連れていく。ジーニアはその画家に恋するが……燦めくような夏はあっという間に過ぎ去る。パヴェーゼに惚れ込んだ訳者による名訳。
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-主人公のポール、その二人の恋人たち、ポールの母親とのあいだに繰り広げられる愛憎の葛藤を描きつくしたロレンスの代表作のひとつ。母親は希望の星だった長男ウィリアムを亡くし、すべての期待と愛情をポールにそそぐ。ポールにとって母親は絶対だった。ポールの幼馴染の恋人ミリアムは読書が好きで宗教心もあついが、性については消極的だ。一方、もう一人の恋人クララは人妻で肉体的な魅力にあふれ、婦人権運動家でもあった。母親はミリアムに対して敵意さえいだき、クララに対してはむしろ寛容なところをみせる。ポールはミリアムを退けるが、母親が亡くなって絶望的な喪失感をいだく。クララはポールといさかいを起こし別居していた夫のもとに戻る。ポールはミリアムの求婚も振り切って、一人で生きていこうとする。
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-「論文というより、エッセーに近く、エッセー小説風の描写スタイルで、それまで暖めてきたテーマが一気に噴出した、といった強い情熱がひしひしと伝わってくる作品ではあるけれども、そこは熟達した小説家らしく、具象的で、実際的であり、ふんだんに散りばめられた辛辣なジョークに思わず笑いも誘われる。従来の男性優位思考に対する、手厳しい皮肉と嘲笑と諷刺をからめた論詰が、とぼけた表現の随所に潜んでいるので、聞き手の若い女性たちはさぞ胸のすく思いをし、会場に笑いの渦を巻き起こしたに違いない」(エッセイスト高沢英子氏のことば)…講演をもとにしたウルフの女性論。
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-判事の娘で女子学生のテンプルは、男友だちに連れられて、酒の密造所に連れ込まれ、恐怖の一夜を明かした朝、性的不能者のポパイに、トウモロコシの軸で犯される。そのおり彼女を守ろうとした仲間のひとりがポパイに射殺され、家主のグッドウィンが容疑者として裁判にかけられるが、テンプルの偽証で犯人に仕立てられ、群衆から火あぶりのリンチを受ける。ポパイは町の売春宿にテンプルを監禁して男を当てがうが、この男にそむかれて殺害し、のち自分自身も覚えのない殺人事件の容疑を問われて無実のまま断罪されてしまう。救いようのない性と暴力の残虐物語だが、この渦中に耐えて生きてゆくグッドウィンの妻を配して、救いを設けている。
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-ジョイスの若き日を描いたとみられる自伝的要素の強い作品。主人公スティーヴン・ディーダラスが自分の周囲、肉親、恋人、友人、先生とたもとを分かち、アイルランドの郷土、民族、宗教、政治から決定的に訣別して、芸術に奉仕するコスモポリタンな人間として生きることを選び取るまでの息苦しい苦闘を描く青春文学の力作。この作品の中の多くの要素はすぐあとに続く「ユリシーズ」へと引き継がれた。
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-ラテン・アメリカ文学の質の高さを世界にしめしたボルヘスの処女短編集「伝奇集」と、その続編ともいえる「エル・アレフ」を収めた。「円環の虚構」「アル・ムターシムを求めて」「バベルの図書館」「死とコンパス」「不死の人」「アレフ」など、ボルヘスの代表作34編を収録。訳者篠田氏はチェスタートンのブラウン神父ものとの相似性を指摘している。
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3.0パリ=ル・アーブル間を走る「ラ・リゾン」の一等機関手ジャック・ランチエには、女の裸を見ると殺意に襲われるという病的なところがあった。彼はある日たまたま、助役ルボーとその妻セヴリーヌが走り去る列車のなかでおかす殺人現場を車外から目撃し、彼女に惹きつけられていく。「獣人」は鉄道界と司法界をバックに、呪われた遺伝的発作に苦しむ主人公と、けだもののように疾走する機関車の姿とを重ね合わせ、人間獣性の諸相をえぐり出す。機関車の機械美、緊迫した筋の展開、絡み合う作中要素と人々の相互関係などが圧倒的な迫力で迫る。ゾラの円熟期に書かれた傑作。
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-中世イギリスのサクソン人とノルマン人の対立を背景に描かれた恋と冒険の騎士道絵巻。サクソンの郷士セドリックの子アイヴァンホーは、サクソン王アルフレッドの後裔であるロウィーナ姫に恋して父の意向に反し、勘当される。彼はノルマン人リチャード獅子心王の臣として十字軍に加わるが、リチャード王の弟ジョンは、兄王の外征中に王位をねらう。アイヴァンホーとリチャード王はひそかに帰国して、王位を守る。義賊ロビンフッドも力を貸した。ジョンと金融上のつながりを持つユダヤ人アイザック、およびその娘レベカも登場、レベカは負傷したアイヴァンホーを看護し、恋におちる。だが、最後にはセドリックの勘当も解け、アイヴァンホーはロウィーナ姫と結婚する。
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-アメリカ南部の大農園主の父と、フランス貴族の血をひく母のあいだに生まれたスカーレット・オハラは16歳、魅惑的な顔だちで、青年たちの心をとらえていたが、火のように激しい気性の持主でもあった。彼女が秘かに思いを寄せていたのは、うぶでけがれを知らぬ青年アシュレだった。その彼が従妹のメラニーと婚約したと知って驚くが、自分が打ち明けさえすればと、たかをくくっていた。野外パーティの日、彼女はアシュレを図書室につれこんで愛を打ち明ける。だが、アシュレは彼女をうけ入れようとはしなかった。スカーレットは彼を罵倒し、半狂乱になって彼の頬をなぐる。ところがこの一幕をレット・バトラーという男に見られてしまう。誇りを傷つけられた彼女はアシュレヘの面当てと復讐じみた気持ちから、彼の妹の恋人でありメラニーの兄であるチャールズと結婚してしまう。折から南北戦争が勃発、スカーレットの怒涛の人生が幕をあける……。刊行と同時にベストセラーとなり、今もなお熱烈に読みつがれる壮大な愛のドラマ。
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-私は大自然に対して最初に戦いをいどんだ、あの大航海時代の人々のことをもっとくわしく知りたいと思った。そのなかで、ただ一つだけがこの上なく私を感動させた。それは、世界探検史上、もっとも大規模な事業を果たしたと思われる男、すなわちフェルディナント・マゼランの偉業であった。彼は五隻のとるに足らぬ小帆船でセビーリャから出航し、全地球を一周した――おそらく人類史上もっともすばらしいオデュッセイアと言えるであろうが、堅い決意を抱いて出帆した265名の男たちのうち、わずか18名のみが朽ちはてた船に乗って故郷へ帰りついた。そこに彼の姿はなかったが、その船のマストには偉大な勝利の旗が高くかかげられていた。
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-古代インドのサンスクリット語による大叙事詩。詩聖ヴァールミーキの作と伝えられる。ガンジス川の中流に位置するコーサラ国の首都アヨーディヤーを統治するダシャラタ王は3人の妃によって4人の王子を得た。長男のラーマは魔類を滅ぼすためにヴィシュヌ神が人間に化身したものであった。王は長男ラーマに王位を譲ろうとしたが、継母のカイケーイーは、自分の産んだバラタを王位につけ、ラーマを14年間追放するよう王に迫る。ラーマはそれを知ると、自ら森に入った。妻のシーターと弟のラクシュマナも彼に従った。王が亡くなると、バラタはラーマを連れ戻しに行くが、拒絶されたので、ラーマのサンダルを玉座に置いて、王国を守りつつラーマの帰国を待った。ラーマはダンダカの森において有害な羅刹(らせつ)を退治したので、羅刹の王ラーヴァナは彼を憎み、かつシーターの美貌に魅了され、彼女を略奪して、自分の王宮に幽閉した。ラーマはラクシュマナと共にシーターを救出しに出かける。この救出劇の詳細がラーマーヤナの主筋である。途中、ラーマは猿王スグリーヴァの窮地を救ったので、神猿ハヌーマンをはじめとする猿軍の支援を得て、ラーヴァナの王宮がランカー島にあることをつきとめる。ラーマは猿軍とともにランカーに渡り、激戦につぐ激戦のすえ、ついにラーヴァナとその配下の悪魔たちを殺し、シーターを救出する。1年間ラーヴァナの王宮に幽閉されていたシーターは、身の貞潔を証明するために火神を念じながら火の中に入り、火神はシーターを抱きあげてその身の潔白を証言し、ラーマに手わたす。ラーマは彼女を伴ってアヨーディヤー市に凱旋し、王位についた。「ラーマーヤナ」はヒンドゥー教の聖典とされて後代の文学と思想に多大な影響を与え、インド国外でも、ジャワ、マレー、ミャンマー、タイなどの文化に強い影響を及ぼし、中央アジアから中国や日本にも説話として伝えられた。表紙絵はタイ、バンコクの「ワット・プラケオ(エメラルド寺院)」にある大壁画の一部である。
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-アメリカ南部のさびれた田舎町のカフェで起こるエピソード。カフェの女主人ミス・アメリアは、男のような力を持ちながら、ひどい斜視の持ち主だが、ふとしたきっかけから肉体的畸型児であるせむし男に愛情を抱く。だが、かつてつかのま夫にしたことのある無頼漢で前科者のマーヴィン・メイシーと肉弾相打つ決闘を試みて、あげくの果てには、愛するせむし男そのものに裏ぎられて敗北してゆく。象徴的なトーンは、今日の人間の心の孤独、現実の世界にとりつく島も容易に見出せぬ人間の悲しい状況である。
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-新天地を求めてアルメニアからアメリカに移住してきたガローラニヤン家のアラム少年。いたずら好きの彼が悪友たちと起こす騒動の数々。貧しいけれども純粋で無邪気だった幼き日々を、愛と笑いとペーソスで彩った14編からなる名作短編集。サローヤンをみずからの文学の出発点として共感した三浦朱門氏による翻訳でおくる。
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-神聖ローマ帝国皇帝妃マリア・テレジアの娘マリー・アントワネットは、15歳でフランス王ルイ16世に嫁ぐ。彼女はヴェルサイユの薔薇と咲き誇り、王国に君臨する。宮中には陰謀が渦巻き、数々のスキャンダルに巻き込まれるが、真実の恋人フェルセン伯が登場していっときの安らぎを得る。だが足下には革命の激流が迫っていた!
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-舞台はジョージア州のうらぶれた工場町。人々は無気力な状態にある。主人公の唖(おし)で聾(つんぼ)のシンガーは、同じく唖のアントナープロスと共同生活をおくり、思慕を寄せるが報われない。そのシンガーに、多感な少女ミックはほのかな思いを寄せるが、当のシンガーは少女の思慕に気づかない。またそのミックに、ニューヨーク・カフェの主人ビフ・ブラノンは年甲斐もなく愛情を感じているが、ミックは彼を気味悪く思うばかり。作中人物はそれぞれが《報われざる愛》の連鎖関係のなかに生き、そこに解決はない……魂の孤立を透徹するまなざしで描ききった20世紀アメリカ文学の代表的古典。
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-フォークナーは全く予備知識を与えぬまま読者を白痴ベンジーの意識のなかに連れこむ。そしてその錯乱の意識を通りぬけた読者は第二部で再び意識の流れの激しい屈折に戸惑う。しかし第三部、第四部では次第にこの作品の主題と意味が明らかにされてゆく。この作品は現在と過去との交錯がいちじるしい。とくに一部、二部はそうであり、たとえば第一部ではベンジーの意識が現在の知覚から過去へ移るときにはたいていイタリック体で書き表わされているが〔訳文では【 】で囲った〕、同じ技法が第二部でも用いられている。そしてこれら錯綜する時間と映像の下に、登場人物の心にとって意味の深い出来事が埋められているのである。米国南部社会の醜悪で陰惨な人間心理を描写し、『響きと怒り』は二十世紀の傑出した小説のひとつと評価される。
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-ロンドンの大泥棒メッキは当地の乞食界を牛耳る大物ピーチャムの一人娘ポリーとひそかに結婚する。ピーチャム夫婦はメッキを葬ろうと画策し、警視総監ブラウンをけしかける。だが、ブラウンとメッキは裏でつながる仲だった。メッキは売春婦の裏切りで入獄するも、ブラウンの娘ルーシーの助けで脱走、だが再び売春婦の裏切りで捕まり絞首台へ。最後の土壇場でメッキは国王の恩赦で釈放、貴族に列せられる。英国のジョン・ゲイの「乞食オペラ」をもとに作曲家クルト・ヴァイルとの協力で完成したこの作品で、ブレヒトの名は一躍世界に知られることになった。この翻訳は現代の生きた日本語を駆使してつくられた現代を反映する新訳である。
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-一つの作品に打ち込む老画家の十年にわたる執念が狂気にまでいたる経緯を描く「知られざる傑作」。この作品は、世代の異なる画家3人をパリに集めて出会わせ、具象と抽象という造形芸術の永遠の問題をうきぼりにしてもいる。重厚な描写とあわせてバルザック特有の「軽み」にも意をもちいた改訳版である。併録した「ピエール・グラスー」は「知られざる傑作」の幻想的な雰囲気とは異なり、リアルな物欲・名誉欲にかられる人物たちをコメディー・タッチで描く。画家を主人公としたこの2作は、いわば能楽と狂言のような関係にある。後者の主人公は贋作作家であるが、当代注目されている公式肖像画家をモデルにしており、芸術と金銭・権力との関係に興味のある人には必読の書。両作ともに、豊富な参考画像と当代の事情を明らかにする詳しい解説を付した。
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-ホーヴァー氏が避暑に借りた家は、かつて人の寿命を確実に予見できる医学博士が建てたものだった。ある晩のこと、書斎にかけてあった博士の肖像画が抜け出してきてホーヴァー氏を指さした……。この「死の診断」のほか、「壁の向こうで」「死人谷の夜の怪」「アウル・クリーク鉄橋の出来事」など怪奇短編15篇を収録。ポーの再来といわれ、痛烈な諷刺と諧謔を交えた「悪魔の辞典」で有名なビアスが、人間の心理の中に分け入って描く斬新な怪奇小説ワールド。
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-モラヴィア21才のときの処女作。出版と同時に、イタリア文壇未曾有といわれる反響を呼び、一般読者からも熱狂と興奮とで迎えられた。だが、この作品は、一部の顰蹙と反感をも買い、のちにカトリック教会によって禁書とされた。以下の紹介文がすべてを語る。「モラヴィアはスタンダールのごとく偏見がなく、観察鋭く、非感傷的・人間的であり、まとに貴重な現代作家の一人である」(ニューヨーク・タイムズ)、「非常に刺激的で、異常な本…モラヴィアはあらゆる可能性を秘めている作家だ」(ニューヨーカー)、「これほどの問題作はない…一読をおすすめする」(パリ・マッチ)
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5.0二十七歳になるアンの心の細かな動きを追い、サマセットシャの田舎の秋の自然のなかに、切ない愛の悲しみが奏でられる。作者最後のこの作品を、ヴァージニア・ウルフは最も退屈で最も美しいと評した。「物語の進め方も、主人公アンの人間像とその恋との描出も、落ちついた、深みをもった、淡いものである。一見淡々としているようでありながら、底にはものやわらかな暗愁の気がこもり、さり気ない筆つかいのうちに人生の機微をするどくとらえ、人間心理の屈折を追求している。近代におけるもっともすぐれた心理小説の先駆といっていい」訳者はこう語る。
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5.0アレクサンドル1世、ナポレオン、クトゥーゾフといった実在の人物や歴史的事実の間に、自己の創造した人物を自在に配して、二度にわたるナポレオン戦争の時代を生きた人々の運命を描いた記念碑的作品。貴族社会の俗悪さを軽蔑しきり、自らロシアのナポレオンになろうという野心に燃えて戦場に赴くが、アウステルリッツで負傷し、悠久の空以外すべてはむなしいと自覚するアンドレイ公爵。美しい妻エレンの不貞の後、フリーメイソンに精神の救いを求め、これにも幻滅、ボロジノー戦で初めてロシア民衆のもつ巨大なエネルギーに心打たれるピエール伯爵。小説はこの二人の青年を中心に、あけっぴろげな魂をもつ天真爛漫な少女ナターシャ、信仰心あつい女性マリヤなど、多くの人々の愛と悩みが描かれる。登場人物の数559人! 全4編およびエピローグからなるこの大長編歴史小説で、トルストイは主要な作中人物に託して、自己の世界観や歴史観、さらには民衆観を展開し、歴史的事件を決定するのはそれに参加した民衆すべての意志の総和であるという独自の哲学を打ち出している。世界文学に高峰のようにそびえる絢爛たる絵巻物。
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-カンザス名物の大竜巻に家ごと運ばれたドロシーは、見知らぬ土地にたどりつき、頭にわらの入ったかかし、心臓がないブリキのきこり、臆病なライオンたちと出会う。故郷カンザスに帰りたい一心のドロシーは、変わった仲間たちと、どんな願いもかなえてくれるというオズの魔法使いに会うために、エメラルドの都をめざす……世界中で愛され続ける魔法と冒険がいっぱいの物語。