酒寄進一の一覧
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ユーザーレビュー
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初のフェルディナン・フォン・シーラッハ。
短編集。巻末の解説から、実は「犯罪」「罪悪」との三部作で完結作とのこと。失敗しました。
作品全体にだが、余計な文章が全くない。
登場人物の感情がほとんど描かれておらず、その辺りは読み手が推察することになる。
ここまで徹底するのは凄い。
犯した罪と、その罰
...続きを読むのバランスが取れているのか、ということが主題だったと思う。
おすすめは、参審員、逆さ、小男、友人。
Posted by ブクログ
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『「それから?」 夫はきつい口調でたずねた。「白熊がなにをするか知ってるくせに。首を左右に振るのよ。いつまでも右に左に」「きみみたいにな」「わたしみたいに?」女はおどろいてそうたずね、闇の中でいまいわれたとおり首を左右に振った。「きみはだれかを待っていた」夫がいった』―『白熊』
初めて読む作家、マ
...続きを読むリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集。最初の幾つかの短篇を読むかぎり、これまで読んだ欧州の怪奇譚の雰囲気と似ている語り口で、初めてのような気がしない。例えば最近読んだものだとアラン・ノエル・ラティマ・マンビーの「アラバスターの手」とか、シルヴィア・プラスの「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」などが思い浮かぶ。更に言うなら、もう少し前に読んだゾラン・ジヴコヴィッチの「12人の蒐集家/ティーショップ」なんかにも似ている印象を受ける。要は、あちらの世界とこちらの世界が何やら薄暗いところを通して繋がってしまう話とか、人間がいつの間にか獣のような邪悪な存在になってしまって悪さをするとか悪魔が出て来るような話。それが西欧的な世界観に由来するものかどうかは不明だけれども、似たような話を極端に単純化して要約してみると、本邦の番町皿屋敷のように個人的な恨みや怨恨を持って張本人の前に現れるというような話は案外少なくて、何だか人智を越えた存在にふっと誘われ(あるいは、さらわれ)そうになる展開というのに彼の地の人は関心があるのかなとも思ったり。そう書いてみて気付いたけれど、小泉八雲の「怪談」なんかもどちらかといえばそういう話が多いような気がするのは、やはり西欧の人の関心の為せる業なのかも知れない、などと思考が脱線する。
『その昔、大都会であるN市の黄金時代が終わった。メイドやウェイターや売り子や車掌や道路清掃人や郵便配達人や墓掘人の黄金時代が。雇い主に奉仕すること、スープを給仕すること、商品をだしたり、包装したりすること、子どもの体を洗うこと、老人に付き添うこと、瀕死の患者の介護をすること。たとえ高給がもらえても、だれひとりそういう仕事につこうとしなくなったのだ。オフィスでは数十万人のビジネスマンがデスクワークをしているというのに、路上はきたないまま。食堂は店じまいし、郵便は配達されなくなり、車掌、切符売りを必要とする公共交通機関は運行を停止した。新聞各紙がこの憂慮すべき状況を打破するべくさまざまな提案をしたが、どれも不発に終わった』―『その昔、N市では』
ところが後半に入ると、ぐっと現代的な要素が色濃くにじみ出た作品が多くなる。その構成については翻訳家と出版社の仕掛けという側面があるにせよ、半世紀以上前の作品に現在の社会的な問題を見い出してしまうというのは、作品が根源的な人の業を描いているからに違いない。例えば表題作でもある「その昔、N市では」を読みながら、感染症に喘ぐ都市が抱えている問題、例えばいわゆる「エッセンシャルワーカー」の問題や、貧富の格差の問題などを想起しないでいることは難しい。そこまで大きな社会問題のようなテーマを扱っている作品はこの短篇集では他に「ルピナス」位だけれど、人間の性悪(これを、しょうわる、と読むか、せいあく、と読むかで意味も少し変わるような気がする)な部分(あるいはそれを人間性というのかも知れないけれど)が強調されて描かれたディストピア的世界観がこの作家の根底にあるようにも思える。それはひょっとするとナチス政権下の第二次大戦を経験した作家ならではの思いなのか、と想像しながら読み終える。
Posted by ブクログ
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カシュニッツは今回初めて読んだけど、面白かった!
人間心理の闇、奇妙な味、といったような短編集。
日常が少しずつずれていく感じや、夢と混ざり合っていくような感じの塩梅がちょうど良かった。
あまりにも突飛だったり、幻想的すぎる話だと個人的には楽しめないことがあるので…。
迷信かと思いきや否定もしきれ
...続きを読むない『精霊トゥンシュ』。
間違った船に乗ってしまい、奇妙なことが起き続けていることを知らせる手紙が届く『船の話』。
隠れて生きたユダヤ人女性の人生を描いた『ルピナス』。
若い夫婦に追いやられていく老女の『いいですよ、わたしの天使』。
そして、SFホラーぽさもある表題作の『その昔、N市では』。
どれも面白かった。
『ルピナス』と『いいですよ、わたしの天使』は、リアルに苦しくなる展開と終わり方だったけど作品としては特に好きかもしれない。
Posted by ブクログ
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ドイツ人の名前に馴染みがないので、登場人物の名前は覚えにくいし、間柄や話題によって呼び方が変わるので、ちょっと前のページに戻って確認したりしながら読みました。
元貴族の名前には、フルネームの中にそれと分かる呼称が入っているとか、ドイツ社会の中の警官の立ち位置がちょっと分からない(例えば、取り調べに
...続きを読むきた刑事に侮蔑、見下すような眼差しを向けるといった表現があるけれど、日本では警官に対してそういった感情は起きにくいと考える)といったこともあるけど、物欲や見栄や嫉妬というたぶん全世界共通の、ドロドロな人間模様の中でおこる殺人。
面白かったです。
Posted by ブクログ
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カシュニッツは1901年に生まれて1974年に亡くなった作家で、これまでも何冊か翻訳が出ていたらしいが、全く知らなかった。
読んでみると、暗くて不安に満ちていて、うっすらとした恐怖を感じるという全体のトーンは共通しているが、内容はバラエティーに富んでいて、こんな面白い作家、どうして今まで話題にならな
...続きを読むかったのだろうかと思った。
「いいですよ、わたしの天使」「船の話」なんかは岸本佐知子の「居心地の悪い部屋」に入っていてもおかしくない。
「白熊」「幽霊」「精霊トゥンシュ」は、古典的な幽霊小説の風格があるし、「長距離電話」「ルピナス」は構成の巧みさが際立つ。
「ジェニファーの夢」「ロック鳥」「人間という謎」の人間心理の恐ろしさを描いたものもいい。
「その昔、N市では」は本のタイトルになるだけあって、読みやすく面白い。外国人労働者や奴隷制、AIなどの寓意も読み取れて、現代の問題として考えることもできる。40年くらい前に書かれたとは思えない。ゴーレムやフランケンシュタインも思い出した。
酒寄さん選りすぐりのせいか、どれもいい作品でハズレがない。
私が特に好きなのは「船の話」「ルピナス」「四月」「見知らぬ土地」。特に戦後すぐ、フランス空軍の兵士との束の間の交流を描いた「見知らぬ土地」がいい。あそこにあんな風にサン=テグジュペリが出てくるとは。すごい。
カシュニッツはドイツ生まれでドイツ国内、ローマを転々として暮らしたとあるが、主人公もドイツ人とは限らず、舞台もスイス、イタリア、イギリスなどで、ちょっと前に読んだグァダルーペ・ネッテルみたいだなとも思った。
是非とも第二弾を出して欲しい。
Posted by ブクログ
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