Posted by ブクログ
2018年04月27日
「犯罪」「罪悪」などの短編集で人気を得た著者の初長編。とはいっても200ページもない。短編と中編の間といってもいいくらい短い。しかし内容は深い。
(簡単な物語の導入部の紹介)
自動車組立工だったコリーニの職場での評判は、いたってまじめで、勤務態度は申し分なかった。定年まで勤めあげた彼が殺人を...続きを読む犯すとは、誰も思いもしなかった。
処刑スタイルで頭に銃弾を撃ち込まれたあげく、絶命後も激しく顔を踏みつけられ原型をとどめないほどの憎悪を向けられた被害者マイヤー。大手機械工業の代表取締役として世間にも顔を知られた実業家であり資産家。
犯人と被害者の接点はどこにあるのか…
資産家の惨殺にスキャンダルの臭いを嗅ぎつけマスコミは群がる。しかし犯人は黙秘を続け、動機を一切語らない。国選弁護人として弁護を引き受けたのは新米弁護士ライネン。意気揚々と初仕事に挑む。犯人との信頼関係を構築しようと努める。だが問題が判明した。殺された資産家はライネンがまだ少年だったころ、よく遊んだ友人の祖父だったのだ。
そんな犯人を自分は弁護できるのだろうか…
果たして彼の決断は…
ここから下は完全ではないけどネタバレ気味。
本の帯から引用
「本書はドイツで一大センセーションを巻き起こし、作中で語られたある事実がきっかけとなり、ドイツ連邦法務省は省内に調査委員会を立ち上げた。まさに小説が政治を動かしたといえる」
そうなのだ。この作中で語られた事実に触れないと感想が書けないのだ。法律の瑕疵とでも言っておこうか。実際に1960年代後半に改正されドイツの法律に意図的に組み込まれたある条項によって、ある人たちの罪が免責されてしまったのだ。
ああ、書きたい。トリックを書きたい。
日独の比較とか認識の違いとか、うだうだうだうだ書き綴りたい。
書評欄に、途中から黒塗りする機能とか追加できないでしょうか?
もしそれができるなら、疑惑を追及されて渋々役人が提出してくる内部文書くらい真っ黒にできる自信がある。
この著者の作品は犯罪を扱っているのに、どこか人間味がある。それは短編集の2作を読んでも感じたことだったけれど、この長編にもそれは感じる。
サイコパスやシリアルキラー全盛のミステリー界において、「太陽にほえろ!」に登場してきた犯人たちのように、犯人たちにも赤い血が流れているのを感じる。犯人に共感してはいけないんだけれど、どこかにそんな気持ちが芽生えてしまう。そんな感情と理性のゆらぎをこちらに起こさせるようなミステリーやドラマが昔は多かったような気がするが、どうして廃れてしまったんだろう…
動機が人間らしい。これだけで読む価値がある。