一穂ミチのレビュー一覧
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大好きな作家さんたちが寄せていたそれも大好きな本屋が舞台のアンソロジーだったので迷わず手に取りました。
どれもじんわりくる短篇でした。
瀬尾まいこさんの「続きは書店で」は、以前読んだ「強運の持ち主」と主人公が同じっぽいなと思ったら、ほんとにそうで、続編っぽいエピソードで嬉しかったです。
一穂ミチさんの「歌うように生きて」は、人生大変だよね。でも決めれば強く生きて行ける!と思わせてくれる話だった。
坂木司さんの「手に取って見てみろよ」は、坂木司さんらしいお話。こんな本屋近所にあったらなと思いました。
凪良ゆうさんの「小鳥たち」は、最近地元に戻ってきた自分の境遇にも少し近い感じがしてしっとり沁みました。
三浦しおんさんの「見晴らし書店の一日」も家業の本屋を継いだ次女の仕事ぶり?気持ちが描かれていてそんなに大きな事件が起きるわけじゃないけど、わかるなぁとこうやって生きていこうと思える話だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレテンポが良くて読みやすく、予想外の展開が面白くて、最後までグイグイと引っ張られた。
プロポーズされた翌日、恋人が盗撮で捕まる。主人公の新夏が、落ち着いているというか、家族に対しても自分に対しても諦めているようなところがあり、熱量の低いスタートだっただけに、事件が起こり物語が動き出した時の緊張感に、一気に引き込まれた。上手いなあと思った。
私は女で、痴漢や変態やストーカーに対しては生理的嫌悪しかないが、5年も真面目につきあってきて、結婚しようとまで思っていた相手なら、どうだろう。そう簡単に別れるという決断はできない、という新夏の気持ちはわかる。人間関係はそんなに単純ではないだろう。それでも。啓久との関係の、最終的な結末には、納得感があった。
日本では、痴漢と変態があまりにも多すぎる。というか、女性に対して加害者となる男性が多すぎる。女性だというだけで、その被害者になることは当然で、よくある事で、自衛が足りなかったことを責められ、いちいち傷ついていたら生きていけない。ジャムを煮込む啓久の母も、トラウマを抱え、娘を守りたいと願う真帆子も、もちろん新夏も痛ましい。ドライな葵もやっぱり痛ましい。彼女たちの気持ちがヒリヒリと分かってしまう読者も、痛ましい。
第2部で描かれた啓久視点の、その後の話も、良かった。なんかフワフワとした理由で盗撮をし、罪の意識が足りないように見えた啓久が、ちゃんと痛い目にあって苦しんでくれるので、読者としては救われたし、それでも彼がちゃんと生きていこうとしてくれるので、希望も感じた。
啓久の盗撮の被害者である莉子が登場し、ルッキズムと性的搾取の犠牲者である彼女の歪んだ思考が明らかになって、物語がさらにヒリついたが、若い彼女が未来を語るというそれだけで、内容はともかく、希望を感じた。彼女が生きているうちに、世の中が、少しはましになりますように。
性犯罪者のほとんどは捕まらず、罰を受けることもなく、反省もせず、恥を知らないまま堂々と生きているんだろうなと思うと、啓久や瀬名が、まだましな良い人のように思えてきてしまう。いやいやいや。死刑か去勢だよ、マジで。
恋愛小説のようであり、社会派の問題提起小説のようでもあった。性犯罪の問題は、貧困とか差別とか戦争とかと同じように、現代社会の闇だと思う。個人の問題で片付けている場合ではない。 -
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個人的には
【すげえ泣くじゃん】が読後に残った。
6編を読み終えて、「恋しい」という言葉について少し考え方が変わった。
恋しいのは、必ずしも「会いたい人」だけじゃない。
昔の自分だったり、もう戻らない時間だったり、わかり合えなかった家族だったり、失ってしまった居場所だったりする。
そして、ときには今まで気づかなかった誰かの気持ちを、後になって知ることもある。
この本に出てくる人たちは、みんな何かがうまくいっているわけではない。
むしろ、すれ違ったり、失ったり、言葉が足りなかったりする。
それでも、誰かとの間に残った小さなものを手がかりにして、もう一度つながろうとしている。
最初の「エンパイアライン」では、私は「これは恋しいとは違うかな」と思った。
でも6編読み終えた今は、恋しいという気持ちは、もっと曖昧で、不器用で、説明しきれないものなのかもしれないと思う。
「ありがとう」なのか、「よかったね」なのか。
「会いたい」なのか、「忘れたくない」なのか。
あるいは、ただ「たぶんそんな感じ」なのか。
はっきり言葉にできなくても、そこに何かが残っている。
その「何か」を、恋しいと呼ぶのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
読んでいる間ずっとモヤモヤしていた。私は以前、痴漢にあってびっくりしたことがある。でも、正直、それほど傷ついたわけではない。一方で、同じような経験によって外に出られなくなったり、電車に乗れなくなったりする人もいる。そう考えると、盗撮という行為も、人によって「大したことがない」と感じる場合もあれば、人生を変えてしまうほどの傷になる場合もあるのだと思う。だから、私はこの作品を読みながら、何がどれほどの罪なのか、どこまでなら許せるのか、よくわからなくなった。そして、啓久の気持ちも理解できず、「私は男の人の気持ちがわからないのかな」と思った。すっきりした答えが出ないからこそ、恋や愛、やさしさについて考えさせられた作品だった。
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婚約者が電車で盗撮で捕まり、許すか別れるかで悩む表題作と、
その盗撮で捕まって後悔と自問と他の性犯罪者と自分は違うんだというなんの説得力もない自意識を拗らせる婚約者の話『恋とか愛とかやさしさより』の二本立て
表題作はまあひとことで言えば「みんな人のことは好き勝手言うよなあ」という感想。別れるべきだ、別れるなんてもったいない、文句があるなら別れればいいのに…私ならどうするかなあ別れないかなあ。打算で生きるかもなあ。最悪離婚したっていいし。そもそもあの育ちのいい坊ちゃんタイプは好みじゃないなとか姑が厄介すぎて怠いなとか。
私は圧倒的に2作目の方が響いた。結局、恋人も仕事も失い、この先どこにいても一生性犯罪者として生きていくという気の重さ。被害者の女の子の抱える生きづらさと闇。苦しいね。
物語の核心とは関係ないけど、採用するのをシンママか性犯罪者の独身男性かの二択だったときに、後者を即決したのがこれまたシンママだったのがなんというかリアルで唸った。シンママはシンママの味方ではない少なくとも仕事という戦場では、時間の優遇もシンママだからという周りの理解もシンママ同士でシェアするよりも自分だけで独占したいと。こわくて引いた。性犯罪者並みに引いた。
そういえば年金3号に文句言ってたのも男でも年寄りでもなくワーママだったななんて思い出した。
そのくらいの強かさがないと母が務まらないとしたら、私は母にならなくて本当に良かった。
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ネタバレ新夏が盗撮のことを知ってもなお、啓久のことが大好きなのが節々から伝わってきて、五年分の啓久への想いが簡単に消えるわけはないから分かりたくとも分かれない葛藤が読んでいて苦しかった。「性加害者を許したら周りからどう思われるか」というような世間体を気にした結論で早急に別れを告げることなく、第三者の意見を取り入れる前に「自分がどう思うのか」を大切にして理解するために最後まで啓久自信と向き合っているところが彼女の最大の愛だと思った。一度は二人の仲は保たれたように思われたが、新夏が反射的にカメラ音に反応してしまい別れることとなる。彼女のこの反応は啓久のことを疑っているとかそういったレベルの話ではなく無条件反射のようなものだ。でも逆に言うと無意識下で常に疑っているとも捉えることができる。恋とか愛とかやさしさは純度100%でなくても成立するのに、信じることは100%の純度でないと成立が許されないことをこの二人の別れが象徴していて苦しかった。「信じてほしいなら絶対に認めないでほしかった」という新夏の言葉に共感で目が潤んだ。というか盗撮する前に一度でもその数時間前に私にプロポーズしたことが頭に過ぎらない時点で大号泣。
そして葵とは常々考え方が合わない「コスパ」や「総合的な判断」を考慮した恋愛に価値はあるのか、コスパが悪いから人は人を好きになるのでは⁉️と思った。 -
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一穂ミチ、『直木賞』受賞作品。
コロナ禍のパンデミックの中での6篇の短編集。
『違う羽の鳥』、『ロマンス⭐︎』、『燐光』、『特別縁故者』、『祝福の歌』、『さざなみドライブ』、『わたしの春』、の6篇。
前半の3篇は、バッドエンド。いやな感じで終わるのかと、これがまだ…
『ツミデミック』の『ツミ』は『罪』なのか…
後半3篇はハッピーエンド。
よかった、すべてが『罪』で終わらなくて…
それぞれに繋がりはない。
コロナ禍、生きにくかった時。
みんなそれぞれ想いが…
もう6年前のことなんだと。
6年しか経っていないのか。
パンデミックで、誰も彼もがマスクをし、『三密』を避けようとか、アクリル板があったり、『黙食』とか…
そんなことをやっていたことが、今では信じられない。
マスクをしてないと『罪』、手洗いをしないと『罪』、緊急事態宣言中に宴会をすると『罪』…
何もかもが『罪』のように言われた時だった。
もう二度と同じ時はすごしたくない。
特に子どもたちにはもう二度と同じ想いをさせたくない。
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「もう二度と味わいたくない
あの日々を、どうしてか、
書き留めておこうと思った。」
初回配本の文庫に挟まっていた“しおり”には、こんな一穂さん直筆のコメントが金文字で刷られていました。
直木賞を受賞した本作を読んで、自分にとっての“あの日々”を思い出しました。みなが我慢を強いられた様々な制限について、ああそうだったなと思い返すこともあれば、そこまで追い詰められていた人々もいたのだとあらためてその重大さに心が震えました。
一穂さんの筆力によって恐怖の淵へと一気に引っ張り込まれるようなエピソードや、人間は捨てたもんじゃないと心温まるようなエピソードもありました。“もう二度と味わいたくない”からこそ、この小説の存在意義は大きいと実感しながら本を閉じました。