男女の身体が入れ替わるという使い古された設定にも関わらず、面白いと思った。
入れ替わり系の物語だと、たいていは元に戻るために四苦八苦するプロセスを描くものだが、本作の主人公は違った。異常な状況を何となく受け入れてしまう。もちろん葛藤はある。ただ、原因を探るとか、元に戻るために苦悩するとか、そういう展
...続きを読む開ではなく、まずは新しい環境に適応する努力をするのだ。そこが新しい。
他の気づきもある。
この物語に大きなイベントは起きない。ただただ入れ替わった男女の日常が続く。年齢とともに一般的なライフイベントは起きるが、ドラマチックな事件は無い。
それでも読者としての自分は主人公の行く末をハラハラしながら見守ってしまう。
どうやらドラマというものは、主人公の葛藤さえあれば成立するものらしいと気づいた。主人公の目の前にはありふれた日常しかないのだが、「この人生は自分のものではない」という葛藤が物語のエンジンとなっているのだ。身近な愛すべき人々に嘘をついている罪悪感。他人の人生を生きる居心地の悪さ。それが葛藤となる。
なるほど、「葛藤」さえあればドラマになるのだな。
個人的には大林宣彦監督で映像化してほしい作品。
<アンダーライン>
・「無償の愛を注げる相手がいるって、なんつーかすげえなって思うときあるよ。足枷になるときがないって言ったら嘘になるけど、やっぱ原動力になるし。死んでる場合じゃなねえってなるよね」
・誰かとの約束には、人を生かす力がある