篠田節子のレビュー一覧
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1990年代に一大ブームを巻き起こした画家ジャンピエール・ヴァレーズ。バブル期の大衆の心を掴みながら、美術界からは黙殺され芸術家の扱いすらされなかった”終わった画家“。
美術系編集者として仕事一筋でやってきた有沢真由子は、かつて鼻で笑っていたヴァレーズの作品に30年の時を経て対面し、不覚にも安らぎを覚えてしまう。
なぜまた今ヴァレーズなのか?ヴァレーズブームとはなんだったのか?
画家本人を取材するため単身訪れたハワイで真由子が掴んだものとは…
面白かった〜。
かつてのブームを知る人なら誰でもクリスチャン・ラッセンを思い出すね。
美術界から芸術扱いをされなかったにもかかわらず売れに売れ、大人気 -
Posted by ブクログ
出版社に勤める真由子は、バブルが弾けた後、日本中で売れた、海洋生物や海を鮮やかに描いたヴァレーズの絵画の原画展があるというので足を運ぶ。ギャラリーはやや怪しい売り方をしていた。ヴァレーズブームとは一体なんだっのか総括する本を出そうと彼の住むハワイに向かう。
どう読んでも、クリスチャン・ラッセンの事を連想せずにはいられない。芸人永野が「普通に、ラッセンが好き」と言うあれだ。しかし小説は多分ほとんどがフィクションで、ラッセンとは関係がないのだろうと思う。ヴァレーズや周囲の人間について意外な事実が飛び出してきて、ミステリーになっていた。これが意外なほど面白かった。 -
Posted by ブクログ
銀婚式というタイトルからイメージしていたストーリーと良い意味で違っていた。
男性が主人公なので、男性ぽい価値観や行動が印象的だった。が、作家さんは女性であり驚いた。
ジェンダーレスの時代を生きる男性が、この主人公の年齢になった時、共感するのはどんなところなんだろう。
そんなこと思う自体が間違っるのか…。
どんな時代になっても、人は必ず老いていく。
ひとりで生きていける強さも必要だけど、誰かと支え合うための強さと優しさも必要な気がする。
気づけば銀婚式だったという、時間の流れは尊く、そこに家族や愛おしい存在があることは本当に奇跡でしあわせなことかも。
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Posted by ブクログ
ネタバレリアリティのある文章。恋愛と結婚、男女関係、信仰、社会的地位、男社会の競争。欲のままに生きた等身大の男の人生と、どこか冷静でありながらも父の残像を追いかけ辿ろうとする次女の決意。他人事にはなれない物語がそこにはあって、引き込まれた。
康宏は紘子を青臭いと揶揄していたが、康弘こそ青二歳のままだったと思う。
結婚、家庭、孫という安定的で凡庸な幸せに満足せず、一時的な同情や情事に自分の存在意義を見出さそうとしていた。
四国遍路での結願を経て、漸く家族のもとへ戻ろうとした時に命を落とした。自分勝手に生きた代償なのか、
康弘を家族のもとへ帰ろうとさせた動機は、四国遍路の終了が主ではない、気がする -
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篠田節子さんが若い頃に発表した6篇からなる短編集だ。
篠田さんがデビューして初期から中期の作品と云うこともあり、とてもエネルギーに満ちた激しさがある。
恋は甘美で至福の時を分かち合うものだが、やがて小さなすれ違いから破綻を迎える物語が綴られている。
人の心に潜む執着心、独占欲、願望などが複雑に絡み合い、妄想と現実の世界との差から葛藤が始まる時、相思相愛の関係から残酷とも云える関係に変化するのだろうか⋯。
そんな緊張感が伝わってくる短編集だ。
突如にして小さなきっかけで愛が憎しみに変わり、狂気の沙汰とも云える行動に出たりする。
世には幸せそうな家庭が散見されるが、一つ間違えばいとも簡単に不穏な空 -
Posted by ブクログ
北海道の果てにある「岬」の先へ行く選ばれし者たちと、残された者たち。スピった隣人、恋人、小説家の行く末やいかに…というノリで進むかと思いきや、物語後半はスピりの原因になるお薬発明話一色で、一気に失速した感が否めない。
だからどうだ?というのを読み取れない時点で、自分がいかに貧相な感性を持った現代人であるかを突きつけられる。
北の国からミサイルが飛んでこようと、新宿の外国人居住区で爆発事故が起きようと、人がまず見るのはスマホのニュースである。目の前が真っ暗になっても、最初に求めるのは太陽でなくスマホの電源だ。かくいう自分もそうかもしれない。そんなことをしている限り、岬には決して呼ばれないだろう。