篠田節子のレビュー一覧
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ネタバレ膨大なボリュームだが読む手が止まらない。自分とは比べ物にならない強靭な人物にすり替わることで半田明美は崩壊していった。
女性たちに対する容赦ない描写はこの著者ならではで本当にうまい。
キリスト教の「神は貧しく小さくされた者とともにある」という教えが通底している。
P424 「親身」が通用しない場合もある。時には腫れ物にさわる慎重さや冷めた視線、そして必要と判断したら白百合会を通して専門家に助けを求める臨機応変さも必要だ。
P629 矛盾に引き裂かれても、立場と行動は簡単には変えられない。自分の思考と感情を行動と立場に合わせて変えるほうがはるかにたやすい。【中略】それが極限まで行けば、思考と -
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これは一人の男性が、自分の人生の責任を認識するということをテーマにした小説と捉えた。
この類の男性の通過儀礼をテーマにした小説は多々あるが、本作はそれらの作品とは一線を画した、ジェンダー問題への鋭い示唆に富んだ作品だ。
ある出来事が起きて、「俺は変わったんだ」という言葉と共に、何も変わることなく生きている男性は多い。
口だけではなく実際に新たな責任を背負うためにはとても困難な認識の変化が求められるが、それは革命的な転換ではなく、牛歩的なプロセスであることを本作は示している。
主人公の行動描写と内的描写が撚り合わさり、その遅々とした歩みを描き切っている点、本作は未来を先取りしていると感じた。 -
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ハワイ在住のジャンピエール・ヴァレーズが描くマリンアートの作品を巡ってのミステリー。
新聞社の社員としてアート誌の編集に携わっていた主人公の有沢真由子は、50歳の誕生日を迎えた日に熱海のホテルでジャンピエール・ヴァレーズの絵と出会う。
過去にブームだったジャンピエール・ヴァレーズの絵だが、再度ブームの兆しがあるのだろうか⋯。
以前の真由子は、芸術性とは程遠いヴァレーズの絵を鼻先で笑って相手にもしていなかったのだが、何故かホテルで出会った時に惹かれるものを感じてしまう。
真由子は何故に今となってヴァレーズが描いたマリンアートに心を動かされたのかを自らに問う。
その結果、ヴァレーズの価値を再検証 -
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篠田節子さんの作品は女たちのジハードぶりの2作目で
夏だし、と思って表題で手に取りました。
パンデミックの話で、コロナの以前に描かれた本でしたが予防接種の薬の認可やみんな家に引き篭もり、閑散とした町や飲食店、まるで予言していたような本でびっくりしました。
作者の医療や行政についての知識にも感嘆しますし、この作品を描くにあたりさらに資料を集めたり様々な調べものや取材などされたであろう事にも思いを巡らせてしまいました。
さて、小説としては、医療や行政の話としても感慨深く読めますが、わたしとしては登場人物ひとりひとりが個性的に描かれていて読んでいて楽しかった。小西、普通のサラリーマン、よけいな波風立 -
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〈青。それも限界まで純度の高い透明な青と白い砂浜のコントラスト。寄せる波はレースのように繊細に泡立ち、海に戻っていくアオウミガメの濡れた甲羅を朝日がバラ色に染めている。澄み切った青い海から立ち上がる波頭の菫色の輝きと、曙光に照らされた遠い海面のシャンパンゴールド。〉
自身が区分所有権を持つ老朽化した熱海のホテルで誕生日をひとりで祝っていた編集者の有沢真由子は、そこに置かれていたハブルの遺産のような絵に心を奪われる。その作者は、かつて美術書の編集に携わっていた頃には馬鹿にしていたジャンピエール・ヴァレーズの絵だった。当時から美術業界から黙殺され、大衆からも忘れ去られた作家だ。そんな折、真由子 -
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全てを理解するのが難しいと思えるほど、
インドは広い。
歴史、風習、宗教、経済、文化があまりにも違いすぎ、多種多様といった言葉では形容するにはあまりにもインドという国が抱えている闇が深い。
2025年現在世界一の人口を抱え、指定部族の数は600以上ある。インドという1つの国にまとまってはいるが、ここまで文化が違えば別な国と思ってしまうほどだ。
また、この物語を複雑化させているのは、
イギリスの植民地時代の名残り、馴染みのないカースト制度だろう。
古い慣習に囚われ、自由もなく、虐げられ、暴力によって支配された世界が少しずつだが、変わっていく希望の物語であると思うが、自分の目で確認できること -
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ネタバレカリスマ主婦、ノーベル文学賞作家、由緒ある名家の令嬢…北海道の片隅にある岬に引きよさせらた、彼らの謎を追うミステリー。
経済も国力も停滞し衰え、インフラ整備や外国の侵犯にも手をこまねく近未来の日本を舞台に、不老不死や若返りの妙薬の謎を追いかける話になっていく。
ミニマムとか断捨離とかにあこがれ、少しずつでも実践しているのだが、その極地である欲望を制御しきった先にある生き様を考えさせられた作品。不老不死の謎を解明したシーンには共感と同時にちょっと背筋が寒くなる気がした。
ギラギラした欲望を排除して灰汁の抜けきった生き方は平穏ではあるけれど、外から見れば不幸で無力に見えるのかもしれない。それは -
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軍人の父と日本人の母を持つジョージは幼い頃から、父の休暇シーズンになると、太平洋上の小島で過ごし、その近隣の島「ミクロ・タタ」で出会った愛らしい両生類「ウアブ」に魅了されたことがきっかけで、二十代後半になった今では、「ウアブ」の研究者としてその世界では知られた存在になっていた。「ミクロ・タタ」の経済の発展のために、絶滅の危機に追い込まれたウアブの生育環境を守るために、外国人富裕層向けリゾートを建設し、他の島々より一足早く発展を遂げた「メガロ・タタ」にウアブを移動することになった。生態系の変化への懸念はあったにも関わらず――。
というのが、本作の導入です。『仮想儀礼』や『弥勒』で分かってい