あらすじ
その「青さ」は、本物か――?
最年少で管理職となり、仕事一筋で駆け抜けてきた編集者・有沢真由子。
五十歳の誕生日を迎え、つかの間の息抜きに訪れたリゾートホテルで、彼女は一枚の絵画と出会う。
ジャンピエール・ヴァレーズ――バブルの時代に煌びやかな海中画で大衆の心を掴み、一方で当時悪質商法が話題にもなった、“終わった画家”。
かつて鼻で笑っていた彼の絵に、不覚にも安らぎを覚えた真由子だったが、ほどなくして都内の外資系ホテルでヴァレーズの原画展が行われるという情報を得る。
なぜ今再び、ヴァレーズなのか?
かつての熱狂的ブームの正体とは?
違和感を手繰り、真由子は単身ハワイの地を目指す――。
煌びやかな「バブル絵画」の裏に潜んだ底知れぬ闇に迫る、
渾身のアート×ミステリー大長編!
【著者略歴】
篠田節子(しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、09年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞、2020年紫綬褒章を受章した。他の著書に、『夏の災厄』『弥勒』『ブラックボックス』『長女たち』『失われた岬』『セカンドチャンス』『四つの白昼夢』『ロブスター』など多数。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ミステリー仕立てで読者を惹きつけて読みやすい上に、アート、ビジネス、出版、日系人などの世界についても知ることができて興味深い。フィクションだが実際にこういうことがあるのかもと思わせる筆力。
この著者の書くデキる女性がいつもカッコよくて好き。
Posted by ブクログ
ハワイ在住のジャンピエール・ヴァレーズが描くマリンアートの作品を巡ってのミステリー。
新聞社の社員としてアート誌の編集に携わっていた主人公の有沢真由子は、50歳の誕生日を迎えた日に熱海のホテルでジャンピエール・ヴァレーズの絵と出会う。
過去にブームだったジャンピエール・ヴァレーズの絵だが、再度ブームの兆しがあるのだろうか⋯。
以前の真由子は、芸術性とは程遠いヴァレーズの絵を鼻先で笑って相手にもしていなかったのだが、何故かホテルで出会った時に惹かれるものを感じてしまう。
真由子は何故に今となってヴァレーズが描いたマリンアートに心を動かされたのかを自らに問う。
その結果、ヴァレーズの価値を再検証するような書籍の企画を立ち上げ動き出す。
マリンアートブームが去って以来、ジャンピエール・ヴァレーズの消息は不明のままだったのだが何故にまたヴァレーズなのか、その疑問を抱いて真由子はハワイへ渡った。
そしてジャンピエール・ヴァレーズの日本人妻、ミレを探しあててヴァレーズへの取材を依頼するのだが、対談を拒否され続ける。
ヴァレーズの実態を知るために地元の人々に取材するのだが、ヴァレーズが絵描きだということを誰も知らなかった。
この辺りから真由子は刑事さながらの追跡力で、謎のヴァレーズの実像に徐々に近付いて行く。
Posted by ブクログ
かつて、日本でブームを巻き起こした画家ジャンピエール・ヴァレーズの謎をめぐるミステリー小説。ヴァレーズは架空の人物ですが、クリスチャン・ラッセンの画風がダブります。
主人公の真由子が、ヴァレーズを取り巻く様々な闇を解き明かしていく過程は、手に汗握る展開で、最後は勧善懲悪で気持ち良かったです。色々な人が登場する中で、新倉海玲(にいくらみれ)に対しては、底しれぬ恐怖を感じました。
純粋に「描くこと」が好きで絵を描き続けてきたグラント・ササキがどうなるかハラハラしましたが、最後に報われたことが一番嬉しかったです。
心地よい読後感でした。
Posted by ブクログ
〈青。それも限界まで純度の高い透明な青と白い砂浜のコントラスト。寄せる波はレースのように繊細に泡立ち、海に戻っていくアオウミガメの濡れた甲羅を朝日がバラ色に染めている。澄み切った青い海から立ち上がる波頭の菫色の輝きと、曙光に照らされた遠い海面のシャンパンゴールド。〉
自身が区分所有権を持つ老朽化した熱海のホテルで誕生日をひとりで祝っていた編集者の有沢真由子は、そこに置かれていたハブルの遺産のような絵に心を奪われる。その作者は、かつて美術書の編集に携わっていた頃には馬鹿にしていたジャンピエール・ヴァレーズの絵だった。当時から美術業界から黙殺され、大衆からも忘れ去られた作家だ。そんな折、真由子はヴァレーズをふたたび仕掛けようとする動きを知る。ヴァレーズは現在どうしているのか。真由子ははっきりと居場所が分からない彼を探すために、ハワイへと向かう――。
ということでバブル期の日本で高い評価を得たクリスチャン・ラッセンをモデルにした画家を中心に置き、その周囲に蠢く人間の欲望などが生々しく描かれていく美術サスペンスになっています。作り上げられた虚像と後戻りできなくなったひとたち、そしてネタバラシになるので細かくは書けないのですが、〈ある人物〉が真由子に仕掛けた行動は下手な殺人よりもすごく怖いなと思いました。そんな中で、たったひとり、描き続けた人間の一枚の絵とともに幕を閉じるラストの美しい余韻は感動的です。
Posted by ブクログ
原田マハさんかと…ストーリーは上か。芸術作品に値段付けるのは不粋だけど、アートならその人が満足する値段でいいかな。ややこしいのは、気に入った訳でもないのに投資と称して貸し金庫に死蔵する輩。「より観念的で思想性のある真の芸術」って何?「わかりやすいものは、その道の権威に嫌われる」ふー。「ハワイ移民の日本人たちが和服をシャツに仕立て直したものがアロハシャツの原型」知らなかった…。
Posted by ブクログ
面白かった!どこまでが事実で、どこからがフィクションか??入り込めたのは中盤から。当時、私も銀座で何回か声を掛けられた。少し気を引かれた記憶もあるが、買わなくて良かった!被害者で多かったのは老人、学生、若い女性だったそう。いやはや、酷いカラクリ
Posted by ブクログ
1990年代に一大ブームを巻き起こした画家ジャンピエール・ヴァレーズ。バブル期の大衆の心を掴みながら、美術界からは黙殺され芸術家の扱いすらされなかった”終わった画家“。
美術系編集者として仕事一筋でやってきた有沢真由子は、かつて鼻で笑っていたヴァレーズの作品に30年の時を経て対面し、不覚にも安らぎを覚えてしまう。
なぜまた今ヴァレーズなのか?ヴァレーズブームとはなんだったのか?
画家本人を取材するため単身訪れたハワイで真由子が掴んだものとは…
面白かった〜。
かつてのブームを知る人なら誰でもクリスチャン・ラッセンを思い出すね。
美術界から芸術扱いをされなかったにもかかわらず売れに売れ、大人気を博したヴァレーズの絵。なぜ人は彼の絵に惹かれたのか?そこに芸術とは何かという命題が透けて見える。
「わかりやすいものはその道の権威には嫌われる」。芸術を小難しくし、わかりやすいものをバカにする風潮は確かにあるよね。
真由子の取材により驚くばかりの事実が明らかになるのだが、金儲けのための仕掛け人たちが醜ければ醜いほど、利用され搾取された画家の無垢な魂が際立つ。家族にも蔑まれながら、“描きたい”ただそれだけの思いで描き続けたグラントの姿が切ない。
取材の過程で知る日系移民たちの日本への思いに胸を熱くし、ラストの気仙沼の小学校のエピソードに希望を見出す。
全てを暴いて清々とするだけじゃない落とし所も悪くなく、様々な思いに心を動かされた良作でした。
Posted by ブクログ
出版社に勤める真由子は、バブルが弾けた後、日本中で売れた、海洋生物や海を鮮やかに描いたヴァレーズの絵画の原画展があるというので足を運ぶ。ギャラリーはやや怪しい売り方をしていた。ヴァレーズブームとは一体なんだっのか総括する本を出そうと彼の住むハワイに向かう。
どう読んでも、クリスチャン・ラッセンの事を連想せずにはいられない。芸人永野が「普通に、ラッセンが好き」と言うあれだ。しかし小説は多分ほとんどがフィクションで、ラッセンとは関係がないのだろうと思う。ヴァレーズや周囲の人間について意外な事実が飛び出してきて、ミステリーになっていた。これが意外なほど面白かった。
Posted by ブクログ
私は作者の小説を読むのは初めてだと思う。かつての作品『女たちのジハード(聖戦)』で受賞歴があるとの事だ。
ところでこの作品は、あの時代(1990年代)を生きた者なら、誰もが知っている、そして、そのある意味不明瞭な?販売方法?で、その後全く取り上げられなくなったハワイ在住とされた画家、クリスチャン・リース・ラッセン、を題材とした作品の様である。もちろん作中ではそのような事には一切触れていないが、誰もが(あの時代を生きた者なら)その作品の売られ方、を含めた存在を思い浮かべながら、読み進めることができるであろう。
そもそもミステリー仕立てであるようだ、主人公はある意味男らしい、女性編集者、彼女がその画家の氏素性、を調べるところからストーリーは深まっていく…、ミステリーであろうからこの先は書かずにいようと思う。普段、ミステリーを読まない私でも、十分に楽しんで読み進めることができた。多分、日数にして3日ほどで読み終えたのではないだろうか?
同じ美術作品と作家、を題材として、その作品の発祥を後日他人が調べる過程のストーリー、と言う意味では、原田マハ著、リボルバー、に似ている所もあろうかと思う。
Posted by ブクログ
海やイルカなどのマリンアートの絵で
1990年代に一大ブームを巻き起こした
画家ヴァレーズ。ヴァレーズに関する
本を書くため、編集者の有沢真由子が
ハワイに取材に行き、その中で意外な
事実を知る事になる‥というストーリー。
物語は面白いといえば面白いのだが、
前半はやや退屈。後半から徐々に面白く
なっていく。新倉海玲(ヴァレーズの妻)の
悪役っぷりがなかなか面白い。
クリスチャン・ラッセンを思わせる画家、
ヴァレーズ。著者の篠田さんが、ラッセンの
モデル小説ではないと述べているらしいが、
他の方も言われるように、どうみても、
クリスチャン・ラッセンの絵が頭に浮かん
できてしかたがなかった(調べてみた)
Posted by ブクログ
海中の絵、バブル以降流行ったんですよね。
誘いを断れず展示を見に行った方が何時間も別室で拘束された悪徳商法の手口も聞いた事ありました。
そんな絶妙にリアルとノーリアルな話をベースに、物語はぐいぐい進んでいきました。
久しぶりに読んだけれども、ストーリー展開といい、主人公の女性の強さといい、篠田先生さすが、と思いました。
Posted by ブクログ
かって一世を風靡した画家の本を出すためにハワイに渡って調べるうちに画家の存在におかしな事がどんどん出てきて、最後には自分の身にも危険が迫ってくる。ラッセンを彷彿とさせる画家がモチーフ。
Posted by ブクログ
日本でだけファンが多い(よく売れた)ハワイの画家の絵。
なんとなく「あの人」を彷彿とさせる。
出版社の編集者がその絵の謎を解いていく話。
ハワイ島が主な舞台。
Posted by ブクログ
途中まで読むのしんどかった
真相が見え始めてからいっきに読み進めることができた。たぶんバブル当時の空気とかその商法を知っている人は楽しく読めるのでしょう。
ラッセンの絵を、子どもの頃すてきな絵だなと思ったことはある。でも大人になってからはなぜか恥ずかしくて好きとは到底言えないし、カレンダーでも飾るなんてムリだった。なぜだろう、人気があったから余計に?
「ゴッホよりふつうにラッセンが好き」
このギャグが深い言葉のように思えてきた。
篠田先生がラッセン(のような絵)のそういう微妙さを言語化しているのはすごいなあと思った。そう、悪くはないんだ、悪くないけど、受け入れがたい、と思いながらスマホの画像を何度も呼び出しながら読みました。
あと、原田マハさんのようなアートミステリーを想像して読むとちょっと期待してたのと違うな、となると思います。
Posted by ブクログ
バブル期に流行ったマリンアートの作品に心惹かれた編集者の女性が、その画家に会うためにハワイ島へと向かうが、なぜか現地では知る人がいなくて…。
画家の正体を探っていくミステリーとしてはおもしろい。でも、なにしろ画家のイメージや作風、問題となった商法などが、かつて日本で流行ったラッセンそのもので、読みながら常にそれがつきまとって残念ながら興ざめ。
あくまでも好みの問題なのだけれど、絵画は好きで美術展にはよく足を運ぶが、バブル期の象徴のようなあの絵には今も昔も興味がもてず、そこがネックとなって小説を楽しむことができなかった。
Posted by ブクログ
篠田さんが美術界を舞台に描くミステリー長篇。
バブル期に日本で大人気となったが10年ほどで消えた画家ジャンピエール・ヴァレーズ。その彼の原画展が開催されるという情報を得た女性編集者がヴァレーズという画家の本質に迫る本を企画し、取材のため単身ハワイに乗り込むが……。
本作に登場するヴァレーズという画家は架空の存在だが、そのモデルはラッセンであろう。もちろん評伝ではないので、ここに書かれていることは彼とはなんの関係もない(こともない)。
ストーリーはおもしろいし謎解きもよかったけれど、ハワイ移民の苦労話は少々長すぎた。
Posted by ブクログ
心洗われるような絵画を愛する人。また、それを狙い私腹を肥やそうとする周囲の人達。
あまりの長編に挫折しそうになりましたが、中盤からは目が離せなくなりました。
内容はミステリアスですが、絵画の描写やハワイの風景などは引き込まれる物がありました。
Posted by ブクログ
今読んでるところですが、気になりすぎて...真由子は、高卒ですよね?
1973年生の学年は、高卒でない限り「氷河期世代」です。もし大学出てたら就職なんてまともに出来てません。1970年までの生まれなら「バブル世代」だなーと納得できるんだけど、その世代を差し置いて高卒の真由子が、良い会社に入って最年少管理職と持て囃されるためにはだいぶなんか色々あったはずだと思う。
ここがどうにも腹落ちしなくて、読んでて気になってしょうがないです...。
この件について、chat GPTと議論したところ、大卒で入社し、同期が少ない孤立を描いていると言われてちょっと納得。
Posted by ブクログ
マリンアートでバブル期日本で熱狂されたが、いまは"終わったアーティスト"であるヴァレーズ。編集者の主人公はそんなアーティストの原画展と出会う。なぜいまヴァレーズ?当時の熱狂の正体とは?かつて嘲笑したアーティストの絵画に癒しを見出したことをきっかけに、ハワイに渡り取材をはじめるが─
アート×ミステリー小説。
どう考えてもラッセンがモデルなのだが、ご存命の人でこういうかたちの話、どうなんでしょう。あきらかにフィクションなので、まあいいのか?うーん……。難しい。
とはいえ、アーティストの痕跡を巡るなかでハワイの日系移民たちの歴史、生活を描かれていて興味深かった。アートとは?という答えのあるようなないような問答も王道ながら楽しく読みました。