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薬物や性暴力によって心的外傷を負った女性たちのシェルター「新アグネス寮」で発生した火災。「先生」こと小野尚子は取り残された薬物中毒の女性と赤ん坊を助けるために死亡。スタッフがあまりにふさわしい最期を悼むなか、警察から衝撃の事実が告げられる。「小野尚子」として死んだ遺体は、まったくの別人だった。スタッフ中富優紀は、ライター山崎知佳とともに、すべての始まり、「1994年」に何が起こったのかを調べ始め、かつて「女」を追っていた記者にたどり着く。老舗出版社の社長令嬢、さる皇族の后候補となったこともある優しく、高潔な「聖母」の正体とは……。一方、指導者を失ったシェルター内では、じわじわと不協和音が……。疑念渦巻く女の園、傑作長編サスペンス。
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Posted by ブクログ
やっぱり篠田節子さんは凄いわ。作品のスケールがとにかくデカい。それでいながら、細部は蟻の子一匹侵入を許さないような細やかさで、緻密に物語を構成、進行させる。一気読み必至のホームラン的快作。
女性たちが抱える数々の傷や問題、宗教、救済、時にカルトなど、尋常ではまとめ切れないほどのエピソードをひとつの鍋で煮込み、最後は素晴らしい料理に仕立て上げる。今作でも存分に発揮された、その力量と胆力、見識の広さに瞠目するばかり。
ぜひ多くの読者に、篠田節子の作品を読んでほしい。その宇宙の坩堝を覗いて、ともにシノダー(篠田節子さんのファン)になりましょう(笑)……というのは冗談にしても、読んだら高確率でハマる作家さんだと思います。
Posted by ブクログ
ぐふぁ〜‼︎ 凄いなぁ、篠田さん。641ページ、かなり長いです。壮絶な、息苦しくなる話でしたが、早く早く先を教えて!って思いながら読みました。読み応えたっぷりです。
この作品、沢山の要素がある。
アルコールや薬物依存、性依存、自傷行為といった問題を抱える女性たち。その救済のための施設や関わる人々の現実。悪女、毒婦と言われる女たちの犯罪。苦しむ人につけ込む霊感商法。フィリピンの貧困、麻薬の実態。などなど…全て緻密に描かれている。
しかし、なんといっても、私が興味深かったのは『人が人を認識する』ということの、あやふやさ!
私の好きなマンガ「秘密」(清水玲子)にもあったけど、
『人の見ているものは、その人の感情によって明らかに違う』ということなのです。顔さえも違って見える。
また、見かけだけでなく、その人がどんな性格で、どんな心持ちだったか、周りに対して、どんな人物だったかという感覚や評価というのも、受け取る人によって、まるで違う、ということ。
今作の中でも、ルポライターの長島が取材して書いた長い文章、それを読んだ知佳と優紀の受け止め方がまるで違ったところも印象的でした。
その人がどう生きてるか、何を考えているか、それを他人が推し量ることって、難しいし、永遠にわからないのかもしれないなぁ…なんて考えながら読みました。
ネタバレしたくないので結論には触れませんが、長島の男らしい言い方だと、あまりに身も蓋もない。ある意味、優紀の直感は冴えていたとも言えるが、それが全てではなかった。
何十年にもわたる、長い長い旅をしたような気分で読み終えたのでした‼︎
心に残ったフレーズを、少し。
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生まれ直すことはできないけど、生き直すことはできる。
悲痛な口調に背筋が強ばった。複雑な家庭も、貧困も、家庭内暴力も、知らずに育った自分に見えていないものが、優紀には見えている。
憎しみを抱いていても、利害関係が鋭く対立していても、好意を示し表面的な友好関係を維持しなければ、食っていくこともままならない過酷な大人の世界に放り込まれる前に、苗床のような環境で、同世代の女同士、ぶつかり合い、励まし合い、傷つけ合い、生身で触れ合い、自分の感情や関係性を処理するための一通りのトレーニングを積むことができた。
信仰など持っていなくても、人は正しく生きていけますよ。自分の意思と判断力で誘惑になど負けずに生きていけます。
自我など普通に思っている以上に脆いものかもしれない。
光は天からなど刺してこない。光は深い深い穴の底のあらゆる不幸の詰まった、泥の底から刺してきて、神の存在を教えてくれる。救いは低いところにこそある。…行動したとき必ず、神様は後押ししてくれる。黙ってお祈りしていてもだめ。なぜなら神様は一番下の、下の、穴の底のあらゆる不幸の詰まった、泥の下にいて、こんな私たちの闘いを見守ってくれているから。
Posted by ブクログ
心的外傷を負った女性たちが暮らす施設が火事に。
「先生」と慕われるマザーテレサのような小野尚子が死亡した。しかし、遺体は別人だった。
果たして死者は誰なのか。ミステリアスな冒頭から引き込まれ、文庫本641頁もアッという間。
施設代表の優紀とフリーライターの知佳が、「先生」は誰だったのか、本当の小野尚子はどこにと、真相を明かすべく行動を開始する。
そして、小野尚子とは全く異なる生き方をしてきた人物が浮上する。
「人の視覚はカメラと違う。像の中に思いを重ね合わせ、寮の人々は愛情と喪失と悲哀のフィルターを通して」人物を見るというが、果たして異なる顔が同一人物に見えるのだろうか。
さらに、別人格の人間が他人にどこまで同化できるのか。
しかし、そんな疑問も緻密な物語構成によって、違和感なく納得できてしまう。
別人物になり得ることを、著者は題名ともなっている鏡で説明する。
鏡の部屋で見たのは、「正面の鏡に映った自分の姿が背後の鏡にさらに映り込み、無限の像を結ぶ。混乱の中に見えるのは増殖する自意識か、自己と他者の境界の消滅か」と。
「心霊現象とは関わりなく、人は自分でない他人になってしまうことがある」
我々の自我など、思っているよりも脆いものだと、この小説は明かしてくれる。
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