篠田節子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
コロナ禍の今、この作品を読むと、これが25年近くも前に書かれていたことに驚く。
かたや新型インフルエンザ、かたや新型日本脳炎という違いはあれど、役所の縦割り、前例主義、事なかれ主義、利益重視の医療機関、ワクチン開発の闇、デマに踊らされる人々、自殺の増加、挙げればキリがないほどの類似性に、篠田節子の社会を見る目の確かさを思う。
現場で人がどんどん死んでいるのに、新しい法律を作るべきか今までの法律でいくべきかを悠長に議論している国とか、専門家会議の人選を専門性を優先しないで人事的な観点で決める厚生省とか、今もこの手のことが私たちの見えない所で山ほど起こっているんだろうな〜と思わせるリアリティは、篠田さんの市役所勤務の経験から来るものらしい。
登場人物の造形も際立っている。
ザ・市役所の役人って感じだった小西が、次第にこの感染症を抑えることへの熱量が上がっていく過程や、やる気のない事務員青柳が所変われば実に頼りになるところ、左翼系の医師鵜川がネットワークとフットワークで真相究明に力を尽くすところ、気難しい老医師を人心掌握術で手懐け味方にしてしまう看護師の堂元など枚挙にいとまがない。
そして、作品全体を覆う不穏な空気。
変異した貝の大量発生や幼鳥の大量死、殺虫剤に耐性を持った蚊の大量発生など、背筋がゾクっとする。やっと彼らに訪れた平和も次の悪夢への序章でしかないことの恐怖。
未知の感染症にの前には、人の暮らしがいかに脆弱であるかをひしひしと感じる作品でした。 -
購入済み
自分の中では、篠田作品No.1
もう初版が出た時に読んでますから、20年以上は経ってますよね。
紙媒体(ハードも文庫も)だって持ってるのに、いつでも読める様にしておきたいが為に電子にて購入しました。
内容については、他の方のレビューで沢山書いてあるので、そちらをご覧くださいw。
とにかく、自分の中では篠田節子さんの作品で断トツのNo.1だと、力強く言い切れる大傑作です。
物語の殆どが、頭の中に映像化されて保存されていて、こんなに物語に没入して頭から離れない作品はそうそう有りません。
それぐらいの圧倒的な興奮、感動を喚ぶ、極めて優れた娯楽小説です。作中作の方すら書籍化して欲しいぐらいです。
それまで小馬鹿にしていた青森の恐山に対しての認識が、180度変わったのも、この作品と出逢えたお陰だと思います。亡くなった人への「想い」の強さに心を打たれました。
何度も読み返したくなる事請け合いの名作です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「家族だからできる」と言われていることは、家族だからこそできない。きっと、家族だから、より残酷で、逃げ場がなく、追い詰められていく。最後の一言を何度も呑み込みながら、耐えながら。
3編の主人公は、このままでは逃げ出すしか救われない。そんな気がする。介護退職なんてもっての外、どうやって生活するの?看取った後、どうするの? そんなことを考えてしまう。
親と対峙する必要があるのかもしれないけど、「家族だから」できない。絶対に、ヘルパー、介護システムを頼るべきだと思う。令和の時代だから。
高齢化が進むことによって、健康寿命以降の過ごし方が問題になってきている。特に、介護する側に。「ミッション」で描かれているように、長生き(延命)は本当に幸せなのだろうか。節制しながら生きていくことは喜びなのだろうか、と考えさせられます。
「そんなに長生きしたいの?」そして「長生きして何をしたいの?」。ふと、そんなことを想ってしまう。子どもの肝臓を移植して生き延びようとは親なら絶対思わない、と語る父親。しかし、母親は…。そして、なぜか理解ってしまう。それが、かえって辛く、悲しい。
長女。きっと真面目で責任感がある娘かな? 介護は、責任感がある人に負担がかかる。 -
Posted by ブクログ
はぁ〜‼︎ やっぱり篠田節子さんの小説は、大人のお話なのだ。というか、歳をとってから読む方が、この味わいがわかる気がするのです。読んで良かった。
四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父、康宏。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが…。死の間際、父の胸に去来したのは、20年間、愛し続けた女性のことか、それとも? 足跡を辿った次女、碧が見た冬の光とは…。
こんな短い紹介文では表現しきれない、464ページでした。
読んでる間ずーっと感じていたのは『人生は長く、人は強いけれど弱い。一生、清廉潔白な人などいるだろうか?』ということ。
紹介文では20年間愛し続けた、とあるけど、それだって、実際そうなのか?というと、私は違う気もした。卒業後、学生運動からきっぱり足を洗って企業戦士になった康宏に対し、大学という社会の中で自身の正義感から闘争を続け、孤高の人となっていた紘子。気になる存在でもあり、愛していた時期もあるけれど、お互いのズレから、まるで寄り添えなかった時間の方が長かった気もする。
また、康宏の家族愛は、決して嘘ではなかったことも充分わかるし、妻・美枝子との充実した日々だっていっぱいあったのは確かなことなのだ。
愛情も憎しみも、寛容も怒りも、喜びも哀しみも…どんな感情であれ、1つの感情だけで生きていけるほど人生は短くない。逆に、忘れたり、執着がなくなったり、時間と共に辛い感情も薄れてきたり、そういうことがあるからこそ、生きていけるんじゃないかなぁ…などと感じました。
私個人としては、いわゆる“男に甘い”ということかもしれないけれど、康宏が亡くなった直後の美枝子の態度は、余りにも極端に冷たく感じてしまった…。
亡くなった人はもう言い訳も何も言えないのだから、心の中で気にかけてあげるのは、家族しかないんだなあなんて思ったり。
父の旅をなぞってみる碧と、康宏が実際に辿った道や心の中、それが交互に描かれ、人は自分が見ているものが真実だと思いがちだけど、それだけじゃない、ということを強く感じました。
私も、1番心に残ったのは若い住職の言葉でした。
『どんな経緯にあったにせよ、どんな亡くなり方をなさるか、などということは、最後の、最後の、ほんのささいな分かれ道に過ぎないのですよ。ご安心ください。』
こんな言葉に人は救われるのですよね。
印象に残ったフレーズを少し。
ーーーーー
大人の男女の出会いや別れに、告白も宣言もない。いや、色恋に限らず、日常的な人間関係もそんな風にいつとはなしに始まり、いつのまにか疎遠になって終わっていたりするものだ。
絵に描いたようなハッピーリタイアだった。にもかかわらず、異様なまでに空虚な気分に押し込められている。赤茶けた終末の風景の中に一人、立っているようだ。
結局のところ、人生とは背負った重荷なのかもしれない、と思った。自分を生かしてきたものは、背骨がきしむほどの荷物だった。それが推進力となって自分を生かしてきた。
ーーーーー
大人に読んで欲しい作品です。 -
Posted by ブクログ
やっぱり上手いなぁ〜篠田さん‼︎
ミステリーのような、とんでもない事件やどんでん返しはないけれど、本人にとっては『大事件』であることの繰り返し。このお話は、歳をとって中高年になってから読んでこそ、面白いと思う!
最初はちょっと鼻持ちならないエリートに感じた高澤も、読んでいくうちに、その必死さ、真正面から頑張り、もがいていくところが、私は好感が持てました。高澤の人生を速回しで一緒に体験した気分です。
なぜ「銀婚式」ってタイトル?と思って読んでいたけれど、ラストはしみじみ…。
個人的には、女子大生が、とんでもないことに足を踏み入れそうになるのを、素早い英断で止めたエピソードが印象深かった。(本当に世間には酷い奴がいる)
人生って、長いよね…。一つ解決したと思っても、また次のハードルがあり、悩みは絶えない。私の好きな言葉で『人間万事塞翁が馬』ってあるけど、本当に、良いことの後には悪いこと、辛いことの後には楽しいこと……と、繰り返しなのが人生だと思う。それでも、死ぬまでは生きていかなきゃならないものね…。
印象に残ったところを少し…。
ーーーーー
自分にもこんな根拠のない自信を抱いていた時期があった、と高澤は思い出す。長すぎるほどの未来を抱えて、少しの恐れも抱かず、努力すれば道は開けると無邪気に信じこんでいた人生の夏は……
表面的な学力で測れない知性というものが存在することを改めて知らされ、彼らの、ひょっとすると持っているかもしれない途方もない可能性に思いをはせる。
人間、死んだら二度と生まれてこないんだから。
身辺の年寄りたちが、季節が移り変わるように相次いであちらの世界に旅立ち、どこか観念的に捉えていた自分自身の老いと死を身近なものとして意識するようになった。
人生、うまくいかないからおもしろい。
何もかも筋書き通りにいくはずもない。定められたレールを踏み外すのが、必ずしも悪いこととは限らない。
ーーーーー
篠田節子さんの作品のなかでは、地味、ともいえる作品かもしれませんが、私は好きでした(^^) -
Posted by ブクログ
ネタバレ篠田 節子 3作品目。
保険会社の5人のOLの女性ならではの自分との闘い(聖戦)の物語。
「バリバリ仕事する訳でも、結婚する訳でもない。人生設計ってあるんですか」
人生設計というものは、いつのタイミングで立てるのだろうか?そして、どれだけの人がその設計通りに人生を送るのだろうか?
本書は、昭和末から平成初期の話だろう。男性社員は、きっと、”会社”と運命を共にするんだろう。しかし、管理職でもないOLが責任感とか義務感とかで”会社”のために働いて、会社はどれだけ報いてくれるのだろうか?だから、「ジハード」で、会社の中に自分を求める女性はいなかった。この状況は、令和の今、変わっているんだろうか?
それぞれの生き方に「ん?」という部分はあるが、けなげに、一生懸命あがいている姿に思わず応援したくなる。
ひょっとしたら、男女雇用機会均等法のなかで、企業は大きな間違いや無駄をしているのかもしれない。会社の中で、求める自分の姿を描けない現実に。
「男の人って、考えてみればキビシイよね。道が一本しかなくて、そこから外れたら脱落するしかない人生って」こう言われてしまったら、会社としておしまいかもしれない。 -
Posted by ブクログ
やっぱり篠田節子さんは凄いわ。作品のスケールがとにかくデカい。それでいながら、細部は蟻の子一匹侵入を許さないような細やかさで、緻密に物語を構成、進行させる。一気読み必至のホームラン的快作。
女性たちが抱える数々の傷や問題、宗教、救済、時にカルトなど、尋常ではまとめ切れないほどのエピソードをひとつの鍋で煮込み、最後は素晴らしい料理に仕立て上げる。今作でも存分に発揮された、その力量と胆力、見識の広さに瞠目するばかり。
ぜひ多くの読者に、篠田節子の作品を読んでほしい。その宇宙の坩堝を覗いて、ともにシノダー(篠田節子さんのファン)になりましょう(笑)……というのは冗談にしても、読んだら高確率でハマる作家さんだと思います。
-
Posted by ブクログ
ぐふぁ〜‼︎ 凄いなぁ、篠田さん。641ページ、かなり長いです。壮絶な、息苦しくなる話でしたが、早く早く先を教えて!って思いながら読みました。読み応えたっぷりです。
この作品、沢山の要素がある。
アルコールや薬物依存、性依存、自傷行為といった問題を抱える女性たち。その救済のための施設や関わる人々の現実。悪女、毒婦と言われる女たちの犯罪。苦しむ人につけ込む霊感商法。フィリピンの貧困、麻薬の実態。などなど…全て緻密に描かれている。
しかし、なんといっても、私が興味深かったのは『人が人を認識する』ということの、あやふやさ!
私の好きなマンガ「秘密」(清水玲子)にもあったけど、
『人の見ているものは、その人の感情によって明らかに違う』ということなのです。顔さえも違って見える。
また、見かけだけでなく、その人がどんな性格で、どんな心持ちだったか、周りに対して、どんな人物だったかという感覚や評価というのも、受け取る人によって、まるで違う、ということ。
今作の中でも、ルポライターの長島が取材して書いた長い文章、それを読んだ知佳と優紀の受け止め方がまるで違ったところも印象的でした。
その人がどう生きてるか、何を考えているか、それを他人が推し量ることって、難しいし、永遠にわからないのかもしれないなぁ…なんて考えながら読みました。
ネタバレしたくないので結論には触れませんが、長島の男らしい言い方だと、あまりに身も蓋もない。ある意味、優紀の直感は冴えていたとも言えるが、それが全てではなかった。
何十年にもわたる、長い長い旅をしたような気分で読み終えたのでした‼︎
心に残ったフレーズを、少し。
ーーーーーー
生まれ直すことはできないけど、生き直すことはできる。
悲痛な口調に背筋が強ばった。複雑な家庭も、貧困も、家庭内暴力も、知らずに育った自分に見えていないものが、優紀には見えている。
憎しみを抱いていても、利害関係が鋭く対立していても、好意を示し表面的な友好関係を維持しなければ、食っていくこともままならない過酷な大人の世界に放り込まれる前に、苗床のような環境で、同世代の女同士、ぶつかり合い、励まし合い、傷つけ合い、生身で触れ合い、自分の感情や関係性を処理するための一通りのトレーニングを積むことができた。
信仰など持っていなくても、人は正しく生きていけますよ。自分の意思と判断力で誘惑になど負けずに生きていけます。
自我など普通に思っている以上に脆いものかもしれない。
光は天からなど刺してこない。光は深い深い穴の底のあらゆる不幸の詰まった、泥の底から刺してきて、神の存在を教えてくれる。救いは低いところにこそある。…行動したとき必ず、神様は後押ししてくれる。黙ってお祈りしていてもだめ。なぜなら神様は一番下の、下の、穴の底のあらゆる不幸の詰まった、泥の下にいて、こんな私たちの闘いを見守ってくれているから。 -
Posted by ブクログ
ネタバレp.58
多くのものを受容し、肥え太ってきた組織は、不純なものを排除し、先鋭化しようとする内側からの欲求に、常に対峙しなければならない。
p.91
「去っていかないでください、うちを」
p.222
「自分の人生が自分のもので、いかようにも切り開けるなどというのは、何一つ持たずに生まれてきた者の戯言だ」
面白かったです。後半の展開がちょっとありきたりかなーと思ってしまいましたが、一気に読んでしまいました。
SNSが発達して、リーマンショックやら東日本大震災やら人種差別やらコロナやらオリンピックやらがある現代だとどんなストーリーになるのか?そんな小説があったら読んでみたいです。