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妻が際限なく太っていく─。失業中の健志を尻目に、趣味で始めた手芸が世間の注目を集め、人気アーティストとなった治美。夫婦の関係が微妙に変化するなか、ストレスとプレッシャーで弱った妻のために健志が作り始めた料理は、次第に手が込み、その量を増やして…(「家鳴り」)。些細な出来事をきっかけに、突如として膨れ上がる暴力と恐怖を描いたホラー短篇集。表題作を含む7篇を収録。
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Posted by ブクログ
やどかり、の中学生、智恵のずる賢いところ、用意周到なところ、吐き気がする。 青らむ空のうつろのなかに これが1番よかった。400万円で厄介払いされた子どもの行方。 真梨幸子のイヤミスとは違う、深い見えない底のあるイヤミス。 篠田節子って、こういうものも書くのね。
忘れられない作品は誰にでもあると思う。私の場合はこれの表題作だ。中学生か高校生くらいに読んで、ショッキングで影響を与えた作品。タイトルを失念してしまい、覚えている内容を頼りに探していたのだが、ようやく見つけることができた。 昔はただ漠然とした気持ち悪さを感じていただけだが、大人になって読み返すと作者...続きを読むの皮肉と現代社会の問題示唆が見える。全て1990年代に発表された作品だが、今読んでも時代感というか、まったく古さを感じないのが凄い。 あと、篠田節子の作品を読むたびに感じ入るのが、メタファーの巧みさ。 【幻の穀物危機】 パニックホラー 東京に大震災が起きる。首都圏は壊滅。伝染病が蔓延り、避難民があぶれる。同情し、案じながらひとつのショーとして眺めていた地元の人間達だが他人事ではなくなってゆく。 実際に経験しないと共感できないから、衆目を気にしてうわべでは同情するが他人事だという皮肉を言っている。実際、東北ではまだ復興できていないところもあるのに今では話題にすらあがらない。 ホタルゴケのカニバリズムの話を思い出す。極限状態になると、モラルなんて言っていられなくなる。食糧のためなら人も殺すカオスを淡々と書いているのが恐怖を煽る。 《東京という町が、砂漠の中に作られた人工のドームか、更に言えば宇宙ステーションのようなところだった、ということを私はようやく理解した。》 という一文が都心の惰弱性を的確に表していると思う。 【やどかり】 文部省の役人である哲史はネグレクトされている女子高生と思いがけず身体の関係を持ってしまう。強かな少女の策略かと、主人公も読者である私も思い込んだが、少女は純粋に恋をしていたことが最後にわかる。 穿って見れば最期のも演技で自分の現状に嫌気がさして親妹弟に身を呈して広い家を遺したのかもしれないが。 哲史は最後に《自分はやどかりだ》と思う。前半に少女達がやどかりを食べていたが、哲史も食い尽くされる暗示だったのだろうか。 【操作手】 単なる介護の話ではない幻想小説。 介護する嫁と介護される姑。交互に視点が変わる。 嫁は介護に疲れきっている。姑は嫁をいらっしゃいませとひたすら繰り返す機械に譬ている。お荷物として祖母を見殺しにしようとした孫が怖い。 家族はおばあちゃんが自分達の言葉を理解しないと思い込んでいるが、実際は億劫で閉じてしまっているだけなのが姑のモノローグから窺える。 どうなるのかなって思っていたらまさかの近未来もの?である。10年以上経った今でも、実際に人工知能の組み込まれた介護ロボットは実用化されているのだろうか? 姑が死ぬことを待っている一家は不気味。介護に疲れた家族はこういうものなんだろうか。 姑は介護ロボットに幻想を見る。人間が機械に見えて機械が人間にみえるなんて皮肉。 ロボットが本当に意思を持ったように見えるラストはとんでもない展開になる。 好きな表現がたくさんある。 《バラの香料が、緩慢な死の腐臭を覆ってきつく立ち上る》 それにしても骨格の美しい中高の顔ほど、こうなると廃鶏を思わせるきつく荒んだ表情になるのはなぜだろう。 《仮面などではない。鉄色の顔だ。硬く冷たく光沢を放つ顔の上下がぱっくり分かれ、何か軋むような音を立てた。喋っているのだ。壊れたラジオの音で。》 【春の便り】 こちらも介護されている老女の話だが、明るくて幻想的。毒があまりない。今まで救いがなかったので箸休めだろうか。 【家鳴り】 ずっと忘れられなかった作品。昔読んだときは好きではなかったのに、ストーリーを細部まで覚えていた。 子供はおらず、セックスレスの夫婦の可愛がっていた犬が死んでしまう。妻は拒食症になる。 夫は肉欲を伴わない愛を崇拝していて、潔癖症に見える。料理を作り、妻に食べさせることを愛だと思い込む。愛が暴走していく。脂肪の塊になった妻を狂気じみた愛情で甘やかすのが怖い。共依存の関係になって、お互いの重さに(体重的にも)耐え切れず死んでしまう。 しかし悲惨さはない。幸福の中で二人は死ぬ。 そこはやどかりと少し似ているかもしれない。 そしてストーリーを覚えていても、何度でも衝撃を受けてしまう。そんな作品。 【水球】 水球の中の魚のように小さな世界で停滞していた中沢。ずっと続くと思っていた幸せは不意に崩壊する。 二兎追うものは一兎も得ずな結果に。 【青らむ空のうつろのなかに】 まずタイトルが好き。 虐待されて心を閉ざした少年が豚と心を通わせる話と聞けば聞こえはいいが、豚以外には心を開かない。命を奪って食べることを拒否し、最後には豚と一緒にどこかに消えてしまう。よくある話なら、少年の心の傷は癒されるのだが、光は頑なに変わろうとしない。一度形成された自我は変わらないということを書いているのだろうか。 自分の家族を食べるとき、光はせめて自分がと思い、すべての豚カツを食い尽くしたと思うとせつない。
真面目な筒井康隆 という感想を持った。 パニック小説から恋愛ホラー、近未来SF、他、何のジャンルに入れて良いか判断できない作品。 どの作品も構成があり、小説として面白い。特に冒頭のパニック小説「幻の穀物危機」はリアリティーがあり、情景が迫って来る。戦中の食糧危機を体験したのだろうか。 ・幻の穀物...続きを読む危機 東京直下型地震で大量の難民が山梨に向かう。地元住民と避難民の間で食料争奪戦が起きる。移住者の主人公は微妙な立場で様子を見るが…。 ・やどかり 教師が女子生徒と関係を持って破滅する話。 ・操作手 ボケた母親がロボットの介護士に恋をする話。 ・春の便り ・家鳴り 病んだ妻が病的に太る話。 ・水球 ・青らむ空のうつろのなかに 虐待されて育った少年が、擁護施設で豚の世話をするうちに斜め上の成長をしてしまう話。
途中で何度も辞めようと思うくらい怖かった。 7つの短編集。 どれも普通に生活していれば出くわすであろう内容。 少し誇張されているような描写も感じられたが、 そこに入り込んでいくと、どんどん深みにはまっていく。 打開策や希望もない。 ありえないことかもしれないけど、あったら嫌だなぁとひどく思わせる内容...続きを読むのものばかりだった。 しばらく怖い小説はいいかなと思わせてくれた小説でした。
久しぶりにホラー小説でも読んでみようと思った。 「家鳴り(やなり)」という耳慣れない言葉。この本の5番目の短編のタイトルだ。 ホラーといっても、悪人の魂が入り込んだ人形が人を殺しまくることもなく、街中にたくさんのゾンビが徘徊するわけだもない。夢の中で殺人鬼に殺される恐怖も、巨大な隕石が地球に衝突す...続きを読むる事態もない。 惰性で7年付き合った恋人のように新鮮味に欠ける言い方だけど、そんな世の中で一番恐ろしいのは結局人間だということなのか。 読み終わったあとにゾクっとする話あり、ページをめくるたびに息苦しくなる話あり、 かと思えば、全て無くしたと思われる人生の中で微かな希望を持とうとする意外な結末もあり。 若い作家には書くことが出来ない、歳を重ねたからこそ書けるストーリーがこの本にはある。 淡々とした文章が、その朧げな輪郭の恐怖を浮き彫りにする力強い作品集だ。 面白かった。 この著者の本を読むのは初めてで、後で調べてからあの「女たちのジハード」を書いた人だと知った。 読んでみようと思う。
じわじわと怖さがくる7編の短編集。 凶悪な人が出てくるというわけではないけど、 ゾッとする話と不思議な話。 『青らむ空のうつろのなかに』は実の母親からのDVを受け、父親に施設にあずけられ、施設でも誰にも心を開かない孤独な光 唯一心を許せるもの、守られるものが養豚場で育てている豚だった… 切ない...続きを読むお話でした。
短編集 裏表紙には「暴力と恐怖」と書いてあるが、どちらかというと「世にも奇妙な物語」風のじわじわ来る怖さが多め。 福祉の現場に関しては、ややツッコミ不足な点もあるが、面白かった。
「幻の穀物危機」 都会から離れ、カントリーライフを送る主人公は同じく都会から来て「穀物危機が来る」と言っている岡田と知り合う。 ある日東京で大震災が発生し、その村に避難民がやってくる。 「やどかり」 万引きをした少年を引き取りにきたのは中学生の姉だった。教育センター研修員として働く男が、中学生の姉に...続きを読む勉強を教えようと考えたのは、学業に後れを取る子を見てやろうという熱意だった。 しかし、そのために男は恋人を失い、自身の社会的地位さえも失いかねない立場になる。 「操作手」 妻の介護の負担を軽くしようと導入されたのは、夫の会社で試作された介護ロボットだった。それでも全てをロボットに任せられないと思う妻だったが。 「春の便り」 脳梗塞で入院していた老女が、外国に住む娘の手配で老人病院に移ってきた。娘の手により、老女の家は処分され、大切にしていた愛犬も失われた。 「家鳴り」 妻がスナック菓子しか食べなくなったのは、愛犬が死んだことが契機だった。妻の健康を案じた夫は、料理を作って妻に食べさせる事に喜びを感じるようになる。 「水球」 証券会社に勤める夫は、課内の女性と付き合っていた。 妻は入院中の母の面倒を見ている。妻に不服がある訳ではない。家庭を壊すつもりはない。ただ恋をしてみたかっただけだ。 夫の会社の業績が悪く、家のローンが重くのしかかってきた事。母の病気が悪化したかもしれない事。少しずつ均衡が崩れていく。 「青らむ空のうつろのなかに」 母親のDV,父親の無関心のなかで育ってきた男児がやってきたのは広大な農場だった。 誰にも心を開かない少年が心を許したのは、その農場で育てられる豚だった。
舞台は現代日本、登場人物も特に変わった人というわけではなく、実際いそうな感じの人々である。そんな実際ありそうな状況からちょっとずつ歯車が狂っていき、背筋を凍らせる結末へ向かう。 「幻の穀物危機」がよかった。
篠田節子せんせ、相変わらず文章が上手いよね。描写も上手すぎて怖さが増す。お話に暖かさが一切感じられず冷徹。女流作家の方が ホラーに甘さがなくて怖い。さすが。
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