篠田節子のレビュー一覧
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順風満帆とは言えない人生。その転機を迎えてロングドライブをすることになった人たちの踏ん切りとリスタートを描くロードノベル短編集。
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深夜3時。台風接近中ということだが空には半月がかかっている。
ここは灯りの消えたコンビニの駐車場。私は車を待っていた。ハイエースが迎えに来ることになっている。
しばらくするとヘッドライトがコンビニを照らしながら入って来た。軽トラなのでコンビニ目当てかと思っていると、目の前で止まった。運転席の窓から手ぬぐいを被った男が顔を出す。
「どうも。増島さんですか?」
「あ、はい、増島ですが……」
その目つきの鋭さにひるみつつ答えるより早く、男が車から降りてきた。間近で仁王立ちする男を見て、私は思わず後ずさる。見上げるほどの大男ではないか。
男の全身を包むツナギは紫色だ。それもトラックの運転手やヤンキーがよく着ているヴァイオレットではなく、慶弔用の風呂敷のような真紫だ。おまけに手ぬぐいを取った頭はスキンヘッドに近い坊主頭ときている。
「瀬沼です。今日はよろしく」
キビキビした妙に礼儀正しい挨拶。頭を下げた胸元からは金の鎖が覗いている。素性を考えるのも恐ろしい。
まさか、この男と往復千㌔のドライブを一昼夜することになるのか。しかも軽トラで ⁉ 戸惑うものの私にはもう時間がなかった。
( 第1話「田舎のポルシェ」) ※全3話。
* * * * *
久しぶりに読む篠田節子さん。軽めでさらっとしているのに読ませどころはしっかり読ませるという巧者ぶりはさすがでした。
描かれるのは、人生の岐路を迎えた2人の珍道中です。それも移動は自動車で、かなりの距離を走ります。パーソナルスペースなど取れないほど狭い車内。互いに距離感を計りつつやがて胸襟を開いていく、その過程が何ともおもしろい。3話とも満足度の高い物語でした。
個人的に最も印象深かったのは、やはり表題作でした。もう少し紹介しておきます。
第1話「田舎のポルシェ」
主人公の増島翠は、岐阜市内の郷土資料館に勤めるアラサー女性。東京郊外の農家出身で、いろいろあって実家とは疎遠だったのですが、祖父母や両親に続いて兄も急死したことで田畑屋敷の管理がのしかかります。
耕作放棄をすると固定資産税が跳ね上がるため隣家 ( と言っても家自体は離れているのですが ) の老夫婦が今年の米作りを引き受けてくれていました。
収穫できたので引き取りに来るよう連絡があり、翠は米の運搬を手伝ってくれるドライバーを友人に紹介してもらったのですが……。
☆男尊女卑、家長第1主義、個人よりも家重視。嫁は従属物で忍従は当然。
吐き気がするほど硬直した田舎の価値観に耐えきれなくなった翠は、高校卒業と同時に家出同然に奈良の大学に進学します。
実家と決別した翠は寮生活をしながら奨学金とバイトで卒業まで頑張りました。
苦労は多かったものの実家にいるより楽しく充実していたというのはよくわかります。
そんな翠が台風接近の中、筋者かと見紛うような偉丈夫の瀬沼と繰り広げる珍道中が、もっとも刺激的でおもしろかった。20代後半の男女が狭い軽トラ車内で過ごすわりに、まったく色気のある展開にならないところもいい。
現代の農家が抱える問題や米作の実情もわかりやすく挿入されていて、勉強にもなりました。
その他、気づいたことを書き留めておきます。
人生のリスタートを図る若い2人を描いた第1話とは打って変わり、第2話「ボルボ」はビジネスの第一線を退いた熟年男性2人、第3話「ロケバスアリア」は夫の死後も介護士として働いてきた高齢女性とこれも高齢の音楽プロデューサーの2人と、どちらも人生の精算を図るストーリーで、少しもの悲しい味わいもありました。
そして本作が出色だったのは、各主人公たちの持つストーリーがよく考えられたものであったことはもちろんですが、主要舞台となった自動車に特異性があったことも大きいと思います。
第1話は軽トラ。第2話は廃車寸前の古びたボルボ。第3話は中古のロケバス。主人公たちの人生を語るにふさわしい舞台です。こんな見事な設定にも唸ってしまいます。
ところで、第1話と第3話は岐阜がホームグラウンドなのですが、篠田さんが作品の舞台に岐阜を選んだのはなぜなのか気になります。
しばらく離れていた篠田節子さん。とてもおもしろかったので、また読んでいこうと思いました。 -
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初本。良い凄く良い 篠田節子さん、何故に出会わなかったのよ自分って。謝辞でお世話になる人を挙げてるけど、段取り踏んでしっかり屋台骨作るから嘘もなくて潔い。米360㌔を乗せて軽で高速走るとかね。27時間だけの出会いなのに内容が濃いし徐々に知られる事情だけでない瀬沼の生き様も全部乗せて走るまさにポルシェですね。出だしの謎解きがほんと面白いし、あーやって実家は凋落していくのだな〜と、ラストで360㌔どうしようと声に出すのと瀬沼の性格そのもののどうにかなるっしょが締まるってこと。増島も心のモヤモヤ吐き出してスッキリしてるし。ポルシェの次のボルボでも雨と車と悪天候と岐阜県と出ていて、縛りあるのか?と思ってしまう。言い方悪いけど、あの年代の地位があった人は生活レベルを下げられない=年下の人とは相容れない=話が合わないから老人ホームに行くのだろうなと思う。斉藤さんを信じ切るまでも掛かってるし、ボルボへの執念に余計な首を突っ込まない生き方に、ため息。斉藤のストーカーの暴走やるなと思っていたが最後に収まるところに収まる。こんだけ書いたけど面白かったな〜伊能1人語りだけど、あと1か月くらい旅していいと思うよ。
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新興宗教の聖泉真法会の教祖、桐生慧海。ある意味では貧乏な教祖様である。あまり欲もない。
宗教的なカリスマ性もない。公務員的な生活規範とカウンセラー的であるとも言える。
桐生は教祖というものが、自分にはむいていないとも思っているが、信じたい人はやはり教祖様でないと宗教は成り立たない。信じる人によって、教祖は持ち上げられていく。
「すべての生命を尊び、すべての生命を愛する。我は神のうちにあり、神は我のうちにあり」
結局仏像なんていらないものであり、祈ることで自分の中に神をつくる。
ゲームブックの『グゲ王国の秘法』という大きなシナリオで、聖泉真法会は作られていった。
信者が、7000人になったところで、上巻は終わる。下巻は、その組み立てたものが、すざましいスピードで崩壊していく。この編集能力の凄さ。
森田社長の弁当屋が、インドネシアに進出して稼働をしたことで大きな飛躍をするが、焼き討ちされたことで、崩壊が始まる。斎藤工場長が、インドネシアの工員たちに、聖泉真法会のルールを押し付けることによる工員たちの反乱だった。インドネシアの最大の宗教はイスラム教。そんな中で仏教的行事を押し付けることが危険なものであった。工場はほとんど全焼する。結局、インドネシアを撤退せざるを得ない状況にまで追い込まれる。森田社長は、聖泉真法会の大きな支援者。会社がうまくいかなければ、支援もしにくくなる。そして、社長は解任され、娘婿が社長になることで、聖泉真法会は、研修所から退去を通告される。
聖泉真法会に国税庁の査察が入る。脱税の容疑であるが、もっと大きな狙いは、恵法三倫会の回向法儒の脱税と国会議員への贈賄事件だった。ネパールにおける学校建設や病院建設にも桐生慧海は協賛していた。そのことで巻き添えを食らうことになる。回向法儒は、殺人事件も起こしていた。聖泉真法会のダーティイメージが広がり、良識層の信者が離れていくことになる。
新興宗教においても、リスク管理が必要なのだ。
4人の女性の信者たちの家に、桐生慧海が経済的理由でころがりこむことで、ハーレムと噂されるようになり、その女信者の家族たちが取り戻そうとする運動が起こり、街から出ていけと看板まで出るようになる。それは、有力な国会議員の秘書の妹が信者なので、あらゆる形で聖泉真法会の評価を下げていく。そして、信者たちの家が放火され、ワゴンで逃げることになる。もはや転落するしかない。
教祖である桐生慧海よりも女性たちの中には、新人が強く、独特の宗教に発展させ、桐生慧海は、実は教祖なんかではなく、詐欺だったと主張するが、女たちは全く聞き入れない。この展開がなんとも言えない。もはや、女性たちのいうことを聞くしかない状況に追いやられる。教祖を乗り越える信者たち。このなんとも言えない展開が、人間の本性と狂気を明らかにして、喜劇のような宗教が、悲劇の宗教になっていく。女たちの豹変が、宗教ゆえの狂信なのだろうねえ。サリン事件を引き起こした宗教は、追い詰められたことによる狂信だったのかと思う。宗教を信じるゆえに、人を殺すことさえ合理化する。ふーむ。ゾクゾクするほどの宗教小説だった。これも篠田節子の代表作だね。 -
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面白かった!
ロサが思ったより登場せず、水晶ビジネスにボリュームが割かれていたのが、ちょっと意外でした。
甲州商人、インドで大奮闘です。
インド人ののらりくらりとした交渉術、全くどうしたらいいやら読んでいるこっちまで頭抱えました(笑)
生き神として讃えられてきた少女ロサとインドとクリスタル。
科学では証明できない不思議な世界に誘われるのかと思いきや、海外で戦う日本のビジネスマンの苦労や、自然災害の影響で経営に四苦八苦する現実的な様が描かれていて、読んでいるものを飽きさせません。
最後は藤岡社長が、ただのウザイおじさんに見えてきたのですが、どうなんでしょうか。
表情が乏しく何を考えているかわからないロサですが、食事だけは元気にモリモリ食べる描写からするに、藤岡社長には可愛くみえたってことなのか。
余談ですが、徳永さん。
インドの駐在長いなと思ったら、最後はタイにいってしまうあたり、現実でもそんな人がいるような気がします。 -
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篠田節子さんに魅せられての二冊目です。
大いに笑わせて考えさせられた、一冊目『百年の恋』とは、対照的な物語をリアリティでグイグイ引っ張てくれる読み応えのある傑作です。
篠田節子さんに更に惚れました。
高澤修平の順調と思えた人生に、離婚、何度かの転職、息子の受験の失敗、新たな恋の難しさ、介護、と荒波が次々と押し寄せる。
だが、この男性、仕事に、人に、実直でいて誠実なので、無職になっても、鬱になっても、葛藤の中、助けてくれる人が不思議と現れる。 そんなシーンに何度も涙する。
そして、彼のような誠実なサラリーマンがこの世の中を支えているのだと、また胸が熱くなる。
高澤たちの『男の本文は仕事だ』が価値観の時代を懐かしく読み、我が夫婦に想いを馳せる。 高澤夫婦と差して変わらず、当たり前のように色々なことがあったなと。 無我夢中で生きてきたなと。
高澤夫婦は、離婚してしまったのは残念だが、若い頃は、互いに幼く未熟なもの、本物の夫婦になるには年季がいるのだと想う。 我が夫婦もまだまだですが。
もしかすると、歳を重ね、枯れ始めて、初めて内面の成熟期を迎えるのかもしれない。
最後に、題名の『銀婚式』についてだが・・・女性の台詞に効果的に登場する。 最後まで読み終えた時、その思いがじわじわと心に広がるニクイ演出である。
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ネタバレ 購入済み
ロズウェルその後を知りませんか
連載時にはまってしまい翌月号が待ち遠しかった。もうあの頃とずいぶん日本はかわったような気分で読んだ。しかし地方は都会のように巨大な建築物ができることもない。ただ廃村寸前の村という存在そのものがもうアキラレてしまったような気がするし、・・・と一軒家というようなフレーズが日常会話にでるくらいだから、田舎の村や集落の価値がもう失くなってしまったのかなとテレビを見ながら思う。UFOやアルミ箔の宇宙人を仕掛けた主人公グループのひとりが午前4時に目覚めて帳場のパソコンでメールを読むと、批判や中傷のメッセージに混じって著名人から応援のメールがあったりという場面は、地方にいてちょっと目立った活動をした経験のある者なら、そうそう似たようなことがあったな…と妙にリアルな心理描写に作者の気持が写されているのではと思ってしまった。作品では、カルトや宗教、そしてアイドルの存在などのことなども取り上げられるがこれも今また話題になっていることで、ああこれから先どうなるんだろうかと読者を啓発するところを含んでいるのも篠田節子の小説らしい。
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Posted by ブクログ
面白かった〜。
特に、真一が本来は母親がやるべきことと
思いつつ、きちんと育児をこなしてるところ。
女だからって、初めから
育児ができるわけじゃない。
本読んだり、人の話聞いたり
色んなヒト、モノやコトに助けてもらいながら、
試行錯誤して育児してる。
それで、少しずつ親になっていく。
産めるか産めないかの違いはあるけど、
育てられるかどうかに男女の違いはないよね。
男が働き女が家を守るだなんて、
ほんとに誰が決めたのか、
古臭い価値観だとあらためて思う。
得意な方が引き受ければ良いし、
得意というほどでなければ、
半々でいいんじゃないかって思う。
「百年の恋」と来たら、
「冷める」と続く恋愛小説かなと思ったけど、
「脈々と続いてきた家事育児は女の仕事」的な
百年の価値観が冷める時が、来た?来る?
という小説だと思った。
単行本が2000年に出てて、
今は2022年。20年か…。
ほんとに変わらないな。
いやいや、これからか? -
Posted by ブクログ
ネタバレ篠田節子さんの小説は、初です。 まずは読みやすそうな作品をと、『百年の恋』を選んで正解でした。
とにかく、痛快。
何度も何度も笑わせて、ときに考えさせられ、思わぬところで泣かされて・・・ファンにならざるおえない、さすがです。
さえないライター家業の真一の3歳年上のスーパーエリートの妻・梨香子への" 声にはならない悪態 " が、コミカルに描かれていて、面白い。
妻と母の長年の確執におろおろ、エリート元カレ⁈との仲を邪推して嫉妬、次々と叩き込むエピロードに、揺れ動く真一の心。 ついには諦めの境地か。
『お茶は裏千家、お花は嵯峨御流、煎茶道も一通りはできる。それでいてなぜ、自分の脱いだパンツをそっと畳んでから洗濯籠にいれることができないのだろうか。・・・』
逆転夫婦。 真一に同情したくなるが、妻に振りまわされる可笑しくも可愛い姿がなんとも痛快。
そして、可笑しさと共に、愛おしさがある。
稚拙だけど、梨香子の真一への想いは、あれはあれで愛だと想う。 キャリアという鎧を脱いで、母の呪縛から逃れ、極度に甘えられるのは(わがままはすぎるけど)真一だけなのではないか。 それを踏まえると、真一と梨香子の出会いは必然のように想える。 " 我鍋にとじぶた " かな! 我が家もそんな夫婦ですから。(未熟同士でちょうどいい)
また、編集者の秋山泉子がカッコいい。 甘ちゃんの真一を『うるさいんだよ。』と叱責するセリフに惚れました。
『あなたに妙なこだわりがあるからよ。偉そうな顔をするからよ。パンツがどうしたって? 私も、私の母も、祖母も、夫や父や祖父のパンツを洗ってきたのよ。 洗濯機もない時代から。 つまりあんたたちは、そうして平然として、自分の脱ぎ散らかしたものを洗わせてきたんじゃないの。そこに恥じらいがあった? 感謝があった? たかが汚れ物だろうが。生きている証拠じゃないの? あんた、今、誰のおかげで、勝手なことができたるの。奥さんの稼ぎで好きなことしてるんじゃないの』
いいセリフは、まだまだ続く。
そして、真一は、自分と向き合い・・・。
天晴れです。 スッキリ爽快です。
真一くん、頑張って‼︎