ニーハム花子さんのレビュー一覧
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江戸の情緒と仕掛暮らしの三話
池波正太郎による仕掛人シリーズの原作『殺しの掟』から三話を選び,それを描く山田芳裕の漫画「仕掛暮らし」では絵の中にどんな工夫がされているのだろうかと頁をめくった.原作を読めばわかるが,仕掛人イコール,単純な「殺し屋」というわけでもない.それは表の仕事では手に入らないような高収入を得るため裏で殺しを請け負う稼業である.表の顏は妻帯もしていたり子供もいたりだが,過去にあった秘密を抱えながら生きている男が登場する.さて山田芳裕は原作中に登場する篆刻や絵画を仕掛人とともに,どのように描いたのだろうか.そこがひとつの見所かもしれないと思った.
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この宮本武蔵シリーズの読み方
バロン吉本の『宮本武蔵』は巻の一から五まで通して読み、しばらく置いてから巻六から最終巻の九までをまとめて読み終えました。なんだか一気に読んでしまうのがもったいないような気になる絵とセリフの連続でした。これが、このような読み方をした理由と言えばよいのでしょうか。料理屋でそれほど高価ではないコース料理を注文したところ、期待を上回る見た目と味の料理が次々とでてきて、あれれ、これは一気に食べるのはもったいない、少し余裕をもって味わいたい、といったところでしょうか。
さらに今回は、すこし大き目のディスプレイでページを見開きにし、絵を味わいながらゆっくりと楽しみました。このやり方で読んだのが、このバ...続きを読む -
祭礼の主役エンリルとの戦いから
主人公の太郎が冬眠から目覚めると明りはすべて消えており管理室は無人だった。起き上がったベッドのカレンダーをふと見れば日付けが「2525 0611」を表示している。「馬鹿らしい…故障だろう」。妻と息子と一緒に滞在していたイラク支社長の太郎は、大寒波に襲われたイラクのバカラで脱出手段が無くなり、ひと月ほど研究機関で新造したばかりのシェルターで家族3人で過したはずなのに、なんと自分が500年も眠っていたことがわかって大ショックを受ける。さらに妻と息子の冬眠ベッドでは、それぞれ300年、200年前に装置が停止し、ふたりはミイラになっていた。あとは東京の親父のところに残した娘に会うためにイラクのバカラか...続きを読む
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公理系から初等幾何を展開する
この教科書は、「点」からはじまる7つの無定義用語をさだめ、これらから公理系をつくるのだが、その公理系の対象は座標平面とすることから出発する。この公理系を選ぶところで大切なのは、その公理系から初等幾何がたやすく展開できることであるが、この展開が大変わかりやすく丁寧に説明されている。
練習問題は「証明を完結せよ」というような形式で、学習者が自分で公理系からユークリッド幾何学の定理を考えるようにできている。具体例では定理「相異なるどのような2点に対しても、それらを通る直線がただ1つ存在する。」の証明のあとに出題された問。
この問を考えることで、直線の定義と定理とのつながりを自分でたしかめ...続きを読む -
一人前のヒューミントになれるか
清家とクロコーチがそれぞれ別の方角から共通の目標を特定し、それの確保へと向かって行く巻。ここで清家は、キミの役目はヒューミントだ、と組織のボスから命じられた。ヒューミント??
清家だけでなく読者は???かもしれないが、そこは組織の先輩が親切に説明してくれる。「Human Intelligenceのことよ!」と。ここでさすが高学歴の清家はわかったのかそれ以上は聞かない。しかし、読者はどうなのかなあ。まあ今の時代はなんでも検索だからとナンチャラペディアを引くとでてくるのでしょうか?それは読者それぞれの楽しみで置いときましょう。
ともかく黒河内はクロコーチという本来の姿を忘れないで出さな...続きを読む -
クロコーチの名前にかかわる巻
出所した元組員の男を地下のバーに誘うクロコーチ。お店の名前が「黒馬車(BLACK COACH)」だった。さらに、あの独特の風合いのアイラモルトのウィスキーが出てきた。ちゃんとボトルのラベルで LAPHLOIG の10年ものとわかるように描かれている。誘われた元組員は、クロコーチにあることをささやかれて、ラフロイグが注がれたグラスを掴み一気に飲み干す。。。
色々と面白い巻だ。
そう言えばわたしもアイルランド人をとある老舗のバーに誘ったとき、わたしがあるスコッチを彼にすすめたことがきっかけで彼が告白をはじめたことを思い出してしまった。
いろいろ想像させる巻だった。 -
小島の生態系は流木がつくる
太平洋ではないが、そこにある島の地元民に教えてもらったことを思い出した。たしかイブキ島とかいう意味の名前で呼ばれていた。イボク島とも言うんですよとその島の異名を教えてもらったりもした。小説の舞台となった太平洋の小島のように周辺の海流の流れは少し海岸線から離れるとすごく早い。また季節と月の位置による潮の流れの変化は想像を超えて自然界に宿る力のようなものも感じた。この小説を読み終えて、生命の息吹というのはやはり人知を超越したところで発生し、異形の流木がながれ着く地形では不思議なことがことがあるものだということを再認識させられた。小説の中に登場する人間と文明の進化論学者フェルドマン教授などは、その後...続きを読む
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ロズウェルその後を知りませんか
連載時にはまってしまい翌月号が待ち遠しかった。もうあの頃とずいぶん日本はかわったような気分で読んだ。しかし地方は都会のように巨大な建築物ができることもない。ただ廃村寸前の村という存在そのものがもうアキラレてしまったような気がするし、・・・と一軒家というようなフレーズが日常会話にでるくらいだから、田舎の村や集落の価値がもう失くなってしまったのかなとテレビを見ながら思う。UFOやアルミ箔の宇宙人を仕掛けた主人公グループのひとりが午前4時に目覚めて帳場のパソコンでメールを読むと、批判や中傷のメッセージに混じって著名人から応援のメールがあったりという場面は、地方にいてちょっと目立った活動をした経験のあ...続きを読む
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東南アジアからウクライナを想起
架空の国の多民族が割拠する南方の島での物語.作者の篠田節子は昔からすごい!と思っている.何十年か前のことだが東京に住む知人と喫茶店で翌日の打ち合わせというか雑談をしているときに篠田節子はスゴイと盛り上がったことを思いだした.その当時もコンタクト・ゾーンは出版されていたような気がするが,最近ロシアによるウクライナ侵攻がはじまってから電子書籍で上下巻を読み切った.舞台となるのは島の中でも豊かな農作物地域がある古くからの農村である.政府軍と民族解放戦線と称する世界の紛争地帯で養成された兵士たちが幹部となり村でかき集められた雑兵達を使って巻き起す権力闘争の真っ只中で,その古い農村の長老や村長らが老獪な...続きを読む
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童話長ぐつをはいた猫の主人公?
ともかく主人公の亜久里四郎がカッコいい!のだが、
その登場シーンは、猫のぬいぐるみをかぶって電車内の悪を退治することからはじまる。
作者は『長ぐつをはいた猫』の話を、主人公と謎のジィさん根古長吉にかけているような気がした。
ちなみにペロー原作の童話「長ぐつをはいた猫」は、またの名「猫吉親方」として翻訳されてもいる。
この童話は青空文庫でも読めるので、それを読んでからだとなおさら36ページからのセリフとストーリーが生きてくるように思った。
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