あらすじ
四国遍路の帰路、冬の海に消えた父。
家族、男女関係の先に横たわる人間存在の危うさを炙り出した傑作長編。
企業戦士だけれど、子煩悩だった父。だが父は、二十年間ひとりの女性を愛し続けていた。
一度は夫の裏切りを許し、専業主婦として家庭を支えて生きてきた母は、父の退職後に発覚した事実に打ちのめされる。
それなりに安定した幸せな家庭を作ってくれた父が、四国の遍路を終えた時、冬の海に飛び込んだのは何故なのか。
家庭の外にもう一つの世界を持っていたその心中とは?
次女の碧は職場に休暇願いを出し、父の最後の旅を辿ろうと決めた。
日本の標準的で幸せな一人の企業戦士の、切なく普遍的な人間心理。
四国遍路のリアルな光景を辿るうち、読者も自身の人生、男と女の根源的関係に思いを馳せることになるに違いない。
変容し続ける作家・篠田節子の到達点。
解説・八重樫克彦
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
はぁ〜‼︎ やっぱり篠田節子さんの小説は、大人のお話なのだ。というか、歳をとってから読む方が、この味わいがわかる気がするのです。読んで良かった。
四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父、康宏。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが…。死の間際、父の胸に去来したのは、20年間、愛し続けた女性のことか、それとも? 足跡を辿った次女、碧が見た冬の光とは…。
こんな短い紹介文では表現しきれない、464ページでした。
読んでる間ずーっと感じていたのは『人生は長く、人は強いけれど弱い。一生、清廉潔白な人などいるだろうか?』ということ。
紹介文では20年間愛し続けた、とあるけど、それだって、実際そうなのか?というと、私は違う気もした。卒業後、学生運動からきっぱり足を洗って企業戦士になった康宏に対し、大学という社会の中で自身の正義感から闘争を続け、孤高の人となっていた紘子。気になる存在でもあり、愛していた時期もあるけれど、お互いのズレから、まるで寄り添えなかった時間の方が長かった気もする。
また、康宏の家族愛は、決して嘘ではなかったことも充分わかるし、妻・美枝子との充実した日々だっていっぱいあったのは確かなことなのだ。
愛情も憎しみも、寛容も怒りも、喜びも哀しみも…どんな感情であれ、1つの感情だけで生きていけるほど人生は短くない。逆に、忘れたり、執着がなくなったり、時間と共に辛い感情も薄れてきたり、そういうことがあるからこそ、生きていけるんじゃないかなぁ…などと感じました。
私個人としては、いわゆる“男に甘い”ということかもしれないけれど、康宏が亡くなった直後の美枝子の態度は、余りにも極端に冷たく感じてしまった…。
亡くなった人はもう言い訳も何も言えないのだから、心の中で気にかけてあげるのは、家族しかないんだなあなんて思ったり。
父の旅をなぞってみる碧と、康宏が実際に辿った道や心の中、それが交互に描かれ、人は自分が見ているものが真実だと思いがちだけど、それだけじゃない、ということを強く感じました。
私も、1番心に残ったのは若い住職の言葉でした。
『どんな経緯にあったにせよ、どんな亡くなり方をなさるか、などということは、最後の、最後の、ほんのささいな分かれ道に過ぎないのですよ。ご安心ください。』
こんな言葉に人は救われるのですよね。
印象に残ったフレーズを少し。
ーーーーー
大人の男女の出会いや別れに、告白も宣言もない。いや、色恋に限らず、日常的な人間関係もそんな風にいつとはなしに始まり、いつのまにか疎遠になって終わっていたりするものだ。
絵に描いたようなハッピーリタイアだった。にもかかわらず、異様なまでに空虚な気分に押し込められている。赤茶けた終末の風景の中に一人、立っているようだ。
結局のところ、人生とは背負った重荷なのかもしれない、と思った。自分を生かしてきたものは、背骨がきしむほどの荷物だった。それが推進力となって自分を生かしてきた。
ーーーーー
大人に読んで欲しい作品です。
Posted by ブクログ
良かったです。とても良かったです。一気読みです。
こういうヒューマンドラマ好きです。
主人公康宏の人生を描いた作品。紘子との関係がメインで書かれているが、家族や震災・自身の仕事を通して人生の儚さを私は感じました。切なく儚い。心に残る作品になりました。
Posted by ブクログ
四国の八十八か所めぐりのあと
帰りの船から行方不明になり後に死体で発見
された父
それから次女は父の足跡をたどる
次女の視点、父の視点で物語は展開していきました
その人の人生は時に違う解釈で受け止められる
本人にしかわからないこともまた多い
そんなことを読みながら感じました
Posted by ブクログ
リアリティのある文章。恋愛と結婚、男女関係、信仰、社会的地位、男社会の競争。欲のままに生きた等身大の男の人生と、どこか冷静でありながらも父の残像を追いかけ辿ろうとする次女の決意。他人事にはなれない物語がそこにはあって、引き込まれた。
康宏は紘子を青臭いと揶揄していたが、康弘こそ青二歳のままだったと思う。
結婚、家庭、孫という安定的で凡庸な幸せに満足せず、一時的な同情や情事に自分の存在意義を見出さそうとしていた。
四国遍路での結願を経て、漸く家族のもとへ戻ろうとした時に命を落とした。自分勝手に生きた代償なのか、
康弘を家族のもとへ帰ろうとさせた動機は、四国遍路の終了が主ではない、気がする。フェリー予約後に紘子の名前を検索し、紘子に感謝を述べる後輩たちがいることを知り、青二歳だと見下していた紘子が未来を担う後輩たちのために“役に立っている”姿を見て、ボランティアや四国遍路をしながら自分探しの旅をしている自分に恥じたのではないか。そこでやっと家族と向き合おうとしたのではないか。
Posted by ブクログ
家族は大事に思いつつ、自分の人生を生きる。はたから見れば好き勝手に精力的で良い人生を送っているのに、近距離で感じてみると切ない。
娘(次女)が父の足跡を追いかけてみて、父の生き方を娘なりに飲み込めたのも良かったと思います。
事実の認識は全て合っている訳ではなくて良い感じにずれていて。けど、残された側にはポジティブさが印象に残るラストで。
ある意味で複雑だけど、すっと読めるストーリーでした。
Posted by ブクログ
紘子の考え方は決して間違ってはいない。ダメなものはダメで、ダメなことから目を背けずどんな立場の人にでも構わず正論を突きつける。ただ、私も最近感じているのだが、正論を突きつけることが果たして正しいことなのだろうか。思ったことがあっても、建前上関係を崩さないためにも正論を言わない、ニコニコと同意をして、自分の本心を隠してごまをすって生きていく人こそ、この世の中ではある意味正解であるように感じる。「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があるように、本当に頭がいい人こそそうやって生きている気がする。しかし、紘子のような人に助けられ、支えられた人もいる。どんなに価値観が偏っていても、どこかで味方になってくれる人は現れる。
康宏は、結婚していながら愛人がいて一見道を外してしまった人のように見えたが、困ってる人を見過ごせない心優しいお父さんだと思った。自殺だと思っていた父の死の真相は呆気ないものであったが、死の理由を知った時に康宏の家族を心のそこから大切にする気持ちが痛いほど読み取れた。
この本は、続きが気になるあまりあっという間に読んでしまった、帯に書いてる通り「小説でしか描けない物語」であると思った。
Posted by ブクログ
人の考え方ってその人それぞれなんだなぁ、と読んでて考えさせられました。
初めてこの作家さんの本を読んだけど、描写、ストーリー性、心情の書き方、素敵だと思います。他の本も読んでみたい、そう感じました。
Posted by ブクログ
これを書いているのが女性だというのが不思議でならない
不倫の話をここまで男に寄り添った視点で書けるものだろうか
結局は家族を想って亡くなったという、最後は優しい話でした
Posted by ブクログ
主人公の人生も奥行きが深く描かれているが女友達の紘子の人生も共感できるというわけだはないが不器用で応援したくなる気持ちもあった。
ただ実際に身近にいると距離を取りたくなるような人物ではあるが。
最後は切なくなる終わり方だ。
Posted by ブクログ
自分の人生がどうだったかは自分にしか分からない。笹岡の人生がどうだったかは康宏には分からないし、逆も然り。親の人生がどうだったかは子には分からない。自分が満足して死ねる人生を。
康宏が、自分の人生にはプロセスはあるがテーマがない、と内省するシーンが印象的だった。テーマを持って人生を突き詰めて生きている人が果たしてどれだけいるのだろうか。考えさせられた。
Posted by ブクログ
結局父の死の真相はなんだったのか、、、
ここに深い意味はあんまりないのか
(脳がミステリ認識してしまっている笑)
父の人生がなかなか壮絶だった。
他人をいたむ気持ちは素晴らしいが、もっと家族にも心傾けてほしかったなぁ
Posted by ブクログ
人生の全ては自分だけのものであって、他人と分かち合ったり、他人に委ねられる物ではない。
康宏の歴史を理解していくにつれ、家族にとっての康宏がズレているのが歯痒く、人間なんてそんなもの、という寂しさを覚える。
自分が歩いてきた道を振り返り、また、これから進む道をどう行くべきか、考えさせられた。
Posted by ブクログ
他人のことなんてわからない
自分が見ているのは一面に過ぎず、その人には色々な面がある
目の前の幸せが当たり前ではないこと、
人がいついなくなるか分からないこと、
人生をかけたいものに出会えることは幸せなこと、
を感じた
Posted by ブクログ
ひとつの出来事に対して、割り切れない想い、他様々な想いがあり、自分の人生と比べたり点検しながら読んだ一冊。
描写などがリアルで、共感しながら読む部分が多々あった。
康宏は、最終的にあのような形になったが、個人的には幸せな人生だったのだと思う。それぞれの居場所、それぞれの康宏がいて時には虚無感などあったかもしれないが、きっと最後は穏やかな気持ちだったのでは。
読みながら、染み入るような、一言で表せない感情や感覚をこの本は味合わせてくれた。
また歳を重ねて、10年後とかに読むと読後感も変わるのかもしれない。
Posted by ブクログ
家族が大事であるのには変わりないけど、忘れられない大事な人がいるのもまた人生だなと思っているのでわからんこともないのだが、それにしても女々しくて不器用で、良くも悪くも優しいおじさんだな
Posted by ブクログ
学生運動、企業戦士、バブルといったことに
馴染みがないからかピンとこなかった。
ただ、お遍路をスタンプラリーと表現し
神も仏も特定の思想も否定はしないが
節操も関心もなく、精神の支柱にすることはない
という一文を読んだとき、御朱印集めを趣味とする私に取って耳が痛かった。
Posted by ブクログ
流される男と流されない女のお話って感じなのかなあ。
世代や性格が違うせいか、めっちゃ性に奔放な康宏と紘子にもついていけなかったし。
康宏は「何者にもなれなかった自分」に虚無感を感じているのかなとも思ったけど。
康宏がホントに恵まれた人生すぎて、正直何ゼイタク言っとんねんくらいにしか思えなかった。
終わりくらいの、康宏と梨緒の濡れ場はめっちゃ爽やかな朝に読んでたせいか「朝っぱらから何を読まされてるんだ私は…」感が半端なかった。
康宏と紘子の話に絞っても良かったと思うんだけど、娘の碧に後を追わせたのは何故なんだろうと考えてしまった。
これ、男性が読んだらまたちがう感想が出たんじゃないかなあって思う。
Posted by ブクログ
以前どこかの本屋さんのPOPを見て気になっていた本。
人の行動にはそれぞれの理由があって、理解できることも理解できないこともある。
物語ではどうしても登場人物には光というか、正義を求めがちだけど、必ずしも感情移入させたりせず、淡々と人間って綺麗なところや理屈で説明つくところだけじゃないよねというのが書かれている気がした。
最後は救われるところもあってよかったです。
Posted by ブクログ
三十代半ばを過ぎた頃からミッドライフ・クライシスの足音が聞こえてきた私には碧の父・康宏が抱く心の葛藤を理解できる部分もあれば、それは流石に身勝手では?と感じる部分も同じくらいある。家族という運命共同体であれ、互いの心の内は決して分からないし、理解するのは無理であろう。終盤に配置された康宏と梨緒のエピソードの持つ意味合いを咀嚼できなかったが、人の本質は容易に変わらないということであったり、良い面も悪い面もその全てが一個人を形作る要素であると解釈した。一人の男の生涯を通して、人間の不完全さをまじまじと考える。
Posted by ブクログ
篠田節子さんは初読みの作家さん
男性心理をメインに描いた作品で大人のディープな世界観だった。
『冬の光』
東日本大震災のボランティア後に、四国遍路を終えた帰路フェリーから冬の海に忽然と消えた父
高度成長期の真っ只中で企業戦士として働き、専業主婦の妻に家庭を任せ順風満帆だったはずの父
何故、父は帰らぬ人となったのか・・・
物語は、四十年にも及ぶ父とその愛人との繋がりと、長年裏切られた憎しみと恨みを抱えた母、
その影響を受けた姉妹の関係性が軸になっている。
父の死がどこか釈然としない次女の碧は、数日間の休暇を使って父の最期の旅路に出掛ける。そこに過去の父の経験が重なる形で物語は進行する。
感想
これは人生も程なく折り返し地点を過て、ゴールを自然と意識し始めた年齢層の方がより入り込み易い作品だと思った。
父と愛人との繋がりは、肉体的なもの以上に精神的な部分が相当に強かったのだろう。義父が言うように素人女はダメだが、学生時代から惹かれる部分をそのまま強固に磨き上げて来た女性はそう容易く代わりがきく存在でも無かったんだろう。
妻の怒りもご尤もだが、その役割はきっと家庭を完璧に守ってくれた良妻賢母の妻では難しかったのかもしれない。
でもなぁ愛人との付き合い、四十年は長過ぎる。
自立した大人同士の繋がりは希少だし、ましてや男女の仲であれば、長くなる程、形を変えて意味を持つのかもしれない。若い頃と違い一定の距離感は保ちつつも、心の奥底に根付いている関係。日常的に意識しなくとも特別なのだろう。
描いていた企業戦士の目標に辿り着けなかった父は何を胸に秘めて、何を感じていたのか・・・
旅路の終わりに次女の碧が、父の心情に少し寄り添えたのが救いだった。
本作は、家族や会社といった社会との関わりにおける「孤」の存在の意味を問われていると感じた。
四国遍路では地位も名誉も肩書きも関係ない。
退職した父の大企業を名乗る名刺も必要ない。
そこにあるのは圧倒的な弧の存在だろう。定年退職を控えた世代には特に響く内容だと思う。
読み進める内に、結局のところ父は妻にも愛人にも心の内を曝け出せていなかったことが、切なくて虚しく感じた。
これは男の美学なのかプライドなのか、それとも世間体なのか、はたまた世代の問題なのか?
そんな父が震災での生死に直面し、生涯独身となった愛人の死に様を胸に秘めた追悼旅の道すがら、不貞行為に及んでしまったのは、男のさがというよりも短期間で凡ゆる局面を目の当たりにした人間の、種の本能のように思えた。善悪はさておき、それによって補えた部分が確かにあったのだろうと思う。
二十代の頃に本作を読んでいたら、碧と同じく、父という存在に生々しい性的な要素がみえて拒否反応を起こしたかもしれない。もうすっかりそのお年頃は越えたんだなぁと自覚させられる大人向けの作品だった。
Posted by ブクログ
ほんとに著者女の人?っていうくらい男の視点が細かく書かれ、語り口も硬質。事実を並べればしょうもない男なんだけど、本人の語りで読むと、そんなこともあるか…と思わせてしまう描写力。一人の人間の中に存在する多面性、弱さ、人間くささがよく描かれている。
でも莉緒との関係は余計だ。気持ち悪い。
ところどころ光った表現がある。
「動物は着替えたりしない、という前衛アーティストの言葉そのままに、昔とまったく変わらぬ身なりで」
「人生の終焉の迎え方としてはね、今の日本がおかしいんですよ。リーダーシップを譲るべき時に次世代に譲らず、それどころか介護という形で何十年も負担をかけて、未来を紡ぐ芽をつぶしていく。そうやって生物的限界を超えて長生きしているのは、我々だけですよ」
Posted by ブクログ
★3.5
救いようがないと思わせる運びでしたが、最後はタイトル通りの光が。
分かり合うために言葉にすればよかったのに…と知ったようなことも思ってしまいます。
Posted by ブクログ
四国でのお遍路を終えたあと、フェリーから転落死した父親。
父の死の真相はなんだったのか
娘が四国に渡り、父の足跡をたどる
娘の視点。父親の視点。
家族とはいえ、決して分かり合うことはない。
哀しい結末でした。
Posted by ブクログ
父親はお遍路巡りをして何故海に身を投げたか次女が休みを利用して父親の足跡を辿るところから父親の大学生からの話が始まる。
大学時代に付き合っていた人と数十年ぶりに再会して何度か会い家族にばれそれでも妻は離婚に踏み切らず彼女と金輪際会わない約束をさせられてそのままでいる。
そして成り行きで東北の大震災のボランティアに参加し彼女の死の真相を知る。自殺は一つの事でなくたくさん絡まり合って自殺してしまうが父親も彼女の死を知って、お遍路では慰めにならなかったのか。
と考えて読んでいるとありえない死の真相で家族にしてみれば自殺ではなかった救いがあるだろうが、帰ったら車をメンテナンスしようとお遍路途中で死を選んでいたやんといいたくなる気持ちが宙ぶらりんになる話だった。
Posted by ブクログ
久々に篠田節子を読む。
うむ。むむ。むむむ。
でも、最終、優しい話ではあった。
人の死に様とか、その他も、生々しくて。この生々しくてグロテスクな感覚が、篠田節子だよな。と、改めて思いながら。。。
これに、中高時代、ひどく影響を受けたことを思い出す。
でも、ホラー、SFの篠田節子ではなく、宮本輝的な篠田節子でした。
登場人物の自分としては立ち上がって生きている様と、だからこその孤独と。
#篠田節子 #冬の光 #読書記録
Posted by ブクログ
四国お遍路を終えた帰り道、フェリーから身投げした父。
高度成長期の企業戦士として、専業主婦の母に支えられ、幸せな人生を送っていたはずの父。
そんな父は、大学生の時の恋人と、20年余ずっと関係を持ち続けていた。
父親を恨む母。嫌悪感をあからさまにする長女。父の足跡を辿る次女、碧がたどりついた答えとは。
*
父、康弘。正直もっとうまく立ち回ればこんなことにはならなかっただろうと思ってしまう。その頑固なまでの素直さ、真っ直ぐさが仇になることもある。
大学生の時のままだ。
そこに性愛がなくても、確かに彼は紘子のことを愛していたのだと思う。それは罪なんだろうか。運命のように何度も巡り会う強い絆。
やっと帰るべき場所に気づけたはずなのに、あの終わり方はあまりにも寂しくて悲しすぎる。
ラストに向かうにつれて結末が分かってしまって、ページをめくるのが怖かった。
一番最後の描写が表題とリンクして、震えた。
Posted by ブクログ
相変わらず文章は上手いし、持っていき方の技術が確かなのは間違いないんだけど、今作に関しては人物の造詣が空疎というか、端的に言うと薄い。
生身の人間というより、如何にも架空の人物が紙上で動き回っているに過ぎず、共感が抱けない。
遍路の途中で出会う秋宮梨緒の、物語における必然性、ましてや主人公の男が関係を持つ意味合いも解せぬまま。
巡礼を題材にちょろっと展開される宗教的な描写には、「ゴサインタン」や「弥勒」がちらりと想起され、オールドファンとしては少し嬉しくなったが、残念ながらそれぐらい。