あらすじ
四国遍路の帰路、冬の海に消えた父。
家族、男女関係の先に横たわる人間存在の危うさを炙り出した傑作長編。
企業戦士だけれど、子煩悩だった父。だが父は、二十年間ひとりの女性を愛し続けていた。
一度は夫の裏切りを許し、専業主婦として家庭を支えて生きてきた母は、父の退職後に発覚した事実に打ちのめされる。
それなりに安定した幸せな家庭を作ってくれた父が、四国の遍路を終えた時、冬の海に飛び込んだのは何故なのか。
家庭の外にもう一つの世界を持っていたその心中とは?
次女の碧は職場に休暇願いを出し、父の最後の旅を辿ろうと決めた。
日本の標準的で幸せな一人の企業戦士の、切なく普遍的な人間心理。
四国遍路のリアルな光景を辿るうち、読者も自身の人生、男と女の根源的関係に思いを馳せることになるに違いない。
変容し続ける作家・篠田節子の到達点。
解説・八重樫克彦
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Posted by ブクログ
リアリティのある文章。恋愛と結婚、男女関係、信仰、社会的地位、男社会の競争。欲のままに生きた等身大の男の人生と、どこか冷静でありながらも父の残像を追いかけ辿ろうとする次女の決意。他人事にはなれない物語がそこにはあって、引き込まれた。
康宏は紘子を青臭いと揶揄していたが、康弘こそ青二歳のままだったと思う。
結婚、家庭、孫という安定的で凡庸な幸せに満足せず、一時的な同情や情事に自分の存在意義を見出さそうとしていた。
四国遍路での結願を経て、漸く家族のもとへ戻ろうとした時に命を落とした。自分勝手に生きた代償なのか、
康弘を家族のもとへ帰ろうとさせた動機は、四国遍路の終了が主ではない、気がする。フェリー予約後に紘子の名前を検索し、紘子に感謝を述べる後輩たちがいることを知り、青二歳だと見下していた紘子が未来を担う後輩たちのために“役に立っている”姿を見て、ボランティアや四国遍路をしながら自分探しの旅をしている自分に恥じたのではないか。そこでやっと家族と向き合おうとしたのではないか。
Posted by ブクログ
紘子の考え方は決して間違ってはいない。ダメなものはダメで、ダメなことから目を背けずどんな立場の人にでも構わず正論を突きつける。ただ、私も最近感じているのだが、正論を突きつけることが果たして正しいことなのだろうか。思ったことがあっても、建前上関係を崩さないためにも正論を言わない、ニコニコと同意をして、自分の本心を隠してごまをすって生きていく人こそ、この世の中ではある意味正解であるように感じる。「能ある鷹は爪を隠す」という言葉があるように、本当に頭がいい人こそそうやって生きている気がする。しかし、紘子のような人に助けられ、支えられた人もいる。どんなに価値観が偏っていても、どこかで味方になってくれる人は現れる。
康宏は、結婚していながら愛人がいて一見道を外してしまった人のように見えたが、困ってる人を見過ごせない心優しいお父さんだと思った。自殺だと思っていた父の死の真相は呆気ないものであったが、死の理由を知った時に康宏の家族を心のそこから大切にする気持ちが痛いほど読み取れた。
この本は、続きが気になるあまりあっという間に読んでしまった、帯に書いてる通り「小説でしか描けない物語」であると思った。
Posted by ブクログ
お遍路を終えた父親が水死体で見つかったという衝撃的な出来事から物語が始まる。
人と人の感情のすれ違いが多く残念な関係ばかり。
碧が父が通った道のりを想いを馳せながら周り、父の人柄が垣間見えたりして、最終的には少し暖かい気持ちになりかけたが、やっぱり父親はダメ男すぎだ。
健気にサポートする奥さんとは別に、(都度間が開いてるとはいえ)20年もの間ずっと好きな人がいて、都合良く不倫して、しまいにはお遍路で行きずりの女性と致してしまうなんて、、、最低野郎!
Posted by ブクログ
流される男と流されない女のお話って感じなのかなあ。
世代や性格が違うせいか、めっちゃ性に奔放な康宏と紘子にもついていけなかったし。
康宏は「何者にもなれなかった自分」に虚無感を感じているのかなとも思ったけど。
康宏がホントに恵まれた人生すぎて、正直何ゼイタク言っとんねんくらいにしか思えなかった。
終わりくらいの、康宏と梨緒の濡れ場はめっちゃ爽やかな朝に読んでたせいか「朝っぱらから何を読まされてるんだ私は…」感が半端なかった。
康宏と紘子の話に絞っても良かったと思うんだけど、娘の碧に後を追わせたのは何故なんだろうと考えてしまった。
これ、男性が読んだらまたちがう感想が出たんじゃないかなあって思う。
Posted by ブクログ
ほんとに著者女の人?っていうくらい男の視点が細かく書かれ、語り口も硬質。事実を並べればしょうもない男なんだけど、本人の語りで読むと、そんなこともあるか…と思わせてしまう描写力。一人の人間の中に存在する多面性、弱さ、人間くささがよく描かれている。
でも莉緒との関係は余計だ。気持ち悪い。
ところどころ光った表現がある。
「動物は着替えたりしない、という前衛アーティストの言葉そのままに、昔とまったく変わらぬ身なりで」
「人生の終焉の迎え方としてはね、今の日本がおかしいんですよ。リーダーシップを譲るべき時に次世代に譲らず、それどころか介護という形で何十年も負担をかけて、未来を紡ぐ芽をつぶしていく。そうやって生物的限界を超えて長生きしているのは、我々だけですよ」