篠田節子のレビュー一覧
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金儲けのために宗教を始めるには、正彦は真っ当過ぎ、矢口はお人好し過ぎたんだろうな。全てを奪い尽くされてそれでも奪ってこようとするものから逃げる、教祖と幹部と信者5人が辿り着いたところとは。圧巻でした。
作り上げられた宗教は暴走して教祖の正彦の手には負えなくなり、狂信的な信者たちとの逃避行のなかで正彦も呑み込まれてしまう。
お人好し矢口の最期は凄かった…それを菩薩行、と錯覚してもおかしくない極限状態で正彦は真の宗教家になってしまいました。
マスゴミか、と思ってたルポライターの安藤がずっと味方なのが唯一の救いです。ほんと、唯一の…だけれど、ジャーナリズムとはこれだ。ビジネスライク増谷も良い人だったな。
広江がキツい……まさかこの人が一番わからないとは思いませんでした。狂信者5人の私刑は許されないけど、広江が余計な事言わなければ何もされなかったのに…と思います。家族を否定して拒否する彼女たちから、自分まで否定されているように思えたのでしょうが、静かに離れたら良かったのに。
モリミツの元社長・森田と5人が始めたお弁当屋さんのラストも救いでした。正彦が戻ってきてももう暴走することはないだろうな…なんとなく。
宗教とは怪物。お葬式はこの宗派で挙げるというとき以外は、薄っすらアニミズムでいるのがいいなぁ。うちは浄土宗です。 -
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大手ゼネコンに勤務していた49歳の加茂川一正は、インドネシア出張の折にネピ島という小さな島の海底に聳え立つ仏塔らしきものを発見する。
一正は遺跡の保護活動を自らの使命とし、日本の考古学者、民俗学者を巻き込んでの遺跡調査に乗り出す。
ネピ島の殆どを占めるムスリム、開発を最優先する地元の大地主、そして独特の文化を守り続けながらも首狩族などと野蛮人扱いを受けてきた先住民たちは、何故か外部の人間との関わりを受け入れない。
一正の積極的な性格は良いのだが、ちょっと空気を読めない癖がたまたま功を奏したのか、あっという間に先住民の青年ケワンと知り合い、その一家に溶け込んで調査をするためのベースをネピ島に確保する。
ケワンの母親は一族の間でマヒシャと呼ばれていた。
ここネピ島では阿修羅を殺す者と捉えられ、インドの闘いの女神ドゥルガー(悪魔たちを殺す恐ろしい女性戦士)のことを指していた。
一正は当初、マヒシャは土着の迷信の上に成り立っているシャーマンくらいにしか思っていなかったのだが、徐々にその計り知れない不思議なチカラと尊厳さを知ることになる。
一正が発見した仏塔を文化遺跡として保存しようとする努力にも関わらず、その一帯をゴミ処理場としての開発計画が進んだり、遺跡には男性禁制などの風習があったりと、活動は困難を極める。
そして最大の危機は、ネピ島にそびえる活火山の小イスカンダルの活動が活発になり、大きな地震や津波によってネピ島の住宅や丁子のプランテーションに多大な被害が生じる。
そして噴煙を吐いている山は、近々起こるであろう噴火によって、ネピ島自体が海に沈んでしまうとの噂までが島内に広がってしまう。
一正と一緒に活動していた日本人の考古学者、民俗学者、先住民の青年ケワンたちの願いは報われるのか、スケールの大きい冒険物語となっている。 -
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どこかでこの装丁を見かけたとき、「田舎のポルシェ」こと、スバルサンバー、に最近乗り始めた自分は思わず手にとらずにはいられなかった…、尤も、自分が乗っているのはこの絵のようなトラックではなくバンタイプではあるが、その小さなクセにせいいっぱいブルンブルンと走り回ってくれる姿にはいずれも変わらないものがあると思う…
…私自身の個人的なクルマへの思いはさておき汗、この書籍は表題作を含む3編からなる。いずれもクルマを主題としたロードムービー的な小品であり、いずれもどこかハラハラとさせてくれていずれも幸せな結末に至るものである。またいずれの作品の主題たるクルマも、決して高級車ではなく、さりとて欠陥車などではなく、運転者(必ずしも主人公ではない…)が深く愛情を注いでいるクルマたちである。また、さきにも書いたが表題作のサンバートラックのちょっとした挙動の描写も、私自身が日常的に感じていることでもあり、「うんうん」とうなずかされる場面が多かった。
中編作品としていずれも読みやすい、うがった見方をすればありがちな、情景の描写ではあるかもしれないが、私自身は楽しく読み終えることが出来たように思う。 -
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「混迷する日本社会の今」を背景に「昭和の時代から懸命に生きてきた人たち」と「今の社会は生きづらく先は見えないけれど、少しだけ光明が見えるかもしれない」という微妙な情景を描き出した中編三作を集めた作品集。なかなか読み応えがありました。というか結構重かった。(決してホンワカする、ハラハラ・ドキドキするとかグラグラ感動するといった作品ではありません。でも、読み終えてから、シミジミと社会の有り様について思い巡らす様な作品も良いものです。)
一作目は表題作「田舎のポルシェ」
少子高齢化の波がどんどん押し寄せて来る日本。特に地方へ行くと老人ばかりが目立つのは事実です。作品の中では農業の衰退状況が背景に描かれていましたが、農業に限った話ではないでしょう。都会の商工業も同じことです。一体どうすれば解決できるのか?行き先が見つからないまま歩き続けている。
果たして打つ手はあるのか?などと考えながら読んでいましたが、ストーリーの中では田舎の「ポルシェ」ならぬ軽トラでのロングドライブを強いられてしまう男女二人が台風の最中で格闘する状況が描かれている。格闘の合間に二人の暗い過去が掘り起こされていく。今の、そしてこれからの日本社会の闇の部分をえぐり出している。
最後に少しだけ明かりは見えるのだけれど、何だか暗い気分に浸ってしまいました。
二作目は「ボルボ」
ボルボといえば一昔前にステーションワゴンが流行りました。崖から墜落しても車はびくともしない?(でも中の人は助からないかも?)と言われていたものです。
ストーリーは定年間際で会社が倒産し、今は年下の妻に養われている?男性。そして大企業に就職し部長まで勤め上げたものの、定年後再雇用の道を選ばず年金受給を待つ男性。その二人が廃車間際のボルボで北海道へ旅に出るというストーリー。還暦前後の雇用事情が垣間見られる。一体自分はどうなるんだろう?と、ついつい自分のことを考えてしまう。
非常によく出来た企業人であったが今は職のない二人が妻との葛藤を織り交ぜながらボルボで旅をする。そして北海道の山間部で野生のヒグマの襲撃を受けてしまう。二人の男性の妻の一人を含めて。
そういえば気候変動の影響で、クマの襲撃も昨今珍しくなくなりました。ボルボの運命やいかに?
三作目は「ロケバスアリア」
まさしく昭和、平成、令和の時代をしっかりと生きてきた古希を迎える女性。現在も介護施設(デイケア)で働いているが、コロナ禍で施設が休業するのに合わせて浜松の舞台で一人きりで舞台に立つ決心をする。歌うのがアリア。
東京から浜松のステージまで利用するのが「ロケバス」。まあ、経緯・背景はいろいろあるのですが、淡々とストーリーが進んでいく中で、この女性の昭和から令和にかけて懸命に生きてきた様子が語られています。シミジミとストーリーに浸ってしまいました。最後に一人で舞台に立つ決意の裏側が語られる。
三作品の全てに昭和・平成から令和にかけての時代の移ろいを感じさせるストーリー。描き出された人々の目を通して、そして経験を振り返りつつも、先の見えづらい未来に向けて現在進行形の日本社会を考えさせられます。
現代日本社会に対する篠田さんの深い洞察を感じてしまいました。 -
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真面目な筒井康隆
という感想を持った。
パニック小説から恋愛ホラー、近未来SF、他、何のジャンルに入れて良いか判断できない作品。
どの作品も構成があり、小説として面白い。特に冒頭のパニック小説「幻の穀物危機」はリアリティーがあり、情景が迫って来る。戦中の食糧危機を体験したのだろうか。
・幻の穀物危機
東京直下型地震で大量の難民が山梨に向かう。地元住民と避難民の間で食料争奪戦が起きる。移住者の主人公は微妙な立場で様子を見るが…。
・やどかり
教師が女子生徒と関係を持って破滅する話。
・操作手
ボケた母親がロボットの介護士に恋をする話。
・春の便り
・家鳴り
病んだ妻が病的に太る話。
・水球
・青らむ空のうつろのなかに
虐待されて育った少年が、擁護施設で豚の世話をするうちに斜め上の成長をしてしまう話。 -
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小柄でちょっとぷっくりとしている独身の真一は、女性たちから関心を注がれる男性とは程遠い存在だった。
そんな真一に、美人でスタイリッシュな高嶺の花ともいえる独身エリート行員の理香子への取材の機会を与えられる。
真一は、理香子のあまりにも神々しい存在感に萎縮しながら、何とか無事に取材を終える。
その後、ひょんなことから梨香子とお付き合いの機会に巡り合うことになり、真一の操縦で梨香子をセスナに搭乗させ、なんと大空へと飛び発ってしまう。
冴えない真一が何故にセスナを操縦し、エリート梨香子を搭乗させて空に飛び発つことができたのか⋯
そんな誰が見ても不釣り合いな二人が、信じられないことに結婚をすることになる。
結婚後、真一は梨香子の思いもかけない一面を知り、結婚前に思い描いていた姿とのあまりの違いに愕然とする。
がしかし、気が弱く総てに自信を持てない真一は、情けないことに一言も梨香子に対して意見を述べることはできない。
真一からすると、梨香子の世界観は余りにも浮世離れしいて、ついには真剣に離婚を考える程に追い詰められる。
一方、梨香子も仕事でのプレッシャーもあり、新婚家庭を顧みることはなかった。
そんな二人のドタバタ結婚生活を通して、現代社会の結婚・出産・育児・少子高齢化時代などに潜む問題が炙り出される物語となっている。