心的外傷を負った女性たちが暮らす施設が火事に。
「先生」と慕われるマザーテレサのような小野尚子が死亡した。しかし、遺体は別人だった。
果たして死者は誰なのか。ミステリアスな冒頭から引き込まれ、文庫本641頁もアッという間。
施設代表の優紀とフリーライターの知佳が、「先生」は誰だったのか、本当の小野尚
...続きを読む子はどこにと、真相を明かすべく行動を開始する。
そして、小野尚子とは全く異なる生き方をしてきた人物が浮上する。
「人の視覚はカメラと違う。像の中に思いを重ね合わせ、寮の人々は愛情と喪失と悲哀のフィルターを通して」人物を見るというが、果たして異なる顔が同一人物に見えるのだろうか。
さらに、別人格の人間が他人にどこまで同化できるのか。
しかし、そんな疑問も緻密な物語構成によって、違和感なく納得できてしまう。
別人物になり得ることを、著者は題名ともなっている鏡で説明する。
鏡の部屋で見たのは、「正面の鏡に映った自分の姿が背後の鏡にさらに映り込み、無限の像を結ぶ。混乱の中に見えるのは増殖する自意識か、自己と他者の境界の消滅か」と。
「心霊現象とは関わりなく、人は自分でない他人になってしまうことがある」
我々の自我など、思っているよりも脆いものだと、この小説は明かしてくれる。