あらすじ
脳に障害をもつ由希が奏でる超人的チェロの調べ。言葉を解せず、道徳を持たない女性にもたらされた才能は、中堅どころの音楽家によって恐るべき開花を遂げる。しかし、難曲をこなし、自在に名演奏を再現してみせるその旋律には、自己表現が決定的に欠けていた。彼女の音に魂を吹き込もうとするチェロ奏者・東野。<天上の音楽>にすべてを捧げる二人の前に次々と起こる超常現象と奇怪な事件。崇高な人間愛と世俗の欲望を圧倒的筆力で描く文芸ホラー長篇。
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Posted by ブクログ
ハルモニア。
それはまるで世界をすべる黄金率にも似た調べ。
神聖で崇高な侵しがたい神の旋律。
凡庸なチェリスト東野は音楽療法のスタッフとして通った高原の精神医療施設で、凄まじい才能を数奇な運命を秘めた一人の浅羽由希と出会う。
東野は彼女の秘めたる才能を引き出そうと悪戦苦闘の個人レッスンを開始するが……
超感覚ホラー。
サスペンス。
人間ドラマ。
この小説を飾る言葉はあまたあれど、一番しっくりくるのはやっぱり音楽小説だろう。
そう言うととかく高尚なものを思い浮かべがちだが、登場人物の苦悩や懊悩、葛藤が非常に生々しくリアルに迫ってくるせいで、どっぷりのめりこんでしまう。
血肉が通った饒舌でありながら流麗な描写は、とくに演奏シーンでその本領を発揮し、光の渦を巻いて読者をめくるめく翻弄する。
二十年間音楽に人生と情熱を注ぎ続けたチェリストでありながら、凡庸な秀才の域をでぬ東野は、重い障害を持ちながらけっして自分が叶いえぬ「天才」由希に激しい羨望と劣等感を抱く。
が。由希は紛れもなく音楽の天才でありながら、同時にコミュニケーション不全で、東野とも殆ど交流が成り立たない。
困惑する東野だが、一対一のレッスンを辛抱強く続けるうち、言葉よりも多弁な音楽を通して二人は次第に互いへの信頼を深めていく。
凄い、とにかく凄い。
音楽という神にして悪魔に魅入られ破滅した男女の物語にもとれるのですが、由希を背負って砂浜を歩く東野の姿には、「ハルモニア」を聞いた者だけが得る至福を感じられ、二人にとってどうするのが一番よかったのか、これでよかったのか、なにが幸せでなにがふしあわせだったのかわからなくなります……。
天才と凡才。
聖と俗。
虚構と真実。
さまざまに反発し対立する要素が絡み合って重層的な構造を生み出す物語の結末は、ぜひあなたの目で確かめて下さい。
願わくば砂浜を行く二人の耳に、今もハルモニアが聞こえんことを。
Posted by ブクログ
チェロひきが、脳に傷を持つ女性に施設で教える。
どんどん上達し、演奏会を開催する。
集中すると周囲を傷つけることがあるのを理解していなさそう。
音楽会の裏表がわかる。
最後は、文学だから仕方がないのだが、幸せをつかむことができたのだろうか。人生と住んでいるところからの逃亡が幸せでは悲しい。
脳と音楽の関係が、もう少し深掘りしてあるといいかもしれない。
脳波と体温の関係とか、血中の諸物質の濃度との関係とか、肺での酸素の出入りとか。
解説を石堂藍が書いている。ファンタジー評論家とのこと。
解説ももう一歩、もう二歩、突っ込みが欲しいかも。
Posted by ブクログ
読むのは2度めだが、やっぱり面白い。ぐいぐい引き込まれてしまう。
一番は、自分の平凡な日常を崩していく音楽家ののめり込み方。それぞれの人間がみにくい部分を持っている点もハマる。女の子の現象も、超能力とかポルターガイスト的なことだとって感じない。
単純に面白い。
Posted by ブクログ
新規購入ではなく、積読状態のもの。 恐らく2001年2月の発売直後に購入。
2020/2/21〜2/25
恐らく19年ものの長期熟成本。
脳に器質的障害を受けた由希にチェロの手ほどきをする東野。何もできないと思われた由希が超人的な音楽的才能を発揮するにつれ起こる不思議な現象。購入した頃、まだ本格的にクラシックギターを弾いていなかったので、熟成して良かったんだろう。音楽とは何かを非常にいろいろ考えさせられる快作。
Posted by ブクログ
ドラマ化されたが、ドラマはまったくの別物と考えてもらいたい。断然原作が良し。脳に障害を持つ由希は音楽に憑り付かれる。東野と由希の関係が切ない、東野が最後に取った決断は正解だったのか?何が正しいのかはわかりません。
Posted by ブクログ
教え子が自分より優れた能力を持つことに対する嫉妬心。しかし認めざるを得ない才能。この仕事をしていると、より強く感じてしまう自分がいる。(2001.9.12)
Posted by ブクログ
篠田節子の大好きな(?)オカルト物。人智を超えたレベルの音楽の才能と念力という2つの超能力を持った少女をめぐるいろいろ。
同じようなテーマで「カノン」という作品があり、いずれもチェロが題材になっているので、おそらく著者は以前にチェロをやっていたのだろうということが推測される。「カノン」に比べると、チェロにまつわる文やバッハの曲などのウンチクが、明らかに必要以上に多いし、その一つ一つにトゲがあって厭味ったらしいので星一つ減点。
また、オカルト系によくある話だが、障害者や脳に対して、夢を持ち過ぎである。その辺はオカルトということで流すが。
全体には一筋通っていて、読みやすいしのめり込める作品となっている。主人公が読者を何度か裏切る辺りもスリリングで良い。同じく長編の「カノン」で気になった、訳の分からないイベント(不倫など)も無く、適当なボリュームであった。
ところで、女性作家の作品って、まず事後の情景を描いて、途中や最後でそこに到達するという作品が多いのだけど、小説の書き方教室みたいなのって有るの?この作品では、その部分が蛇足という感じしかしなかったのだけど。
Posted by ブクログ
脳に障害をもつ由希が奏でる
超人的なチェロの調べ。
指導を頼まれた中堅演奏家・東野は
その天才的な才能に圧倒されます。
名演奏を自在に“再現”する才能を持つ由希に足りないのは、
“自分自身の音楽”。
彼女の演奏に何とか魂を吹き込もうとする東野の周りでは、
次々と不可解な事件が起こり始めます。
音楽にすべてを捧げる二人の行着く果ては。。。。。
中庸な演奏を得意とする(…時には必要に迫られ。)東野にとって、
非凡な才能を持ちながらコピー演奏しかできない由希が不憫であり、
自分では成し得ない理想の演奏を叶えるに相応しい分身だったのでしょう。
次第に破壊していく由希の体、
それと並行して社会から孤立していく東野が何とも痛ましいです。
由希にとって、
施設で慎ましくコピー演奏を続けて生き永らえていくことと、
命を縮めてでも自身の音楽を奏でることの、
どちらが幸せだったのでしょう。
読み終えてから、そんなことをぼんやりと考えてしまいました。
ラストは読者の想像に任せるあたりも良いですね。
私も豊かな心を目指して自分の音楽に精進していきたい。。
そして、何気ない普通の毎日を大切に暮らしたい、と感じた作品でした。
(過去ログより)
Posted by ブクログ
2010年1月25日購入
超能力物はちょっと苦手である。
こうだったらよかったのになあ、と思うことはあるがネタバレになるので触れないでおこう。
なにはともあれぐっと物語に入って一気に読めた。
Posted by ブクログ
この作品を読んでから、チェロの音が好きになった・・・。
しかし、超人的な才能は、やはり社会に適合するための何かを犠牲にしないと持ち得ないものなのか。そして、そうやって持つことのできた才能でも、他をコピーすることだけに長けていたり、音を聞き分けることだけに長けていたり、と極端に偏っていたりする。
私自身、子供の頃には音楽的才能があるとまわりにもてはやされ、ハタチ過ぎればただの人。それなりに自分の得意なこと不得意なこともわかり、才能の限界と挫折をイヤというほど味わった。
そのせいかこの作品は、「怖かった」「面白かった」というより、「せつなかった」。
Posted by ブクログ
7月-13。3.0点。
障害者施設でチェロを教える主人公。
ある自閉症の少女に教えると、驚くほどの才能が。
ある黒人チェロ奏者のコピーを完璧に。
少し現実離れしすぎ。筆力あるので読ませるが。
Posted by ブクログ
脳に障害を負った女性にチェロを教えることになったチェロ奏者の主人公。彼女の天才的なチェロを目の当たりにして自分の才能のなさを痛感させられる。それと同時に彼女自身の音が出せるようあの手この手で導いていく、彼女が望んでいるかわからないが。
主人公も含め彼女を取り巻く人たちが自分のエゴを彼女を通して実現させようとするのにうんざりする。それぞれが彼女のためと言いながら自分の夢を託す。それとサイコキネシスが出てくるのに興ざめ。
Posted by ブクログ
脳に障害を持つ女性が音楽に異常な才能をみせる。サヴァン症候群「知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を指す」(wiki参照)これを病気と片づけて無視することはできない。それほどに常人では達成できない才能を示す女性が登場する。現実では病気とワンセットになって宣伝されることが多いためにニュースねたやTVの特番などで注目されるに程度だ。この小説のラストも悲しくやるせない。
Posted by ブクログ
ドラマの主題歌を思い出して読んでみた。
ドラマ版ではショッキングな映像ばかりを覚えているのは
年齢のせいかもしれない。
荒々しさはなくゆっくりと、でも確実に加速していく物語だった。
音楽を題材にしているが、内容はひとりの女性に操られた
数奇な運命を辿る話という印象。
しかし由希の感情が明確に言葉として記されていない分、
彼女の能力を際立たせているのかもしれない。
Posted by ブクログ
天才的チェロ奏者が,多大な苦しみを味わいながらも自身の音楽ハルモニアを紡ぎ出す物語。
同一著者の『聖域』と『カノン』を合わせたような印象があった。