森博嗣のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレp93
「弱音は駄目。それじゃあ、見た目は大人、頭脳は子供じゃない」
「子供って、弱音吐く?」
p122
「絶対に駄目。来ても、ドア開けないから」
「そうですか……。つまり、家にはいるんですね」
p234
たとえば、愛する人の笑顔を一度見ただけで、一日仕事で頑張れる。数秒間の笑顔が、大きな仕事を導くことになるのだ。でも、それは、笑顔を見せた人の能力ではない。仕事をする人間がもともと持っていた能力だろう。
2017年刊行。他作品と比較すると、現代を舞台にしたXシリーズ最終作。
Gシリーズのメンバーのサプライズ登場もあり。
椙田、小川、真鍋はX,Y,Zのジェネレーションのアイコンとしても部分的に描かれていたのかなぁ、と想像。
成熟しきった中年男性、年は重ねてもどこか未熟なアラサー、基本フラフラフワフワしている若者(食べることが大好き)。
危険に身を置くこと、誰かに仕えること、自分で考えるのが苦手なこと(そのうえ失敗することを誰よりも嫌う)。
世代を経るごとに、どんどんデジタルネイティブになっていく。真空管スピーカーを好む小川の趣味はオールドで愛おしい。それを繋ぐのが亡くなったパートナー。
椙田のハラスメント気味な質問も小川との関係性を象徴しているように感じます。ズレと慣れ、許容と歩み寄り。シリーズを通して読めば、二人の関係に口出しする人はいないはず、と思いたい。
レトロをテーマにしていたはずで、根底にはノスタルジック(真空管、故人への想い)でメランコリック(未成熟さ)が醸されていたように思えます。そのうえでジェネレーションやジェンダー、仕事観的なものがサブテーマ的に浮かんでくるのが面白かったです。
大好きなシリーズになりました。 -
購入済み
生き方のヒント
生き方のヒント……というにはあまりにも中身が濃すぎる。
生涯、これを参考にして生きようというフレーズがいくつもあった。
「オリンピックのランナが金メダルを取った。それは彼だけの力ではない。競技場の石を取る人もいる。それはその人のやるべきことで、それをしたまでだ。その人はそれをしようとしたのだ。スタートを切ったのだ。あなたがスタートを切れないのはなぜか……」など、森博嗣の気づきの深さ、思考の深さだけのものだ。
最近、テレビやネットの記事で「他の人とは違った見方を自分は持っている」と、引っ張りだこになっている人がいる。彼のその持論はどれもそこらへんのエッセイやネットの情報をピックアップして自分の意見のように披露しているだけにすぎない。
森博嗣のことばに触れると、それに対する怒りや不快感さえもどうでもよいと思える。
まるで次元が違うのだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレwシリーズを読んでいても思うことだけれど、正しいと考える思考回路、復讐したいと思う精神反応など、人にしか感じることがない、人以外、自然界には存在しない感情から人間の弱さ、脆さ、億劫さをすごく感じる。そして、それが人間の証明、定義だという皮肉と美しさ。
主人公はある一点で、動物から人間への進化の分岐点で生まれたであろう復讐という精神反応について、なぜ植え付けられて育てられたかのか、正しい、間違い、正しい、間違い、をひたすら行ったり来たりしている。
「一度人を殺した人間はまた人を殺すかもしれない。その前に罰しなければ。」その考え自体が病んでいる、と話すスホ。スホの話す言葉を聞き、ルナティックシティを見ると「病んでるのは私かもしれない」とだんだん説得されてくる。
現在の脳科学では実際に脳の活動を計測すると、意志が出現する前に神経回路網の活動が始まっていることが明らかになっているとのこと。私たち人間が「考える」ことを始める前に脳の神経回路は立ち上がっている。では、私たちが信じている自由意志とはなんなのか。
ルナティックシティが、人間を攪拌して分離した善だけを掬って創った街ならば。
ここの人たちが、人間が間違った道を進む前の分岐路に立つ存在だとしたら。wシリーズのナクチュの人々に繋がるのならば。彼らだけが遺伝子が残せるのもある意味頷けるわけで。
百年シリーズではルナティックシティについて主人公が「この街に未来なんかない方がいいと思うな。」と話すけれど、100年後のwシリーズを読むとうーん、あながち…。クライオニシストは悲しい結末に、なりそうだけど…(wシリーズを完読してないので分からない…)
お互いの住んでいた世界では決して相容れない存在が、ルナティックシティで自分たちの価値観の根幹を揺るがす謎に直面した時に「唯一価値観を共有できる存在だろう」と一瞬でも考える選択肢にあがるの、興味深かったな。
人間、人工知能、機械、生と死、性別の価値、相変わらず私の大好物だったので楽しく読めました。このまま百年シリーズの2冊目読みます。