坂口安吾のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2025/11/30
p.24
A君とB子が恋をした。二人は各々ねむられぬ。別れたあとでは死ぬほど苦しい。手紙を書く、泣きぬれる。そこまでは、二人の親もそのまた先祖も、孫も子孫も変わりがないから、文句はいらぬ。しかし、これほど恋しあう御両人も、二三年後には御多分にもれず、つかみあいの喧嘩もやるし、別の面影を胸に宿したりするのである。何かよい方法はないものかと考える。
しかし、大概そこまでは考えない。そしてA君とB子は結婚する。はたして、例外なく倦怠し、仇心も起きてくる。そこで、どうすべきかと考える。
その解答を私にだせといっても、無理だ。私は知らない。私自身が、私自身だけの解答を探しつづ -
購入済み
恥ずかしがりながらも
作者坂口安吾に限らず太宰治にも見られるように、皮肉っぽく斜めに構えた物言い 表現が洒落ている と思われていた時代である。にも関わらずこの作品は恥ずかしがりながらも、臨床医という職業に殉じた「肝臓先生」を手放しで褒め称えている。この作者の作品としては珍しく感涙ものであった。
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Posted by ブクログ
2025/10/30
p.23
その雑念を抑えるために、タクミの心になりきろうとオレは思った。親方が教えてくれたタクミの心構えの用いどころはこの時だと思った。
そこでオレはエナコを見つめた。大蛇が足にかみついてもこの目を放しはしないぞと我とわが胸に云いきかせながら。
オレの目はエナコの顔から放れなかったが、一心不乱ではなかった。なぜなら、オレは驚愕と怒りを抑えた代りに、嘲りが宿ってしまったのを、いかんともすることができなかったから。
その嘲りをエナコに向けるのは不当であると気がついていたが、オレの目をエナコに向けてそこから放すことができなければ、目に宿る嘲りもエナコの顔に向けるほかにど -
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Posted by ブクログ
大好きなんですよ、坂口安吾の「夜長姫と耳男」
けれどもレビューは書いてない、と言うか書けなかったですね。
もう「雰囲気があるんですよ」とか「世界観が」とか陳腐な言葉しか出てこない、何故好きなのかもよく分からないし。
この作品に関しては、作者の意図とか教科書的な答え合わせなんかどうでも良いと考えていました。
ところが「乙女の本棚」シリーズに収録されているらしい。ということで、夜汽車さんのイラストを眺めながら人生何度目かの再チャレンジ。
うーん、ファム・ファタルですね。
ファムファタルが何か分かっているのか?と問い詰められると、「だって夜長姫が好きなんじゃー」と開き直るしかなくなるのですが、 -
Posted by ブクログ
表題作の「堕落論」他、「続堕落論」と二つの間に挟まれていた「天皇小論」を読んだ。かなり好きな思想で、個人的には、「続堕落論」よりも「堕落」することについて妥協のない無印の「堕落論」の方が好き。
全体の趣旨は結構単純で、基本的には、戦前の国家主義的なイデオロギー批判だと読んでいいのだと思って読んだ。人間の本質は、倫理的でないこと、堕落した生活や生き方をすることにあって、放っておく限り人は堕落する。だから、世界の歴史は、人間を堕落させないための「カラクリ」を生み出してきたのだという。それは、天皇制であったり、武士道であったり、形は違っているが、その本質は同じで、理想的な生き方、倫理観を示すことに -
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Posted by ブクログ
坂口安吾が書いた懸賞付き推理小説。一癖も二癖もある登場人物たちが絡み合い、混沌としたなか、一人また一人と殺人が行われていく。かなり多くの人物が登場しますが、ある意味類型的でそれなりに区別はつきます。
ですがまともに読んでいては、全てを把握するのは難しいでしょうから、人物相関図的なものは必要でしょう。
アガサ・クリスティーの某作品と同じという話もあります。確かに素材は同じです。ですが、その味付けは全く別物です。肉じゃがとカレーのようなものです。犯人当てという点では、この不連続殺人事件の方がテクニカルで、動機や殺人の流れも理屈に合っているようにも思います。
犯人当てに傾いた分、途中の物語とし -
Posted by ブクログ
『今昔奈良物語』の『桜の森の満開の下』のパロディー短編を読んだときにわからない部分があったので、今回読んでみました。挿絵とレイアウトのおかげでとても読みやすくなって、文豪作品の敷居がぐっと低くなりました。
鈴鹿峠にある桜の森の花の下では花の季節になると、旅人は気が変になってしまう。この山に住む山賊は情容赦なく着物をはぎ人の命を絶つが、やはりこの花の下に来ると怖くなってしまうのだ。山賊がいつものように街道で男の着物と一緒に妻をさらう。山賊にはすでに7人の妻がおり、その女は他の妻たちを次々と殺すよう山賊に言う…
現代では絶対に出版できない内容。とても残酷なのですが、この山賊がそうであるように、 -
Posted by ブクログ
坂口安吾は、残酷でセンセーショナルな作品を書くイメージがあったが、この恋愛論は真面目な論説文でそのギャップに驚いた。
物語でない論説文にイラストが入ると、物語を読んでいるような気分になり不思議な感じがした。普段とっつきにくい論説文もこのようにコラボして、イメージが広がる形でどんどん読めたらいいのに、と思った。
恋と愛のニュアンスの違い、日本語の多様な同義語が雰囲気的過ぎるという話には、納得感があった。万葉集や古今集の恋歌が、動物の本能の叫びに過ぎないと切り捨てるのも、なんとも清々しい。人生とは、その本能の世界から抜けてめいめいが世界を建設するもの、常識という規則で満たされなくなった心が、良俗に