坂口安吾のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
坂口安吾は、残酷でセンセーショナルな作品を書くイメージがあったが、この恋愛論は真面目な論説文でそのギャップに驚いた。
物語でない論説文にイラストが入ると、物語を読んでいるような気分になり不思議な感じがした。普段とっつきにくい論説文もこのようにコラボして、イメージが広がる形でどんどん読めたらいいのに、と思った。
恋と愛のニュアンスの違い、日本語の多様な同義語が雰囲気的過ぎるという話には、納得感があった。万葉集や古今集の恋歌が、動物の本能の叫びに過ぎないと切り捨てるのも、なんとも清々しい。人生とは、その本能の世界から抜けてめいめいが世界を建設するもの、常識という規則で満たされなくなった心が、良俗に反する文学を生む、という下りは、なるほど!と思わされた。
常識=醇風良俗なるものは、真理でもなく正義でもない。めいめいの人生を精一杯生きるだけ、という考えには希望が見いだせる。
恋愛によって満たされることはなくても、孤独な人生において、恋愛は花である。その言葉を聞いて、度々訪れるであろう花の時間を大切にしたいと思った。
読む時々によって、刺さる言葉が違うような気がしたので、またぜひ読みたい。 -
Posted by ブクログ
坂口安吾を一冊通して読むのは初めて。十月桜が咲いている今日この頃、有名な表題作が気になっていたところ、たまたま書店で面だしされていたので読んでみようかなと。
驚いたのが、著者は歴史小説を書いていたんですね。知らなかったです。
『二流の人』では、大河ドラマの黒田官兵衛のシーンが脳裏に浮かびましたが、小西行長に関しては、日本の会社の駄目な部分の走りを感じました。話しは時間軸が前後しながらも、内容が破綻せずに無理なく読み進められます。『梟雄(きょうゆう)』は、斎藤道三の一代記が書かれており、最後の描写には男気を感じますね。
さて、表題作ですが、女性の残酷な行動が、なんともまあ…。ともあれ、不器用で一途な山賊の心境が、その女性との出会い以後に変化して行く様が読みどころかな。例えば、女性の装身具から物の中にも命を見い出したり、都に出て世の中の世知辛さを知り、そして山へと戻る途中の馴れ初めの会話から、お互いが人間らしさを取り戻した後で印象的な終局を迎えます。このラストの描かれ方が、男と女で違うところが良かった。もし、ここの描かれ方が男女一緒であったなら、ただ残酷なだけの小説に終わってしまったでしょうね。
あと『夜長姫と耳男』も強烈な印象を残すストーリー。途中、村人が次々に亡くなるのを姫が見て言う一言は、地獄少女のセリフ「いっぺん、◯んでみる?」に並ぶ強烈な一言!まるで、姫の恍惚とした表情が目に浮かぶようです。そして、ラストの姫のセリフは「喧嘩するほど仲がいい」に通じることを、一線を越えてしまう選択をしてしまうところが、この小説がこうなるべくしてこうなったのだなと、妙に納得がゆくのでした。
他にも『閑山』や『紫大納言』のような寓意に長けた短篇や、逆道場破りの歴史・剣豪小説『花咲ける石』など、収録されている13篇は貴重な読書体験になりました。 -
Posted by ブクログ
純文学作家の印象が強い坂口安吾の書いた、人間の行動心理の隙をつくトリックで有名な推理小説の名作。戦後まもなくの田舎の山奥に、奇人変人ぞろいの文壇や演劇界の著名人が招待され次々と殺されていくいわゆる「館もの」で、ちゃんと「間取り図」もある本格ものだが、館の建造物としての構造や特殊な道具などのトリッキーなトリックに頼らず、ある状況下において「ふつうの人間ならとるはずのない不自然な仕草」だったり、どんなに疑り深い人でも「これだけは絶対大丈夫」と思い込ませる詐術がトリックになっており、それは読んでいてふと感じる程度の違和感か、言われるまで全く不自然さを感じさせないほど巧妙なもので、私は前者だったけどそこにこそ謎解きの鍵があるなんて微塵も思わなかった。探偵役の登場人物が館もののお約束の一同前にした謎解きの場面で、第一線の文士たちである館の客たちのことを「日本第一級の心理家」と名指しし、小説家とはすなわち最高の心理通、人間通であるべきはずで、その人たちでも見落とした「心理の痕跡」があったことを宣言する。それはとりもなおさず文芸作品で扱われる「人間の心のあや」は、探偵小説のトリックにすら成り得るものなのだ、という純文学の作家でもある作者の気概を感じるのだ。
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Posted by ブクログ
一篇目の『風博士』で狐に摘まれたような気分になり、はやくも頭の中では仕事帰りにBOOKOFFで売り払うこと考えつつ、しかし頑張ってのりこえ、そこから先は天国。痴情作家といわれるらしいが、個人的にはそうは思わなかった。男女の関係はいわば生物学の基本で、人間感情の基本でもあるわけで、言ってしまえば政治小説とかの方が異常。それはさておき、痴情というからテッキリ小澤さん甘いよ、甘すぎるよーな筋かと思いきや、自分が完全にこの作家に対して無知から入った所為もあるが、戦争と切っても切れないような作品ばかりで、面食らった。解説曰く、作者は谷崎潤一郎に若い頃憧れていたらしく、言われてみれば系統的に似ていると思うが、同じく解説曰く、系統は似ていても中身はやはり違う、具体的には、谷崎文学は被虐愛で、作者のは奇怪な性格の女性を前にして聖のような主人公の性格が浮き彫にされる感じらしい。確かに、別に被虐愛に溺れている感じではない。『卍』のようなヒョエーな感じはない。思うに、太宰治とは別系統ながら女性に対する観察が鋭いのかなとも思った。思っただけ。期待せずに、それどころかむしろ恐る恐る読んだのでほとんどメモも何ものこさなかった。また近いうちに再読したい。
総じて言えるのは、男女関係の深層に孤独が巣食っている感じ。 -
Posted by ブクログ
「堕落論」などのエッセイを読んでから小説を読んだ。坂口安吾がどんな考え方をする人なのか大体分かった状態で読んだので面白く感じた。どの話も彼自身の哲学が反映されていて、ここまで一貫に徹して己を曝け出している人も珍しいんじゃないかと思う。何か一つのゴールを見据えている感じがすごく伝わる。
また、文体も肌に合っていた。純文学の抒情的表現や、…みたいな感じ、分かるでしょ…??といったような文体に馴染めない(私自身が鈍感だからだと思うが…)人間なので、坂口安吾の文体が心地よかった。特に心地よかったのは「青鬼の褌を洗う女」で、サチ子目線から語る心の機微の言語化や考え方がすごく面白かった。
どの話でも語り手たちは(作者は坂口安吾なので…)理路整然とした雰囲気で語っていく。それでもふとした拍子に目の前の女をかわいいと言ったり、男をわけが分からず愛しいと言ったりする。そこがすごく好きだし、かわいい。
好きな作家に出会えて嬉しくなった。
〜メモ〜
「私は海を抱きしめていたい」
私は物その物がその物であるような、動物的な真実の世界を信じることができないのである。 私は最も好色であるから、単純に肉慾的では有り得ないのだ。
「青鬼の褌を洗う女」
私は現実はただ受け入れるだけだ。呪ったり憎んだりせず、呪うべきもの憎むべきものには近寄らなければよいという立前で、けれども、たった一つ、近寄らなければよい主義であしらうわけには行かないものが母であり、家というものであった。 -
Posted by ブクログ
もともと人間は長く生きれば、光り輝いていた頃から徐々に堕落してくものなのだ。赤穂浪士の志士を処刑したのは、長く生きながらえて生き恥をさらないようにしたため。軍人の妻で未亡人となった者の結婚をしばらく禁じ得たのは、時期がたてば不倫をしてしまうため。もともと二人の君主に仕えるな、それなら潔く死なば諸共、一つの君主に仕えよという武士道の教えは、こういう規律でも作らない限り、やすやすと他の君主に願えることを見越していたため。こんな元々の人間の行動・思考特性にそぐわない旧来の価値観に縛られるな一度人間の本性というものに立ち返って堕落してみよ、というのがこの本で述べている堕落の意味。とても面白い。